日本国際経済学会関東支部大会 2010年7月17日 グローバリゼーションとインド経済の台頭 ー東アジアと異なる発展パターンー 小島 眞 (拓殖大学) 内容 ・経済改革の導入 対外志向型政策への転換 ・サービス主導型発展の展開 IT産業の台頭 ・新たな成長ステージ 工業部門の台頭 ・展望と課題 独立後の経済発展 混合経済体制(1951-1990年) ネルー(1947-64年) 公共部門拡大の優先、重工業優先政策 *広範な産業基盤の確立(原子力、航空宇宙等を含む) インディラ・ガンディー(1965-77年、1980-84年) 閉鎖的政策、統制主義の強化、小規模工業の保護 ラジーヴ・ガンディー(1984-89年) 規制緩和措置の導入 経済改革以後(1991年以降) 対外志向型政策、産業政策の自由化(⇒民間部門の活性化) *グローバリゼーションとIT革命が追い風 経済成長率の長期トレンド 1950-70年代:3.5% (ヒンドゥー成長率) 1980年代:5%台 1991年以降: 6%台 経済改革の導入 公共部門拡大優先の撤回 産業許認可制度の事実上の撤廃 貿易・為替制度の着実な自由化 輸入関税率の引下げ 輸入数量制限の撤廃(2001年) 経常勘定でのるピーの交換性実現(1994年) 外資政策の転換 直接投資における外資出資比率の引き上げ 金融制度改革 公企業改革 Disinvestment(政府保有株式の放出) インド型発展パターン サービス主導型発展(1990年代以降) GDPに占めるサービス部門のシェア 41% (1990年) 54% (2005年) 高成長分野:ビジネス・サービス(IT産業)、金融、通信 など 工業部門の新たな台頭(2002年以降) 効率性の向上 先進国のベストプラクティスの積極的な導入 ITツールの活用(frugal engineering) 中間層の台頭⇒消費財市場の拡大 緩慢な都市化 都市化率:24%(1981年)⇒28%(2001年) 都市製造業の雇用停滞(←硬直的な労働法) 。 部門別GDPの成長トレンド 農業 工業 サービス GDP (%) 1960-61 1970-71 1980-81 1990-91 2000-01 -1970-71 -1980-81 -1990-91 -2000-01 -2007-08 2.5 1.8 3.5 2.8 3.3 5.4 4.4 6.7 5.7 7.2 4.8 4.4 6.6 7.3 9.2 3.8 3.2 5.4 5.6 7.7 (出所)Central Statistical Organization, National Accounts Statistics . GDPの部門別構成 % 60 50 40 30 20 10 0 1980-81 1990-91 農業 2000-01 工業 サービス 2007-08 サービス部門の業種別成長 商業 ホ テル・ レ ス ト ラン 鉄道 そ の他輸送・ 倉庫 通信 銀行 保険 不動産 ビジネス ・ サービス 法務サービス 行政・ 国防 家事サービス コミュニティ ー・ サービス そ の他サービス サービス 全体 (パーセント) 付加価値のシェア 年平均成長率 1990/91 2000/01 2006/07年 ―2 0 0 0 / 0 1 年 ―0 6 / 0 7 年 1 5 .1 7 .3 8 .6 1 .6 9 .7 1 0 .1 1 .0 3 .4 7 .4 5 .4 7 .3 9 .2 2 .0 1 6 .9 2 5 .5 4 .6 1 0 .0 9 .8 1 .1 9 .6 1 9 .6 4 .5 4 .4 2 .5 3 .7 1 8 .8 1 7 .3 0 .1 5 .6 3 .6 5 .8 6 .2 4 .4 1 .4 6 .3 7 .0 5 .9 7 .8 7 .1 0 .5 3 .2 2 .4 5 2 .5 7 .4 9 .0 (出所)Central Statistical Organization, National Accounts Statistics. 成長の源泉:中国・インド・東アジア ( 年平均変動率: %) 生産 中国 インド 東アジア 雇用 中国 インド 東アジア 労働生産性 中国 インド 東アジア 全要素生産性 中国 インド 東アジア 1978 - 2004 期間 1978 - 1993 1993 - 2004 9 .3 5 .4 6 .1 8 .9 4 .5 7 .3 9 .7 6 .5 4 .5 2 .0 2 .0 2 .4 2 .5 2 .1 2 .7 1 .2 1 .9 2 .0 7 .5 3 .3 3 .7 6 .4 2 .4 4 .6 8 .5 4 .6 2 .5 3 .6 1 .6 0 .9 3 .5 1 .1 1 .4 3 .9 2 .3 0 .3 (注1)東アジアには、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、台湾、タイが含まれる。 (注2)東アジアの対象期間は、1980 - 2003年、1980- 1993年、1993 - 2003年である。 (出所) Bosworth and Colins (2008). 部門別成長の源泉:中国・インド 農業 1978 -2004 (中国) 労働生産性 物的資本 教育 全要素生産性 4.3 2.3 0.3 1.7 (インド) 労働生産性 1.4 物的資本 0.3 教育 0.3 全要素生産性 0.8 (出所) Bosworth and Colins (2008). 1978 -1995 (年平均変動率:%) サービス 工業 1993 -2004 1978 1978 -2004 -1995 1993 -2004 1978 -2004 1978 -1995 1993 -2004 4.3 2.2 0.3 1.7 4.3 2.3 0.2 1.7 7.0 2.2 0.3 4.3 4.9 1.5 0.4 3.0 9.8 3.2 0.3 6.1 4.9 2.7 0.5 1.8 4.7 1.8 0.4 2.5 5.1 3.9 0.3 0.9 1.3 0.1 0.2 1.0 1.5 0.6 0.3 0.5 2.5 1.5 0.3 0.6 2.1 1.4 0.4 0.3 3.1 1.7 0.3 1.1 3.5 0.6 0.4 2.4 2.1 0.3 0.4 1.4 5.4 1.1 0.4 3.9 インドIT産業の成長 80,000 7 70,000 6 60,000 5 50,000 4 40,000 3 30,000 2 20,000 10,000 1 0 0 売上高(100万ドル) 対GDP比(%) インドIT産業の多様化と高付加価値化 1985年 1990年 米国 IT革命 1995年 2000年 2005年 Y2K問題 インドIT産業の多様化 ITサービス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・> BPO ・・・・・・・・・・・・・・・・・> ES/SW ・・・・・・・・・・・・ > インドIT産業の高度化 ・ITサービス プログラミング・バグ修正 ⇒ 上流工程・高付加価値 ・BPO コールセンター ⇒ バック・オフィス ⇒ 知識サービス ・エンジニアリング/ソフトウェア製品 R&Dセンター(594箇所) ソフトウェア製品開発、組込みシステム、エンジニアリング・サービス インドIT産業:輸出と国内市場(2009-10年) インドIT産業の分野別構成(2009-10年) IT輸出の分野別構成(2009 年度) ITサービス (273 億ドル) BPO IT-BPO輸出 (501 億ドル) (124 億ドル) エンジニアリング・サービス/ ソフトウェア製品(100 億ドル) ハードウェア (4 億ドル) IT産業躍進の背景 豊富な高度人材 ・理工系人材 2008-09年現在、高度人材が350万人輩出されるが、こ のうち技術系人材(学卒者、大学院修了者)は51.4万人 である。 ・英語に堪能な人材 米印間の太い人的パイプ 米国のインド系住民:230万人(2004年) 1人当り所得:6万ドル強(米国平均:3万8885ドル) シリコンバレーの事業立上げの15%を占める。 H-1Bビザ:インド人が全体の45%を占める。 政府からの支援 STPI(ソフトウェア・テクノロジー・パーク):1991年設立 2010年3月まで輸出利益の法人税免除 工学系卒業者数の趨勢(2003-04-2008-09年) 600000 500000 400000 300000 200000 100000 0 2003-04 2004-05 全工学系学卒者 2005-06 IT系学卒者* 2006-07 2007-08 大学院修了者 2008-09 全体 R&D拠点 米国企業のインド進出 R&D拠点:150社以上 主要なR&D分野 IT(ソフトウェア・通信)、バイオ、ナノテク、医薬品(試験) 米企業とインド企業との関係 「上下関係」ではなく、「対等なパートナー関係」に近い。 *ジャック・ウェルチ「インドは途上国でありながら、知の基盤が 先 進国並みで、1ドル当り最も高品質な知的資本を得ることができ る。」 グローバルR&D人材に占めるインドのシェア 世界ITトップ10社の場合:15ー25% 高まる先端レベルの仕事 インドR&Dに占める戦略的コア製品開発・イノベーションのシェア 5%(2006年)⇒15%(2009年) (出所)NASSCOM, Strategic Review (various issues). IT化の経済社会的インパクト(1) IT産業の経済活動に及ぼす効果 間接雇用:直接雇用(223万人)の約4倍 連関効果:国内でのIT支出は2倍の生産効果をもたらす。 *2005-06年の場合 IT支出(158億5000ドル)⇒追加的生産(155億ドル) (出所)NASSCOM-Deloitte (2008). Enablerとしての役割 IT化は産業横断的に活用され、他産業の生産性向上に寄与。 倹約型製造方法(frugal engineeing) :ナノ(10万ルピー車) ATMの普及、証券取引所でIT化⇒業務の効率化 IT革命の進行 携帯電話、ITキオスクの普及 ⇒遠隔医療、遠隔教育、農民の地位向上(中間商人からの解放) IT化の経済社会的インパクト(2) E-ガバナンスの進展 行政サービスの透明性、効率性を高め、レッドテープ対策にも有効 である。 注目に値する壮大なプロジェクト ・電子投票 2004年に導入され、不正選挙の防止に役立っている。 ・国民背番号制の導入 Unique Identification Authority of Indiaが設立され、総裁にインド IT産業の有力者であるインフォシスのニレカニ会長が就任した。 2011 年 ま で に す べ て の 国 民 に 背 番 号 ( unique identification number, UID number)を支給することが目指されている。UIDは、 登録や本人証明にとって不可欠であり、社会サービス、補助金の提 供、その他セキュリティー面の質的向上につながることが期待され ている。 新たな成長ステージ 年平均成長率(%) 12 10 8 6 4 2 0 2001-02 2002-03 2003-04 2004-05 工業 2005-06 サービス 2006-07 2007-08 GDP 2008-09 2009-10 製造業の新たな拡大 自動車 インドは小型車生産の国際拠点、さらには自動車部品の輸出国とし て、その地位を着々と固めつつある状況にある。08年度には金融・ 経済危機の影響によって生産台数が一時的に225万6000台に低下 したものの、再び09年度には291万8000台に上昇した。 鉄鋼業 粗鋼生産は2004年度には4344万トン、08年度には5452万トンへと拡 大し、世界第5位の鉄鋼生産国になっている。の鉄鋼生産能力は 2011年度までに1億2400万トンに達するものと予想されている。 製造業拡大の背景 ・民間部門の台頭 ・効率性の向上 先進国のベストプラクティスの積極的な導入 ITツールの活用⇒倹約型製造方法 マクロ経済指標 (パーセント) 指標 貯蓄/GDP 投資/GDP 2001-02 2002-03 2003-04 2004-05 2005-06 2006-07 2007-08 2008-09 2009-10 25.5 26.9 29.8 32.2 33.1 34.4 36.4 n.a. n.a. 22.8 25.2 27.6 32.1 36.5 36.9 39.1 n.a. n.a. 財政赤字/GDP (中央政府) 輸出/GDP 輸入/GDP 貿易収支/GDP 貿易外収支/GDP 経常収支/GDP 6.2 6.3 4.5 3.9 4.0 3.3 2.6 5.9 6.5 9.4 11.8 -2.4 3.1 0.7 10.6 12.7 -2.1 3.4 1.2 11.0 13.3 -2.3 4.6 2.3 12.1 16.9 -4.8 4.4 -0.4 13.0 19.4 -6.4 5.2 -1.2 14.1 20.9 -6.8 5.7 -1.1 14.2 22.0 -7.8 6.4 -1.5 15.1 25.5 -10.3 7.7 -2.6 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. 外貨準備 (億ドル 547 781 1130 1415 1516 1991 2992 2414 2835 (出所)Ministry of Finance, Economic Survey 2008-089 RBI, Annual Report 2008-09. 資本形成の内訳 対GDP比(%) 2002-03 2003-04 2004-05 2005-06 2006-07 2007-08 家計 民間法人部門 公共部門 在庫変動 粗資本形成 12.6 5.9 6.1 0.6 25.2 12.7 6.6 6.3 0.9 27.6 (出所)RBI, Annual Report, 2008-09. 12.7 10.6 6.9 1.3 32.1 12.4 13.7 7.6 1.2 35.5 12.4 14.8 8.0 1.2 36.9 12.6 15.9 9.1 1.1 39.1 タタ・グループの経営実績 (億ルピー) タタ・グループ売上高・利益の推移 30000 2500 25000 2000 20000 1500 15000 1000 10000 500 5000 0 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 売上高 税引き後利益(右目盛り) (年度) 直接投資・ポートフォリオ投資の流入 (注)2009-10年は、4-12月の数値である。 (出所)RBIデータ。 (100万ドル) 40000 30000 20000 10000 0 2003-04 2004-05 2005-06 2006-07 2007-08 -10000 -20000 直接投資 ポートフォリオ投資 2009-09 2009-10 拡大する中間層 インドの所得階層別人数分布 所得階層 年間世帯所得 階層別人数(100万) 年間成長率 (2001‐02年価格) 2001-02年 2009-10年 (%) 貧困層(Deprived) 9万ルピー以下 731 618 -1.8 新中間層(Aspirants) 9万-20万ルピー 221 405 7.9 中間層(Middle Class)20万-100万ルピー 58 153 12.9 富裕層(Rich) 100万ルピー以上 4 20 22.3 全体 1,014 1,195 2.1 (注)2009-10年現在、農村人口の占めるシェアは、新中間層では61.2%、中間層では 33.4%と推計されている。 (出所)NCAER, The Great Indian Market , 2005; Rajesh Shukla, "The growing middle class", The Economic Times, April 3. 2006. インド中間層の推移 (出所)NCAER; Mckinsey Global Institute ( 100万人) 600000 ( %) 45 40 500000 35 400000 30 25 300000 20 200000 15 10 100000 5 0 0 07年度 09年度 2015年( 予測) 1995年度 1995-96年 2001年度 2007-08年 2015年( 予測)2025年( 予測) 人口( 100万人) 人口シェ ア( %) インドの商品輸出・サービス輸出・国内送金 (10億ドル) 2001-02 商品輸出 サービス輸出 国内送金 43.8 16.3 11.1 2005-06 103.1 57.7 25.0 (出所)Department of Commerce; RBI. 2006-07 2007-08 2008-09 126.4 73.8 30.8 163.1 90.1 43.5 185.3 101.2 46.4 携帯電話加入件数の推移 (出所) TRAI; Department of Communications. 展望と課題 長期的成長の可能性 2030年頃まで人口ボーナスの享受が期待される。ITアウトソーシング 先のみならず、生産拠点、マーケットとしての世界経済における重要 性を高めつつ、民間部門主導型の持続的成長が展望される。 持続的成長の要件 ・インフラ整備 ガバナンス面での向上が問われている。 ・人材育成 初等中等教育の充実を通じた幅広い人材育成が求められる。 ・雇用機会の拡大 農業多様化やアグロビジネスの推進。 工業部門での労働集約的雇用の拡大。 主要参考文献 Bosworth,Barry and Susan M. Collins (2008), “Accounting for Growth: Comparing China and India”, Journal of Economic Perspectives, Vol. 22, No. 1 Ghani, Ejaz (ed.)(2010), The Service Revolution in South Asia (Oxford University Press) Gordon , James and Poonam Gupta (2004), “Understanding India’s Services Revolution”, IMF Working Paper McKinsey Global Institute (2008), The ‘Bird of Gold’: The Rise of India’s Consumer Market NASSCOM (various issues), IT-BPO Industry in India: Strategic Review NASSCOM-Deloitte (2008), Indian IT/ITES Industry: Impacting Economy and Society 2007-08 National Academy of Engineering, (2008) The Offshoring of Engineering (The Academic Press) RBI (various issues), Annual Report. ジェトロ (2008) 『インド・オフショアリング―拡がる米国との協業』 日本経済研究センター(2009)『拡大アジアを拓くインド―新たな成長ステージへ』
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