Kekkaku Vol. 90, No. 4 : 475_479, 2015 475 左上肺野孤発性陰影を呈し,画像的には原発性肺癌 との鑑別診断に苦慮した Mycobacterium kansasii 症 の 1 切除例 山中 澄隆 友安 浩 要旨:症例は 59 歳男性。検診にて左上肺野の異常陰影を指摘され当科紹介となった。胸部 CT では左 S1 + 2 に長径 35mm の不整形の腫瘤影を認め,PET 検査では同部位に SUVmax=5.1 の FDG 異常集積を 認めた。気管支鏡では確定診断が得られなかったが CEA の軽度上昇もあり,原発性肺癌を念頭に手 術を施行した。胸腔鏡下左上葉部分切除を施行し,術中迅速診断を行った結果,結核による肉芽腫の 疑いとの診断であった。術後抗結核薬の内服を開始したが,後に腫瘤内膿瘍の培養検査で Mycobacterium kansasii 症の診断が確定した。1 年間の抗結核薬の内服を行い,術後 21 カ月現在まで再発を認め ていない。空洞を伴わない孤在腫瘤陰影を呈した M. kansasii 症は比較的稀であり,文献的考察を加え 報告する。 キーワーズ:マイコバクテリウムカンサシー,原発性肺癌,肺結節性陰影 上,左肺野に異常陰影を指摘された。平成 25 年 1 月 9 緒 言 日に当院を受診した。 Mycobacterium kansasii 症 は 本 邦 で は Mycobacterium 初診時検査所見(Table 1) :血算,生化学検査にて異 avium complex(MAC)症に次いで 2 番目に多い非結核性 常所見を認めなかった。SCC 1.7 ng/mL,CEA 8.9 ng/mL 抗酸菌症である。典型例では胸部 X 線写真上,薄壁空洞 と腫瘍マーカーの軽度上昇を認めた。血液ガス分析,肺 を伴うとされているが,近年では非典型例も増加してい 機能検査は正常範囲内であった。 る。今回われわれは,左上肺野孤発性陰影を呈し,腫瘍 胸部 X 線写真所見(Fig. 1A):左肺尖部,左第 1 肋骨 マーカーの軽度上昇,positron emission tomography(PET) と鎖骨に重なる部位に長径約 3 cm の不整形な腫瘤影を 18 検査において fluorine-18 fluoro-deoxy-glucose( F-FDG) 認めた。 異常集積を認め,原発性肺癌との鑑別診断に苦慮した 1 胸部 CT 検査所見(Fig. 1B, C):左 S 1 + 2 領域に長径 35 例を経験したので報告する。 mm の不整形腫瘤を認めた。造影 CT では腫瘤は内部に 症 例 症 例:59 歳,男性。 不染域を伴い良好に濃染された。辺縁には一部スリガラ ス状陰影を伴っていた。 PET 検査所見(Fig. 1D) :左肺上葉腫瘤に一致して 18F- 主 訴:なし(胸部異常陰影精査)。 FDG 異常集積を認めた。SUVmax=5.1 と高値を示し,悪 家族歴:父 肺癌,母 肝臓癌。 性病変に矛盾しない所見であった。 既往歴:肝機能障害。 これまでの検査所見から肺癌(cT2aN0M0 : stage IB) 生活歴:喫煙 20 本 ⁄ 日,30 年。飲酒 ビール 3 缶 ⁄ 日, も否定できないため,平成 25 年 1 月 22 日に気管支鏡検 30 年。 査を施行したが確定診断には至らなかった。気管支洗浄 現病歴:平成 24 年 12 月 13 日に検診にて胸部 X 線写真 液を抗酸菌培養に提出したが 3 週間培養,6 週間培養, 大森赤十字病院呼吸器外科 連絡先 : 山中澄隆,大森赤十字病院,〒 143 _ 8527 東京都大田 区中央 4 _ 30 _ 1(E-mail : [email protected]) (Received 22 Oct. 2014 / Accepted 5 Jan. 2015)
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