高齢がん患者の治療開始および中止における意思決定能力の評価および

研 究 課 題 :高 齢 が ん 患 者 の 治 療 開 始お よ び 中 止 に お け る意 思 決 定 能 力 の 評 価 お よび
そ の 支 援 に関 す る 研 究
課 題 番 号 : H 22-が ん 臨 床 -一 般 -009
研究代表者:名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学 准教授
明智 龍男
1.本年度の研究成果
1) が ん 患 者 お よ び 認 知 障 害 を 有 す る 高 齢 者 の 意 思 決 定 能 力 の 評 価 法 に 関 す る 研 究
本研究の目的は、がん患者および認知症を有する高齢者の意思決定能力(治療同
意能力)と、その能力の障害に関係する臨床要因を明らかにすることである。本年
度は、進行肺がん患者と高齢の認知症患者を対象とした研究計画の概要を作成し、
前 者 に つ い て は 当 該 研 究 施 設 の 倫 理 委 員 会 に 提 出 す る 準 備 が 整 い 、後 者 に つ い て は 、
平 成 22 年 8 月 に 倫 理 委 員 会 に て 承 認 を 受 け た 。現 在 、双 方 の 研 究 に お い て 意 思 決 定
能 力 の 評 価 面 接 と し て 用 い る こ と が 決 定 さ れ た MacArthur Competence Assessment
Tool-Treatment (MacCAT-T)の 日 本 語 版 を 作 成 中 で あ る 。
2) 高 齢 が ん 患 者 の ニ ー ド に 基 づ く QOL向 上 に 関 す る 研 究
本 研 究 は 、高 齢 者 お よ び 高 齢 が ん 患 者 の ニ ー ド の 詳 細 お よ び 頻 度 を 明 ら か に し 、こ
れ ら を 基 に 各 種 支 援 プ ロ グ ラ ム を 開 発 す る こ と を 目 的 と す る 。本 年 度 は 、わ が 国 の 一
般 住 民 2595人 を 対 象 に「 望 ま し い 死 」に 関 し て の サ ー ベ イ ラ ン ス を 行 っ た 。そ の 結 果 、
70歳 代 の 高 齢 者 ( n=466) は 、 40-60歳 代 の 一 般 人 口 ( n=2129) と 比 較 し て 、’ 負 担 に
な ら な い ’こ と に つ い て は「 望 ま し い 死 」と し て 重 要 視 し な い 傾 向 が 認 め ら れ た 一 方 、’
人 と し て 尊 重 さ れ る ’、’自 然 な か た ち で 亡 く な る ’、’役 割 を 果 た せ る ’、’医 療 者 に 意
思 決 定 を 任 せ る ’と い っ た 要 因 を 重 視 す る こ と が 示 さ れ た 。ま た 70歳 代 の 高 齢 者 の み
を 対 象 と し た 記 述 的 な デ ー タ 解 析 か ら は 、「 望 ま し い 死 」 と し て 求 め ら れ る 具 体 的 な
項 目 と し て 、’ 信 頼 で き る 医 師 に み て も ら え る こ と ’ が 最 も 頻 度 が 高 く ( 絶 対 に 必 要
で あ る /必 要 で あ る 、 と 答 え た 者 の 割 合 87% )、’ 自 分 の 気 持 ち を わ か っ て く れ る 人 が
い る こ と ( 同 85% )’、’ 医 師 と 話 し 合 っ て 治 療 を 決 め る こ と ( 同 85% )’、’ お だ や か な
気 持 ち で い ら れ る こ と ( 同 83% )’、’ 人 に 迷 惑 を か け な い こ と ( 同 82% )’、’ ま わ り の
人 に 感 謝 の 気 持 ち が も て る こ と ( 同 82% )’ と い っ た 項 目 が 続 い て い た 。 一 方 、’ 先 々
何 が お こ る か を あ ら か じ め 知 っ て お く こ と ’( 同 31% )、’ よ く な い こ と は 知 ら な い で
い ら れ る こ と ( 同 34% )’、’ 残 さ れ た 時 間 を 知 っ て お く こ と ( 同 35% )’ と い っ た 項 目
は 、「 望 ま し い 死 」 と し て 支 持 さ れ る 頻 度 が 低 か っ た 。 本 結 果 か ら は 、 高 齢 者 は 「 望
ま し い 死 」を 達 成 す る 上 で 、 医 療 者 と の 関 係 性 を 重 視 す る 一 方 で 、そ の 意 思 決 定 プ ロ
セスとしては、受動的でパターナリスティックな様式を好む傾向が示唆された。
3) 高 齢 が ん 患 者 の 支 援 プ ロ グ ラ ム の 開 発 に 関 す る 研 究
i) 高 齢 が ん 患 者 の 身 体 症 状 、 療 養 場 所 の 選 択 と 介 護 負 担 に 関 す る 研 究
本 研 究 は 、「 高 齢 が ん 患 者 が 在 宅 で 過 ご す た め の 支 援 プ ロ グ ラ ム 」を 作 成 す る こ と
を 目 的 と す る 。本 年 度 は 地 域 が ん 診 療 連 携 拠 点 病 院 の 75 歳 以 上 の 高 齢 が ん 患 者 の 身
体症状と相談内容の特徴を検討した。その結果、外来化学療法を受ける高齢がん患
者( n=591)で は 壮 年 が ん 患 者( n=2263)と 比 べ て 中 程 度 以 上 の 疼 痛 は 有 意 に 少 な か
っ た が ( 14%)、 呼 吸 困 難 ( 9.0%)、 眠 気 ( 12% )、 気 持 ち の つ ら さ ( 21% ) は 若 年 者
よ り 多 く 、 倦 怠 感 ( 17% )、 食 欲 不 振 ( 8.2% ) も 若 年 者 と 同 等 で あ っ た 。 相 談 支 援
セ ン タ ー を 利 用 し た 高 齢 が ん 患 者 ( n=318) の 相 談 内 容 と し て は 、 在 宅 療 養 ( 33%)、
緩 和 ケ ア 病 棟 ・ ホ ス ピ ス ( 27%)、療 養 型 病 床 へ の 転 医 ・ 転 院 ( 12%)な ど の 療 養 場 所
に関する相談が最も多かった。以上より高齢がん患者の特徴としては疼痛は軽度で
あるが、呼吸困難、精神症状に対する症状緩和がより必要で、かつ、療養場所の選
択を含めた支援プログラムの必要性が示唆された。
ii) 高 齢 が ん 患 者 の リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン に 関 す る 研 究
高齢がん患者の意思決定能力に影響する重要な要因として認知機能障害があげら
れるが、がん患者の認知機能障害には様々な要因があり、その評価は難しい。本研
究は、高齢がん患者の認知機能障害を評価する手段を検討するとともに、認知機能
障害を改善し、高齢がん患者を適切な意思決定に導くためのリハビリテーションシ
ス テ ム を 構 築 す る こ と を 目 的 と す る 。 本 年 度 は 、 65 歳 以 上 の 高 齢 が ん 患 者 の 認 知 機
能 障 害 を 適 切 に 評 価 す る 手 段 と し て 、frontal assessment battery at bedside( FAB)
の臨床意義を明らかにするための検討を行う予定である。現在、当該研究施設の倫
理審査委員会での承認を得て研究を開始した。
4) 高 齢 が ん 患 者 に お け る 心 身 の 状 態 の 包 括 的 評 価 方 法 に 関 す る 研 究
高 齢 が ん 患 者 の 脆 弱 性 ス ク リ ー ニ ン グ の た め に 、海 外 の ガ イ ド ラ イ ン で 使 用 が 推 奨
さ れ て い る 自 記 式 質 問 票 Vulnerable Elderly Survey-13 (VES-13)の わ が 国 に お け る
有 用 性 を 検 討 す る こ と を 目 的 と す る 。新 規 に 悪 性 リ ン パ 腫 ま た は 多 発 性 骨 髄 腫 と 診 断
さ れ た 65歳 以 上 の が ん 患 者 を 対 象 に 、 抗 が ん 治 療 開 始 前 に VES-13を 実 施 す る と 共 に 、
身体的機能、抑うつ気分、認知機能 障害な どに関す る包括 的評価 を行う 。本年 度は 、
VES-13開 発 者 よ り 日 本 語 版 開 発 の 許 可 を 得 て 、Forward-backward法 を 用 い て 日 本 語 版
を 作 成 す る と と も に 、研 究 計 画 に つ い て 倫 理 審 査 委 員 会 よ り 承 認 を 得 て 実 地 調 査 を 開
始 し た 。 現 時 点 ま で に 6名 の 患 者 よ り 有 効 な デ ー タ を 得 て い る 。
2.前年度までの研究成果
本年度が初年度にあたるため特記事項なし。
3.研究成果の意義及び今後の発展性
本研究により、高齢がん患者の意思決定能力の評価が可能となれば、国際的にも
初めてのツールとなり、様々な臨床および研究に際してのインフォームドコンセン
トのプロセスにおいて、患者の自律性を担保することを通して大きな貢献をもたら
すことが期待される。また、患者の意思決定を支援するためのプログラム開発やガ
イドラインの策定が可能となり、これらを通して患者に対する意思決定の援助が可
能となる。また高齢がん患者の満たされていないニードや介護負担を明らかにする
ことを通して、将来の超高齢化社会において必要な医療資源の優先度を把握するこ
とが可能となるともに、各種支援プログラムを開発することで療養の質の向上が期
待される。
4. 倫理面への配慮
研 究 実 施 に 先 立 ち 、研 究 計 画 を 作 成 し 、 当 該 施 設 の 倫 理 委 員 会 に 提 出 し 、 そ の 科 学
性・倫理性について承認を得ている。患者に対しては、調査を開始する前に口頭およ
び文書を用いて調査の趣旨、研究参加におけるメリット、デメリット等について十分
な説明を行い、文書にて参加の同意を得ている。
5 . 発 表 論 文 (当 該 研 究 事 業 の 研 究 成 果 に 関 す る も の )
1. Akechi T, Okuyama T, Sagawa R, Uchida M, Nakaguchi T, Ito Y, Furukawa T.
Social anxiety disorder as a hidden psychiatric comorbidity among cancer
patients. Palliat Support Care. in press
2. Akechi T, Ishiguro C, Okuyama T, Endo C, Sagawa R, Uchida M, Furukawa TA.
Delirium training program for nurses. Psychosomatics. 2010; 51: 106-111.
3. Akechi T, Okamura H, Nakano T, Akizuki N, Okamura M, Shimizu K, Okuyama T,
Furukawa TA, Uchitomi Y. Gender differences in factors associated with
suicidal ideation in major depression among cancer patients. Psychooncology.
2010; 19: 384-389.
4. Akechi T, Okuyama T, Endo C, Sagawa R, Uchida M, Nakaguchi T, Akazawa T,
Yamashita H, Toyama T, Furukawa TA. Patient's perceived need and
psychological distress and/or quality of life in ambulatory breast cancer
patients in Japan. Psychooncology. 2010
5. Akechi T, Okuyama T, Endo C, Sagawa R, Uchida M, Nakaguchi T, Sakamoto M,
Komatsu H, Ueda R, Wada M, Furukawa TA. Anticipatory nausea among ambulatory
cancer patients undergoing chemotherapy: Prevalence, associated factors,
and impact on quality of life. Cancer Sci. 2010
6. Akazawa T, Akechi T, Morita T, Miyashita M, Sato K, Tsuneto S, Shima Y,
Furukawa TA. Self-perceived burden in terminally ill cancer patients: a
categorization of care strategies based on bereaved family members'
perspectives. J Pain Symptom Manage. 2010; 40: 224-234.
7. Ando M, Morita T, Akechi T, Okamoto T. Efficacy of short-term life-review
interviews on the spiritual well-being of terminally ill cancer patients.
J Pain Symptom Manage. 2010; 39: 993-1002.
8. Katsumata R, Sagawa R, Akechi T, Shinagawa Y, Nakaaki S, Inagaki A, Okuyama
T, Akazawa T, Furukawa TA. A case with Hodgkin lymphoma and fronto-temporal
lobular degeneration (FTLD)-like dementia facilitated by chemotherapy Jpn
J Clin Oncol. 2010; 40: 365-368.
9. Asai M, Fujimori M, Akizuki N, Inagaki M, Matsui Y , Uchitomi Y :
Psychological states and coping strategies after bereavement among the
spouses of cancer patients: a qualitative study. Psychooncology.
2010;19:38-45.
10. Shimizu K, Ishibashi Y, Umezawa S, Izumi H, Akizuki N, Ogawa A, Fujiwara
Y, Ando M, Katsumata N, Tamura K, Kouno T, Shimizu C, Yonemori K, Yunokawa
Y, Uchitomi Y: Feasibility and Usefulness of the “ Distress Screening
Program in Ambulatory Care” in Clinical Oncology Practice. Psychooncology.
2010; 19:718-25.
11. Kishimoto Y, Terada S, Sato S, Takeda N, Honda H, Yokota O, Uchitomi Y.:Kana
Pick-out Test and brain perfusion imaging in Alzheimer's disease. Int
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12. Funaki Y, Kaneko F, Hanaoka H, Okamura H. Effect of exercise on a speed
feedback therapy system in elderly persons. Phys Occup Ther Geriatr 2010;
28: 131-143.
13. Hyodo I, Morita T, Adachi I, Shima Y, Yoshizawa A, Hiraga K. Development
of a predicting tool for survival of terminally ill cancer patients. Jpn
J Clin Oncol. 2010; 40: 442-448.
14. Ando M, Kawamura R, Morita T, Hirai K, Miyashita M, Okamoto T, Shima Y. Value
of religious care for relief of psycho-existential suffering in Japanese
terminally ill cancer patients: the perspective of bereaved family members.
Psychooncology. 2010; 19: 750-755.
15. Igarashi A, Morita T, Miyashita M, Kiyohara E, Inoue S. Changes in medical
and nursing care after admission to palliative care units: a potential
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method for improving regional palliative care. Support Care Cancer. 2010;
18: 1107-1113.
Ando M, Morita T, Miyashita M, Sanjo M, Kira H, Shima Y. Effects of
bereavement life review on spiritual well-being and depression. J Pain
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Choi J, Miyashita M, Hirai K, Sato K, Morita T, Tsuneto S, Shima Y. Preference
of place for end-of-life cancer care and death among bereaved Japanese
families who experienced home hospice care and death of a loved one. Support
Care Cancer. 2010; 18: 1445-1453.
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Psychosomatics. 2010;51(5):425-31.
6 .研 究 組 織
① 研 究 者 名 ② 分 担 す る ③ 最 終 卒 業 学 校・卒 業 年 次
研 究 項 目
・学位及び専攻科目
明智
内富
岡村
森田
小川
奥山
龍男 高齢がん患者の
ニードに基づく
QOL 向 上 に 関 す
る研究
(総括)
庸介 がん患者の意思
決定能力の評価
法に関する研究
仁
高齢がん患者の
リハビリテーシ
ョンに関する研
究
達也 高齢がん患者の
ニードをもとに
した在宅療養支
援プログラムに
関する研究
朝生 がん患者の意思
決定能力の評価
法に関する研究
徹
高齢がん患者に
おける心身の状
態の包括的評価
方法に関する研
究
④所属研究機関
及び現在の専門
(研究実施場所)
⑤所属
機関に
おける
職名
広島大学医学部・
公 立 大 学 法 人 名 古 屋 准教授
平成 3 年卒・医博・
市立大学大学院、医
精神腫瘍学、精神医学
学研究科
(名 古 屋 市 立 大 学
病院)
広島大学医学部・
岡 山 大 学 大 学 院 医 歯 教授
昭 和 59 年 卒 ・ 医 博 ・ 精 神 薬 学 総 合 研 究 科 ( 岡
腫瘍学、精神医学
山大学病院)
広 島 大 学 大 学 院・平 成 3 年 広 島 大 学 大 学 院 、 保 教 授
卒・医 博・精 神 医 学 、リ ハ 健 学 研 究 科 ・
(広島大学)
ビリテーション医学
京 都 大 学 医 学 部・平 成 4 年 聖 隷 三 方 原 病 院 、 緩 部 長
卒・学 位 な し・緩 和 医 療 学 和 支 持 治 療 科
(聖隷三方原病院)
国 立 が ん 研 究 セ ン タ 室長
大阪大学大学院・
平 成 16 年 卒 ・ 医 博 、 精 神 ー 東 病 院 臨 床 開 発 セ
ンター精神腫瘍学開
医学
発部(国立がん研究
センター東病院)
長崎大学医学部・
公 立 大 学 法 人 名 古 屋 講師
平成 6 年卒・医博・
市立大学大学院、医
精神腫瘍学、精神医学
学研究科
(名 古 屋 市 立 大 学
病院)