口腔粘膜疾患 帝京大学医学部附属病院歯科口腔外科 花上 伸明 ランゲルハンス細胞 角化層 顆粒層 有棘細胞層 メルケル細胞 基底細胞層 びらん 潰瘍 萎縮 亀裂 (枝広先生ご好意による) 膿疱 表皮下水疱 小水疱 表皮内水疱 (枝広先生ご好意による) 血管拡張 (丘疹・分枝状) 血管拡張 (分枝状) 血管拡張 (丘疹状) 血管拡張 (斑状) (枝広先生ご好意による) 結節 膨疹 紫斑 (溢血斑) 紫斑 (点状出血) (枝広先生ご好意による) 色素沈着 (灰紫色) 紅斑 (滲出性紅斑) 色素沈着 (褐色) 色素沈着 (黒色) 紅斑 (平らな紅斑) (枝広先生ご好意による) 1.口腔粘膜の症候(粘膜疹の種類) 1)水疱を主徴とする疾患 • • • • • • (1)単純ヘルペス (2)帯状疱疹 (3)ヘルパンギーナ (4)手足口病 (5)天疱瘡 (6)類天疱瘡 単純ヘルペス • 原因 単純ヘルペスウィルス ・通常1−2週間で治癒することが多い。 重傷例では、抗ウィルス薬(軟膏、内服薬) (ゾビラックス、バルトレックス) 含嗽剤、口腔清掃により二次感染を予防する。 帯状疱疹 • 原因 水痘・帯状疱疹ウィルスによる感染 ・治療 含嗽、口腔清掃、栄養補給、休養 抗ウィルス薬(ゾビラックス、バルトレックス) 後遺症として神経痛 抗ウィルス薬 アシクロビル(ゾビラックス®) 適応 単純ヘルペスウィルス 水痘・帯状疱疹ウィルス 用法・用量 単純疱疹 1回200mgを1日5回経口投与 帯状疱疹 1回800mgを1日5回経口投与 バラシクロビル(バルトレックス®) 適応 単純ヘルペスウィルス 水痘・帯状疱疹ウィルス 用法・用量 単純疱疹 1回500mgを1日2回経口投与 帯状疱疹 1回1000mgを1日3回経口投与 Ramsay Hunt症候群 • 顔面神経障害による顔面神経麻痺。 早期の治療が必要。(ステロイド、抗ウィルス薬) ・予後不良(顔面神経麻痺が後遺症として残ること がある) 天疱瘡 • 自分の表皮の成分(デスモグレインという細胞間 接着因子)を攻撃する抗体(抗デスモグレイン抗 体)により上皮内の細胞接着の融解により生じ る。 • 検査は、病理組織検査にて表皮内水疱がみら れTzank細胞がみられる。血液検査では、抗デス モグレイン抗体がみられる。 • 治療は、ステロイド療法が現在も第一選択。血 漿交換療法を併用することもある。 水疱性・アフタ性疾患 (3)ヘルパンギーナ 原因:コクサッキーウイルスA4 症状:発熱、水疱からアフタ形成、嚥下困難 治療:1週間で自然治癒 (3)手足口病 原因:コクサッキーウイルスA16(エンテロウイルス) 症状:1〜4歳時に多い、3〜5日の潜伏期後、発熱、両手、 両足、口腔に限局して水疱を形成、自壊しアフタ形成 治療:安静、栄養補給、二次感染予防、10日ほどで自然治癒 2)紅班およびびらんを主徴とする疾患 • • • • (1)多形滲出性紅斑 (2)紅斑症 (3)全身性エリテマトーテス(SLE) (4)薬疹 (1)多形滲出性紅斑 erythema exudativnm multiforme 定義:紅斑性、丘疹性、水疱性の非定型滲出性紅斑、急性非化膿性病変 発生頻度;まれ 好発部位;頬粘膜、舌 好発年齢;なし 性差;なし 臨床症状;原因不明もしくは、薬剤、細菌性などの多元性要因がある。 ①Hebra型 ②びらん型 ③StevensJohnson Synがあり、 1.全身症状;発熱(39度)、全身倦怠感、頭痛、関節痛、嚥下痛、 下痢、 腹痛 2.口腔内;紅斑、びらん、潰瘍性出血、血痂皮形成する 治療;安静、栄養補給、1〜2週間で治癒、ステロイド剤大量投与、 原因除去、感染予防 紅 板 症 概念:臨床的にも病理組織学的にも他のいかなる疾患 にも分類されない明るいビロード状の紅斑、紅板を 呈する 症状:好発部位は口底、臼後部、歯肉頬移行部、軟口 蓋単発または多発性のくすんだ赤褐色を呈する境界 は明瞭なほとんど隆起のない斑で、接触痛、刺激 痛で気づくことが多い 診断:上記症状および病理所見(上皮萎縮、細胞異型 など) 治療:外科的切除 経過:前癌病変であり癌化率も高い (2)紅色肥厚症 erythroplasia (紅板症 erytroplakia) 定義;鮮紅色のビロード状、斑状の粘膜肥厚性病変 発生頻度;きわめてまれ 好発部位;頬粘膜、口蓋、舌、口腔底(男性)歯肉(女性) 好発年齢;50〜60歳代 性差 ;男性に多い 臨床症状;①境界明瞭な均一の鮮紅色型、②白班部混在型 ③顆粒状表面隆起型 放置すれば悪性変化大 治療;前癌病変、上皮内癌、早期浸潤癌の可能性あり、 悪性病変として対処する。周囲健常組織を 含めて拡大切除手術、術後、要経過観察 鑑別診断;化学的火傷、外傷性紅斑、扁平苔癬、 慢性肥厚性カンジダ、 全身性エリテマトーデス(SLE) 原因:自己免疫 症状:発熱、リウマチ様症状、 口腔粘膜の紅斑、顔面皮膚の蝶型紅斑 治療:ステロイドの投与 歯科治療上の注意点として、ステロドの長期内服による骨粗鬆症の予防のためビ スフォスフォネート製剤の使用の可能性 Stevens-Jonson症候群 概念:発熱を伴う口唇、眼結膜、外陰部などの 皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹および皮膚の 紅斑でしばしば水疱、表皮剥離を認める。(全身皮膚 の多形滲出性紅斑) 原因:多くは薬剤 所見:①皮膚粘膜移行部の重篤な粘膜病変 ②びらんもしくは水疱が10%未満 ③発熱 薬剤性歯肉増殖 • 薬剤の内服によって引き起こされる歯齦増殖症、 歯肉炎が増悪因子として関与するがプラークコン トロールだけでは治癒しない場合が多い。 • 引き起こす薬剤としてはダイランチン(てんかん 治療薬)ニフェジピン(高血圧治療薬)シクロスポ リン(免疫抑制剤) • 歯間乳頭が無痛性に小豆大から大豆大に腫大 仮性ポケットの形成 3)潰瘍を主徴とする疾患 • • • • • • (1)褥創性潰瘍 (2)慢性再発性アフタ (3)ベーチエット病 (4)壊死性潰瘍性歯肉口内炎 (5)結核性潰瘍 (6)癌性潰瘍 (1) 褥創性潰瘍 原因:不適合義歯による圧迫 症状:不定形潰瘍 治療:義歯の調整、使用制限 再発性アフタ • 原因 不明、不適合補綴物、歯の鋭縁、局所麻酔、ストレス、 ビタミン不足 ・治療法 通常10日から2週間程度で、自然治癒。 含嗽剤(ポビドンヨード、アズレン) ステロイド(軟膏,噴霧剤) 漢方薬(黄連湯、半夏瀉心湯など) レーザー ベーチェット病の一症状の場合あり。 口内炎治療薬 ステロイド軟膏 ケナログ® デキサルチン軟膏® アフタゾロン® 噴霧剤 サルコート® 貼付薬 アフタッチ® 含嗽剤 イソジンガーグル、アズレン(ノズレン®、アズノール®) 内服薬(漢方) 黄連湯、半夏瀉心湯 ベーチェット病 • ベーチェット病(Behcet‘s disease)は口腔粘膜 のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼 症状の4つの症状を主症状とする慢性再発性 の全身性炎症性疾患。 • 眼症状がある時には、失明の可能性あり。 (男性で、40%。女性で20%) (2)急性壊死性潰瘍性歯肉炎 原因:口腔嫌気性菌(紡錘菌とスピロヘー タ)の混合感染全身抵抗力の減弱が誘因となる 症状:歯肉辺縁の急性壊死性潰瘍 診断:臨床症状による 治療:抗生剤投与、口腔衛生状態の改善、栄養 状態改善、全身状態の改善 (5)結核性潰瘍 原因:結核菌 症状:顔面皮膚は小隆起性紅斑から潰 瘍へ、口腔粘膜は穿掘性潰瘍 治療:抗結核剤 (6)癌性潰瘍 原因:扁平上皮癌 症状:潰瘍中心は肉芽状から白色壊死、 周囲は堤防状硬結 治療:手術、放射線、抗癌剤 口内炎との鑑別(2週間で治癒 しなければ癌による潰瘍も考慮) 4)白斑を主徴とする疾患(角化異常) • (1)白板症 • (2)扁平苔癬 • (3)カンジダ症 • (4)梅毒 白 板 症 概念:臨床的にも病理組織学的にも他のいかなる疾 患にも分類されない白斑 原因:誘因として喫煙、アルコール、機械的刺激な ど 症状:好発部位は頬粘膜、歯肉、舌側縁、境界は明 瞭な場合があり、ときにびまん性、白色の斑状、 板状の病変 診断:上記症状および病理所見 治療:機械的刺激の除去、切除、凍結外科など 経過:前癌病変であり癌化率は5%内外。 前癌病変 前癌病変:正常な状態よりも癌が生じやすい 形態に変化した組織 《WHO (1997) の定義》 1.白板症 2.紅板症 3.口蓋の角化亢進症 前癌病変とは将来そこから癌が 高頻度に発生する可能性がある病 変をいう。これは発癌過程の初期 あるいは中間段階にある可能性が 疑われながら、現段階では悪性で あることの証明ができない病変。 口腔扁平苔癬 原因:上皮化の錯角化と上皮下の炎症精細胞浸潤 近年、免疫機構の関与、肝障害(HCV)、金属アレル ギーなどの関与も疑われている。 症状:口腔粘膜にレース様、網状、環状、線上の白斑 白斑周囲に紅斑がみられる炎症が強いとびらん形成 接触痛、食品による刺激痛、頬粘膜に好発 診断:臨床症状および病理所見 治療:ステロイド剤の使用、誘発因子の除去など まれに癌化することがある 扁平苔癬の病因 • • • • • • • 細菌ウィルス感染 遺伝的要因 精神的要因 外科的侵襲を含む外傷 薬疹 アマルガムなどの歯科金属アレルギー 骨髄移植後graft-versus-host(GVHD) 扁平苔癬の治療法 ステロイド塗布・含嗽 ステロイド内服 免疫抑制剤 ステロイド局所注射 ビタミンA誘導体(チガソン) 角化を抑制する • シクロスポリン内服 • シクロスポリン含嗽 移植免疫抑制剤 • タクロリムス塗布 扁平苔癬には、基本的に免疫を抑制する薬剤が使用 されるT細胞を選択的に抑制するタクロリムスは効 果的な薬剤であると考える。 前癌状態 前癌状態:癌のリスクが有意に増加した一般 的状態 《WHO (1997) の定義》 1.鉄欠乏性障害 2.扁平苔癬 3.口腔粘膜下線維症 4.梅毒 5.円板状エリテマトーデス 6.色素性乾皮症 7.表皮水疱症 前癌状態とは広義の前癌病変に含ま れ、厳密には前癌病変は組織学的に認 識できる病変に対して用い、前癌状態 は全身的な疾患に伴う局所に変化、さ らには疫学上、癌が生じる率が高い疾 患に対して用いる。 口腔カンジダ症 原因:真菌であるCandida albicansの感染健常人の約 30%にも非病原性菌として存在抵抗力減少によって発 症 症状:初期は小斑点状の苔状物(偽膜)が生じる。ぬ ぐい去るとその下に発赤を認める。(偽膜性カンジダ 症)慢性化すると偽膜が厚くなったり(肥厚性カンジ ダ症)粘膜が萎縮(萎縮性カンジダ症) 診断:抗真菌剤投与、口腔衛生状態の改善、全身状態 の改善 カンジダの検査 • カンジダの培養 – サブロー(Sabouraud)培地 – コーンミール培地 – 極東カンジダ培地(カンメデュー®) • 直接鏡検による検査 – KOH法(苛性カリ+加温) – DMSO・KOH法(dimethyl sulfoxide40%) – パーカーインク・KOH法 • 血清による検査 – 血中βーDグルカン – カンジダ抗原 – 血中D-アラビニトール 方 法 ①綿棒で拭掃 ②カンジタ培地(極東製薬工 業 カンメデュー®)に塗布 ③32℃、48時間培養 極東カンジダ培地(カンメデュー®)について ① C.Albicans (緑色から淡褐色の光沢のある集落) ② C.Glabrata (ピンクの集落) ③ C.Tropicalis (茶色の集落) ④ C.Parapsilosis (灰緑色から淡褐色の集落) ① 臨床例 ② ③ C.AlbicansとC.Glabrataと C.Parapsilosis ④ 臨床例 #免疫能の低下によるカンジダ症 ステロイド、化学療法、放射線治療、 AIDS等によって免疫機能が衰えると、健康 時には何の病原性も示さなかった微生物 の感染症が生じる、これを日和見感染とい う。 口腔カンジダ症は日和見感染の代表疾患 である。 抗真菌薬 • フロリードTMゲル経口用 2 %(ミコナゾールゲ ル) • 口角炎や病変局所に塗布して使用可。 嚥下 できない患者には局所塗布可。 妊婦への投 与は禁忌。 ハルシオン®、リポバス®、プラザ キサ®、イグ ザ レルト®などとは併用禁忌。 ワ ルファリンとは併用注意。 • 保険請求上は、10〜20gを1日4回に分け ◯日分と請求 • イトリゾール®内用液 1 %(イトラコナゾール内 用液) 1日1回20ml 空腹時。口腔内全体に 行きわたらせてから飲み込む。7日間。 • 重症の口腔カンジダ症に対して有効。 腎障 害少ない。 妊婦への投与は禁忌。 下痢の発生がやや多い。 ハルシオン®、リポ バス®、プラザキサ®、イグ ザ レルト®などとは 併用禁忌。 ワルファリンとは併用注意。 • ファンギゾン®シロップ 100mg/mL (アムホテリシンBシ ロップ) • ほとんど血中に移行しないため、副作用が少な く、局 所治療に適する。 他剤との相互作用がほとんどなく、 服用薬の多 い高齢者にも使用しやすい。 ワルファリ ン服用患者にも使用可。 本来、小児用なので小児に も投与可能である。 妊婦へは慎重投与。 • 特有の臭いがある。 いずれの抗真菌薬も外用薬ではなく内服薬であるため、 内服処方しないと返戻されることがあるので注意が必要。 (4) 梅毒 原因:Treponemapallidum 症状:第Ⅱ期に丘疹、紅斑から白斑に移行、 第Ⅰ期硬結(口唇)や第Ⅲ期ゴム腫(口蓋) はまれ 治療:ペニシリン系抗生物質 #梅毒 第Ⅰ期:口腔粘膜に初期硬結をつくることがある 第Ⅱ期:口腔粘膜全体に丘疹や発赤・紅斑を生じ、 これが白斑となる。上皮にびらんを形成、潰瘍の形 成はない 第Ⅲ期:ゴム腫を生じ、豚脂状の不潔な潰瘍を形 成。口蓋が好発部位で、やがて鼻腔に穿孔する。 第Ⅰ期は期間が短く、歯科医が観察する機会はほ とんどない。第Ⅲ期も近年ほとんどみられなくなっ た。現在歯科医がかかわりを持つのは第Ⅱ期の丘 疹、紅斑、白斑などである。 5)色素沈着を主徴とする疾患 • (1)メラニン沈着症 • (2)悪性黒色腫 • (3)von Recklinghausen病 • (4)Albright症候群 (1) メラニン沈着症 原因:多くは先天性 症状:黒褐色の斑 治療:治療の必要なし (2) 悪性黒色腫 原因:悪性腫瘍 症状:黒色の斑点 治療:抗腫瘍薬、放射線治療、手術 早期に遠隔転移、極めて予後不良 (3) von Recklinghausen病 原因:先天性腫瘍 症状:神経線維腫、カフェオレ状の褐色斑、 骨格異常、中枢神経系腫瘍 治療:治療の必要なし (4) Albright症候群 原因:原因不明(先天性) 症状:顎骨の線維性骨異形成症と皮膚・粘膜 の褐色斑 治療:対症療法 • 内因性の色素 植物性の色素に由来する色素沈着 – カロチン血症 蜜柑、人参、かぼちゃな どの多量摂取 血液ヘモグロビン由来の色素沈着 – ①黄疸 – ②溶血性貧血 – ③Weil病 – ④Haemosiderin沈着 – ⑤ヘモクロマトージス(血色素症) 4)色素沈着 • 内因性の色素 メラニンによる色素沈着 – ①色素性沈着 (内皮性母斑、複合性母斑、 接合性母斑) – – – – ②青紫性母斑 ③悪性黒色腫 ④Peutz Jegher症候群 ⑤副腎皮質機能低下症 • (Addison病) ⑥経口避妊薬使用 ⑦Von Recklinghausen病 ⑧Albright症候群 (多発性線維性骨異形成症) ⑨黒色表皮腫 ⑩甲状腺機能低下症 ⑪糖尿病 ⑫多量の放射線 黒毛舌 • 喫煙、放射線、抗菌薬やステロイドによる菌 交代症、カンジダ • 治療 抗菌薬による菌交代症が原因であれば、薬 剤の変更、中止 カンジダの感染であれば、抗真菌薬の使用 口腔清掃(舌ブラシ) 6)萎縮を主徴とする疾患 • (1)Plummer-Vinson症候群 (鉄欠乏性貧血) • (2)Hunter舌炎(悪性貧 血) • (3)シェーグレン症候群 Plummer-Vinson症候群(鉄欠乏性貧血) 概念:生体内の鉄が長期にわたり高度に欠乏した際に 起きる貧血、鉄供給の低下によりヘモグロビン産生量が 減少し発生する。小球性低色素性で鉄療法に特異的 に反応する。 症状:顔面蒼白、易疲労性、倦怠感、頭痛など 口内痛と燕下痛(Plummer Vinson 症候群)スプーン状 爪など 診断:血清鉄35µg/dlに低下していることが多い。 総鉄結合能(TIBC)、不飽和鉄結合能(UIBC)上昇 治療:鉄剤の投与、原因の除去 Hunter舌炎(悪性貧血) 概念:巨赤芽球性貧血。胃内因子の分泌欠如あるいは 低下によりビタミンB12の腸管吸収が低下あるいは消失 した結果起こったビタミンB12欠乏症。 症状:動悸、易疲労性、倦怠感、めまいなど ハンター舌炎など口内痛 診断:MCV高値、大球性正色素性(巨赤芽球性貧血)、 白血球、血小板の軽度減少 治療:ビタミンB12投与 シェーグレン症候群 原因:涙腺、唾液腺が自己免疫機構により破壊される 疾患 症状:口腔乾燥感、眼の乾燥、乾燥性角膜炎、耳下 腺、顎下腺に硬結、導管開口部の萎縮、その他、リウ マチ性関節炎 1.生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めること A)口唇腺組織でリンパ球浸潤が 1/4mm2 当たり 1focus 以上 B)涙腺組織でリンパ球浸潤が 1/4mm2 当たり 1focus 以上 2.口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めること A)唾液腺造影で stage I(直径 1mm 以下の小点状陰影)以上の異常所見 B)唾液分泌量低下(ガムテスト 10 分間で 10mL 以下,またはサクソンテスト 2 分間 2g 以下)があり,かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見 3.眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めること A)Schirmer 試験で 5mm/5min 以下で,かつローズベンガルテスト(van Bijsterveld スコア)で陽性 B)Schirmer 試験で 5mm/5min 以下で,かつ蛍光色素(フルオレセイン)試 験で 陽性 4.血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めること A)抗 SS-A 抗体陽性 B)抗 SS-B 抗体陽性 診断基準 以上 1,2,3,4 のいずれか 2 項目が陽性であればシェーグレン症候群と診断す る。 シェーグレン症候群(SjS)改訂診断基準 (厚生労働省研究班,1999 年) 症 例 患者: 50歳 女性 主訴:左側頬部の腫脹 現病歴:3年前より口腔の乾燥感自覚するも放置、 2週間前より口腔内の灼熱感と右側耳下腺部の腫脹 発現したため受診 既往歴:5年前よりリウマチの診断にて治療中 全身所見:眼の乾燥、軽度充血認める 唾液腺シンチグラフィー結果 日常生活指導(キシリトールガム、唾液腺マッサージ 口腔清掃、含嗽、水分摂取など) 塩酸セビメリン(サリグレン、エポザック) 消化器症状(下痢、嘔吐、便秘) 塩酸ピロカルピン(サラジェン) 消化器症状、多汗 漢方薬(白虎加人参湯、麦門冬湯) 人工唾液(サリベート) 保湿剤(ジェル、液体) 7)その他 • (1)溝舌 • (2)地図状舌 • (3)Fordyce斑 溝状舌 原因:先天性、加齢もしくは局所的原因 メルカーソン・ローゼンタール症候群、 ダウン症候群の一症状として現れる。 症状:舌背に多数の溝を形成、自覚症状は 通常ないが、灼熱感を訴えることがある 治療:疼痛に対しては対症療法 地図状舌 原因:不明、精神的因子、ビタミン欠乏 などの関与 症状:舌表面に糸状乳頭を欠いた表面滑 沢な淡紅色の斑を生じ、日によって斑紋 が変化する。自覚症状はないが時に灼熱 感を訴える 治療:疼痛に対しては対症療法、含嗽剤 Fordyce斑 原因:異所性脂腺 症状:頬粘膜後方、口唇、大臼歯部 歯肉に、平坦で黄白色、粟粒大の小 斑点が数個から数百個見られる、左 右対称的にみられる 治療:治療の必要はない 2.全身にともなう口腔疾患 1)代謝性疾患、内分泌性疾患 (1) 糖尿病 口腔乾燥、齲蝕、歯周炎 糖 尿 病 1.定義:インスリン不足による代謝障害 2.成因:①インスリン供給の低下 ②インスリン受容体の異常 ③インスリン受容体後の機構障害 3.分類:Ⅰ型(インスリン依存型)糖尿病(IDDDM) Ⅱ型(インスリン非依存型)糖尿病(NIDDM) 4.診断:空腹時血糖検査---126mg/dl以上かつ75g負荷で2h後 200mg/dl以上 5.検査:随時血糖検査、HbA1c、合併症検索のための検査 6.治療:IDDM---インスリン投与、その他 NIDDM---食事療法、運動療法、*薬物療法 *経口血糖降下薬、インスリン 7.合併症:急性合併症--糖尿病性ケトアシドーシス 糖尿病性高浸透圧性昏睡 コントロール不良による低血糖症状 慢性合併症--細小血管症(網膜症、腎症、神経障害) その他の合併症(易感染性、口腔症状) 2)アレルギー疾患 (1)歯科金属アレルギー 2)アレルギー疾患 (2)薬物アレルギー 口腔粘膜の薬疹:固定疹(口唇に多 い)多型浸出性紅斑型、粘膜皮膚眼 症候群 (Stevens – Johnson型)、扁平苔 癬型など 薬剤アレルギー 1.定義:薬用量あるいはそれ以下の薬物投与によって、 その薬物の本来の薬効とは異なる病態を呈するもので、その発 症の基盤に免疫学的機序が関与されていることが証明されるか、 あるいは推定されるアレルギー性の病態である。 2.診断:①問診---アレルギー体質の有無、薬物過敏症状の既往 ②薬物の中止---疑わしい薬物より中止 ③薬物の再投与---誘発テスト、危険あり安易に行わない 3.治療:直ちに原因薬物中止。アナフィラキシーショックに対する 処置。障害された臓器の庇護処置。ステロイド、 抗ヒスタミン剤 投与 64歳 女性 症 例 主 訴:口唇の腫脹 現病歴:1ヶ月前に舌尖・下唇正中に点状の水疱・潰瘍 を自覚したが数日で消失、その後症状の発現と消失を 繰り返し病変部の範囲は拡大した。近医歯科受診後、 当科紹介来院 現 症:下唇・両側頬粘膜にびらんを認め、易出血性を 呈す。 既往症:30年前より高血圧症あり、現在ニフェジピン(Ca 拮抗薬)、レセルピン(血管拡張性高圧薬)、カリジゲナー ゼ(循環系作用酵素薬)を服用中。 2)アレルギー疾患 (3) Stevens - Johnson症候群 口腔粘膜は必発性で水疱、潰瘍な どの浸出性紅斑その他皮膚、眼、 外陰部に発症 Stevens-Jonson症候群 概念:発熱を伴う口唇、眼結膜、外陰部などの 皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹および皮膚の 紅斑でしばしば水疱、表皮剥離を認める。(全身皮膚 の多形滲出性紅斑) 原因:多くは薬剤 所見:①皮膚粘膜移行部の重篤な粘膜病変 ②びらんもしくは水疱が10%未満 ③発熱 3)出血性素因 (1)白血病 歯肉出血、歯肉腫張 急性骨髄性では白血病裂孔 赤血球、血小板の著明な減少、 出血時間の延長、線溶亢進 白 血 病 1.定義:多くは単球、時に複数系統の造血器系細胞がびま ん性、 無制限、かつ進行性に増殖する腫瘍性疾患 2.分類:①急性白血病--骨髄性、単球性、リンパ性、非定型性 ②慢性白血病--骨髄性、単球性、リンパ性 ③特殊型 3.急性骨髄性白血病について: ① 白血病細胞の胞体内にAuel 小体出現② 異型性の強い芽球が増加し、中間の成熟段階の白 血球が減少する像を呈する(白血病裂孔) 4.慢性骨髄性白血病について:フィラデルフィア染色体ph1 (1) 白血病 歯肉出血、歯肉腫張 急性骨髄性では白血病裂孔 赤血球、血小板の著明な減少、 出血時間の延長、線溶亢進 血液検査結果 白血球数 670,000↑ 赤血球数 173×104↓ ヘモグロビン 5.9g/dl↓ ヘマトクリット 17.1%↓ 好中球 14.1%↓ リンパ球 37.0% 単球 30.2%↑ 好酸球 0.7% 好塩基球 1.8%↑ 特発性血小板減少性紫斑病 1.概念:血小板減少をきたす原因や遺伝的要因が認めらず、 また赤血球系や白血球系には本質的な異常がなく骨髄 における低形成も認められないことを特徴とする出血性疾 患 2.経過:急性型は2〜3週間ないしは2〜3カ月の経過をとり 自然治癒する症例が多い。慢性型は数年〜十数年の経 過をたどりつつ軽快、増悪を繰り返し自然治癒はあまり期 待できない。 3.治療:ステロイド療法、免疫抑制療法、免疫グロブリン投 与、摘脾、血小板輸血 (2)突発性血小板減少性紫斑病 歯肉出血、粘膜出血 全身の皮膚、粘膜に紫斑 (点状出血) 出血時間の延長、 凝固系・線溶系は正常 症 例 8歳 女児 主訴:歯肉炎 既往症:特発性血小板減少性紫斑病 血液検査所見: 白血球数 10900 赤血球数 532×104 ヘモグロビン 15.4g/dl ヘマトクリット 46.0% MCV 86.5fl MCH 28.9pg 血小板数 1.6×104 (3) 血友病A(第Ⅷ因子欠乏)、 血友病B(第Ⅸ因子欠乏) 常染色体優性遺伝、伴性劣性遺伝、男子に発症 口腔内、抜歯後出血、関節の変形、皮下出血 全血凝固時間、部分トロンボプラスチン時間延長 (4) von Willebrand病(第Ⅷ因子関連のvon Willebrand因子の合成障害) 常染色体優性遺伝 口腔内、抜歯後出血、軽度 出血時間の延長 速やかに専門医への紹介が必要な疾患 ・紫斑、血腫、出血、貧血などがあり、血液疾患が疑われる ・びらん、潰瘍が口腔の広範囲にみられ、食事摂取が困難 な場合 ・薬疹が全身に拡大している ・進行した口腔がんで出血の危険がみられる ・口腔以外に顔面、頸部に腫脹が拡大した感染症
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