The Effects of Aging on Hypoglossal Motoneurons in Rats

5/29/2009
担当
井上
The Effects of Aging on Hypoglossal Motoneurons in Rats
Emilie C. Schwarz, Jodi M. Thompson, Nadine P. Connor and Mary Behan
Dysphagia (2009) 24:40–48
Abstract
加齢に伴い,細胞体の消失やサイズの減少が中枢でみられる.脊髄神経の運動神経の消失は筋の量や筋力の進行性の減
少に寄与し,年齢と共に現れる(Sarcopenia).嚥下障害は高齢者における臨床的な問題の代表であるが,加齢に伴う脳
神経,ことに嚥下に関わる神経の変化は研究されていない.
我々は,年齢に伴い舌下神経核に変化がおきるかどうかを調べることをねらった.もしあるならば,それらは神経筋接
合部における変化や,筋収縮力特性の変化を説明するのに役立つであろう.これらは過去にラットを用いて調べられてい
る.我々は,以下の仮説を立てた.年齢とともに運動神経の消失と細胞体のサイズの減少,そして樹状突起の数の減少が
ある.若年ラット,中年ラット,老齢ラットにおける神経の数が NeuN を用いて可視化された.舌下神経はコレラβを
オトガイ舌筋を用いて逆行性にラベルされ,免疫化学的に可視化された.結果は,舌下神経の樹状突起の数の加齢にとも
なう減少は明らかであった一方,サイズの減少はなかった.年齢に伴うシナプスを介した受容機構の障害があると思われ
る.
Introduction
舌は速筋であり,耐疲労性が高い,さらに舌下神経核内の運動神経によって支配されている.舌は言語,嚥下,上気道
確保に欠かせない機能をもつ.
加齢は,発声,言語,嚥下に障害を与え,舌の神経筋機構の変化は機能的な低下をもたらす.例えば,舌筋力は加齢と
共に著明な減少をもたらすことや,口腔期における時間的活動パタンの変化をもたらすことが嚥下機能の透視検査によっ
て示されている. 舌は主に,口腔準備期や嚥下口腔期に働くので,これらのデータは舌の神経筋機構の変化が加齢によ
り変調を受けることを示唆している.
舌下神経や関連する筋が加齢に伴いどのような変化をするかについてはあまり調べられていない.ヒトやラットの脊髄
神経においては,細胞体のサイズの減少や細胞そのものの消失がみられる.これらは,運動神経が筋量や筋力の進行する
低下に関与することを示唆している.脳神経運動核のいくつかでは,神経の数の減少がみられるという報告とないという
報告がされており,一致した見解となっていない.
舌下神経の数やサイズの減少が加齢に影響するという見解にはよい理由づけ存在する.舌下神経へのセロトニン入力や
セロトニン受容器は加齢と共に変化するという報告がある.加齢はまた,一過性の低酸素に応じる舌下神経の応答も低下
させる.舌筋の筋収縮の特性も加齢により変化する,それに加えて神経筋接合部のアセチルコリン受容器も減少するとい
う.このように舌下神経運動神経の減少やサイズの減少はこれらの変化を考慮するとありえることと考えられる.
加齢により変化する背髄神経のように,舌下神経の形態がどうなるかは不明なままである.我々は変化すると仮定した.
さらに樹状突起の数も減少するのではないかとも.舌下神経核内の神経は NeuN によって同定し,運動神経はオトガイ
舌筋に入れたコレラ毒βによって逆行性に同定した.
Methods
Three age groups of rats were studied: young (9–10 months), middle-aged (24–25 months), and old (32–33 months).
5/29/2009
担当
井上
A total of 15 (5 young, 5 middle-aged, 5 old) male Fischer 344/Brown Norway (F344/BN) rats were obtained.
Retrograde Labeling of Motoneurons
Their tongues were extended with a forceps. A Hamilton microliter syringe with a 30-gauge needle was used to
inject 5 μl of Cholera Toxin β into the genioglossus muscle of the tongue at two different injections sites. Rats
survived for 4 days prior to perfusion.
Perfusion
灌流固定後,脳幹のブロックを取りだし,舌下神経核の範囲を 50 m ごとの切片として合計 45 枚作成した.これを均
等に 15 枚ずつ吻側,中間側,尾側の領域に分けた.
Immunocytochemistry
Fifteen equally spaced sections (5 rostral, 5 middle, 5 caudal) through the hypoglossal nucleus from each animal
were reacted for the presence of the neuronal marker NeuN. Fifteen additional equally spaced sections (5 rostral, 5
middle, 5 caudal) through the hypoglossal nucleus from each animal were reacted for CTβ immunoreactivity.
Analysis
細胞を重複することなく正確にカウントした.
To distinguish motoneurons from interneurons, only cells larger than 20 μm in diameter were counted as
motoneurons because interneurons are significantly smaller (10–18 μm) than motoneurons (25–50 μm).
運動神経の平均直径が計算された.直径を計算する前に,樹状突起の数を計算した.
3 つの要素(ニューロンの数,樹状突起の数,神経の直径)はすべての切片で計算され,領域(吻側,中間側,尾側)に
分けて平均化された.領域と年齢の要素は,二元配置分散分析と独立かどうかについて,比較された.
Results
Number of Neurons
NeuN で染色されたニューロンは吻尾にわたり存在した(Fig. 1). ニューロンの数の違いは年齢間ではなかった.し
かし,領域間では存在し,中間側では吻尾に比べて多くのニューロンが存在した(Table 1).年齢と領域の間で相互関係
はなかった.
Diameter of Neurons
逆行性に認識されたニューロンは主に同側の舌下神経核腹側半分に位置していた(Fig. 2A).ラベルされたニューロン
は多極性でありいくつかの樹状突起をもっていた(Fig. 2B, C).ニューロンの直径は年齢間で有意差はなかった(Table
2).
吻側には大きなニューロン,尾側には小さなニューロンが存在し,有意差が認められた(尾側と中間側,尾側と吻側,
中間側と吻側).年齢と領域の要因間に相互関係は認められなかった.逆行性にラベルされたニューロンのサイズの分布
を図 3 に示す.22.5 ミリをカットオフ値として,大きなニューロンの分布は,年令とともに右にシフトしているようだ
った.大きなサイズのニューロンの分布は尾側と吻側,中間側と吻側で有意差が認められた.
Number of Primary Dendrites
樹状突起の数は,年令によって有意差が認められた.中年ラットが有意に最も多かった.部位による違いは認められな
かった.年令と領域の間には相互関係はなかった(Table 3).
5/29/2009
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井上
Discussion
舌下神経の数やサイズ,樹状突起の数が年令とともに減少する,というのが今回の研究の仮説だった.しかし,前者 2
つには差がなかった.樹状突起の数のみ有意に減少した.背髄運動神経とは異なり,舌下神経は形態的な変化を受けに
くいようである.しかし,樹状突起に関しては,機能の変化につながるかも知れない.
我々のデータはマウスのものに類似している.パーキンソン病の患者でも舌下神経の数の減少は認められていない.こ
れは患者群でも呼吸や言語,嚥下などがよく機能していることの説明となる.外眼筋も同様の結果であるようだ.神経筋
活動によって神経栄養因子である Neurotrophin が増加する.加齢に伴う歩行などの動作の減少があることは関係する運
動神経の減少につながるのに対して,常に持続的に働く舌などの筋が,それらの維持に働くのであろう.SOD1 G93A
transgenic rat という ALS のモデルラットでも,背髄運動神経や横隔膜神経の消失に比べて,舌下神経の数は比較的正
常なのである.
我々のデータでは,大きなサイズのニューロンは年令と共に増加する傾向を示した(Fig. 3).さらに,より大きいニュ
ーロンは吻側に位置していた.これは局在的な問題かもしれない.
今回我々が観察したのは,突出筋のみである.牽引筋はみていない.オトガイ舌筋は呼吸に,茎突舌筋は嚥下に寄与す
るといわれる.また,言語,咀嚼,リッキングなどは両者が関わるという.突出と牽引の分布は同等なことから,牽引筋
のニューロンの消失具合も同様かも知れない.
オトガイ舌筋運動神経については,年令による数の減少は認められなかったので,介在神経のみが影響を受けるかも知
れない.舌下神経の中には 13%の介在神経があるという.今回は調べられなかった.
今回,樹状突起の数が年令と共に変化した.ネコでは変化しないという.一方,ラットやヒトでは変化し,それが機能
に反映することが報告されている.舌下神経はさまざまな入力を受けている.年令に関係したシナプス入力の減少は様々
な部位で報告されている,脳であったり,背髄運動神経であったり.
神経筋接合部の応答,アセチルコリン,ノルアドレナリン,セロトニンなどの応答は年齢により影響を受けるという.
さらに我々の過去の報告では,舌下神経へのセロトニン入力は年齢とともに減少することが,今回と同じ動物で報告され
ている.樹状突起の減少に加えて,もっと遠位の樹状突起もまた,その形態が変化している可能性がある.
In summary, cranial neuromuscular dysfunction may result from a combination of factors that involve both the
central and the peripheral nervous system, the neuromuscular junction, and muscle cells.
ニューロンの数の減少やサイズの減少はなかったものの,年令に伴う軸索の変性や脱髄は否定できない,そしてこれら
が機能に反映されているかも知れない.しかし,ヒトの報告では 60 歳の前後では変化がないという.年齢に関係した
Neurotrophin の要素が海馬の機能に関係していることが報告されている.ラットでは背髄運動神経で同様の報告がある.
近年,舌の訓練により高齢者の舌抵抗力がアップしたという報告があるが,脳神経系の神経筋機能は可逆性があるのか
も知れない.それらのメカニズムについては明らかとされていない.筋活動は Neurotrophin の発現を増強させることが
報告されている.さらにセロトニン活動の調整も変化させる.訓練はこれらのことと関係しているかも知れない.加えて,
年齢間での筋内のトランスクリプトーム特性は 6 ヶ月の訓練後には明らかに逆転する.このように,さまざまな部位で
の干渉が年齢による機能(言語,嚥下,呼吸)の変化への影響を逆転させるのに働くのであろう.
5/29/2009
担当
Fig. 1
中年ラットの両側舌下神経核の NeuN 染色像.Scale bar = 150 μm
Fig. 2
両側オトガイ舌筋にコレラ毒を注入した染色像(A).ラベルされたニューロンは腹側半分(BC).
Scale bar: A = 250 μm; (B, C) = 25 μm
Fig. 3
各年齢層におけるラベルされた舌下神経運動神経の平均直径.
井上