複合的要因による重症 2 型呼吸不全の 1 例

複合的要因による重症 2 型呼吸不全の 1 例
与論徳洲会病院
初期研修医:熊谷健太
江良正
【要約】
2 型呼吸不全とは肺胞低換気や換気不均衡の結果 CO2 が貯留する病態であり、進行する
と呼吸性アシドーシス、意識消失などをきたす危険な病態である。呼吸不全に対して酸素
投与が必要となるが、それによって CO2ナルコーシスを生じる危険性もあり、重症例では
気管挿管しての呼吸管理が必要となる。原因疾患として心不全、気管支喘息、COPD、肺炎、
胸水、無機肺、肺線維症などが知られている。前述した疾患群が混在することにより、し
ばしば診断・治療が困難となることがある。今回我々は複合的要因により生じた重症 2 型
呼吸不全に対して、原因疾患を特定・評価することで治療方針を病態にあったものに修整
し、症状を軽快させることに成功したため、その経験を報告する。
患者は 89 歳の女性で、発熱と呼吸困難を主訴として受診した。既往歴に高血圧、心房細
動、慢性心不全があり、アムロジンとバイアスピリンを内服していた。受診の 1 ヶ月前か
ら労作呼吸困難感があり、受診当日には発熱が出現した。身体所見で両側下肺野に Coarse
Crackle を聴取し、呼吸数の上昇と SpO2 の低下も認めた。検査所見では WBC の増加と好
中球分画、CRP の上昇を認め、画像所見でも肺野の透過性低下を認めたため、細菌性肺炎
と診断し、ABPC/SBT1.5g1 日 4 回点滴静注で治療開始した。しかし、呼吸状態が悪化した
ため人工呼吸器での呼吸管理を開始し、2 病日から CPFX300mg1 日 2 回点滴静注開始、5
病日から MEPM0.5g1 日 2 回点滴静注開始した。抗生物質での治療により 8 病日には肺炎
が軽快したため抜管したが、身体所見で両側肺野に喘鳴が出現しており、画像所見では著
明な心拡大と両側胸腔内に胸水貯留を認めたため、胸水貯留と心不全と診断し治療開始し
た。胸水穿刺、ラシックス 10mg1 日 2 回静注で前述疾患を治療した。しかし、11 病日にな
っても喘鳴が消失しなかったため、気管支喘息の疑いと診断、ソル・コーテフ 200mg1 日 2
回点滴静注を開始した。13 病日に喘鳴消失し、pCO2 低下したため治療効果があったと判
定し、17 病日に治療終了した。その後 pCO2 上昇が再び生じたため、21 病日に PSL20mg/
日を内服開始し、24 病日に 30mg/日に増量した。PSL 増量後は呼吸困難感、pCO2 上昇は
改善したため、以後 1 週間に 5mg/日ずつ漸減している。それからの経過は良好で、本日ま
でに ADL 病前に回復し、PSL10mg/日まで減量している。
本症例では高齢者に重篤な肺炎に続発して胸水貯留や無機肺が生じたこと、基礎疾患に
よる症状の修飾があったことが呼吸不全を遷延させることになった。よって、病態の理解
に努め、それぞれの疾患に対しての治療方針を立てることが、症状を軽快させることに結
び付くことになった。