三陸地方における東北地方太平洋沖地震 による津波犠牲者率と素因の関係 牛山素行(静岡大学防災総合センター) 本間基寛(京都大学防災研究所) 横幕早季(静岡大学防災総合センター) 杉村晃一(静岡市役所) 出典 自然災害科学 J.JSNDS 33-3 233-247 (2014) 紹介者 静岡大学教育学部総合科学専攻 30416007 太田未来 はじめに 津波による人的被害、建物被害の規模は、外力としての津波の高 さなどによって説明・推定されることが一般的である(越村ら2009 など) 災害は、素因に誘因が作用して発生するとされている(水谷 2002) 外力だけで被害規模が決まるものではない 様々な要因の組み合わせの結果が被害規模として現れる はじめに 東日本大震災は、高精度な地理情報が整備された現代における災害 しかし、犠牲者の特徴については基礎情報の入手が難しいため、十 分な解明がなされていないのが現状 そこで! 本論では、三陸地方を対象とし、東日本大震災時の死者・行方不 明者の居住地情報を用い、犠牲者居住地の津波災害に関わる素 因・誘因と、犠牲者の発生状況の関係について、その特徴を検討 することを目的とする 調査方法(調査地) <調査地を選んだ理由> ・人的被害が多いこと ・地形的特徴(平地が少なく、海岸 に山地が迫った地形)が共通して いること ・市町役場から資料提供の協力が 得られたこと ①岩手県宮古市 ②岩手県山田町 ③岩手県大槌町 ④岩手県陸前高田市 ⑤宮城県気仙沼市 調査方法 ・津波浸水範囲の判別は、国土地理院が2011年4月18日に公表 した「浸水範囲概要図」および「浸水範囲の土地利用」を使用 ・「浸水範囲の土地利用」では、100mメッシユ単位で浸水の有 無が数値データとして得ることが可能 ・犠牲者の集計は四次メッシュ(500mメッシュ)で行い、四次 メッシュの人口は2005年国勢調査を使用 調査方法 <津波シミュレーションの解析条件> 断層モデル: 藤井・佐竹(2011)の Ver.4.2 地盤変動量 : Mansinha&Smylie(1971)の方法 支配方程式: 非線形長波理論 差分スキーム: Staggered Leap-frog法(後藤・小川 1982) 遡上解析範囲: 次スライドにて説明 計算メッシュ: 岩手県10m(一部20m,40m 宮城県10m(一 部5m)。沖合の波源域から市街地 周辺までをネスティング方式で接続。 構造物条件: 「構造物あり」と設定し,津波越流(線流量 0.05m2/s以上)により構造物が 破損すると仮定 粗度係数: 土地利用条件に応じて設定 潮位条件: T.P.+0.0m 計算時間間隔: 最小Δ t=0.5秒 計算対象時間: 津波発生後6時間 宮古市周辺 大槌町周辺 陸前高田市周辺 山田町周辺 いずれも津波による犠牲者が分 布する範囲においては、ほぼ浸 水範囲が一致! 気仙沼市周辺 調査方法 <津波到達時間の精度検証(GPS波浪計での観測波形と津波シミュレー ションの計算波形の比較)> いずれも第一波の波形は非常に よく一致! 市街地への津波到達時間の精度 は良いと言える! 調査方法 他にも・・・ ・牛山ら(2011)による陸前高田市街地における津波遡上到達時間の詳細な検 証にための、デジタルカメラのタイムスランプデータから推定された津波到 達時間との比較 ・東北地方太平洋沖地震津波の痕跡データ(東北地方太平洋沖地震津波合同 調査グループ 2012)と津波シミュレーションの比較 これらの比較から、いずれも精度が良いと証明されたため、本研 究で使用する津波再現シミュレーションのデータは、浸水範囲・ 浸水深・到達時間の面で議論に耐えうる精度であると言える 結果 <犠牲者居住地と浸水域の関係> ・津波シミュレーション結果をもとに集計 ・津波浸水深0m以上を「浸水域内」、それ以外を「浸水域外」とする 全体では87.1%の犠牲者居住地が「浸 水域内」であることから、犠牲者の大 半は今回の津波浸水域内の居住者で あったと考えられる 結果 以下、本研究では犠牲者のうち「津波浸水域内居住者」を対象と して解析を進める。 津波浸水域内の居住者であっても、地震発生から津波到達までの 間に津波浸水域内に所在していたかどうかは不明である。 しかし、犠牲者のうち浸水域外居住者は1割前後に留まっている ことから、対象地域では浸水域内外への人の移動は限定的なもの であったと推測できる。 確定的なことは言えないが、本論文では、犠牲者の多くが「津波 浸水域内に居住し、かつ津波到達時に津波浸水域付近に所在して いた」と推定した上で検討を行うものとする。 結果 <津波浸水深と犠牲者率> 5市町の四次メッシュのうち、国土地理院(2011)による今回の津波 浸水域を含み、かつメッシュ内人口が100人以上の四次メッシュを 集計対象とした。 ・四次メッシュごとの犠牲者率 犠牲者率=四次メッシュ内の人口に対する犠牲者数の比 (集計対象メッシュ数は291、集計対象犠牲者数は4709人) 結果 <四次メッシュ平均津波浸水深と犠牲者率> <四次メッシュ平均流速と犠牲者率> 浸水深が小さいメッシュで は犠牲者率がやや高、大き いメッシュではやや低 流速が遅いメッシュでは犠牲 者率がやや低、流速が速い メッシュでは犠牲者がやや高 結果 ・犠牲者と素因・誘因の関係を単純なクロス集計によって検討 ・犠牲者率は2%をしきい値として、2階級に分類(メッシュの犠牲者率の 中央値が2.08%であることを参考とした) 浸水深が大きいほど犠牲者率の高 いメッシュの比率も高くなる! 結果 <四次メッシュ平均津波到達時間と犠牲者率> おおむね到達時間が短いほど、 犠牲者室が高くなる傾向! ※対象メッシュでの津波到達時間は最短27.4分、最長65.3分 結果 <四次メッシュ平均標高と犠牲者率> おおむね平均標高が低いほど、 犠牲者率が高いメッシュの比 率が高くなる傾向! 結果 <四次メッシュ内の起伏量と犠牲者率> おおむね標高が低く、起伏量の小さい メッシュ(すなわち高台から離れた低地) で犠牲者率が高くなる傾向! 結果 <海岸線との距離と犠牲者率> ・四次メッシュから海岸線までの距離をGISソフトMANDARAで計算 ・海岸線データは、国土地理院の数値地図25000を使用 ・四次メッシュの中心点から直近の海岸線までの直線距離を計測 海岸線との距離と犠牲者率の関係は不明瞭 だが、少なくとも海岸から離れた場所の方 が、犠牲者が生じやすい傾向にある! 結果 <人口と犠牲者率> ・1メッシュ当たり、500人以上(人口密度2000人/㎢以上)をしきい値として2階級化 人口と犠牲者率の関係は不明瞭だが、 「市街地(500人以上)」の方が「非市街地 (500人未満)」よりも犠牲者率の高いメッ シュの比率が高い傾向になっている! 結果 <年代構成と犠牲者率> ・高齢者を65歳以上の人と定義 高齢者率が高いほど犠牲者率の高いメッシユの 比率が高くなるようにも読み取れるが、年代構 成と犠牲者率の関係は不明瞭である。 調査対象地は高齢者率が高い地域であり、年代 に関わる傾向が生じにくかった可能性もある。 結果 <建物構造と犠牲者率> ・四次メッシュごとの「3階建て以上の世帯数」を用いた ・調査対象地における「3階建て以上の世帯数」は238世帯/全34607世帯 建物構造と犠牲者率の関係は不明瞭だ が、「3階建て以上の世帯なし」メッ シュの方が、犠牲者率の高いメッシュ の比率が高くなっている。 頑丈な建物が所在する地域で犠牲者率 が低くなる可能性があるとも考えられ るが、明確な傾向は不明。 結果 <津波浸水想定区域と犠牲者率> ・調査対象地において、岩手県(2004) 宮城県(2004)により、地震・津波シミュレーショ ンが行われ、その結果が津波浸水予想図などの形で公表されていた ・そこで、調査対象四次メッシュが津波浸水想定区域に含まれていたかどうか調査 「浸水想定区域外」:四次メッシュ内の集落 が浸水予測範囲に全く含まれていない場合 「一部区域内」:一部の建物等が浸水予測範 囲に含まれている場合 「全域区域内」では犠牲者率の高い 「全域区域内」:ほぼ全ての建物等が浸水予 測範囲に含まれている場合 メッシュの比率が高く、「浸水想定 区域外」では低くなる傾向あり。 まとめ 犠牲者率と最も明らかな関係が認められたのは、誘因である 津波浸水深及び流速であり、外力としての津波の規模が「犠 牲者の発生しやすさ」に明確に影響していることを確認 本研究において検討した津波災害に関わる素因・誘因のうち、 犠牲者率の高低と明瞭な関係が認められた要因は、浸水深(誘 因)、流速(誘因)、津波到達時間(誘因)、平均標高(素因)、起 伏量(素因)、人口(素因)であった まとめ 整理すると・・・ 大きな津波が到達したところ 津波が早く到達したところ 高台から離れた低地 これらの条件下では、犠牲者率が 高いメッシュの比率が多いと判明 人口の多い市街地 原因としては、交通渋滞等の避難阻害要因が あったこと・ハード構造物がよく整備されて いて津波の様子が分かりにくかったことだろ うか・・・? まとめ 高齢者率や3階建て以上世帯の有無については、関係が不明瞭な部分もあった為、判断 のための材料が不足していると言える 海岸線との距離や、浸水想定区域の内外については注意が必要! 現地での聞き取りやメディア報道など・・・ 「海から離れた場所や想定外の場所にいた人が油断して多数遭難した」 しかし! 事実ではあるが、一般的に外力としての津波の影響を受けたメッシュで犠牲者 率の高いメッシュの割合が高くなっていることから、これらの場所での対策に 早急に取り組むべきなのでは?
© Copyright 2024 ExpyDoc