医療施設における新型インフルエンザ診療の手引き

神戸市内の医療施設における新型インフルエンザ A(H1N1)
診療の手引き
第1版
2009 年 9 月 30 日
神戸市新型インフルエンザ対策病院連絡協議会
―目次-
要約
1. 序文
2. 新型インフルエンザの臨床症状
3. インフルエンザの診断・検査
① 診断
② 迅速抗原検査、RT-PCR 検査の適応
③ 検体採取の方法
4. 軽症・重症の振り分け
① 成人の場合
② 小児の場合
5. 新型インフルエンザのハイリスク患者
6. 新型インフルエンザの治療
1) 一般的治療
2) 抗菌薬の適応
3) 重症患者の診断・治療
4) 抗インフルエンザ薬
① 抗インフルエンザ薬の適応
② 入院が必要な患者に対する治療
③ 抗インフルエンザ薬の選択
5)主に使用される薬剤の投与量
7. 抗インフルエンザ薬の曝露後予防
(別紙 1) 問診票
(別紙 2) 肺炎の重症度分類(SMART-COP 一部改変)
要約
・ 新型インフルエンザの診断は、急な発熱、頭痛、筋肉痛、咳等の臨床症状と、地域における感染のひろ
がり等の疫学情報から総合的に判断した上で診断することが可能であり、迅速抗原検査や PCR 検査は必
ずしも必要ではない。(除外診断に迅速抗原検査を用いてはならない。)
・ 様々な発熱性疾患がインフルエンザ様症状をとるため、診断に際しては他の重篤な感染性疾患の鑑別を
常に念頭においておくことが望ましい。
・ 大部分の新型インフルエンザ患者は合併症を伴わず数日以内に症状が軽快する。しかしハイリスク患者
や、リスクのない若年者でも、一部重症化し急速に状態が悪化することがある。よって重症化の兆候を
早期に察知することに診療の重点を置く必要がある。
・ 新型インフルエンザウイルス自体による呼吸不全(多くは早期発症)、二次性肺炎、基礎疾患の増悪(特
に COPD や心不全の増悪)
、小児の場合は脳症の合併が重症化した患者の特徴である。
・ 頻呼吸(呼吸回数>20 回/分で要注意、>24 回/分は明らかに異常)、努力様の呼吸、酸素飽和度の低下
(SpO2≦92%)、低血圧(収縮期圧 <90mmHg,または通常の収縮期血圧より>30mmHg 低い)、頻拍、低
体温などがみられた場合、重症化の懸念がある。(小児や、高齢者では意識状態の変容、元気がない等
の非特異的な所見にも注意する。)
・ 新型インフルエンザのハイリスク患者として慢性呼吸器疾患、妊婦、病的肥満のある人、基礎疾患のあ
る人、循環器系疾患(高血圧単独は除く)、肝疾患、腎疾患、慢性代謝疾患(特に糖尿病)、悪性疾患、
慢性神経疾患もしくは神経筋系疾患、免疫不全のある人(HIV、ステロイド内服中等)、5 歳未満の幼児
(ECDC では 2 歳未満)、高齢者(65 歳以上)などが挙げられている。
・ 臨床的にインフルエンザと診断のついた患者、もしくは強く疑われる患者に対しては抗インフルエンザ
ウイルス薬を投与しても良い。(妊婦等のハイリスク患者に対しては早期投与が強く推奨されている。)
・ 合併症を伴う症例に対しては、迅速抗原検査や PCR 検査の結果を待たずに速やかに抗インフルエンザ薬
を投与する必要がある。また 48 時間以上経過していても投与することが推奨される。
・ 二次性肺炎が疑われる場合には、適切な検体を採取し、速やかに適切な抗菌薬を開始することが望まし
い。
・ 病状の進行を示唆する兆候がみられた場合、速やかに呼吸・循環器の管理が可能な施設に転送されるこ
とが望ましい。
・ 曝露後予防には一定の効果を期待できるが、耐性ウイルス出現が懸念されており推奨しない。特に医療
従事者への処方や、院内のアウトブレイク対策での処方に関しては、各医療施設で責任者を定め、同一
の基準で処方されることが望ましい。
1.
序文
現在流行している新型インフルエンザ A(H1N1)2009(以下新型インフルエンザ)の特徴として、①感染力は強
いが、多くは軽症で回復する。②若者に感染者が多い。③基礎疾患を持っている人(肺疾患、糖尿病、腎疾患、
免疫不全等)
、妊婦、乳幼児、高齢者などでは重症化しやすい、④健康な人でも稀に重症化することがある、の 4
点が明らかになってきている。
新型インフルエンザの症状はいわゆるインフルエンザ様症状であり、季節性インフルエンザ、もしくは他のイ
ンフルエンザ様症状を呈する疾患と、臨床的に区別をつけることは困難である。従ってこの診療の手引きでは新
型インフルエンザと季節性インフルエンザ、その他のインフルエンザ様症状を呈する疾患とをあえて区別せず、
1
インフルエンザ様疾患の患者(以下に示す ILI:Influenza like illness)をどう診療するかに重点をおいている。
この診療の手引きは、WHO、オーストラリア政府、日本感染症学会等を参考に作成した。但し、新型インフルエ
ンザが発生してから間もなく何れのガイドラインも十分なエビデンスに基づいたものとは言えず、今後新たな知
見が得られ次第、順次変更を加えていく予定である。
季節性および新型インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンについては、季節性インフルエンザワクチン以
外、今後の供給体制が明確になっておらず言及を避けた。
2. 新型インフルエンザの臨床症状
新型インフルエンザの症状は季節性インフルエンザと同様で、殆どの患者が発熱、咳、咽頭痛等のInfluenza
like illness(ILI)の症状を呈する。下痢、嘔吐等の消化器症状、結膜炎などを合併することも知られている
1),2),3)
。New York および神戸での臨床症状のまとめを表1にまとめた。
表 1) 新型インフルエンザ(NY と神戸)
、季節性インフルエンザの臨床症状
新型 NY1)
新型神戸(n=49) 2)
季節性 3)
咳
98%
79.2%
93%
発熱
96%
87.8%
68%(37.8℃以上)
倦怠感
89%
79.1%
94%
頭痛
82%
52.1%
91%
咽頭痛
82%
71.4%
84%
鼻汁
82%
53.2%
91%
悪寒
80%
NA
NA
筋肉痛・関節痛
80%
55.1%
94%
吐き気
55%
24.5%
NA
腹痛
50%
NA
NA
下痢
48%
14.2%
NA
関節痛
46%
NA
NA
結膜炎
NA
6.9%
NA
注)神戸市のデータは発熱外来のデータであり、発熱を主訴に来院した患者を中心に得られたデータである。
新型インフルエンザと診断された患者でも、ペルーでは 37%(但し 39℃以上)、オーストラリでは 25%が発
熱を伴っていなかった5)。また、季節性インフルエンザと同様に高齢者では発熱を伴いにくい傾向があるよう
である。
3. インフルエンザの診断・検査
① 診断
古典的なインフルエンザ様症状としては、急な発熱、頭痛、筋肉痛、咳6)などが知られている。しかし、イ
ンフルエンザ様症状だけでの診断感度は 70%程度と低いが、臨床所見に加えて地域における感染のひろがり
等の疫学情報(地域におけるサーベイランスデータ、家族や学校、職場での流行状況、接触歴、及び渡航歴)
から総合的に判断した上でより正確に診断できるとされている7)、8)。
新型インフルエンザは嘔吐、下痢を伴うことが早期に紹介されたため、細菌性腸炎などがインフルエンザ
と誤診されるケースもあった。発熱だけでスクリーニングを行ってしまうと、発熱性疾患全てが鑑別を要す
2
る疾患となってしまい腎盂腎炎や急性胆管炎など敗血症を来し易い感染症、感染性心内膜炎、緊急性の高い
細菌性髄膜炎、マラリア、腸チフス等の致死的な疾患がインフルエンザと誤診される可能性も考えられる。
このようにILI症状を呈する疾患は多岐にわたるため、他のより重篤な感染症でないかを念頭におき診療にあ
たる必要がある。
② 迅速抗原検査、PCR 検査の適応
インフルエンザ迅速抗原検査は特異度が高いものの、感度が低く(成人で 40-60%、小児で 70-90%)7)、
採取したタイミングによって検査の精度は異なる。診断の補助として有効であるかもしれないが、感度が低
いため除外診断で用いてはならない。(診療報酬上も簡易迅速検査やPCR検査の実施は必須ではない。8))
感染が拡大する時期には、検査キットの絶対量が不足する可能性も示唆されており、適応を絞って検査を
行う必要がある。具体的には入院が必要な重症例、ハイリスク患者に適応を絞り、リスクのない軽症例や診
断書目的の検査はできる限り避ける。
迅速抗原検査ではインフルエンザ A,B の判断しかできないため、新型かどうかの判断は地域の流行状況や
接触状況を考慮して判断する。
PCR 検査は迅速抗原検査に比べ感度が高く、発症早期でもウイルスを検出可能である。しかし費用が高く、
また施行可能な施設が限られる。現時点では厚生労働省もしくは保健所の方針・指示に従って検体を提出す
ることが望ましい。
現在行われているインフルエンザ病原体サーベイランスは重症の入院患者が対象となっており、対象者が
いる場合は保健所に連絡した上で PCR 用の検体を採取しておく(鼻腔と咽頭の 2 本)。
③ 検体採取の方法9)
【鼻腔からの検体採取方法(1 本のみの場合は鼻腔から採取)】
ⅰ
患者さんの頭を後屈させ、目を閉じて貰う。
ⅱ
綿棒を親指と人差し指で軽くはさみ持つ
ⅲ
綿棒を顔にほぼ垂直となる角度で、鼻孔から挿入し、下鼻腔介(耳の高さが目安)に沿わせて、奥の
方に進める。
ⅳ 鼻腔の奥のコトンと行き止まる部分まで挿入し、綿棒をこすりつけながら回転させ(15 秒間が目安)
、
引き抜く。
10)より引用
【咽頭からの検体採取方法】
ⅰ
患者さんに口を大きく開けてもらい咽頭後壁を確認する。(舌圧子を使うと見えやすい)
ⅱ
綿棒を親指と人差し指で軽くはさみ持つ
ⅲ
綿棒を口から挿入し、咽頭後壁や上咽頭を中心に口蓋垂、軟口蓋背面の広い範囲をしっかり擦り粘膜
表皮を採取する。
3
4. 軽症、重症の振り分け
WHOのガイドライン11)における、症状による分類を下に示した。
i. 合併症なし(軽症)
いわゆるインフルエンザ様症状のみ:発熱、咳、咽頭痛、鼻汁、頭痛、筋肉痛、悪寒などがあるが、
息切れ、呼吸困難などを伴わない
消化器症状(下痢、吐き気)などを伴う(特に子供)が、脱水はない。
ii. 合併症あり(重症)
-息切れ、呼吸困難、頻呼吸、チアノーゼ(低酸素)等の臨床症状±胸部レントゲンでの肺炎像、神
経疾患(脳炎)、脱水、二次的な合併症(腎不全、多臓器不全、敗血症性ショック等)等を合併して
いる。他の合併症として、横紋筋融解症、心筋炎などもあり得る。
-喘息、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive lung disease:以下 COPD)
、肝不全、腎不全、糖
尿病、心臓疾患等の増悪
-その他の入院を要する場合
-下記の病状の進行を示唆する兆候がある場合
iii. 病状の進行を示唆する兆候
最初は合併症のないインフルエンザでも、進行しより重症となる可能性もありうる。時に急速に重症化
する。以下に重症化の兆候を示す。
-酸素化の障害や心肺機能不全を示唆する兆候や症候
・息切れ(労作時もしくは安静時)、呼吸困難、チアノーゼ、血痰もしくは色のついた痰、低血圧
・子供の場合は頻呼吸や努力様呼吸
・パルスオキシメーターによる低酸素状態
-脳神経系の合併症が示唆される兆候や症候
・精神状態の変容(表 2 参照)
、意識障害、眠気、もしくは覚醒困難、持続するもしくは繰り返す痙
攣発作、精神錯乱、重度の衰弱もしくは麻痺
-ウイルス増殖の継続もしくは 2 次性の細菌感染症の症候もしくは兆候
・持続する発熱、3 日目以降の新たな症状
-重度の脱水
・活動性の低下、眠気、尿量減少、昏睡状態
①
成人の場合
成人の場合、新型インフルエンザウイルス自体による呼吸不全(多くは早期発症)、二次性肺炎、基礎
疾患の増悪(特にCOPDや心不全の増悪)により重症化することが多い。一般的に発熱と重症度は相関しな
い。
重症化のマーカーとして、以下の所見に注意する。(引用文献 8)
)
・ 頻呼吸(呼吸回数>20 回/分で要注意、>24 回/分は明らかに異常)、努力様の呼吸
・ 酸素飽和度の低下(SpO2≦92%)12)(COPDや心疾患で元々安静時呼吸困難がある場合。SpO2<90%)
・ その他のバイタルサイン増悪:(低血圧(収縮期圧 <90mmHg,または通常の収縮期血圧より>30mmHg
低い)、頻拍、低体温など)
・ 息切れ等で運動耐容能の低下がみられる場合
・ 高齢者の場合、意識障害(精神錯乱、昏迷等)
、失禁、転倒など
4
上記の何れかの所見が認められた場合、重症(合併症あり)の可能性を念頭に置き、採血(血液ガス、
BUN、Albを含む)、胸部レントゲン等の評価を追加する22)。
合併症が疑われる場合には合併症に対しての評価も同時に行う。疑われる合併症に対しての治療も同時
進める必要がある。
(例:細菌性肺炎、結核、敗血症性ショック等)
②
小児の場合
小児の重症度分類は成人の重症度とは異なる。小児でも呼吸状態が悪化し、ICU 管理になる症例もある
が、成人と異なりインフルエンザ脳症を起こすことがあり注意が必要である。小児の場合、食欲がない、
元気がない等の非特異的な症状にも注意する必要がある。
表 2 インフルエンザ脳症の前駆症状としての異常言動・行動の例(文献 13)より)
② 両親がわかならい、いない人がいると言う(人が正しく認識できない)
③ 自分の手を噛むなど、食べ物と食べ物でないものとを区別できない。
④ アニメのキャラクター・象・ライオンなどが見える、など幻視・幻覚的訴えをする。
⑤ 意味不明の言葉を発する、ろれつがまわらまい。
⑥ おびえ、恐怖、恐怖感の訴え・表情
⑦ 急に怒り出す、泣き出す、大声で歌いだす。
小児のバイタルの指標
表 3 小児のバイタルの正常値14)
年齢
バイタルサインの正常値(年齢別)
呼吸回数
心拍数
収縮期血圧
(/min.)
(/min.)
(mmHg)
<1歳
30-40
110-160
70-90
1-2 歳
25-35
100-150
80-95
2-5 歳
25-30
90-140
80-100
5-12 歳
20-25
80-120
90-110
>12 歳
15-20
60-100
100-120
5. 新型インフルエンザのハイリスク患者
以下に新型インフルエンザ(H1N1)のハイリスク患者とされる群を列挙した11),12),15)。
・慢性呼吸器疾患(喘息、COPD 等)
・妊婦(WHO、ECDC は初期も含むが、オーストラリアでは特に中期、後期と限定)
・病的肥満のある人
・基礎疾患のある人
循環器系疾患(高血圧単独は除く)、肝疾患、腎疾患、慢性代謝疾患(特に糖尿病)、悪性疾患、慢性神経
疾患もしくは神経筋系疾患
・免疫不全のある人(HIV、ステロイド内服中等)
・5 歳未満の幼児(ECDC では 2 歳未満)
・高齢者(65 歳以上)
(上記に加えて喫煙者、睡眠時無呼吸症候群の患者も要注意の群とされている12)。)
これらの条件に当てはまるハイリスク患者は新型インフルエンザに罹患した際に重症化する可能性があり、
5
注意して経過を追う必要がある。基礎疾患のコントロールがうまくいっているかどうか、もしくは基礎疾患
の増悪がないかも診療上重要となる。基礎疾患のある患者は、普段から自身の持病と内服中の薬剤のリスト
を持ち歩くようにしておくことが望ましく、インフルエンザに罹患した時の対応を事前にかかりつけ医と相
談しておくことが望ましい。特に慢性呼吸器疾患の患者や慢性心疾患を持つ患者においては呼吸状態の悪化
の有無に注意が必要である。
6. 治療
1)
一般的治療(16)から引用、一部改変)
発熱・疼痛に対しては、アセトアミノフェンの使用を推奨する。(特に 18 歳未満の小児ではReye症候群のリ
スクを考慮し、アセチルサリチル酸、ジクロフェナク、メフェナム酸の投与は避ける9)。) インフルエンザに
伴う発熱により、小児や高齢者では脱水がみられることが多く、適切な経口、経静脈的な補液を十分に行う
ことが必要である。
鼻汁、鼻閉、くしゃみに対しては、抗ヒスタミン薬、吸入副交感神経遮断薬、点鼻血管収縮薬を鼻粘膜のう
っ血、浮腫を改善する目的で使用する。短期間に限り、回数を制限して使用することが望ましい咳は鎮咳薬
など、症状に応じた対症療法を行う。
咳嗽に対しては、中枢性鎮咳薬か末梢性鎮咳薬を用いる。中枢性鎮咳薬としては、リン酸コデイン、リン酸
ジヒドロコデイン、デキストロメルファン、リン酸ジメモルファン、クロペラスチンがあるが副作用に注意
する必要があり、かぜ症候群には注意して用いる。末梢性鎮咳薬としては、咽頭痛や咽頭不快感のある場合
含嗽水や、トローチ、喀痰を伴う場合に去痰薬、喘鳴や呼吸困難を伴う場合に気管支拡張薬を用いる。湿性
咳嗽は咳嗽反射で去痰をすることが防御反応として働いているため、鎮咳薬は用いないのが原則である。
患者を帰宅させる場合、感染対策、周囲の人の予防内服、重症化したときの対応について説明しておくこ
とが望ましい。(
「インフルエンザと診断された患者さんとご家族へ」(感染対策の手引き参照))
2)
抗菌薬の適応
高熱の持続(3 日以上)
、膿性の喀痰・鼻汁*1、扁桃腫大と膿栓・白苔付着*2、中耳炎・副鼻腔炎16)、肺炎
17)
合併例等では、抗菌薬の投与を考慮する必要がある。
(これらの場合インフルエンザ以外の疾患、もしくは
2 次的な細菌感染症合併の可能性がある。)上記以外の場合の予防的な抗菌薬の使用は推奨されない。
*1
健常者では、膿性の喀痰・鼻汁のみで肺炎、副鼻腔炎が無ければ抗菌薬の適応とはならない。(COPD の急性増悪で呼吸困難を伴っ
た場合のみ検討する。)
*2
咽頭痛を伴う場合はCentor score18)を参考にし、A群溶連菌による咽頭炎の診断と治療も意識する。
Centor score
1. 38 度以上の発熱
2. 咳の欠如
3. 扁桃の白苔
4.圧通のある前頸部リンパ節腫脹
基本的にこれを 3 つ以上満たせば A 群溶連菌迅速診断キットを使用し、陽性なら同菌による咽頭炎と診断、治療できる。
3)
重症患者の診断・治療
入院が必要な患者については、インフルエンザ以外の熱源の有無、二次感染(肺炎、敗血症等)、基礎疾患
の増悪の有無を確認する必要がある。
疑われる合併症に応じて必要な検査「血液培養(必ず 2 セット以上)、喀痰グラム染色・抗酸性染色・培養、
尿中抗原(肺炎球菌、レジオネラ)、マイコプラズマ抗体(ペア血清)*、肺炎クラミジア抗体(ペア血清)*
6
等」を提出した上で治療を開始する。
肺炎を合併している場合には、エンピリックに市中肺炎としての抗菌薬を併用することが望ましい11),17),19)。
肺炎の重症度分類としてはPneumonia severity index(PSI)20)、CURB6521)、A-DROP17) が用いられるが、若年者
においては実際の重症度より低めに見積もられてしまう可能性があり注意が必要である。ICU入室の必要性の
有無についてはSMART-COP22)の重症度分類を別紙 2 として添付した。
ショックを伴い ICU 管理を必要とする重症例は、敗血症性ショックの可能性を念頭に置き、適切な抗菌薬、
酸素投与(SaO2 90%以上、妊婦は 92-95%以上を維持)を速やかに開始し、呼吸・循環動態の管理を行う。
小児の脳症も、早期入院による集中治療が必要になる。具体的な治療については脳症のガイドラインを参
考にする13)。
*マイコプラズマ抗体(IgG,IgM)及び肺炎クラミジア抗体(IgG,IgM)はいずれも検査精度が低く必須ではない。
4)
抗インフルエンザウイルス薬
① 抗インフルエンザウイルス薬(オセルタミビル,ザナミビル)の適応
臨床的にインフルエンザと診断のついた患者、もしくは強く疑われる患者に対しては抗インフルエンザ
ウイルス薬を投与しても良い8)。早期に投与することが望ましく、原則発症後 48 時間以内に投与する。
新型インフルエンザは、健常者を含めた重症化例が報告されており、日本感染症学会のガイドラインで
は、健康成人、小児も含めてすべての新型インフルエンザ患者に対して抗インフルエンザウイルス薬の投
与が推奨されている19)。
重症患者、病状の進行が疑われる患者、及びハイリスク患者に対しては、早期投与が有効とされるため、
診断がついていない時点でも強く疑われる患者には抗インフルエンザ薬を早期に投与開始することが推
奨される11),19)。特に妊婦は重症化しやすい傾向があるため、診断を待たずに抗インフルエンザ薬を開始す
ることが推奨されている23),24),25) 。
日本においては 10 歳以上の未成年の患者には、副作用について保護者に説明した上で投与することが
望ましい(オセルタミビルは警告、ザナミビルでは重要な基本的注意として 10 歳以上の未成年者の服用
後の異常行動と異常行動に伴う転落について記載されている)26),27),28) 。
1 歳未満の患児においてはオセルタミビル、ザナミビルの安全性は確立していないが、症状・所見から
重症化が予想される場合、保護者へのインフォームドコンセントが十分に得られた場合において、医師の
判断において投与することも可能である19)。
② 入院が必要な患者に対する治療
重症の場合は、発症後 48 時間以上経過していてもオセルタミビルを投与する。通常量で効果がなく、
症状が増悪する場合には 2 倍量に増量する、もしくは投与期間を延長することも検討して良い11)。
③ 抗インフルエンザウイルス薬の選択
地域におけるインフルエンザの流行及び薬剤耐性の状況に応じて投与すべき薬剤を決定する7)。
インフルエンザAの場合、H1N1、新型(H1N1)、H3N2 の 3 通りが考えられる11)。
オセルタミビル
ザナミビル
アマンタジン
新型インフルエンザ A/H1N1
感受性
感受性
耐性
季節性インフルエザ A/H1N1
高率に耐性
感受性
高率に感受性
季節性インフルエンザ A/H3N2
感受性
感受性
耐性
季節性インフルエンザ B
感受性
感受性
耐性
7
鳥インフルエンザ A/H5N1
¾
感受性
感受性
耐性?
迅速診断キットで B 陽性の場合
インフルエンザ B の場合、アマンタジンは使用できないので注意する。オセルタミビル、ザナミビルの
どちらを選択しても支障はない。
¾
迅速診断キットで A 陽性の場合
現在、季節性 H1N1 の殆どはオセルタミビル耐性とされ、地域で H1N1 が主に流行している時期にはザナ
ミビルまたはオセルタミビルとアマンタジンの併用が第一選択となる。
新型(H1N1)及び、H3N2 においてはオセルタミビル耐性の報告は少なく、オセルタミビル及びザナミビ
ルのどちらを選択しても良い。
(但し曝露後予防でオセルタミビルを使用している患者がILI症状を呈した
場合は、ザナミビルの使用が推奨される4)。)
¾
迅速診断キットA,Bとも陰性の場合、もしくは検査を行わなかった場合
迅速診断キットのみでインフルエンザの可能性を完全には否定できない。よって診察医がインフルエン
ザを強く疑う場合には、抗インフルエンザウイルスを投与しても良い。処方する薬剤は患者周囲、地域
の流行状況をもとに決定する。
5)
主に使用される薬剤の投与量
i.
抗インフルエンザウイルス薬
治療
年齢(歳)
0-1
1-4
4-12
ザナミビル
NA
NA
10mg(2 吸入)1 日 2 回
オセルタミビル
NA
2mg/kg 1 日 2 回
75mg 1 日 2 回
アマンタジン
NA
5mg/kg
100mg
100mg
1日2回
1日1回
1日2回
(最大量 1 日 150mg)
13-64
65-
腎機能障害時の投与量の調整
CCr≦10
10<CCr≦30
ザナミビル
オセルタミビル
アマンタジン
30<CCr≦75
75<CCr
投与量の調整は不要
NA
75mg 1 日 1 回
75mg 1 日 2 回
15<CCr≦25
25<CCr≦35
35<CCr≦75
100mg1 回/3 日
100mg1 回/2 日
100mg 1 日 1 回
透析患者の場合には、透析後に 75mg を 1 回投与すれば、1 週間は有効とされる。
ii. アセトアミノフェン(商品名:カロナール、コカール、アルピニー等)
投与量
体重
アセトアミノフェンとして
5kg
50-75mg
10kg
100-150mg
20kg
200-300mg
30kg
300-450mg
成人
300-500mg
投与間隔は 4~6 時間以上とし、1 日の最大量は小児で 60mg/kg を限度に、成人では 1500mg を限度とする。
8
【特殊病態の患者への注意事項】
高齢者では副作用が出やすいため少量より投与することが望ましい。
妊娠中の女性に関する安全性は確立していないため、妊婦もしくは妊娠の可能性のある婦人には、治療
上の有益性が危険性を上回ると判断した場合にのみ投与する。
低出生体重児、新生児および 3 カ月未満の乳児に対する使用経験は少なく安全性は確立していない。
7. 抗インフルエンザ薬の曝露後予防
季節性インフルエンザの場合、抗インフルエンザウイルス薬による発症予防効果は 70-90%とされる。新
型インフルエンザの曝露後予防における抗インフルエンザ薬の効果は不明であるが、一定の効果は期待でき
る可能性はある15)が、むやみに行ってよいものではない。WHOは曝露後予防により耐性ウイルス出現する懸念
があるため、曝露後予防を推奨していない4)。
尚、日本感染症学会のガイドラインは以下の 3 群を曝露後予防の対象としている15)。
① インフルエンザのハイリスク患者
*1
② 医療従事者*2
③ 集団感染のリスクが高い事例(医療施設や、社会福祉施設などで、同室者が発症した場合等)*2
*1 についてWHOは、ハイリスク患者でも、注意深く経過観察を行い、発症した場合に早期に抗ウイルス薬を投与することを代替案と
して提示している4)。
*2 については、医療施設毎に処方の責任者を決めておくことが望ましい。
上記に当てはまる場合でも、インフルエンザ感染患者に濃厚接触(患者の 2m 以内に適切な予防措置をとら
ずに一定時間以上滞在した者)があったと認められるものに限って処方されるべきである。また対象者がイ
ンフルエンザ患者の発症 1 日以上前に濃厚接触した場合、もしくは濃厚接触後 1 週間以上経過している場合
は曝露後予防の対象にはならない。
オセルタミビル
小児:1 回 2mg/kg,1 回 75mg まで。1 日 1 回、7~10 日間
成人・37.5kg 以上の小児:1 日 75mg を 1 日 1 回、7~10 日間
ザナミビル
1 回 10mg(2 吸入)を 1 日 1 回、10 日間(小児は吸入可能な場合)
9
(別紙1)
問診票
神戸市新型インフルエンザ対策病院協議会
お手間かけますが、下記のご質問に記載してください。
診察券番号
名前
生年月日
年
-
電話
月
-
日
男・女
歳
住所
(携帯など連絡が取れる番号をお願いします)
1. 現在までの症状。☑チェックをお願いします。
□
□
□
□
体温 37.5 ℃以上(最高体温
度) □ 震え, 寒気
□ 頭痛
鼻汁, 鼻詰まり □ 咽頭痛
□ 咳
□ 黄色もしくは緑色の痰
□ 息切れ
胸痛 □ 節々の痛み(関節痛)・筋肉痛
□ 下痢
□ 吐き気・嘔吐(おうと)
けいれん発作・ひきつけ □ その他 _______________
2. 上記の症状はいつからはじまりましたか?
月
日から
3. 以下の質問についてお答えください。
1週間以内の海外旅行歴がありますか。
はい・いいえ
最近、学校や職場でインフルエンザは流行していますか。 はい(
最近、周囲に同じような症状の方がいますか。
はい(誰:
季節性インフルエンザワクチンは接種されましたか
はい(いつ:
新型インフルエンザワクチンは接種されましたか
はい(いつ:
)・いいえ
)・いいえ
)・いいえ
)・いいえ
4. 以下にあてはまるものがあれば、○をお願いします。
喘息
気管支や肺の病気
脳・神経系の病気
心臓病・心筋梗塞
癌・抗癌剤治療
ステロイドや免疫力を低下させるお薬の投与
妊娠中
HIV
糖尿病
腎臓病・透析
小児でアスピリン内服
肝臓病
川崎病
臓器移植後
5. 現在通院されている医療機関とかかりつけの先生のお名前をご記入ください。
(
医院、病院)
(
先生)
6. 現在内服されているお薬があれば記入してください。
(医療従事者記入欄)
問診票作成日
月
日
患者さんのバイタルサイン 呼吸回数
/分、血圧
/
mmHg、脈拍
/分、SpO2
重症化のリスクの有無
あり(
)・なし
合併症、重症化の兆候の有無
合併症なし、合併症あり(
)、重症化の兆候(
迅速抗原検査
実施せず、実施
迅速抗原検査の結果
陰性、A、B
PCR 提出の有無
抗インフルエンザ薬の処方 なし・あり(タミフル、リレンザ、シンメトレル)
%
)
あり、なし
(別紙2)
肺炎の重症度分類(SMART-COP)
本診療の手引きでは、どのような外来環境でも使用可能なSMART-COP22)を一部改変したものを重症
度分類として使用した。
ステップ 1*(1つでもチェックが入ればステップ 2 に進む)
□ 脈拍 >125/分(1 point)
□ 収縮期圧 <90mmHg,または通常の収縮期血圧より>30mmHg低い (2 points)
□ 新たな意識障害 (1 point)
≦50 歳
>50 歳
□ 呼吸回数 ≧25/分 (1 point)
□ 呼吸回数 ≧30/分 (1 point)
□ SpO2 ≦93% (2 points)
□ SpO2 ≦90%
(2 points)
ステップ 1 に 1 項目でも該当項目がある場合には、重症の可能性があるため、血液検査、胸部レントゲン
を行う。
ステップ 2*(採血, 血液ガス, 最後に胸部レントゲン施行)
□ Alb 3.5g/dl 未満(1 point)
□ pH <7.35 (2 points)
□ 大葉性肺炎(1 point)
ステップ 2 を終えた時点で、SMART-COP の基準に沿って重症度を判定。
判定の方法
0-2 points
挿管、昇圧剤が必要な可能性は低い
3-4 points
挿管、昇圧剤が必要な可能性が中等度(1/8)
5-6 points
挿管、昇圧剤が必要な可能性が高い(1/3)
≧7 points
挿管、昇圧剤が必要な可能性が非常に高い(2/3)
1 項目でも該当項目があった場合は、医師による慎重な判断が必要となる。特に 3 points 以上の場合は
ICU 入室が必要な場合もあることを留意した診療が必要となる。
*簡便性を考え本来ステップ1に入るべき胸部レントゲンをステップ 2 に、ステップ 2 に入るべき PaO2
をステップ1に入れている。
引用文献
1)
MMWR Weekly, May 8,2009/58(17); 470-472
2)
神戸市における新型インフルエンザ臨床像の暫定的なまとめ(第二報)IDSC May 25,2009
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/clinical_epi_kobe2.html
3)
Monto AS., Gravenstein S., Elilott M., et.al. Clinical Sings and Symptoms Predicting Influenza Infection. Arch Intern med.
2000;160:3243-47
4)
WHO: Pandemic (H1N1) 2009 briefing note 12. “Antiviral use and the risk of drug resistance”
http://www.who.int/csr/disease/swineflu/notes/h1n1_antiviral_use_20090925/en/index.html
5)
Department of Health and Aging of Australia:GP Clinical update-5 August 2009
6)
Call SA, Vollenweider MA, Hornung CA, Simel DL, McKinney WP. Does this patient have influenza? JAMA. 2005 Feb
23;293(8):987-97. Review.
7)
Harper SA., Bradley JS., Englund JA. Seasonal Influenza in Adults and Children—Diagnosis, Treatment, Chemoprophylaxis,and
Institutional Outbreak Management: Clinical Practice Guidelines of the Infectious Diseases Society of America. CID
2009;48:1003-32
8)
厚生労働省新型インフルエンザ対策本部 「新型インフルエンザの診断と治療について」 平成 21 年 9 月 18 日 事務連絡
9)
NEJM:http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMe0903992/DC1
10) 富士レビオ株式会社 エプスラインR A&B-N 検体採取の方法 http://www.fujirebio.co.jp/support/operation/espline/index.html
11) WHO: WHO Guidelines for Pharmacological Management of Pandemic (H1N1) 2009 Influenza and other Influenza Viruses 20
August 2009
12) Department of Health and Aging of Australia: Clinical Management of Pandemic(H1N1) 2009
13) 厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班
「インフルエンザ脳症ガイドライン」
14) Recognition of a sick child in Emergency Departments, NSW Department of Health, January 2005
15) ECDC Interim risk assessment: Pandemic (H1N1) 2009 influenza 21 August 2009
16) 日本呼吸器学会呼吸器感染症に対するガイドライン作成委員会「成人気道感染症の基本的考え方」2003 年 6 月 20 日発行
17) 日本呼吸器学会 成人市中肺炎診療ガイドライン 2005 年 11 月
18) The Diagnosis of Strep Throat in Adult in the Emergency Room. Med.Decision Making Vol.1, No.3, 1981
19) 日本感染症学会 新型インフルエンザ 診療ガイドライン(第 1 版) 平成 21 年 9 月 15 日
20) Fine MJ, Auble TE, Yealy DM, et al. A prediction rule to identify lowrisk patients with community-acquired pneumonia. N Engl J
Med 1997; 336:243–50.
21) Lim WS, van der Eerden MM, Laing R et al. Defining community acquired pneumonia severity on presentation to hospital: an
international derivation and validation study. Thorax 2003; 58: 377–82.
22) Charles PG et al. SMART-COP: a tool for predicting the need for intensive respiratory or vasopressor support in
community-acquired pneumonia. Clin Infect Dis. 2008 Aug 1;47(3):375-84.
23) Jamieson DJ, Honein MA, Rasmussen SA
H1N1 2009 influenza virus infection during pregnancy in the USA. Lancet
2009;374(9688):451-8
24) CDC Pregnant Women and Novel Influenza A(H1N1) Virus: Considerations for Clinicians;
http://www.cdc.gov/h1n1flu/clinician_pregnant.htm
25) 社団法人日本産婦人科学会:妊婦もしくは褥婦に対しての新型インフルエンザ(H1N1)感染に対する対応Q&A(医療関係者対象) 平成 21 年 8
月 25 日;http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_20090825b.html
26) 平成 19 年度 3 月 20 日
厚生労働省
27) グラクソスミスクライン株式会社
医薬食品完全対策課
リレンザ
タミフル服用後の異常行動について(緊急安全性情報の発出の指示)
添付文書
1
28) 中外製薬株式会社
タミフル
添付文書
29) 厚生労働省ホームページhttp://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/2009/08/dl/info0828-02.pdf
30) CDC:Emergency use authorization of Tmaiflu Fact Sheet For Health Care Provide
http://www.cdc.gov/h1n1flu/eua/pdf/tamiflu-hcp.pdf
2