持続する高熱と炎症反応の増悪で来院した54歳男性

持続する高熱と炎症反応の増悪で来院し
た54歳男性
名瀬徳洲会病院
安藤元素
主訴、現病歴
C.C)発熱
HPI)3/26朝方、寒気がして起床。昼から仕事
を休み当院受診し咽頭の発赤を認めるのみ
で上気道炎の診断で解熱剤処方され帰宅。
同日夜39℃台の発熱が持続するため翌3/27
にインフルエンザ検査希望で再診し検査陰性。
3/29発熱持続するため再度外来受診。採血
上炎症反応の上昇を認めたため4/4熱源精
査目的に入院となった。
既往歴、家族歴、社会歴
PMH)糖尿病(4年前)高血圧(1年前)HL(-)BA()PUD(-)心腎肝(-)
副鼻腔炎
アマリール(1)0.5T1X、アクトス(30)1T1*、ゼスト
リル(5)1T1*
Allergy)NKDA,NKFA
SH)smoking:40本*25年、EtOH:焼酎3合/毎日
海外渡航歴(-)ペット(-)sexual activity(-)
FH)妻、義母と3人暮らし、子供2人自立
Job:地方公務員デスクワーク(3/26より職場移動)
身体所見
身長171.2cm 体重98.0kg
入院時vital BT37.0℃ BP122/70 HR100 RR16 SpO2:97%(RA)
General:good ,Cons:alert
HEENT:not anemic ,not icteric 充血(-)
Throat:not reddish,not swelling,pas(-) Neck:supple,LN(-),JVD(-)
CHEST Lung:CTAB Heart:reg no murmur
Abd:soft & fat,pain(-),tds(-),mass(-)BS:moderate
rebound(-)defense(-)鼡径LN(-)
Back:CVA Tds(-)
Ext:c/c/e(-) Osler結節(-),Janeway斑(-)splinter hemorrhage(-)Joint pain(-)
Rectal exam:tonus normal,tds(-),mass(-)OB-/全身の皮膚に発疹や刺入痕なし
<Neurology>
CNS:intact Barre上下肢normal
DTR:R=L,normal
Coodination:intact
Gait:normal
検査結果
L/D)4/6
WBC18800/μl,neutro84.7% ,Hb14.9g/dl,Ht43.5%,plt28.8万/μl, CRP28.80
Na135mEq/l,K3.9mEq/l,Cl94mEq/l,BUN12.1mg/dl,Cr0.71mg/dl,Glu169mg/dl,HbA1c6.3%
GOT40IU/l,GPT53IU/l,LDH180IU/l,ALP305IU/l,γ‐GTP229IU/l
T-bil1.0mg/dl,TP6.8g/dl,Alb3.2g/dl
CMV IgG(+) IgM(-)
EBV VCA-IgG160倍 VCA-IgM<10倍,EA-IgG<10倍 EBNA-抗体320倍
HTLV-1PA<16倍 RF>40倍 P-ANCA<1.3倍 C-ANCA<1.3倍
抗DNA抗体(-)抗RNP抗体(-)
C3:218、CH50:73
CSF:初圧13.5cm無色透明、細胞数5.0 単核球40%多核球60%糖85蛋白27.1 Cl116 ADA1.2
β―Dグルカン13.1
4/11 WBC28620 CRP34.80 ESR 111 mm /1h 122mm/2hツ反:弱陽性(12*12mm)
血液培養:4/4 ,4/9,4/10negative
経胸壁心エコー:4/4,4/10明らかなvegetation(-),valve異常(-)、心嚢液(-)
4/5胸部単純CT:肺野異常(-)、リンパ節腫脹(-)、
4/6胸腹造影CT:後腹膜膿瘍(-)腫瘍を含め熱源となるもの(-)
4/10胸部単純CT:軽度右胸水+
Problem List
#1発熱、CRP、白血球高値
#2肝障害(GOT,GPT,ALP上昇)
#3軽度SpO2低下
#4DM
第1病日
4/4熱源精査目的に入院。来院時は37.0℃で
あったが夕方から38.6℃の発熱ありcooling
とカロナール(200)2T内服で経過観察。症状
は全身倦怠感、発汗のみであった。カロナー
ル内服で解熱するが38℃から39℃の発熱を
認めるため6時間ごとに内服している状態で
あった。
第3病日
4/6髄膜炎r/oのために腰椎穿刺を施行してい
るとSpO2:91%(RA)まで低下、呼吸苦な
かったが低値続くため酸素2L(カヌラ)投与。
発熱時の全身倦怠感強くなり食欲低下、採血
上も栄養状態悪化してきたため同日から補液
開始。
第7病日
4/10家族より治療を開始してほしいと相談が
あり、感染性心内膜炎や結核が心配であり、
SpO2低下もあるため再度胸部CTおよび心
エコーを施行。右胸水が少量増えていた以外
は新たな発見はなかった。3回目の血液培養
2セット提出。食事が取れなくなってきており、
Labo 上も栄養状態の悪化が懸念されること、
治療を待つことに耐えがたくなってきているこ
となどを考慮し、感染性心内膜炎の治療に準
じCTRX2g q24hを開始することとした。
第11病日
抗生剤投与開始後4/14までは38℃台の発熱
を認めていたが、全身状態徐々に改善し食
欲も増進。Labo上も炎症反応改善、解熱傾
向にあるため抗生剤投与は効果的であると
判断し継続することとした。
27
3月 日
30
日
4月
4日
4月
6日
4月
8
4月 日
10
4月 日
12
4月 日
14
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16
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18
4月 日
20
4月 日
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4月 日
24
4月 日
26
4月 日
28
4月 日
30
日
5月
2日
5月
4日
3月
熱型
35000
40
30000
35
25000
WBC(/μ l)
CRP(mg/dl)
BT(℃)
10000
30
20000
25
20
15000
15
10
5000
5
0
0
4/14以降は発熱なく経過しCRP陰性化する
まで治療継続することとし、CTRXを4週間投
与し5/1CRP陰性化し、その後も再び発熱な
いことを確認し5/4退院となった。
考察
熱源不明の高CRP血症に対し感染性心内
膜炎に準じた治療を行い効果的であったが、
効果的でないときの治療法はどうするべき
だったか。
熱源を特定することが出来なかったが他に
検索する方法は無かったか。
Modefied Duke criteria
Major criteria
①
・「典型的な心内膜炎の起炎菌」が別々に採取された血液培養で陽性(viridans streptococci, Streptococcus bovis,
HACEK* group, S.aureus)。又は市中感染のS.aureusかEnterococcus属が検出され、他に感染巣がない。
・12時間以上間隔をあけて採取した血液両方に検出される。
②・心エコー陽性:疣が存在するか、逆流によって生じた新しい雑音(以前から存在した雑音の変化、増強では不十分)が
ある。
Minor criteria
・ 基礎疾患としての弁膜疾患や先天性心疾患、薬物中毒(静脈注射)
・ 発熱(>38℃)
・ 血管病変:動脈塞栓、敗血症性肺塞栓、感染性動脈瘤、頭蓋内出血、眼瞼結膜出血、Janeway's lesion
・ 免疫異常:糸球体腎炎、Osler's nodes, Roth spots, リウマチ因子陽性
・ 微生物:血液培養陽性であるが大項目の基準は満たさない。あるいは血清学的には炎症反応陽性であるが培養陰性。
・ 心エコー陽性であるが大項目の基準は満たさない。
【診断】
確実:臨床的基準・・・大項目2つ、又は大項目1つ+小項目3つ、又は小項目5つ
可能性大:大項目1つ+小項目1つ、又は小項目3つ
疑えば診断基準であるDuke Criteriaを満たすように抗菌薬投与前に血液培養を採取する。培養陰性心内膜炎の最大の
原因は血培採取前の抗生剤使用にある。また経胸壁心エコー(TTE)は感度60-80%、経食道心エコー(TEE)の感度特異
度ともに90%前後であるため、TTEで疣贅が認められないことが疣贅がないことではない。疑えば基本的にはTEE施行に
て疣贅の有無を確認。
HACEK*:haemophilus species, Actinobacillus actinomycetemcomitans, Cardiobacterium hominis, Eikinella
corrodens, Kingella kingae
今回の症例ではDuke criteria小項目3つ(38℃以上
の発熱、RF+、血清学的炎症反応+)であったため
感染性心内膜炎に準じた治療を開始し効果的で
あった。効果的でないときはステロイドの使用も考
慮していたがempiricな投与は推奨されておらず、ス
テロイドに反応する血管炎やサルコイドーシスなど
の肉芽腫性病変を隠してしまうため注意深い使用
が必要である。疫学的には精査の結果診断がつか
ないことが30-50%あるが、たいていの場合予後
は良好と言われている。
Duke criteriaを導入することでFUOのなかで
感染性心内膜炎の診断の特異度は経胸壁エ
コーでは感度60-80%だが経食道エコーで
は90%以上と高くなる。腹部CTは約20%の
診断率を持つ。99m‐Tcは感度は40‐70%
と低いが特異度94%と高い。肝生検は0.009
-0.12%の死亡率がある侵襲の高い検査で
はあるが、診断率14-17%と高い診断率で
ある。骨髄生検は診断率0-2%と低いため
ルーチンの検査としては推奨されない。