赤羽百色眼鏡 その一 静勝寺住職 高崎忠道さん 「親から子へ、 人と人との繋がりが、 まちを繋いでいくのだと思います。 」 静勝寺は、赤羽駅南改札口から西へ、 旧岩槻街道に出て、細い石段を登ったと ころにある。場所を確認するため開いた 地図には寺の敷地と思われる余白に稲付 城跡と記されていた。駅から数分とは思 えない静けさにつつまれたこの寺の住職 高崎忠道さんに話を聞いた。 まず、この静勝寺について、少しお伺 いしたいのですが・・・。 「静勝寺は、江戸時代の始め頃、太田道灌の菩 提を弔うために出来ました。 江戸時代は檀家もほ とんどなく、 明治から大正にかけて東北地方など から出てきた方々が、 この地でご家族を亡くされ、 檀家が増えていきました。 」 ご住職はずっと赤羽にお住まいですか? 「私自身は、 幼少の頃を赤羽で過ごしましたが、 小学四年から高校一年までは大阪で過ごしまし た。 幼い時はほとんどお寺の境内で遊んでいました 記憶にある赤羽は、 駅前で傷痍軍人が演奏する姿 ので直接赤羽に触れることは少なかったと思います。 くなってしまったと言われます。 」 てしまったので、 お寺にどう行っていいのかわからな 寺を離れたということ 「私にとっては、 このお かったですよね。 きれいなまちではな の赤羽は、お世辞にも 確かに高度成長期 とても対照的でした。 」 所がたくさんあったので、 や池など自然の遊び場 街 並みで、周辺には山 博前の開発によって山を切り開いて出来た新しい 越した大阪の高槻というところは、 ちょうど大阪万 活気のあるまちの印象が残っています。 その後引っ 場所があることはとてもありがたいことで、 多少の 年をとってくると、 駅やその周辺に買い物ができる に考えて、庭の手入れを大事にしています。 また、 思うので、 良い環境を提供できればと清掃を第一 のようです。 お寺は、 そういう空間であるべきだと 自然と接することができるので、 心が休まるところ いお母さんが赤ちゃんを連れて来られるのですが、 ことはよいことですね。 このお寺にも、 よく近所の若 策路とか標識を立てていろいろ工夫してやっている く、 歩くのに楽しいまちだと思います。 ですから、 散 徴があり、緑も比較的多く、 さらに歴史的にも古 台地あり、低地あり、 川辺もあって、 それぞれの特 「赤羽は、 交通が至便であり、 また、地形的にも を感じられますか? ご住職は、どんなところにこの赤羽の良さ が、 かえってお坊さんになろうという気持ちにさせ 坂はよい運動にもなると思います。 」 や、 ごちゃごちゃして汚くて、 しかも人と車であふれ、 てくれたのだろうと思っています。 このまちに戻って、 檀家の方からは、 駅を降りて周りがまったく変わっ 西口はとても便利になりました。 お寺に来られる てきたことは大変喜ばしいことだと思っています。 いいなあと思っていました。 それが着実に実現され の話が出ていて、模型などを見て早くこうなったら りましたしね。私が幼少の頃すでに西口の再開発 って、『寺』 も 『赤羽』 もとても好きです。 まちも変わ はや三十年が経ち、 私自身も大阪にいた頃と変わ どもは成長すると独立して埼玉などの郊外に出て 社宅や団地などに住んでいて家が狭かったので、 子 「檀家の方々などに状況をお聞きすると、 工場の らどのようなことをお感じになりますか? ると言われていますが、赤羽のまちの雰囲気か 最近は少子高齢化が進み、お年寄りが増えてい が、穏やかな気持ちになりますね。ところで、 庭の鮮やかな紅葉を見せていただきました 街道から脇道に入るとすぐ目の前に数十段の 石段が続く。(石段から静勝寺入口を臨む) 10 からは若い人とお年寄りが接する場をできるだけ 薄れてしまい、 対話がなくなってしまうことで、 これ もと年寄りが別々になって接する機会がどんどん としないと聞いています。 問題は、 このように、 子ど 住もうと言われてもこの赤羽が便利だから移ろう いってしまいますが、親世代は、子どもから一緒に いくのがよいのかもしれません。 」 一緒になるとか、 自然に融和されて 一緒になるとか、文化的な教室で しまいますので、買い物で皆さんが ちですと、 なおさら繋がりが薄れて に買い物に行かなければならないま 純にはいかないと思いますが、遠く 最後に、もっとこうしてはとい つくることが大切だと思います。 」 北区は特に人口が減っているようなのです 「さらに、団地やマン ションは、 ある程度経つ と子どもが大きくなって 引っ越してしまうという ことが起きます。 ですか ら、 まちづくりという点 では、 そこにずっと住み たくなるようなものを 創っていくことが大切だ 通や買い物も便利であり、 地形も川や台地や緑も う点があればお聞かせください。 るという理由でわざわざ文京区からヨーカ堂に買 あって変化に富み、 歴史もある、 子どもやお年寄り が、この点についてはいかがでしょうか? わけですから、 ファミリー層には魅力的なまちだと い物に来ているぐらいで、 車で買い物に来たいと考 にとってよい環境です。 そうした地域の良いイメー と思います。赤羽は、 交 思います。現在団地を建て替えたり、 志茂や岩淵 えるお客さんが増えているようです。 これからは駅 ジを宣伝していけば、 住んでみようと引っ越してく 「私の友人は、 大きな駐車場のあ に新しいマンションができたりして、 これから人がど 前であってもその辺のことを十分考える必要がある 「赤羽は、 便利で物価も家賃もそんなに高くない んどん移り住んでくるという波はきっと来るのでは 「子どもの頃、 西口のびっしり軒を並べた家の間の、 ご住職は、岩槻街道をはじめ、いろいろな歴 る人もさらに増えるかもしれませんね。 」 いことかと言うと、 そうも言えないように思います。 人一人やっと通れる路地を抜けると、 駄菓子屋さ 史にもご興味があると聞き、今度はぜひそのお と思います。 」 新しいマンションがポッとできると人口は増えます んがあったり、 井戸のある不思議な空間があったり、 ないでしょうか。 でも、 人口が増えることが直ちにい が、 人の繋がりが切れて、 そこだけが孤立してしま 意外なところに抜ける道があったりと、 ちょっとした のですが、見ず知らずの私がエレベーターに乗って 「私は時折赤羽のアボードⅠに行くことがある まちを次世代に繋ぐことはできませんね。 えば、 今度岩槻街道が拡幅されますが、 昔の街道 ワクするようなまちになって欲しいと思います。例 な発見があります。 ですから、 歩くのに安全で、 ワク でもよく裏道や住宅街を歩くのが好きで、 いろいろ 取材・文 宇田川正/木島邦夫/木村幸生 っかで一杯やっていこうか・・・。 見えた。住職のご協力に感謝しつつ、さあ、ど に、煌々と灯りをつけた埼京線が駅に入る姿が 陽が落ちていて、寺の石段を降りていくと正面 我々が取材を終えた時には、もうすっかり 話もゆっくり伺ってみたいと思う。 うのが心配です。 」 も、 みなさんが 「おはよう」 とか 「お先に」 とかお互い 筋であることを感じさせ、 かつ人も車も安全に通る 冒険気分を味わったものです。今でも旅先や都心 があいさつを交わしています。 どのマンションもこん ことのできる道にしていただきたいものです。 おっしゃるとおり、人の繋がりがなければ、 な雰囲気が生まれればいいなぁと思っています。 単 11 静勝寺境内一帯「稲付城跡」は東京都指定文化財 (境内にて鮮やかな紅葉を見上げる)
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