脳梗塞を契機に診断された下垂体結石症 を伴った先端肥大症の一例

脳梗塞を契機に診断された下垂体結石症
を伴った先端肥大症の一例 沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 1)総合内科 2)脳神経外科 淺井 友美子1) 仲里 信彦1) 篠原 直哉1) 長嶺 知明2) 【症例】
【主訴】 呂律難 【現病歴】 X年Y月Z日、朝5時頃起床して、妻と話しているときに突然の呂律難あり。 水を飲むと左の口角から水がこぼれた。その他運動障害や感覚障害なし。 頭痛なし、悪心・嘔吐なし。診療所受診し、当院へ搬送となった。 【既往歴】 慢性心房細動(50歳〜) 僧帽弁閉鎖不全症(50歳時に人工弁置換術後) 高血圧(30歳指摘、43歳から内服治療) 糖尿病 高尿酸血症 【生活歴】 小学生までは平均的な身長だったが、中学卒業時には、190cmを超えた。その
頃から靴のサイズが合わなくなり、サンダル履きが多くなった。 【嗜好歴】飲酒:泡盛3合/回 週2−3回 喫煙:15本/日×30年 3年前から禁煙 【家族歴】 父 高血圧 不整脈 家族は両親・兄弟は、高身長ではない。 【常用薬】ワルファリン4mg/1 バルサルタン160mg/2 ビソプロロール1.25mg/1 アロプリノール200mg/2ファモチジン20mg/1 【来院時身体所見】 身長:193cm 体重:116kg BMI:31 血圧:140/100mmHg 脈拍:90回/分 不整 呼吸数:18回/分 体温:37.7℃ SpO2:97%(RA) 顔面)両側頬部・前額部 突出あり 頸部雑音なし 心音)不整 雑音なし 呼吸音)清 腹部)特記なし 四肢)浮腫なし
<神経学的所見>
眼球運動正常 瞳孔4mm/4mm 対抗反射あり
視野異常なし +
+1
+1 +1
顔面感覚正常
1
前頭筋・眼輪筋 左右差なし 正常
口輪筋 左口角軽度下垂
舌正中 運動正常
+1
+1
•  MMT 左上肢バレー陽性 •  指鼻指試験正常 回内回外問題なし +1 +
•  温痛覚 異常なし 1
【心電図・胸部単純Xp・心エコー】
左心室の収縮力低下 EF 50% LVDs=35.3 mm 胸部単純X線写真 CTR 50% LVDd=46.2mm ECG : 心房細動 左房内に血栓なし
【来院時血液検査】
血算
生化学
WBC
2700 /μl RBC 389万/μl Hgb
Hct
Na
141mEq/L
LDH
328IU/L
K
4.2mEq/L
TG
121mg/dl
13.1g/dl
Cl
T-­‐chol
37.9% 107mEq/L
167mg/dl
BUN
10mg/dl
HDL-­‐CHO
54mg/dl
CRE
0.8mg/dl
Hb-­‐A1C
6.4 %
AST
39IU/L
DM血糖
147mg/dl
ALT
27IU/L
CRP
<0.10mg/dl
T-­‐bil
1.2mg/dl
MCV
97fl
Plt
15.3万/μl
凝固
PT-­‐INR
2.22
APTT
31.4秒
【来院時頭部画像検査】
頭部MRI(DWI)
右前頭葉に新規脳梗塞が疑
われる(矢印)
頭部CT
頭部CTで著明な前頭洞の発達と頭蓋骨の厚みの増
強が見られる。下垂体に石灰化が見られる(矢印)
頭部単純X線写真
頭部単純レントゲン写真で前
頭洞と上顎洞の発達と下顎
骨の発達が見られる。 【診断・経過1】
#右中大脳動脈領域脳梗塞 ➡既往に心房細動があり、右中大脳動脈領域の梗塞所見認めるた
め、心原性脳梗塞が考えられた。 ・心エコーでは左房内に明らかな血栓なし ・元々ワルファリンを内服しており、出血性梗塞に注意しながらワル
ファリン継続内服PT-­‐INR2.5〜3.0となるよう調整。 #先端肥大症疑い ・IGF-­‐1 984ng/mL (基準値;50~60歳未満男性 59~215ng/mL) ・75gOGTT負荷試験 (GH 基準値;2.47ng/mL以下) ➡75gOGTTでGH抑制なし。
【下垂体MRIと術後病理像】 下垂体病理像
下垂体MRI
下垂体腫大・石灰化所見あり(矢印)。 【経過2】
•  脳梗塞入院中に脳神経外科にコンサルト。
下垂体結石症を伴う下垂体腺腫が疑われ、脳梗塞が安定した
時期に下垂体腺腫摘出術施行予定となった。
•  脳梗塞の約1年後
成長ホルモン産生下垂体腺腫に対し、経鼻的下垂体腫瘍摘出
術を施行。術後、成長ホルモン値の正常値以下への低下を確認。
GH:0.78ng/mL(基準値;50~60歳未満男性59~215ng/mL)
術後は血圧及び血糖値も安定し、降圧薬減量、経口糖尿病薬を
中止可能であった。
!
下垂体結石症
•  下垂体腺腫で石灰化を伴うものを下垂体結石症というが、一般
的に稀である(0.3〜14%)。下垂体結石症を伴う下垂体腺腫はト
ルコ鞍の著明な拡大を見ることは少ない。 •  下垂体腺腫の石灰沈着の原因としては、主に組織の変性・壊死
による石灰化やその他に動脈硬化等が考えられている。
石灰化沈着を認めた下垂体腺腫の内訳
石灰化沈着を認めた
機能性下垂体腺腫
PRL
23人
GH
7人
PRL+GH
2人
ACTH
2人
MSH
0人
FSH
1人
TSH+PRL
0人
石灰化沈着を認めた 9人
非機能性下垂体腺腫 森山 賢治. 下垂体結石症, 別冊
内分泌症候群220-­‐223, 日本臨
床, 2006 先端肥大症と心血管系合併症・糖尿病
•  先端肥大症での死亡原因として心血管合併症が60%を占める。 –  高血圧30%、心肥大80%の合併 •  GH作用による近医尿細管でのNaの再吸収促進から高血圧が発症。 •  心肥大は心筋の繊維化やアポトーシスを起こし心収縮能の低下など
も見られる。拡張型心筋症様の所見を示す症例も散見される。 –  弁膜症に関しては大動脈閉鎖不全症が30%、僧帽弁閉鎖不
全は頻度が少なく5%程度と言われている。 •  弁膜症を引き起こす原因には高血圧、胸郭の変形、臓器肥大による
需要の増加、動脈硬化、GHの直接的な作用等が考えられ、GH産生
過剰による酸性ムコ多糖類の増加による腱索の脆弱性を促進する
機序も考えられているが、実際の病理では非特異的な粘液様変性
が多い。 –  不整脈は3.7〜48%(PACs, PVCs, Af, PSVT, SSS, AV-­‐block)
•  糖尿病はGHの過剰分泌により、インスリン抵抗性に起因する。
考察
•  本症例は、脳梗塞を契機として入院し、その顔貌・
高身長から、先端肥大症を疑い、画像検査とホルモ
ン検査より同疾患と診断した。下垂体結石症を伴う
GH産生下垂体腺腫であった。 •  弁膜症、心機能低下、不整脈、高血圧、糖尿病を合
併していた。下垂体摘出術後に高血圧と糖尿病は
改善を示し、先端肥大症に伴う心血管合併症や糖
代謝異常も考えられた。 結語
•  今回、脳梗塞を契機として発見された先端肥大症を
経験した。 •  下垂体結石症を伴うGH産生下垂体腫瘍というまれ
な疾患であった。GH産生腫瘍はその特徴的な身体
所見から鑑別する必要があり、体格や顔貌以外の
合併症にも注意が必要である。 参考文献
森山 賢治. 下垂体結石症, 別冊内分泌症候群220-­‐223, 日本臨床, 2006
Tamaki.T, et al. Pituitary stone. Neurol Med Chir , 40 : 383-­‐386, 2000.
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