第1回 - 安川文朗

近大姫路大学医療経済学講義2015年度
20150425
医療経済学
持続可能な医療と看護を実現するために
第1回 アイスブレイクとイントロダクション
担当
安川文朗(横浜市立大学)
担当講師紹介
大阪市生まれ
関西学院大学で社会学を、京都大学で医療経済学を学ぶ。
大阪市内の民間病院で8年の医事課勤務経験。
⇒ 医療現場から医療の問題と面白さを知る
大学院終了後、民間の研究所で6年、医療経済学の研究に没頭。
その後、広島国際大学、同志社大学、熊本大学を経て、現在
横浜市立大学教授。
近大姫路大学では2010年から非常勤講師として医療経済学担当。
日本医療経済学会監事、看護経済政策研究学会副理事長、日本
医療・病院管理学会評議員など、医療や看護の経済・経営分析に
関わっている。
今日の講義
アイスブレイク ⇒ (医療)経済学を学ぶためのウォーミングアップ
経済学的考え方を体験する
①タクシー運賃問題
②国の借金
経済学とは何か
医療経済学の守備範囲とテーマ
もしあなたが100人の村の村長だったら?
もし世界が100人の村だったら・・・
・57人のアジア人 21人のヨーロッパ人 14人の南北アメリカ人 8人のアフリ
カ人
・52人が女性で48人が男性
・70人が有色人種で30人が白人
・70人がキリスト教以外の人で 30人がキリスト教
・89人が異性愛者で 11人が同性愛者
・6人が全世界の富の59%を所有し、その6人ともがアメリカ国籍
・80人は標準以下の居住環境に住み 70人は文字が読めません
・50人は栄養失調に苦しみ
・1人が瀕死の状態にあり 1人はいま、生まれようとしています
・1人は(そうたった1人)は大学の教育を受け
・そしてたった1人だけがコンピューターを所有しています
あなたの仕事は
を改善してみんなが幸福に
なれるようにすること
ただし・・・・・
 あなたが改善のために使える資源には限りがある
 何かを追加的に生み出すためには、それなりのコストが
かかる
 人間はだれでも、自分が得することには賛成だが、損す
ること(あるいはその可能性があること)には反対する
 だれかとだれかの幸福を比べて、どちらがより幸福かを
決めることは難しい
 一度□のなかを改善しても、人間はもっと改善してほしく
なる
という条件を考慮しなければならない
究極の条件設定




人々が食べて満足するほどの食料を確保するとすれば、
80人分の資源しかない
みんなが標準以上の住居に住むためには、大学教育に必
要なコストの半分を回さなければならない
100人が全員栄養失調にならないようにするためには食
糧生産量を今の3倍にしなければならない。しかし、生産
にかかるコストは今の2倍までしか増やせない
100人全員が文字が読めるようになり、全員がコンピュー
ターを所有するためには、標準以上の家に住める人は半
分に減らさなければならない
さて、あなたはどうするか?
何が問題か?

すべてのものは無限ではない(資源の希少性)

すべての人を完全に満足させる解決法はない
ある人の幸福を増そうと思うと、ある人の幸福を奪わなけ
ればならない(トレードオフ)
コストと収入は、経済活動を通じて最終的にはイコールに
なる(消費+貯蓄=所得)
人々は“より好ましいもの”を選び取りたいと考える



考えられる解(solution)
・100人がそれぞれソコソコに満足できる程度の食糧を全員
にいきわたるようにする
・コンピューターの使用量を1人の所有者に政府が払い、その
かわりだれでもコンピューターを使えるようにする
・大学教育を受けたい人と、いい家に住みたい人を識別して
それぞれが希望するサービスを提供する
タクシー運賃のパラドクス
世界的な原油高騰により、全国でタクシー運賃
の一斉値上げが行われた。
運賃が値上げされれば、ドライバーは収入増加
を期待できる。しかし利用者は、運賃値上げに
よって、これまで以上にタクシーの利用に慎重
になる。
では、このようなタクシー運賃値上げは、実際
にタクシー会社の収益を増やし、ドライバーの
収入を増やすだろうか?
ドライバーと乗客の「行動」を推測して考えよう
何が起こるのだろう?
運賃値上げで、客はタクシーに乗るのを避けるようになる
より多くの乗客が見込める場所に、タクシーが移動する
1台のタクシーが客を拾える確率は下がる
短い距離なら乗ろうというお客を奪い合う
単価×距離×乗車率=タクシー売り上げ
一日で走れるタクシーの走行距離と時間には限界がある(1日24時間)
値上げ前の単価×距離(X)×乗車率と値上げ後の単価×距離×乗車率(Y)を
比べて
X<Y ⇒ 儲かる
X>Y ⇒ 儲からない
出所:http://www.garbagenews.net/archives/1104976.html
タクシーの利用状況の変化
ハイヤー・タクシー
走行キロ
輸送人員
(百万キロ)
(百万人)
年度
事業者数
車両数
(両)
輸送収入
(百万円)
12
1,602
67,636
4,747
716
891,534
13
1,615
68,452
4,683
708
868,451
14
1,683
69,837
4,655
712
854,219
15
1,540
71,503
4,705
717
854,441
16
1,561
72,210
4,703
720
855,622
17
1,600
72,210
4,745
734
874,924
18
1,615
74,252
4,807
748
888,936
19
1,624
75,266
4,761
695
900,331
20
1,634
74,726
4,318
631
811,093
21
1,641
71,801
4,211
577
722,535
22
1,655
66,387
4,064
581
732,844
23
1,604
61,012
3,944
567
721,865
24
1,580
60,576
3,823
565
713,897
25
1,559
60,337
3,742
559
710,652
出所:https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/cgi-bin/youran_cgi/list.cgi
タクシー業界に起こったもうひとつのこと
運賃値上げで、とりあえずタクシー業界は一息つく
既存の業者はそれほど減らない
タクシー台数もそれほど減らない
お客はそれほど高い単価で乗らない
結局タクシー業界全体の売上が大きく低下し、
コストは減らない
10億円
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
国の借金増大と国民生活
債務残高
1,400,000.00
1,200,000.00
1,000,000.00
800,000.00
600,000.00
400,000.00
200,000.00
0.00
国の債務とは?
現在債務残高 :およそ1200兆円
世帯1人当たり債務残高: およそ2400万円
債務が増えるとどうなる? ⇒ 実際の影響はないのでよくわからない・・・・
もし国民一人当たりの借金が巨額になれば、増税等による消費性向の減退により、個人
で自分の社会生活に必要な資源を購入しなくなる(たとえば一戸建ての家を買う、など)
社会保障政策として、住宅や医療、福祉などの整備を拡大する必要がある
ところが、このようないわば「公共投資」が肥大化すると、その整備に必要な資金を増税に
よって調達するか、または国債の追加発行で賄うことになる(多くの公共住宅の建設に必
要な建設国債の発行など)
結果的にさらに国民の消費意欲は減退し、国債残高も増加する
考えられる対策
1.国民の生活水準に制限をかけ、贅沢をしないようにさせる
2.社会的インフラを最小限にする
3.消費税などを大幅に増額し、財政上の負担を小さくする
4.借金のことなど全く無視して(その処理は後の世代に任せて)、
自分たちは今まで通りの生活を謳歌する
・どれが実現可能な策か
・どれが実現されるべき対策か
経済学とは

人々の生活がどのようにして今のような状態になったのか、
それに影響を及ぼすいろいろな過程を明らかにする学問
であり、

また、どうすればこうした過程そのものに影響を及ぼすこと
ができるかを見出すことによって、なれることや行えること
に制約のある人々の将来の見通しをもっと明るいものにし
ようとする学問である。
パーサ・ダスグプタ:『一冊でわかる経済学』(岩波書店刊行)より
経済学とは(続)

アリストテレス思想の系譜としての経済学
人間にとって最高善とは幸福=よく生きること
人間はあくまでも社会的存在である
基礎となる学問 ⇒ 政治学と家政学
医療経済学とは(1)

社会に生きて働く人々の心身の健康を保持、改善するための
「医療サービス」が、その目的に沿って適切かつ効果的に提
供され、結果として人々が幸福になることを目指した学問。

この目的を達成するために、直接的な医学技術やサービスの
提供を通じてではなく、サービス提供の環境整備、価値創造、
方法論の検討・分析を通じて、社会における医療のあり方を
提言するのが、医療経済学の貢献。
医療経済学とは(2)

医療システムを社会で有効に稼動させるために、資源
(人、モノ、金)をどう配分したらよいかを考える
マクロ的医療経済論
国民医療費は増やすべきか、減らすべきか
後期高齢者保険制度は継続すべきか、廃止すべきか
社会保障財源として消費税を導入すべきか、否か

人間行動や病院組織の行動の背景に潜む 傾向や“くせ”
(=行動規範や動機付け)を理解し、そこから医師、患者、
病院の行動特性や結果を分析する
ミクロ的医療経済論
包括的診療報酬は病院の経営効率を高めるか
救急車の有料化は患者の安易な救急要請を減らすか
混合診療の解禁は医療の公平性を促進するか、阻害するか
医療のマネジメント-階層的理解
施設単位 地域単位
クオリティ
リソース
TQM
BSC
人事管理
Ordering
電子カルテネ
ットワーク
医療施設連
携・集約化と
均霑化
国単位
安全基準、医療の
品質評価システム
医師/看護師養成
医療関連産業の
奨励
ファシリティ
病院施設管
理
地域再開発と医
療資源のリニュ
ーアル
安全で清潔な施
設基準の検討
ファイナンス
病院財務管
理
地域医療計画
持続可能な医療
財源
(保険V.S.税 等)
講義の進め方
1)日本の医療を知るために、まず日本の社会経済の動向を知る
2)日本の医療制度と医療提供の実態をデータから知る
3)経済学の考え方で医療をみると、どんなことがわかるのか、でき
るだけ具体的な例を使って考える
4)資料やデータを使って、自分で日本の医療の課題を見つける
5)外国の医療と日本の医療の違いを知る(国際比較)ことで、日本
はこれからどのような医療を進めていくべきかを、自分の問題とし
て考える
テキスト
「持続可能な医療を創る」森 臨太郎著
・テキストは、毎時間配布する講師の資料と合わせて
適宜必要なところを読んでいく
いくつかの論点を抽出し、その論点の意味や重要性
についてみなさんと一緒に考えます
例)医療は国の責任で行うべきか、それとも個人の責任で行う
べきか?
⇒ 「なぜそう考えるのか」という理由も含めた議論が重要
採点の方法
①出席:全体の3分の1以上(6回以上)欠席した場合は採点の対象
外とします。
②小テスト:講義のはじめに、前回学んだ事柄について簡単な小テ
ストを行います(10分程度)。これは復習のためですが、このテスト
の結果は、総合点に加点されます(10%程度)。
③レポート:講義中に最低1回課題レポートの提出を求めます。
このレポートは総合点の20%程度。
③定期試験:総合点の70%程度。
*もし点数が悪くても、上記②のレポートの内容いかんにより、加点される場合
があるので、レポートをしっかり出すこと
講義資料のダウンロード
講義資料は、次回分が下記HPにアップロードされているの
で、必ずここから各自ダウンロードして持ってきてください(授
業にPCを持ち込んでもらって結構です)
http://yasukawafumiaki.weebly.com/