老年精神医学雑誌

認知症 の コホ ー ト研究
二
一― 久 山町研究 一
清原
裕
抄 録
の
の
1.福 岡県久 山町 認知症疫学研究 成績では,2000年 代 にはい り認知症, とくにアルツハ イマー
病 (AD)の 有病率が人 口の高齢化 を超 えて上昇 した
.
2.久 山町における追跡調査 では,高 血圧 は血管性認知症 (VaD)発 症 の,糖 尿病 は AD発 症 の危険
因子 であつた。
3.運 動 は ADお よび VaDの リスクを有意に減少 させることが報告 されてい る
4.野 菜が豊富 な日本食に乳製品を加 えた食事パ ター ンは認知症の リスクを低減 させた。
.
Key words:久 山町研究,血 管性認知症,ア ルツ八イマー病,危 険因子,防 御因子
福 岡県久山町では,長 年 にわた り精度 の高 い生
活習慣病 の疫学調査 (久 山町研究)が 行 われてい
は じめ に
わが国では,高 齢人 口の増加 とともに認知症患
る。本稿 では,久 山町研究 の一環 として行 われて
者 の数が急増 してい る.厚 生労働省 が行 った全 国
い る認知症 の コホー ト研究 の成績 よ り,地 域住民
調査 の成績 に よれ ば,2012年 の 時点 で 認知症 高
齢者 の数 は 462万 人に達 してい ると推計 されてい
における高齢者認知症 の有病率 の時代的推移 を明
らかに し,次 いでその危険因子 ・ 防御因子 につい
る.認 知症 の原因はさまざまであるが,最 も頻度
て検討す る。
の 高 い ア ル ツハ イ マ ー 病 (Alzheimer's disease;
AD)を は じめ として,そ の多 くの病型 は成 因が
い まだ十分 に解明 されてお らず,治 療法 も確立 さ
I.久 山町研 究 とは
福 岡県 久 山 町 は福 岡市 の 東 に接 す る人 口 約
防 しその社会的負担 を軽減す る うえで, コホー ト
8,400人 の 比 較 的小 さな町 で あ る.こ の 町 の 年
齢 ・職業構 成 は,1961年 の調査 開始時か ら現在
研究 を主体 とした疫学調査 によって一般住民 にお
ける認知症 の実態 を把握 し,そ の危険因子 。防御
まで 日本 の平均 レベ ルで推移 してい る.ま た,住
民 の栄養摂取状況 も国民健康 ・栄養調査 の成績 と
因子 を明 らかにす ることが有効 である.し か し
よ く一致 してお り,現 在 に至 ってい る。つ ま り
認知症 はこれ まで社会的にあま り注 目されてい な
久山町住民 は 日本人 の標準的なサ ンプル集団 とい
かった疾患であった こともあ り,精 度 の高 い認知
える
れてい ない.こ の よ うな現状 の なかで認知症 を予
,
症 の疫学調査 はわが 国のみ な らず世界的 にみて も
数が少 ない。
Yutaka Kiyohara:九 州大学大学院医学研究院環境医学
〒 812-8582 福 岡県福 岡市東区馬出 3-1-1
,
.
久 山町研究は,脳 卒中の実態調査 として始 まっ
た疫学調査 であるが,現 在 では多 くの生活習慣病
を研 究対象 と して い る.そ の なか で,こ れ まで
1985年 ,1992年 ,1998年 ,2005年 ,2012年
の
老年精神 医学雑誌
表 1 認知症 の病型別有病率の時代的変化
(久
第 26巻 増刊号 ―1 2015。 3
山町 4集 団,65歳 以上)
調査年
1985年
1992年
=887) (η =1,189)
(η
︱
全認知症
例数
粗有病率 (%)
性 0年 齢調整有病率
血管性認知症
例数
粗有病率 (%)
性 ・年齢調整有病率
アルツハ イマー病
例数
粗有病率 (%)
性 0年 齢調整有病率
その他 ・病型不明
例数
粗有病率 (%)
性 ・ 年齢調整有病率
68
(%)
21
(%)
2005年
(η
傾 向性 ρ
=1,566)
102
5。
7
7.1
4。
4
5.3
22
0.002
51
2.4
1.9
3.3
2.3
1.5
2.5
12
(%)
1998年
(%=1,437)
96
21
1.4
1.8
6.1
1.1
1.3
3.8
<0.001
(%)
tute of Neurological and Corrmunicative Disorders
の有病率調査 も行 った.各 調査 の受診率 はそれぞ
and Stroke and the Alzheimer's Disease and Relat―
れ 95%(受 診 者 887人 ),97%(1,189人 ),99%
ed Disorders Associttion(NINCDS―
計 5回 ,65歳 以上 の全 住民 を対 象 と した認知症
ADRDA)の
(1,437人 ),92%(1,566人
),94%(1904人 )と
診断基準 Dを ,血 管性認知症 (Ⅶ scultt dementia;
いずれ も高 く,こ の調査 は認知症 の悉皆調査 とい
える.す べ ての調査 はほぼ同一の 2段 階方式 の調
VaD)の 診 断 は National
査法 によって行 われ,第
nale pour la Recherche et l'Enseignerrlent en Neu―
1段 階のスクリーニ ング
調査 では各対象者 を直接面接 し,長 谷川式簡易知
能評価 ス ケ ール (HDS)や Mini一 Mental Sttte Ex―
田面威 ion(MMSE)な どの 神 経 心 理 テ ス トを用
いて 知 的 レベ ル を評価 した 。.認 知症 が疑 われ る
︱
︱
者 に対 して 2次 調査 を行 い ,家 族 ・ 主治 医か らの
病 歴 聴 取 と神 経 0理 学 的 所 見 よ り,Diagnostic
and Statistica1 1旺 anual of l唖 ental
Disorders,Third
Edition(DSM一 Ⅲ)あ るいはDSM― Ⅲ Re宙 sed(DSM―
Ⅲ―
R)に よって認知症 の 有無 ,重 症 度,病 型 を
判定 した.さ らに,こ の有病率調査 を受診 した者
lnstitute of Neurological
Disorders and Stroke and Association lnternatio―
rosciences(NINDS― AIREN)の の 診 断 基 準 を,レ
ビー小体 型認知症 (dementia with Lewy bodies;
DLB)の 診 断 は DLB国 際 ワー クシ ヨップ第 3回
報告 の改訂版 コンセ ンサ スガイ ドライ ン のをそれ
ぞれ用 いてい る.こ の疫学調査 はわが国を代表す
る本格的な認知症 の長期 コホー ト研究 である
.
Ⅱ.認 知症 有病 率 の 時代 的推 移
久 山町研 究 で は,こ れ まで 1985∼ 2005年 まで
の認知症有病率 の時代的推移 を報告 してい る.そ
を全員追跡 し (追 跡率 99%以 上),非 認知症例 に
ついては認知症 の発症率お よび危険因子 ・ 防御 因
の成績 によれば,全 認知症 の粗 有病率 は 1985年
子 を明 らかにす るとともに,認 知症例 については
病型 の再評価お よび予後 を検討 してい る よつ
した が,そ の 後 1998年 の 7.1%か ら 2005年 の
.
追跡調査 にお け る ADの 診 断 は Nttional
lnsti―
の 6.7%か ら 1992年 の 5。 7%に やや減少傾 向 を示
12.5%ま で有意 に上昇 した (表
1)。
.直 近 の 2012
年 の調査 では,そ の有病率 はさらに 17.9%ま で増
1
アルツハ イマー病
血管性認知症
1 1
1
り <0。 05
p<0.01
vs。
正常耐糖能
*す
発症率
発症率
(235)
(155)
IFG
IGT
糖尿病
(%)
(559) (73) (235)
Itt
IFG
IGT
団櫛
0
(73)
耐糖 能 レベ ル
耐糖 能 レベ ル
IFG;空 腹時血糖異常,IGT;耐 糖能異常
図
1
耐糖能 レベル 別 (WHO基 準 )に み た病 型別認知症 の発症率
∼2003年 ,性 0年 齢調整
(久 山町男女 1,017人
,60歳 以上,1988
)
加 した.つ ま り,最 近 の高齢者 では 5.6人 に 1` 人
が認知症 を有す るとい える.性 。年齢調整後 の全
見 は一定 してい ない.そ こで 日本人における両者
認知症 の有病率 も同様 の傾向を示 した.し たがっ
の健診 で 75g経 口糖負荷試験 を受 けた集団の う
ち,認 知症 の な い 60歳 以上 の 高齢住 民 1,022人
の 関係 を明 らか にす るため に,1988年 の久 山町
て,認 知症有病率 は人口の高齢化 を超 えて (年 齢
調整 して も)上 昇 してい ると考 え られる
.
認知症 の病 型 別 にみ る と,VaDの 粗 有病 率 は
1985年 2.4%,1992年 1.9%,1998年
2005年 3.3%,2012年
3。
1。
7%,
を 15年 間追跡 した成績 で,追 跡 開始時 の耐糖 能
レベ ル (WHO〈 世界保健機 関〉基準 )と 認知症
発症率 との 関係 を性 。年齢調整 して検討 した
.
0%と 大 き な 変 化 は な
そ の結果,VaDお よび ADの 発症率 は耐糖能 レ
かった.一 方,ADの 粗有病率 は 1985年 の 1.4%
ベ ルの悪化 とともに上昇 し,VaD発 症率 はす でに
か ら 2005年 の 6.1%に 上 昇 して 2012年 には 12.3
%と な り,こ の 間約 9倍 有意 に増 えた.そ の他 の
耐糖能異常 (imp江 red glucose tolerance;IGT)の
レベ ルか ら,AD発 症率 は糖尿病 レベ ルで有意 に
原因に よるもの と病型不明 を合 わせた認知症の有
病率 はVaDと 同 じパ ター ンを呈 してい た.つ ま り
.多 変量解析 で他 の危険因子 を
調整す る と,耐 糖 能 レベ ル と VaDの 発症 リス ク
時代 とともに増加 してい るのは ADの み といえる
との 間の有意 な関係 は消失 したが,ADの リス ク
は糖尿病 レベ ルで 2.1倍 有意 に高かった.つ ま り
,
.
Ⅲ.認 知 症 の危 険 因子 お よび防御 因子
高か った (図
1)の
,
糖尿病 ДGTは ,主 に高血圧 な ど合 併す る他 の危
防につ な ぐために,久 山町 の コホー ト研究 にお い
険因子 を介 して VaDの リス クを上昇 させ るの に
対 して,ADと は独立 した有意 な関係 にある とい
て高齢者認知症 の危険因子 お よび防御 因子 を検討
える.近 年,わ が国では糖尿病が急増 してい るが
した
それが認知症 , と くに ADの 有病率 上昇 の背景 に
1.糖 代謝異常
近年,海 外 の追跡研究 よ り糖尿病 と認知症 との
ある ことが うかがえる
それではどの血糖 レベ ルか ら認知症の リスクは
関係 を検討 した成績が報告 されてい るが,そ の知
上昇す るのであろ うか.こ の問題 を明 らかにす る
わが国の認知症の要因を明 らかに してそれを予
.
,
.
老年精神 医学雑誌
表2
血糖 レベル別 にみた認 知症発症 の ハ ザ ー ド比
第 26巻 増刊号 ―1
2015.3
山町男女 1,017人 ,60歳 以上
(久
,
75g経 口糖負荷試験施行,1988∼ 2003年 ,多 変量調整
)
血糖 レベ ル
アルツハ イマー病
血管性認知症
(mg/dι )
ハ ザ ー ド比
空腹 時血糖 レベ ル
≦ 99
ハ ザ ー ド比
ρ値
1.00(対 照 )
ρ値
1.00(対 照 )
100∼ 109
1.19
1.11
0。 68
110-125
1.48
0。
99
0。 72
≧ 126
糖 負荷 後
傾 向性 ρ=0.49
1.41
傾 向性 p=0.58
1.00(対 照 )
1.00(対 照 )
0.99
0.32
2時 間血糖 レベ ル
≦ 119
120-139
140-199
1.38
≧ 200
2.66
1.49
1.14
1.87
3.42
傾向性 p<0.001
傾 向性 ρ=0.02
0。 17
0.02
<0.001
調整因子 :性 ,年 齢 ,学 歴 ,高 血圧 ,脳 卒中既往歴 ,心 電図異常 (左 室肥大,ST低 下,心
房細動),BMI,腹 囲 /腰 囲比,血 清総 コレス テ ロール,喫 煙 ,飲 酒,余 暇時の運動
ために,認 知症 の発症 リスクが上昇 す る血糖 レベ
2.高 血圧
ル を検証 した.上 記 の集団を空腹時血糖値 と糖負
海外 の追跡研究では,老 年期 の高血圧が AD発
荷後 2時 間血糖値 の レベ ルでそれぞれ 4群 に分 け
症 の リス クを高 めるとい う成績 はほ とん ど見当た
て認知症発症 のハ ザ ー ド比 を他の危険因子 を調整
して求めた.そ の成績 によると,空 腹時血糖 レベ
らないが,中 年期 の高血圧 と老年期 の AD発 症 の
リスクの 間 に有意 な関係があるとす る報告が わず
ル と VaDお よび AD発 症 との 間 に明 らか な関連
かなが ら存在す る.ま た,老 年期 お よび中年期高
は認めなか った (表 2)つ .一 方,両 病型 の発症 リ
血圧 と VaDの 関係 をみた成 績 も意外 と少 ない
スクは糖負荷後 2時 間血糖 レベ ルの上昇 とともに
この問題 を日本人で検証 す るために,久 山町にお
増加 し,糖 負荷後 2時 間血糖 値 120 mg/dι 未満 の
レベ ル に比 べ て,VaDの 発症 リス クは 200 mg/dι
ける追跡研究 の成績 よ り,老 年期お よび中年期血
圧 レベ ル と老 年期 の認知症発症 との 関係 を検討 し
以上 の糖尿病 レベ ルで,ADの 発症 リス クは 140
∼199 mg/dι の IGTレ ベ ルか ら有意 に高か った
た.1988年 に設定 した集 団 の うち 65∼ 79歳 の対
象者 668人 について,追 跡開始時 (老 年期 )の 血
つ ま り,VaDに 比べ て, よ り低 い血糖 レベ ルか ら
圧 レベ ル (The Seventh Report of the Joint Na―
ADの リス クが上 昇 し始める と考 え られる.糖 負
荷後 2時 間血糖値 は,食 後高血糖 によって引 き起
tiond Co― ittee(JNC― Ⅶ〉,ア メ リカ高血 圧 合
同委 員 会 の 第 7次 報 告 書),Uに 追 跡 17年 間 の
こされる酸化 ス トレスや イ ンス リ ン抵抗性 の よい
VaDお よび AD発 症 のハ ザ ー ド比 を求めた
指標 であ り,動 脈硬化 と密接 に関連す るとい われ
他 の危険因子 を調整 した多変量解析 では,VaD
発症 のハ ザ ー ド比 は老 年期 血圧 レベ ルの上昇 とと
.
てい るが,認 知症発症 において も重要な役割 を演
じているとい えよう
.
高血糖や糖尿病 は,脳 動脈硬化 の進展や微小血
管病変の形成,糖 毒性 による酸化ス トレスの増大
や終末糖化産物 の産生,さ らにはイ ンス リン代謝
の障害な どさまざまな機序 を介 して VaDお よび
ADの 発症 にかかわると考 えられている
.
.
.
もに高 くな り,正 常 血 圧 (<120/80-g)に
対 して ス テ ー ジ 1高 血 圧 症 (140∼ 159/90∼ 99
-Hg)の
血圧 レベ ル か ら有 意差 が認 め られた
また,こ の集団が 15年 前 の健診 を受診
した際の血圧値 (中 年期 血圧 レベ ル)の 上昇 も老
(図
2)0。
年期 にお け る認知症発症 の有意 な危険因子 であっ
アルツハ イマー病
血管性 認知症
枷圧
考1:盟 、正
囲 老年期
■ 中年期
8.0
8.0
6.0
掌
掌
6.0
1
1
ド
比 4.0
ド
比 4.0
2.0
2.0
0.0
0.0
(%)(106)(122) (227)(185) (200)(153)
ステー ジ 1
正常
高血圧
血圧
前症
高血圧症
(135)(74)
ステー ジ2
高血圧症
(η
)(106)(122) (227)(185) (200)(153) (135)(74)
ステージ 1 ステー ジ2
正常
高血圧
血圧
高血圧症
前症
高血圧症
血圧 レベ ル
血圧 レベ ル
老年期 ;1988∼ 2005年 ,久 山町男女 668人 ,65∼ 79歳 ,中 年期 ;1973∼ 2005年 ,534人
調整因子 ;性 ,年 齢,学 歴,降 圧薬服用,糖 尿病,血 清総 コL/ス テロール,BMI,慢 性腎臓病,脳 卒中既往歴,喫 煙,飲 酒
図2
老年期お よび中年期血圧 レベル別 にみた認知症発症 のハ ザ ー ド比
たが,そ の リスクは老年期血圧 レベ ルよ り急峻 に
上昇 した.し か し,中 年期お よび老年期血圧 レベ
ル と AD発 症 の 間には明 らかな関連 は認 めなかっ
た
.
(多 変量調整)
4.食 事性因子
近年,地 中海式食事法 (オ リー ブオイル,穀 物
野菜 ,果 物 ,ナ ッツ,豆,魚 ,鶏 肉を中心 とした
食事 に少量のワイ ン)は ,ADの リス クを 40%ほ
,
つ ま り,老 年期 のみ な らず中年期 の高血圧 は老
ど減少 させ るとい う海外 の追跡研究 の成績がわず
年期 にお け る VaD発 症 の危 険因子 であ り,中 年
かなが ら散見 される.し か し,食 文化 はそれぞれ
期 か らの厳格 な高血圧管理が老年期 の VaD発 症
の民族や国に よって違 いがあ り,有 益 とされる海
を防 ぐうえで きわめて重要 とい える
外 の食生活 をそのままわが国に持 ち込む ことはな
.
3。
か なかで きな い.そ こで,1988年 に久 山町 の健
運動
久 山町研 究 は,1995年 に世 界 に先駆 け て,余
暇時あ るい は仕事 中の運動が AD発 症 の リスクを
診 で食事調査 を受 けた認 知症 の ない 60∼ 80歳 の
1,006人 を対 象 とした追跡研 究 にお い て,わ が国
低下 させ ることを報告 した (ハ ザ ー ド比 0。 2)。
の地域住民が有す るさまざまな食事パ ター ンの な
.
その後,海 外 の追跡研究で この成績が検証 され
,
かで認知症発症 に影響 を与 えるものを検討 した
.
今 日運動が認知症 の有意な防御 因子 であることは
は じめに追跡開始時 の食事調査 にお いて,こ れ
定説 となってい る.最 近 のメタ解析 よ り,運 動 は
まで認知症 と関係があ ると報告 されてい る栄養素
と関連す る食事 パ ター ンを縮小 ラ ンク回帰法 によ
ADの リス クを 45%減 少 させ ることが報告 されて
お りの,VaDに つ い て も同様 の 成績 が認 め られ
る 。.今 後 ,認 知症予 防に最 も効果的な運動 の種
類や量 を明 らかに してい く必要があ る
.
り抽出 した.そ の結果,求 め られたい くつ かの食
事パ ター ンの うち,大 豆 ・大豆製品,緑 黄色野菜
,
淡色野菜 ,海 藻類 ,牛 乳 ・乳製品の摂取量が多 く
米 の摂取量が少 ない とい う食事 パ ター ンが,認 知
,
老年精神医学雑誌
り <0.05
vs。
第 26巻 増刊号 ―1 2015。 3
上昇 と密接 な関連が認め られた.時 代 とともに認
第 1分 位
知症 , と くに ADの 有病率が着実 に上昇 してお り
1.0
,
糖代謝異常 の増加がその要因であることが示唆 さ
ザ
れ る.認 知症 を予 防す るには,高 血圧 の 早期発
見・早期管理 を徹底す るとともに,増 え続 け る糖
1
ド 0。 5
比
尿病 を含 む糖代謝異常 を適切 に管理・予防す るこ
とが重 要な課題 になった とい える.久 山町研究は
0
(π
)(270)
(270)
(271)
(270)
運動や食事性 因子 な ど認知症 の リス クを減 らす生
活習慣 について も明 らかに して きたが,今 後 日本
人 の認知症 の危険因子 0防 御 因子 の全体像が よ り
第 1分 位 第 2分 位 第 3分 位 第 4分 位
食事 パ ター ンス コア レベ ル
調整因子 :性 ,年 齢,教 育歴,高 血圧,糖 尿病,血
清総 コレス テ ロール,BMI,脳 卒中既往歴,喫 煙
運動,エ ネルギー摂取量
明確 になると,超 高齢社会 を迎 えたわが国がかか
える認知症 の負担 の軽減 につ なが ると期待 される。
,
図3
食事 パ ター ン レベル別 にみた全認知症発
症 の ハ ザ ー ド比 (久 山町男女 1,006人 ,60
∼80歳 ,1988∼ 2005年 ,多 変量調整
文
)
献
1)Aarsl狙 dD,Sardahaee FS,Anderssen S,Banard
症に関連する可能性 のある栄養素 と最 も強い相関
を示 した O.こ の食事パ ターンには,果 物・果物
ジュース,イ モ類,魚 の摂取量が多 く,酒 の摂取
量が少ないとい う傾向もみられた
ew grOup:
C;Alzheimer's Society Systematic Re宙
Is physical activity a potential preventive factor
for vascultt dementia?;A systemttic re宙
ewヵ ―
ι
ん,14:386-395(2010)。
じ
ηg Mcγ 死月しαι
2)Hmer M,Chida Y:Physical acti宙 ty
ttld五 sk of
.
ew
次に,こ の食事パ ターンのス コアで対象者 を 4
等分 して 15年 間追跡 し,認 知症発症に対す る影
neurodegenerative disease ;A systematic re宙
響を多変量解析 で他 の危険因子を調整 して検討 し
た.そ の結果,こ れらの食品を多 く摂取 している
Mttsui x ttzaki L Arima H,Yonemoto K,et al.:
︱
﹂
﹂
群ほど全認知症 の発症 リスクが有意 に低 かった
(図 3)の .病 型別にみると,こ の関係 は VaDお よ
E
■
び ADで も認められた
.
E
F
減 らす とよい食品 となった米を単品でみると
,
F
F
I
I
その摂取量 と認知症発症 との間に明 らかな関連は
認めなかった。一定の摂取 カロリーのなかで,米
I
l
l
﹂
E
F
はん)の 摂取量が多 いほど予防効果がある他
の食品 (お かず)の 量が減ってしまうので,こ の
よ うなパ ター ンが 出た もの と思 われ る.主 食
(ご
卜
,
偏 らず,上 記 の主 菜・副菜 を しっか り
摂 ってバ ランスのよい食事を心がけることが認知
(米 )に
症のリスクを減 らすうえで有効 と考 えられる
.
of prospective e宙 dence.Psν οんOι Mcα ,39:3-11
(2009).
Incidence and survival of dementia in a general
populttion of Japanese elderly;The Hisayalrla
Study J AO%γ οιハしπγοsaη Psν θんじ
γ
αι
ッ,80:366370(2009).
McKeith IG,Dickson Dw,Lowe」 ,Emre M,et al.:
Diagnosis and rrlanagement of dementia wlth Lewy
bodies;Third report ofthe DLB consortiumo Nea―
γOι Ogυ ,65:1863-1872(2005)。
5)McKharln G,Drachnan D,Folstein M,Katzman R,
et al.: Chnical diagnosis Of Alzheimer's disease ;
Report ofthe NINCDS― ADRDA Work Group under
the auspices of Departrrlent of Health and Hurn狙
Servlces Task Force on Alzhellner's Disease.ル
6)Ninomiya■ Ohara T,Hirakawa x Yoshida D,et al.:
ⅣIidlife
and late―
life blood pressure and dementia
in Japanese elderly;The Hisayarrla Study。
おわ りに
久山町 の認知症 の疫学調査 では,糖 尿病 ДGT
は主 に D発 症 の,高 血圧 は VaD発 症 の リスク
a―
ηι
∞ ν,34:939-944(1984)。
月lνpθ 件
θηsじ οπ,58:22-28(2011)。
ι
7)Ohara■ Doi x Ninomiya■
Hirakawa x et al.:Glu―
cose tolerance status and risk of dementia lrl the
coΠ Inttty;The
Hisayama Studyル
%γ οι
Ogν ,77:
Sekita A,Ninonuya■
1126-1134(2011)。
8)Ozawa M,NinorЩ ya■ Ohtta■
J
Hisayttma Study.五 θι
α Psνοんじ
αι
γSο απα, 122 :
319-325(2010).
Yoshit』 ce■ Kiyoharaヽ ntO I,ohmura■ et al。
πⅣZι γ,97:1076-1082(2013)。
σι
じ
9)Romm GC, Tatemichi TK, Erldttuntti
C―
x Doi y et al.:
vascular dementia hl a」 apanese coFrmunity;The
etary patterns ttd nsk of dementia in an elderly
Japanese population;The Hisayttma Studyス π
T面Zaki
TYends in prevalence of Alzheimer's disease and
Doi x et al.:Di―
■
ingS JL,et al.:Vascular dementia;Diagnos_
:
Incidence and risk factors of vascular dementia
tic c五 teria for resettch studies. Report of the
and Alzheimer's disease in a deined elderly Japa―
NINDS― AIREN international workshop.ル π οι
O―
nese population;The Hisayama Study A砂 %γ οι
ο―
gν ,43:250-260(1993).
“
gν ,45:1161-1168(1995)。
144