平成27年地価公示における県央地域の地価動向 中島不動産鑑定事務所 不動産鑑定士 中島 朋美 県庁所在地である水戸市を含む県央地域の公示地(住宅地・商業地・工業地)価格の 平均下落率は、県平均下落率よりも大きくなっている。 各市町村の地価動向は、以下のとおりである。 なお、左側が平成26年地価公示の平均変動率、右側が平成27年地価公示の平均変動 率である。 1.水戸市 a.住宅地 全住宅地の平均変動率 : ▲3.8% → ▲2.5% 市街化区域:▲3.9% → ▲2.6% 市街化調整区域:▲3.5% → ▲2.4% ・ 水戸市中心市街地の優良及び準優良住宅地域内では、ブランド力がある ほか、物件の供給も限定的であることから、他地域よりも地価の下落率は 小さい傾向にある。 ・ 水戸市中心市街地の北西部住宅地域内では、街路条件・交通接近条件が 劣る住宅地も多い。また、売り物件も比較的多いことから、地価は高い下落 率で推移してきた。しかし、最近では底値感が見られ、地価の下落率は縮小 傾向にある。 ・ 水戸市中心市街地の南部及び南西部の住宅地域内では、水戸市内の住宅地 の中でも比較的利便性が良好なことから、一定の宅地需要が見られるものの、 安値競争が進み、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 水戸市外周部の市街化調整区域に隣接する住宅地では、エリア指定区域内 にある低価格住宅地の供給があるため、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 市街化調整区域内にある分譲地(エリア指定区域)は、価格と利便性の 観点から割安感があるため、若い世代を中心に人気が高い。 b.商業地 平均変動率 : ▲4.6% → ▲3.1% ・ 「水戸」駅北口エリアにあるテナントビルは、老朽化が進み、空室率が 高い。以前は、北口エリアの繁華性が圧倒的に高かったが、平成21年3月 に、北口エリアの「リヴィン水戸店」が閉店したことを契機に、陰りが見え てきた。現在では、「リヴィン水戸店」の跡地は、更地化されている。 一方、南口エリアでは、平成20年11月に、水戸サウスタワーに「ヤマダ 電機LABI水戸店」がオープンした。平成23年5月には、水戸駅ビル 「エクセルみなみ」が一部オープンした。その後も、平成23年6月に、 「エクセルみなみ」のメインテナントである「ビックカメラ水戸駅店」が オープンした。顧客の流れは、全体的に南口エリアに向いている。 ・ 「水戸」駅から大工町までの国道50号沿いの繁華性の高い準高度商業 地域では、事務所の空室、空店舗が目立っている。南町の旧ダイエー跡の 商業施設「ミーモ」も、平成25年に撤退した。その後、取り壊し工事が 行われ、現在では更地化されている。また、大工町には、大工町1丁目地区 市街地再開発事業により、平成25年5月1日に「トモスみと」がオープン し、 「トモスみと」内には、 「ホテル・ザ・ウエストヒルズ・水戸」もオープ ンした。さらに、東日本大震災以降使用できなくなった旧市民会館の移転先 が、 泉町の旧京成百貨店跡 (国道50号沿いの約1haの区域) に決まった。 しかしながら、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 本町地区のハミングロード沿いの普通商業地域では、 閉鎖する店舗が多く、 マンション、一般住宅へと用途が変更されて住宅地域へ移行しつつあり、 地価水準も、住宅地とあまり差がない水準まで下落している。33年間営業 してきた「イオン下市店」も、平成27年2月15日に閉店した。 ・ 東日本大震災で液状化の被害が見られた水戸駅南の城南・中央地区では、 地価は依然として下落傾向にある。しかし、新しい水戸市役所庁舎の建て 替え候補地が、現在地の中央1丁目に決定したこともあり、需要回復への 期待感から、地価の下落率は縮小傾向にある。 ・ 「イオンモール水戸内原」は、平成17年11月のオープン以来、優れた 集客力を発揮している。集客力を更に増強するため、平成24年12月6日 に増床オープンした。具体的には、駐車場として利用していた敷地北側に、 3階建ての店舗を新築し、 既存モールとつなげて約12, 000㎡を増床し、 全長約330m(約130m延長) 、賃貸面積80,000㎡のモールへと 拡大された。JR「内原」駅北口広場(供用開始平成25年4月1日)の 完成により、集客力アップの効果も期待され、現在では商業集積が進み、 繁華性が高まっている。 周辺に公示地のポイントはないが、地価の下落率は、 他地域よりも小さい。 ・ 県営東町運動公園について、水戸市が県に代わって整備する予定である。 平成31年に開催される国体に向けて、体育館を多機能型アリーナ施設に 建て替える予定である。 c.工業地 平均変動率 : ▲3.2% → ▲2.2% ・ 米沢工業団地は、周辺が商業化しつつあり、工場地需要は低迷している。 ・ 企業の工場再編等の影響により、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 平成27年1月23日に、水戸市元吉田町字一里塚西,字岡崎の各一部、 元石川町字権現台,字乗越沢,字柏渕,字富士山の各一部で、用途地域が 工業専用地域から工業地域へ変更され、特別用途地区も決定された。 ・ 水戸北スマートICのフルIC化事業が進められており、平成31年9月 の供用開始を目指している。 2.笠間市 a.住宅地 ・ 平均変動率 : ▲3.9% → ▲3.7% 旧友部町は、特急停車駅であるJR「友部」駅があることからも、笠間市 の中心として位置づけられている。しかしながら、他地域と比較し、需要は あるものの、売り物件も多く、他地域と比較し地価の下落率が大きい公示地 のポイントもある。 ・ 旧笠間市においては、特急停車駅がある旧友部町へ若い世代の需要が移行 しており、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 旧岩間町は、外部からの転入者が少なく、土地需要は低迷しており、地価 は依然として下落傾向にある。 ・ 平成27年4月に、 「東小学校」 「佐城小学校」 「箱田小学校」が、「笠間小 学校」に統合された。さらに「東中学校」が、 「笠間中学校」に統合された。 b.商業地 ・ 平均変動率 : ▲4.5% → ▲3.8% 旧友部町の既存商業地も、「イオンモール水戸内原」等に顧客が流出して おり、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 旧笠間市内の赤坂地区でも、 「イオンモール水戸内原」等に顧客が流出して おり、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 旧岩間町内には、公示地のポイントはないが、駅前商店街の衰退傾向は 進んでいる。 c.工業地 ポイントなし ・ 企業の工場再編等の影響により、地価は依然として下落傾向にある。 3.ひたちなか市 a.住宅地 全住宅地の平均変動率 : ▲3.3% → ▲2.4% 市街化区域:▲3.2% → ▲2.2% 市街化調整区域:▲4.3% → ▲4.0% ・ JR「勝田」駅圏内の住環境が良好な地域では、地価の下落率が1%を切る 公示地のポイントも複数ある。 ・ JR「佐和」駅圏内の地価は、従来は高い下落率を示してきたが、底値感が 出始め、地価の下落率は縮小傾向にある。 ・ 旧那珂湊地区では、外部からの転入者が少なく、地価の下落率は、依然と して大きい。 b.商業地 平均変動率 : ▲5.4% → ▲3.3% ・ 「ファッションクルーズ」のある常陸那珂地区に顧客を奪われ、JR「勝田」 駅前商業地域をはじめとして、顧客の流出が著しく、地価は依然として下落 傾向にある。新光町に、平成25年8月9日、「ヤマダ電機テックランド シーサイドひたちなか店」がオープンした。同じく、新光町に、平成25年 10月25日、 「スポーツデポひたちなか店」及び「ジーユーひたちなか店」 が 、 さ ら に 平 成 2 6 年4 月 1 0 日 、「 コ ス ト コひ た ち な か 倉 庫 店 」が オープンした。新光町に大型店の新規出店は集中していたが、平成27年3 月5日、「マルト春日店」及び「くすりのマルト春日店」が、JR「勝田」駅 徒歩圏内にオープンした。平成27年4月7日には、 「コメダ珈琲店ひたち なか長堀店」が、オープン予定である。 ・ 平成26年10月1日に、ひたちなか海浜鉄道の「高田の鉄橋」駅が、 「那珂湊」駅と「中根」駅の間に新設された。 c.工業地 平均変動率 : ・ ▲3.7% → ▲2.2% 北関東自動車道及び常陸那珂港のインフラ整備の進展により、企業の進出 が増加していたものの、企業の工場再編等の影響により土地需要が低迷し、 地価は依然として下落傾向にある。 ・ 平成27年5月に、常陸那珂港区の約57.6haを市街化調整区域から 市街化区域に編入し、臨港地区に指定すると同時に、工業専用地域や準工業 地域へと用途を変更する予定である。約57.6haのうち、もともとの 陸地は約16.4haであり、約41.2haは埋立地である。 4.那珂市 a.住宅地 全住宅地の平均変動率 : ▲2.9% → ▲2.4% 市街化区域:▲3.2% → ▲2.6% 市街化調整区域:▲2.2% → ▲1.8% ・ 隣接する水戸市及びひたちなか市における地価の下落傾向を受け、土地 需要は低迷し、地価は依然として下落傾向にある。郊外の住宅地の方が、 中心部の住宅地より、地価の下落率が大きい傾向にある。 b.商業地 ・ ポイントなし 水戸市及びひたちなか市の郊外型大規模SCに顧客が流出しており、地価 は依然として下落傾向にある。 c.工業地 ポイントなし ・ 企業の工場再編等の影響により、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 茨城県は、平成26年10月17日に、那珂西部工業団地の分譲価格を、 15%引き下げた。 5.茨城町 a.住宅地 全住宅地の平均変動率 : ▲2.6% → ▲2.0% 市街化区域:▲3.4% → ▲2.5% 市街化調整区域:▲1.8% → ▲1.4% ・ 隣接する水戸市における地価の下落傾向の影響を受け、 土地需要は低迷し、 地価は依然として下落傾向にある。水戸市内の市街化調整区域内にある分譲 地(エリア指定区域)は、価格と利便性の観点から割安感があるため、若い 世代の需要が、茨城町から水戸市に移行する傾向にある。 ・ 平成27年4月に、 「川根小学校」 「上野合小学校」 「沼前小学校」 「駒場小 学校」が、「青葉小学校(旧梅香中学校跡地に開校)」に統合された。平成 28年4月には、さらに「石崎小学校」「広浦小学校」が閉校され、「長岡 第二小学校」に統合され、名称も「長岡第二小学校」から「葵小学校」に変更 される予定である。 ・ 茨城県が開発分譲を進めてきた「桜の郷みなみ台」の第5期分譲が、完売 した。 「桜の郷みなみ台」は、合計177戸分の住宅地として、平成15年 度に分譲を開始した。第1~4期分は、平成23年度までに完売した。最後 の第5期21区画については、 平成20~24年度までに9区画を販売した。 平成25年度に、残りの12区画が完売した。 b.商業地 平均変動率 : ▲3.9% → ▲2.9% ・ 隣接する水戸市の商勢圏内にあるほか、 「イオンタウン水戸南」等の大型店 に顧客が流れ、既存商業地の地価は、依然として下落傾向にある。 c.工業地 ポイントなし ・ 企業の工場再編等の影響により、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 茨城県は、平成26年10月17日に、茨城中央工業団地(1期地区)の 分譲価格を、11%引き下げた。 6.大洗町 a.住宅地 全住宅地の平均変動率 : ▲3.6% → ▲2.3% 市街化区域:▲3.4% → ▲2.3% 市街化調整区域:▲4.2% → ▲2.5% ・ 隣接する水戸市における地価の下落傾向の影響を受けるほか、外部からの 転入者が少ないため、土地需要は低迷しており、地価は依然として下落傾向 にある。 ・ 平成24年4月に、 「磯浜小学校」と「祝町小学校」が統合され「大洗小学 校」として開校された。残る2つの小学校である「大貫小学校」と「夏海 小学校」も、平成28年4月に「南小学校」として「大洗南中学校」の敷地 内に、開校される予定である。 b.商業地 ・ 変動率 : ▲5.2% → ▲3.4% アニメ「ガールズ&パンツァー(通称ガルパン)」効果により、イベント 開催時には、「アクアワールド大洗」、「大洗リゾートアウトレット」、 「めんたいパーク」のほか、既存商店街も若者で賑わっている。大 洗 町 商 店 街 は 、ガ ル パ ン と 連 動 し た 取 組 み が 評 価 さ れ た こ と か ら 、平 成 2 7 年 3 月 2 7 日 、経 済 産 業 省 に よ る「 が ん ば る 商 店 街 3 0 選 」に 選定された。 ・ 平 成 2 7 年 3 月 に 、大 洗 町 役 場 庁 舎 が リ ニ ュ ー ア ル オ ー プ ン し た 。 c.工業地 ポイントなし ・ 企業の工場再編等の影響により、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 平成27年5月に、大洗港区の約17ha(現在は、海浜公園及び駐車場 であるが、将来的な利用方法は未定)を市街化調整区域から市街化区域に 編入し、準工業地域へと用途を変更する予定である。また、臨港地区に指定 される予定である。 7.城里町 a.住宅地 ・ 平均変動率 : ▲6.0% → ▲5.3% 隣接する水戸市における地価の下落傾向の影響を受けるほか、外部からの 転入者が少ないため、土地需要は低迷しており、地価は依然として下落傾向 にある。 b.商業地 ・ 変動率 : ▲8.6% → ▲8.2% 郊外型大型店に顧客が流れ、既存商業地の地価は、依然として下落傾向に ある。 ・ 平成27年3月に、城里町役場新庁舎がオープンした。 c.工業地 ポイントなし ・ 企業の工場再編等の影響により、地価は依然として下落傾向にある。 8.東海村 a.住宅地 全住宅地の平均変動率 : ▲2.8% → ▲1.6% 市街化区域:▲3.2% → ▲1.7% 市街化調整区域:▲0.6% → ▲0.6% ・ 区画整理地の内外により、土地需要は異なる傾向がある。外部からの転入 者は少なく、地価は依然として下落傾向にある。人気のある東海駅徒歩圏内 の区画整理地内も、総額の観点から、依然として地価は下落傾向にある。 b.商業地 ・ ポイントなし 供給は限定的であるが、水戸市及びひたちなか市等へ顧客が流出している ため、商業地の需要は弱く、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 平成27年4月から、茨城交通による4路線のバスの運行が開始された。 東海駅西口と笠松運動公園間を循環する路線と、同駅東口と茨城東病院を結 ぶ2路線は、終日運行されている。日立おさかなセンターと国営ひたち海浜 公園発着の村外への2路線は、昼間に限定して運行されている。 c.工業地 ポイントなし ・ 企業の工場再編等の影響により、地価は依然として下落傾向にある。 ・ 平成27年5月に、東海村大字照沼地区の約7.1haを、準工業地域 から工業専用地域へと用途変更する予定である。日立建機の工場が、東海 村大字照沼地区とひたちなか市大字長砂地区にまたがっており、東海村と ひたちなか市ともに上記エリアの用途地域を変更する予定である。
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