情報伝達媒体としての博物館 ~学校と博物館での教育の違い~ 半田利弘 理学部物理科学科 教育 ▶ 知識を持つ者が他者へ知識等を伝えること ▶ 教育機関としての意義 ■ 学校 国民が持つべき知識等を教育する場 ■ 博物館 知識の蓄積を希望の応じて伝える場 学校教育と社会教育 学校 博物館等 参加形態 義務的 自発的 拘束時間 長期的 短期的 内容の構造 階層的・段階的 単発的 年齢 均質 混合 内容の範囲 広範 特定範囲 専門性 基礎中心 専門的 時間 一斉 個別・繰り返し 社会教育の特性と対応する工夫点 ▶ 短期的・単発的 ■ ■ 短期決戦、目標を明確にする必要 参加者の前提知識を的確に把握する必要 ▶ 年齢は混合 ■ 表現自体への留意が必要 ▶ 特定範囲・専門的 ■ ■ 教える側に十分な専門知識が必要 “全て”を理解させる必要はない 社会教育の特性と対応する工夫点 ▶ 自発的参加 ■ ■ 参加者の学習動機は強い 動機付けに時間をかける必要が無い ▶ 非一斉 ■ マスプロ教育とは異なるアプローチが取りやすい ▶ 資本&労働集約的な方法を採用しやすい ■ ■ 一度に集まる人数が少ない 同じ設備が繰り返し利用できる 博物館は“教育”機関か? ▶ 博物館museum ■ ■ muse:学芸の女神「ミューズ」 逆に訳すと…→博物館、美術館、資料館 ▶ 美術館は“勉強”に行くところ? ■ 知識を得ること≠勉強 ▶ “勉強”の語源 ■ ■ 「気が進まないことを仕方なくすること」 社会教育施設での学習とは相容れない! ▶ “お勉強するところ”意識を捨てる! 主導権は来館者にある ▶ 社会学習は自発的 ■ ■ もともと学習動機は高い 動機が失せたら来なくなる ▶ “上から目線”をやめてみよう ■ 教育分野でありがちな考え方 →知識の押し売り 勉強 教えてあげる →動機の押し売り 気づき →解釈の押し売り … 目的と手段 ▶ 目的=「本当は何をしたいのか」を常に意識 ▶ 手段=目的を実現するための策 ■ 手段の階層構造 ある手段を実現するための手段 最終目標を見失いと手段が目的化してしまう ▶ 博物館の目的を考える ■ 人類の知識の整理・保存、生涯学習の場、… 具体的には各学芸員が持つべき ■ そのための最適手段は何か… 情報技術の特徴 ▶ 2つの視点 ■ ■ 本質的な特徴→内容を考えて、それを活かす 現行技術での特徴→実現性、導入・運用コスト ▶ 両者を考慮して“最適”な方法を採用すべし ■ 新規性で飛びつかない 流行っているから、他でもやっているから 新技術だから、デジタルだから、ITだから、etc. ■ 伝統的技法≠劣った技法 ▶ 自分が何を伝えたいのかを常に意識する 表示媒体の違い 媒体名 長所 短所 文章 表現法が確立、厳密性、読者ペース 注目度が低い 図版 文字よりは印象や概念の伝達を重視 注目度に限度 静止画像 切り替えによる省スペース展示が可 図版より割高 実物・模型 注目度がかなり高い 新規調達のコストが高い 音声ガイド 展示を見せつつ付加情報を提供可 利用への敷居が高い 映画 注目度がやや高い 来館者のペースで見られない インタラクティブ 来館者のペースで進行、多彩な展開 個人ごとの設備が必要 ライブショー うまくやれば来館者満足度は最高 高レベルの学芸員が必要 ▶ やり方が不味ければ、長所は活かせない 文章:文字による表記 ▶ 長所 ■ ■ ■ 表現技法に長年の蓄積がある ピンポイントの知識なら正確に伝えられる 来館者のペースで読める ▶ 短所 ■ ■ ■ 長い説明は読んでもらえない 表現が悪いと概念などは伝えられない 記憶に残りにくい 図版:印刷された静止画 ▶ 長所 ■ ■ ■ 表現技法に長年の蓄積がある 文章よりは概念や傾向を伝えやすい 短時間で要点が伝えられる ▶ 短所 ■ ■ ■ ■ 説明的な印象を与えがち 見かけに流されて内容が伝わらないことがある 立体的な表現は難しい それなりの面積が必要 静止画像の投影 ▶ 長所 ■ ■ ■ ■ 図版より人目を引く 複数を切り替え表示することで省スペースになる 切り替えにより複数画像に関連づけができる 没入感を与える表示も可能 ▶ 短所 ■ ■ 大画面の表示装置は図版等より、ずっと割高 持ち帰り資料にしがたい 音声ガイド ▶ 長所 ■ 主となる展示等を見ながら付加情報が得られる ▶ 短所 ■ ■ 来館者のペースで聞くことが困難 最後まで聞かないと内容が完結しない 飛ばし読みができない ■ 聴覚のみにしか訴えられない 実物や模型の展示 ▶ 長所 ■ ■ 文字や画像より強い印象を与える 来館する価値を高める、目玉になり得る ▶ 短所 ■ 予想よりかなり高価 価格の相場を把握しないと提案すら困難 ■ 実物だと維持管理への十分な考慮が必要 映画 ▶ 長所 ■ ■ 視覚と聴覚に同時に訴えることができる 表現技法にある程度の蓄積がある ▶ 短所 ■ ■ ■ 観客のペースに合わせられない 多彩な要求には応えにくい リピーターには飽きられやすい 例:年周視差の説明 地球 太陽 例:年周視差の説明 双方向展示:インタラクティブ・コンテンツ ▶ 長所 ■ ■ ■ 個々の来館者の需要に応えられる 来館者のペースで進められる リピーターにも飽きられにくい ▶ 短所 ■ ■ 制作の蓄積が乏しい 一人当たりに要する機器と制作費がコスト高 ▶ 実体展示物とデジタル展示 ■ 実体:体験型学習、デジタル:双方向コンテンツ 例:太陽系の惑星 ▶ 太陽系シミュレーターを自由に使う 実演:ライブショー ▶ 長所 ■ ■ 参加意識が持てるので観客の満足度が高い 観客の反応に応じて最適な対応を取り得る ▶ 短所 ■ ■ ■ 演者の技量に大きく依存する 表現技法の蓄積が浅い かなりの人手を要する 例:Univiewによるライブショー ▶ 科学技術館シンラドーム 背景技術のちがい 背景技術 長所 印刷 低コスト、来館者に配布もできる アナログ記録 音声、映像なども使える デジタル記録 複製時の劣化がない、経年劣化が極めて小さい デジタルデータ データの加工が容易 操作型プログラム 来館者に合わせた内容に変化できる 印刷価格の例 表示装置の違い 背景技術 対象人数 コストの特徴 劇場型 大勢を相手に 設備が高価でも単価では安くなりうる 固定モニター型 少人数を相手に 質や大きさと台数の兼ね合いが鍵 移動端末型 個人個人に対応できる 単価が安くないと総額は小さくならない 劇場型 ▶ 長所 ■ ■ ■ ■ 館の目玉となる 話題性が高い 一度に大勢に対応できる 高価格の設備でも導入しやすい 大人数を対象とするため一人当たりだと安くできる ▶ 短所 ■ ■ ■ 初期設備投資が莫大になる 運用経費がかかる 期待される観客数の確保が必要 移動端末型 ▶ 長所 ■ 観客一人一人に合わせられる ▶ 短所 ■ 印象的にしにくい 人は巨大なものの方が強い印象を受ける ■ ■ 所持していない人への対応が必要 貸し出しならば手続きと管理に手間を要する 娯楽産業からヒントを拾え! ▶ 娯楽産業:主流である提供形式の変遷 ■ 演劇、読書、絵画 →想像力 ■ 映画 →映像記録と再現 →映像再生の遍在性 ■ テレビ →双方向性 ■ ゲーム ▶ “博物館展示”は今どの段階? ▶ 再現技術の進歩 ■ 映像記録→遍在性→双方向性
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