妊娠中毒症 て対する Gーycyrrhizin 投与の尿中 ー7~。HCS - 金沢大学

110
金沢大学十全医学雑誌 第71巻 第1号 110−116 (1965)
妊娠中毒症に対するGlycyrrhizin投与の尿中
17−OHCS値に及ぼす影響に関する研究
金沢大学医学部産科婦人科学教室(主任 赤須文男教授)
名 越 和 美
(昭和39年11,月11日受付)
妊娠中毒症の成因に関する各方面からの研究は枚挙
少が推定されるとなし,更に晩期妊娠中毒症では尿水
にいとまがなく,今日なお“学説の疾患”とさえいわ
Chemocorticoidsの増量したもの及び減少している
れているほどであるが,多種多様の成因論の中で,\
ものなど各種があり,,減少例では臨床経過が不良で
Selye 1)がGeneral adaptation syndromeの慨念
あり,ために理論的に糖質コルチコイドの投与が有効
を発表して以来,妊娠中毒症の原因を下垂体一副腎皮
であるとしている.減上の各論述はあるが妊娠中毒症
質系のStressに対する順応の障害とする見方が強ま
と副腎皮質の間に密接な関連性のあることは否めない
り副腎皮質の関係が注目されるようになっている.即
ところである.しかも治療面では,現在なお早期妊娠
ちStae興nler 2)3), Elert 4)は早期妊娠中毒症時には
中毒症に対しては顕著な効果を示す薬物はなく,晩期
尿中Chemocorticoidsは減少しておるとし, Hegn・
妊娠中毒症の場合には対症的には近時すぐれた降圧利
auer 5)Stae血mler 3),森6)らは尿中17・KS値の減
尿剤の登場をみているが原因療法ともいうべきものは
少を認め,悪阻症状の軽快と共に増量することから,
確立していない.他面,中毒症が体質に関連性があ
悪阻の原因を副腎皮質機能低下によるものとしてい
り,本症が1つのアレルギー性疾患ではないかといる
る.赤須7)8)9)は絨毛性GonadotropinにACTH
説もある.私は応報において,中毒症に対する各種
作用があり,悪阻の場合にはGonadotropin leve1が
Vitamineの効果を検したが,更にCorticoids様作
異常に高いことが悪阻の原因の1つではないかとして
用,抗アレルギー作用,解毒作用,肝,腎保護作用な
いる.一方,晩;期妊娠中毒症の場合にはTobian lo),
どを有するとされているGlycyrrhizin(以下G↓.と
Devis 11), Parviainen 12), Lloid 13)は尿中Corticoids
略)を妊娠中毒症に用いその効果の有無を検すると共
の増量を認めたとしているが,Venning 14), Staem・
に尿中17−OHCS値に及ぼす影響を観察したので以下
mler 2)3),小西15)16>”松下17),神立18),谷山19)ら
その成績について報告する.
は尿中Corticoidsの減少を報告し,定説がないよう
である.FaUvet 20》, Browne 21)は解剖所見から軽度
妊娠中毒症では副腎は肥大しているが重症例では反対
実験材料及び方法
実験材料としては金沢大学医学部産婦人科教室並び
に萎縮していると報告し,Sprague 22), Green 23)は
に石川済生病院に妊娠中毒症のため入院した患者の24
ACTH短期聞投与ではNac1の蓄積及び浮腫をきた
すが長期間投与ではNac1の蓄積作用はなくなると
時間尿を用い,これを実験材料とした.
尿中17・OHCSの総値及び遊離値の測定法は既報42)
述べ,Cortisone投与については, Sprague 22、,北
論文に詳述したので’ここでは省略する.
村24)は初期には浮腫をきたしたが,連用後は反対に
Nac1及び水分の排泄は増加し,浮腫は消失したと報
実 験 成 績
告している.赤須9)25)26)27)らはCorticoidsを分析し
(1)正常,妊娠及び妊娠中毒症の尿中17・OH:CS値
たとき,晩期妊娠中毒症では水可溶性分劃は少なく,
これらの値については既論文に詳報したのでここで
水難i溶性分劃が多く,しかも増量したCorticoidsに
はその平均値のみを引用要約すると表1(以下,図,
Biocorticoidsの性状が認められず,本症ではGluco・
表中すべて総値はmg/24hrs,警遊離値はY/24hrs,尿
corticoidsのMineralocorticoidsに対する比較的減
量はml/24hrs,であるからmg, Y, m1,は省略した)
Effects of the Administration of Glycyrrhizin on the Urinary 17−Hydroxycorticosteroids Levels
of the Women of Toxemia of Pregnancy. K:azumi Nagoshi, Department of Obstetrics and
Gynecology(Director:Prof. R Akasu). School of Medicin, Kanazawa University.
111
妊娠中毒とGlycyrrhizin
表1 妊娠各期及び妊娠中毒症時の尿中17−OHCS値
婦期期期症症例例
毒毒
早歌晩中中血症
非 娠 娠
娠
娠娠 妊 妊
康 軽重
弾 子
健妊避妊早晩
娠
総
値
遊 離 値
F/T
22例
4.77±1.03
395±131
8.17±2.63
6例
5例
7例
8.24±1.51
816:ヒ135
9.90±1.15
7.11±0.67
688±269
9.41=ヒ2.80
10.72±0.98
838±195
7.82±2.18
22例
6.26=ヒ0.65
9.77±1.52
11例
7.64±1.30
595±105
594士113
5例
6例
9.02±1.72
649±205
7.36±0.63
6.50±1.23
550士96
9.15=ヒ1.36
8.15±0.87
の如くである.即ち,健康成熟非妊婦22例の尿中17・
±1.72であるのに対して,重症例では6.50±1.23で
OHCS§値は総:値(以下Tと略)は2.64∼8.18,平均
あり,Fでは軽症例で649±205が重症例では550±
4.77±1.03,遊離値(以下Fと略)は115∼723,平均
69とT及びF共に重症例で減少しており,F/Tでは
395±131,FITは3.33∼20.18,平均8.17±2.63
逆に軽症例の7.36±0.63に対して重症例では9.15±
であったが正常妊娠早期(妊娠4カ月まで)ではT.
1.36と増加の傾向をみた.以上の成績から妊娠中毒
は6.20∼10.55,平均8.24±1.51,F.は635∼904,
症の場合には尿中17・OHCS値は二値,遊離値共に減
平均816±135.5,F/Tは8,56∼11.20,平均9.90
少しているのを認め,特に重症例において著明に減少
±1.15であった,即ちT.F. F/T.共に正常非妊婦
するものを認めた.即ち,重症の妊娠中毒症では糖質
に比べて増加をみた.次に正常妊娠中期(妊娠5∼7
コルチコイ’ド代謝は減退しているものと思われる.
カ月)ではTは6.04∼8.54,平均7.11±0.67,Fは
(2)早期妊娠中毒に対するGlycyrrhizin投与の尿
508∼1260,平均688±267,F/T.は7.23∼14.76,
中17・OHCS値に及ぼす影響
平均9・41±2.80で正常非妊婦に比較すると増加をみ
早期妊娠中毒症で入院した7名の患者に Glycyr・
たが妊娠初期の増加に比べると僅かであった.正常妊
rhizin(Glycyron)1日40 mg静注3日閥,総量
120mg一 蒲^した成績は表2,図1の如く,7例中,
娠晩;期(妊娠8∼10カ月)では,Tは9.13∼12.50,平
均10.72±0.99,Fは324∼1120,平均838±195,
Tで増加したもの6例(9.04→12.50,5.63→11.30,
F/Tは7.82土2.18の値をそれぞれ示し,T及びF
6.02→9.74,5.80→10.06,6.15→8.17,4.74→13。34)
は妊娠各期を通じて最も増加をみた.
であり,平均値では6.28±1。33→10.19±2.03と増
妊娠中毒症における尿中17・OHCS値の変動をみる
加し,不変のもの1例(6.63→6.24)であり,Fでは
と表1の如くで,早;期妊娠中毒症22例のTは4.35∼
7例中5例に増加(573→695,706→822,722→888,
9.04,平均6.26±0.65,Fは435∼884,平均595±
644→904,672一・896)をみ,2例が減少(586→523,
105,,FIT.は5.52∼15.45,平均9.77±1.52で,正
713→634)し,平均値では659±54.3→766±137と
常妊娠早期のそれぞれの値に地正してTは38.4%,
増加した.F/Tは増加したもの1例(8.64→11.13)
Fは27.4%の減少をみた.即ち早期妊娠中毒症の場合
で他の6例は減少(7.81→6.57,12.82→7.86,9.73
には士もFも共に減少するが,その減少はTにおいて
→5.37,11.1→9.00,11.6→7.76,14.17→6.70)し,
著明であり,Fの減少はむしろ軽度である.
平均値では10.49±1.86一・7.77±1.45と減少をみた.
晩期妊娠中毒症における尿中17・OHCS値の変動を
次に1日40mg 10日間,総量400mg投与では120
みると表1の如くでTは,4.35∼11.62,平均7.64±
mg投与に比較して, Tは全例に減少(6.24→4.25,
1.30,FはF.396∼827,平均594士113, F/T.は
12.50→8.14, 11.30一レ7.10, 9.74→7.26, 10.06→
6.61∼13.84,平均8.15士0.87であり,これを同期
4.45,8.17一→6.66,13.34→10.26)をみ,平均値で
の正常妊婦の値と比較すると平均値でTでは10.72±
10.19±2.03→6.86±1.63に減少した.これに反し,
0.98が7.64土1.30に,Fでは838土195が594±113
Fは7例中6例が増加(695→953,822→1130,523→
にと著明な減少をみた.したがってF/Tは7.82±
2.18が8.15土0.87とやや増加の傾向を示した.ま
860,904→1200,634→879,896→975)し, 1{列が減
た,軽症例と重症例とを比較すると軽症例のTが9.02
139と増加した,F/T.は全例に増加をみた(11.13→
少(888→850)をみ,平均値では766±137→979±
名
越
112
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113
妊娠中毒とGlycyrrhizin
図1 早期妊娠中…毒症に対するGlycyrrhizin投与の尿中17・OHCS値に及ぼす影響
(1日40mg 3日間及び1日40mg 10日間4001ng静注)
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黒○
村○
都○
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論貫生翁毒覆誌革養蓄毒養素量叢山麓綾’蓄三升
22.11, 6.57→13.07, 7.86→11.97, 5.37→11.77,
3.悪阻症状及び各種臨床検:査所見は何れも投与に
9.00→26.09,7.76→13.19,6.70→9.55). つまり平
つれて改善された.
均値で7.77±1.45→15.39±5.28と増加した.400mg
(3)晩期妊娠中毒症の場合
投与後を投与前に比較するとTで減少したもの3例
晩期妊娠中毒症で入院した患者6例につき,全例に
(6.63→・4.25,9.04→8.14,5.80→4.45)で,増加し
絶対安静,減塩食及び水分の摂取制限などを行ない,
たもの4例(5.63→7.10,6.02→7.26,6.15→6.66,
一部,重症例には降圧利尿剤を併用し,この間尿中
4.74→10.26)であり,Fは全例に増加(573→953,
17・OH:CSの動態を検し,表3,図2の如き成績を得
706→・1130, 722→850, 586→860, 644・→・1200, 713→
た.即ち,1日40mg静注3日聞,総量120mg投
879,672→975)をみ,平均値で6.59±54.3→979±
与では,Tで増加したもの6例中5例(6.34→12.2,
139と増加した.F/Tは5例に増加(8.64→22.11,
7,41→8.11, 7.54→9.66, 8.63→11.50, 6.06→9.21)
7.81一や13.07, 9.73→11.77, 11.10→26.09,11.60一ラ
で,減少したもの1例(11.50→9.04).つまり平均値
13,19)をみ,2例が減少(12.82→11.97,14.17→
では7.89±1.56→9.95=ヒ1.38と増加した.Fは全例
9.55)した.臨床所見としては120mg投与後自覚症
に増加,または増加傾向(396→784,515→623,827
状は1,2の症例を除きかなり軽快し,臨床検査所見
→1050,489→765,533→604,495→513)を認め,平
も改善の傾向にあり,400mg投与後はより良好な結
均値で543±104→723±155と増加した,F/Tでは・
果をみた.
増加したもの3例(6.94→7.68,7.20→11.61,7.54
→7.91)で減少したもの3例(6.61→6.43,6.20吟
小 括
以上の成績から次のような傾向が認められた.
f.(弘L。総量120mg投与では尿中17−OH:CS値
の総値及び遊離値共にそれぞれ増加が認められたが,
5.25,8.16→5.56>であり,平均値では6.93±0.54
→7.40±1.82で一定め傾向を認め得なかった.次に
1日40mg,10日闇,総量400mg投与では,120mg
投与後に比較して,Tで=増加しだもの1例(9.21→
総:値における増加はより著明であり,遊離値の増加は
11.20),不変2例(8,11→8.34,11.50→11.50),減
比較的軽度であった. したがって遊離値/総値は減少
少したもの3例12.2→9.50,9.04→7.50,9.66→
した.
8.58)で,平均値では9.95±1.38→9.44士1.40と減
2.G.L.400mg投与では総値は投与前に比して軽
少傾向をみた.Fは金例が増加(784→964,623→
度の増加を,120mg投与後に比較して著明な減少を
725, 1050r・1580, 765→975, 604→825, 513→784>
みたのに反して,遊離値は投与前及び120mg投与後
し,平均値で543±104→976±220と増加した.F/T
に比較して増加し,遊離値/総値もそれぞれ増加した.
は5{列力弐増力口 (6.61→10.14, 6.94→8.6g, 7.20→
名
越
114
図2 晩期妊娠中毒症に対するGlycyrrhizin投与の尿中17・OH:CS値に及ぼす影響
(1日40mg 3日間120mg及び10日400mg闇静注)
ノ
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永○ 西○ 森○ノ 駒 山○ 井○
2212
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だ”ノ
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64
縮欝縫難難無熱窪雪雑
21.06,6.48→11.36,6.20→7.78)を,1例が減少
血圧の下降,安定をみたが尿蛋白は必ずしも消失軽減
(8.16→7.00)し,平均値では6.93±0,54→11.00±
しなかった.
3.80と増加した.400mg投与後を投与前と比較する
と,Tでは6例中5例に増加(6.34→9.50,7.41→
考
按
8.34,7.54→8.58,8.63→11.50,6.06一÷11.20)を
G.L.は甘草の主成分でBorst 28、らの研究から,
み,1例が減少(11.50一・7.50)した. したがって平
Corticoids様作用のあることが判明し, Groen 29)30)
均値では7.89±1.56→9.44±1.40と増加を示した.
らはAddison病に用いてその効力を認めたが,
次にFは全例に増加(396→964,515→725,827→
Borst 28), Hudson 31), Elmadjian 32),熊谷33)らは
1580,489→975,533→825,495岬84)をみ,平均値
Cortisoneの最低有効量以下でもG.L.を併用するこ
では543±104→976±220と増加した,F/T.は6例
とにより好結果を得たと報告し,その説明として,
中5例に増加(6.61→10.14,6.94→8.69,7.20→
Bayliss 34)がG. L.は, Corticoidsの酵素による破
21.06,6.48→11.36,6.20一う7.78)を認め,1例が減
壊を阻害する作用があるためではないかと述べたと似
少(8.16一靭7.00)を示し,:平均値では6.93±0.54一→
た考え方で,熊谷35),北村β6)らはG.L.が肝におけ
11.00±3.80と増加した.
小
るCorticoidsの不活性化を阻害してCorticoids作
括
用を持続,増強するためではないかとしている.
K:raus 37)’はG。 L.の大量投与ではACTHの分泌を
以上の成績から次の如く小括される.
抑制すると報告し,熊谷33)らはAddison病にCor・
1.G. L.120mg投与では投与前に比較して尿中
tisone 12.5mg投与中にG. L.160mgを併用して尿
17・OHCS値の二値及び遊離値共に増加が認められ,
中遊離型17・OHCS値は増加するにもかかわらず,結
遊離値/総値では一定の傾向は認められなかった.
2.G.L.400mg投与では,総値は投与前に比べる
合型17・OHCS値が著明に減少するため総:17−OHCS
値が減少するどと及び,17・KS値の減少を認め,犬に
と増加をみたが,120mg投与後に比較すると一定の
おける実験でG.L.100mg筋注後の血漿17・OHCS
傾向がないか,或いは,やや減少傾向をみた.遊離値
は投与前及び120mg投与後に比較していずれもそれ
値が2時間後及び4時聞後では遊離型が著増するのに
反し,結合型は減少ないし,不変という成績,更には
ぞれ増加をみた.遊離値/総値も同様にそれぞれ増加
G.:L.投与ラットの副腎重量及び組織学的変化から少
した.
3,臨床所見としては,投与につれて浮腫の消失,
量投与(11ng/kg体重)では下垂体副腎皮質系の機能
充進を,大:量(1日10mg)投与では機能低下像をみ
115
妊娠中毒とGlycyrrhizin
たと報告し,石塚38、らはProgesterone, DOCA投
した場合に,総量120mg投与では投与前に比較して
与により尿中に排泄されるPregnandio1が, G.L.投
総言及び遊離値の増加をみ,遊離値/三値では著変を
与により著明に減少するとし,熊谷はラットでG.L.
認めなかった.総量400mg投与後では,総値は投与
大量投与では肝切片において,Cortisolの代謝機能が
前に比較すると増加を認めたが,120mg投与後に比
著明に低下しており,少量投与では不変か機能二進像
較すると一定の傾向がないか,やや減少傾向をみた.
をみたとしている.また,松田らも同様に,肝,腎,
遊離値は投与前及び120mg投与後に比較していずれ
副腎切片の観察で軽度のMineralocorticoidsの分泌
も増加をみた.遊離値/三値も同様にそれぞれ増加し
と,かなりのGlucocorticoidsの分泌を証明したと
た.臨床所見は投与につれて浮腫の消失,血圧の下
し,肝においてはCorticoids代謝非活性化に相応し
降,安定をみたが尿蛋白は必ずしも消朱軽減はしなか
た所見,及び腎尿細管遠位部にCorticoids代謝を認
った. 、
めたと報告し,また,西村40)は胎盤多糖体感作による
3)以上の変化はGlycyrrhizinのCorticoids作
実験的妊娠中毒症にG.L.を用い,産生抗体価の低下
用,抗アレルギー作用,肝,腎保護作用などにより,中
及び肝,腎の組織病変が軽減したと報告している.複
毒症により披癒した副腎皮質機能の改善が惹起され,
雑な妊娠中毒症の成因からみて,私の妊娠中毒症に対
尿中17・OHCS値の総値及び遊離値の増加をみるが,
する実験成績を一元的に断定することは困難である
一方においてGlycyrrhizinのCorticoids不活性化
が,概して重症の妊娠中毒症では副腎皮質機能は疲憲
の阻害作用として遊離型17・OHCSの増量,結合型
している状態がうかがわれ,このさい晩期中毒症では
170HCSの減少,したがって総170HCSの減少とな
胎盤由来の副腎皮質ホルモン様物質も考えなければな
り,Bioactive Corticoidsの増量を来たし,その結
らないが,全般として中毒症では副腎皮質ホルモン生
果として臨床症状が改善されるものと思われる.
成の減弱,他面妊娠たよる消費の増加,中毒症による
肝機能の低下のためのグルクロン酸抱合能力の減退な
一筆するに当たり,恩師赤須文男教授の御指導と御校閲に深く
感謝致します・
.どが原因して尿中17・OHCS値は減少していると考え
ちれるが,この状態下で適量のG.L.投与により,そ
』文
・のCorticoids作用,抗アレルギー作用,肝,腎,
献
保護作用により,副腎皮質機能の改善が惹起され,尿中
1)Selye, H。3 J. Clin. Endorino1.,6,117(19
17・OHCS値の総値及び遊離値の増加をみるが,東に
46). 2),Staemmler, H.」.=Deut. Med.
一方において,G.L.のCorticoids不活性化の阻害作
Wchschr.,2,84(1954). 3)Staemmler, H.
用として,遊離型17・OHCSの増量,したがって総
」.3 Geburtsh. u. Frauenhk.,15,788(1955).
17−OHCSの減少となり, Bioactiveρorticoidsの増
4)Elert, R.: Arch. Gynak.,186,237(1955)。
量を来たしその結果として臨床症状も改善されるもの
5)Hegnauer, H.= Arch. Gynak.,181,659
(1952). 6)森 滋3日産婦誌,9,81(昭.
と説明されるかと思う.
32). 7)赤須文男:日産婦誌,7,655(1955).
結
論
私の実験結果は次の如く要約できる.
8)赤須文男3 日本産婦人科全書,4/2,金原出版
(昭.35). 9)赤須文男:副腎皮質と胎盤,
1)早期妊娠中毒に対するGlycyrrhizin投与の尿
医学書二丁(昭.30). 10)Tohian, L.=J.
中17・OHCS値の変動をみると1日40mg静注3日
Clin. Endocrino1.,9,319(1949). 11)Devis,
間,総量120mg投与では17・OHCS値の二値及び遊
R.3 Gyn6c, et obstL,53,57(1954). 12)
離二二に増加を認めたが,下値における増加は遊離値
Pa「viainen, S.39)より引用. 13)Lloid,
の増加より,より著明であった. したがって遊離値/
C.W.=J. Clin. EudocrinoL,11,786(1951).
二値は減少した.次いで総量400mg投与後では,二
14)Vennig, E. H.3Am. J. Obst&Gynec.
値は投与前に比して軽度の増加を,120mg投与後に
67,542 (1954).
比較すると著明な二二をみたのに反して,遊離値は投
7,1523(昭.30).
16)小西行男3
日産婦誌,
与前及び120mg投与後に比較して増加した.したが
7,1585(昭.30).
17)松下 亨3
日産婦誌,
って遊離値/二値は増加した.悪阻症状及び各種臨床
5,1191 (艮召. 28).
検査所見は投与につれて改善された.
8,83(昭.31).
2)晩期妊娠中毒症にGlycyrrhizinを同様に投与
9,991(昭.32).
15)小西行男3
18)神立良雄3
19)谷山宗一3
日産婦誌,
日産婦誌,
日産婦誌,
20)20)は9)より引用.
ms
22) Sprague, R. G., Power, M. H., Mason,
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HX?Etlllk,,9, 465 (va. 37). 40) diNma- :
i71/ivSF-, 11, 210 (ilH. 37). 41) 8rv
twrs : Hggdies, 16, 857 (va. 39).
Abstract
The present study was designed to measure the changes of the levels of female urinary
17-Hydroxycorticosteroids (abbreviated as 17-OHCS) in the cases of Toxemia of pregnancy
after administration of glycyrrhizin, The following results were obtained.
1) In the toxemia of early pregnancy. both levels of the total and free 17-OHCS following intravenous administration of glycyrrhizin, 40mg per day for three days, were increased,
and the total 17-OHCS levels showed a more marked rise than the free. The rates of the
decreased. '
free 17-OHCS levels to the total, therefore, were
Following administration of glycyrrhizin 'in dose of 400mg, the total 17-OHCS leve!s were
slightly increased compared with the levels following administration of glycyrrhizin in dose
,of 120mg. while remarkable rises of the free 17-OHCS levels were noted both in the cases
of 120mg dosage and in the pretreated cases.
Therefore, tehe rates of the free 17-OHCS levels to the total were eleated. Improvements
"of the subjective wrong symptoms caused by pregnancy were observed and the various
clinical findings showed ameliorated results.
2) In the case of the toxemia of late pregnancy, both levels of total and free 17-OHCS
fpllowing administration of glycyrrhizin in dose of 120mg, showed marked increases, and
the rate of the free 170HCS levels to the total showed no remarkable change.
The total 17-OHCS levels fQllovsiring administration of glycyrrhizin in dose of 400mg were
elevated, /but the rises of the levels were very slight compared with the rises ef the cases
in dose of 120mg.
The free 17-OHCS levels were increased following administration of glycyrrhizin, but the
rises were not so remarkable compared with the cases of 120mg dosage. The rates of the
free 17-OHCS levels to the total were, increased.
v The clinical findings were the disappearance of edema, the drop and stability of blood
pressure but albuminuria remained unchanged.
3) It is reasonable to presume that the above-mentioned changes were caused by the
and defense action against liver and kidney of
corticoids-like action, antiallergic activity
glycyrrhizip.
By these actions of glycyrrhizin, adrenalcortex functions, which were damaged by the
toxemia, might be enhanced and improved.
Consequently the increases of free 17-OHCS and decreases of conjugated levels were observed and increases of the bioactive corticoids. Theses variations might cause the improvements of clinical findings of the disease.