マクロ経済学 II 第5章 久松佳彰 マクロ経済政策 • 景気低迷期には景気刺激策がとられる。 • 景気過熱期には景気にブレーキがとられる。 • マクロ経済政策の目標は一つではない。 – 雇用の確保、安定的な経済成長の実現、物価の 安定などが代表的だが、それだけではない。 • 政策手段が多様で、担い手が複数の組織に 分散している。 – 税や公共支出などの財政政策 – 中央銀行がつかさどる金融政策 この章では、、、 • 財政政策や金融政策がどのような形でマクロ 経済に影響を及ぼすか、できるだけ簡単な形 で説明する。 政策目標と政策手段 • マクロ経済政策の運営においては、さまざま な経済指標がその評価や判断のために利用 される。 • 表5-1は代表的な経済指標を整理してい る。 • 二つの目標(ターゲット)に分類されている。 – 最終目標 – 中間目標 表5-1 政策目標となるマクロ経済 指標の例 最終目標 中間目標 物価の安定 為替レート 適切な経済成長 金利 雇用の確保 財政収支 国際収支 最終目標と中間目標 • 最終目標 – マクロ経済政策運営が最終的に目標とするよう な指標。 • 中間目標 – それ自身がマクロ経済政策運営の直接的な目的 ではないもの、最終目標と重要な関連を持ってい て、政策の効果を判断したり、政策の方向を考え る上で重要な意味を持つ指標。 最終目標と中間目標 • どちらに分類してもおかしくない指標もある。 • 政策の最終目標として何を掲げるかは、その 国の政策運営の姿勢にもかかわってくる。 – 例えば、物価の安定を最重要の最終目標に掲げ る政府もあるし、 – 雇用や成長に主たる目標を置く政府もある。 政策手段 • 表5-2は主な政策手段を整理している。 • 108頁 表5-2 代表的な政策手段 財政政策 税の調整(減税や増税) 政府支出の調整 金融政策 金利調整(上げ下げ) マネーサプライの調整 (増減) 外国為替市場への介入 マクロ経済政策=財政政策+金融政策 • 財政政策とは、 – 政府の支出額や税を調整することでマクロ経済 に影響を及ぼそうとする政策。 – 財務省が担当。 • 金融政策とは、 – 金融市場や外国為替市場に働きかけて金利や 為替レートを通じてマクロ経済に影響を及ぼそう とする政策。 – 日本銀行が担当。 財政政策 • ①政府の支出の調整を通じた政策 – 公共投資や政府消費などの様々な財・サービス への支出を行うが、景気の好不況に応じて、政府 支出の水準を調整する。 – 景気の悪いときは、公共投資などを増やす。 – 景気が過熱しているときは、減らす。 • 財源は、税や国債などの公債を発行して賄 う。 財政政策 • ②税の調整による方法 – 景気が悪いときには減税、景気が過熱していると きには増税を行う。 – 例: 個人所得税への減税(⇒消費刺激)、企業 に対する投資減税(⇒投資刺激)、不動産取引税 の軽減など、、、。 金融政策 • 第4章で見たように、中央銀行(日本銀行)は 公開市場操作などの形で、金融市場に資金 を供給したり、資金を引き上げたりすることが できる。 • その政策は金利に影響を与える。 – 金利が高くなる⇒景気には引き締め効果 – 金利が低くなる⇒景気には刺激効果 金融政策 • 外国為替市場への介入 – 円・ドル・ユーロなどの通貨間の取引が行われて いる外国為替市場において、売買に介入して、為 替レートをコントロールしようとすること。 – 担当は、「政府・中央銀行」(各国によって異なる) – 日本における担当は財務省であり、実際の売買 は財務省が日本銀行に委託して介入を行う。 外国為替市場への介入 • 円高(他の通貨に比べて、円への需要が高 い)を阻止するばあいには、政府・中央銀行 は円を売却して(供給を多くして)、ドルを買え ばよいことになる。 • ただし、日常的に外国為替市場で取引されて いる額が大きいので、為替介入の効果があ るかどうかは疑問の声もある。 金融政策の影響 • 代表的なマクロ経済政策としての金融政策や 財政政策の影響について考えてみよう。 • 金融政策の代表例として、中央銀行が市中 の債券を売買する公開市場操作を想定す る。 図5-1 金融政策の波及経路 生産・雇用への影響 投資拡大 消費拡大 金利 低下 需要増大 (貯蓄減少) 資金流出 雇用増大 所得増加 消費・投資へ の影響 海外への 生産拡大 物価上昇 円安 輸出増加 輸入減少 貿易・為替レートへの影響 図5-2 財政政策(減税)の波及経路 物価上昇 投資拡大 減 税 (投資減税) 需要増大 生産拡大 雇用増大 所得増加 消費拡大 (消費減税) クラウディング・ アウト 貿易を通じた クラウディング・アウト 投資抑制 金利上昇 円高 輸出減少 輸入増加 同じ景気刺激効果でも、、、 • 減税は、金利については逆の効果がある。 – クラウディング・アウトが発生する。 • 同じような景気刺激効果がある金融緩和と減 税は、金利や為替レートには逆の影響を及ぼ す。 政策手段と政策目標の対応 • マクロ経済政策は、複数の政策手段を用い て、複数の政策目的を実現しようとしている。 • その結果、政策手段の間の調整や、政策目 標間の矛盾という問題が出てくる。 • 政策手段の数<政策目標の数、⇒問題 政策手段=金利の調整 • 政策目標=①景気回復と②貿易黒字の解消 • 景気回復には金利低下が必要。 • 金利低下→為替レートは円安へ→輸出拡大 かつ輸入減少→貿易黒字拡大=第二の目標 を達成できず! • すなわち、「景気刺激」と「貿易黒字解消」とい う二つの政策目標の間にはトレードオフの関 係が成立している。 一般的には、 • 政策目標の数>政策手段の数 – すべての政策目標を完全には達成できない。 – トレードオフが存在するから。 – 財政政策と金融政策を上手に運営する必要あ り。 • 先ほどの例では、減税政策があると、二つの 政策目標を上手に満たすことができる。 財政政策・金融政策の判断基準 • フィリップス曲線 – 失業率とインフレ率の間に見られる関係(図5- 4) – 失業率とインフレ率の間の右下がりの関係。 物 価 上 昇 率 図5-4 フィリップス曲線 C 景気引き締め策 A 景気刺激策 B 失業率 ファイン・チューニング(微調整) • 経済の景気の状況を見ながら、それを望まし い方向に修正するように財政政策や金融政 策を用いること。 • 裁量的政策とも言う。 フリードマンによる批判 • 長期的なフィリップス曲線と短期的なフィリッ プス曲線の区別、そして「自然失業率」という 考え方をもちいて、ミルトン・フリードマン(米 国の経済学者)は、ファイン・チューニング的 な考え方を批判した。 • 自然失業率=いかなるインフレ率でも長期的 には実現する失業率 図5-5 物 価 上 昇 率 長期フィリップス曲線 D 4% C 2% E B 失業率 A O u* 0% 2% 4% フリードマンによれば、 • インフレ率を下げる為には、一時的に失業率 が上昇する苦しみを受けることが必要。 • 米国の1970年代を説明することができる。 • フリードマン他の影響を受けた、新古典派の 経済学者はファイン・チューニング型のマクロ 経済政策に疑問を示している。 裁量かルールか? • ケインジアン – マクロ経済は政策的な介入がないままでは、大き な変動を起こす可能性が大きい。それが失業や インフレなどの問題につながる。そこで、政府や 中央銀行は、経済の状況を観察しながら、景気を 平準化するような財政政策や金融政策を適切な タイミングで行う必要がある。 裁量かルールか? • 新古典派 – 政府が財政・金融政策で頻繁に介入するのはマ クロ経済の安定性をかえって損ねる。マクロ経済 政策の最大の課題は、マネーサプライなどの金 融政策の中間目標を安定的に維持することで、 経済に安定感を与えることである。財政政策につ いても、安易な減税は効果が無く、それよりは財 政収支バランスを維持する努力が必要。 政府への見方 • ケインジアン – 政府の政策によって経済変動を小さくできる。 • 新古典派 – 政府による政策介入はかえって経済変動を大き くする可能性がある。 経済政策への見方 • ケインジアン – 裁量的なマクロ経済政策 • 新古典派 – ルールの固持 • 実際は、中間を狙う場合が多いようだ。
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