太陽光発電用位相シフト直流-直流変換器の検討

太陽光発電用位相シフト直流-直流変換器の検討
正員
中田篤史*
学生員
仙田智章**
上級会員
鳥井昭宏**
正員
元谷卓**
終身会員
植田明照**
A Study of Phase Shift DC-DC Converters for PV System
Atsushi Nakata* Member, Tomoaki Senda** Student Member, Akihiro Torii** Senior Member ,
Suguru Mototani** Member, Akiteru Ueda** Life Member
キーワード:太陽光発電,位相シフト直流-直流変換器,リチウムイオンキャパシタ
1.
まえがき
近年効率の改善のため,大容量太陽光発電において 3 レ
ベルインバータが用いられてきている(1)が,平滑用電解コン
デンサのバラツキや容量抜け等によって 3 レベルインバー
タの中性点電位がずれるため,チョッパによる電圧均一制
御が行われている(2)。また,太陽電池に部分陰が生じると,
(a) System.
最大電力時の直流電圧が低下する(3)ため,幅広い直流電圧で
発電する系統連系装置が必要とされている(2)。さらに,太陽
光発電は天候の影響により出力変動が大きいため,蓄電デ
バイスを用いた出力変動抑制が必要である(4)。
本論文では,位相シフト直流-直流変換器を用いて静電容
量にバラツキがある直列接続された負荷側平滑電解コンデ
ンサの電圧一定制御をシミュレーションで検討する。また,
(b) DC/DC Converter circuits.
蓄電デバイスであるリチウムイオンキャパシタを用いて太
Fig.1. Simulation configuration.
Table 1. Parameters.
陽電池に部分陰が生じたときの出力変動抑制対策について
DC/DC Converters
検討する。
2.
Lithium-ion capacitor
回路構成と定数
Fig.1(a)にシステム構成を示す。フルブリッジインバータ
回 路 で 構 成 さ れ た 直 流 - 直 流 変 換 器 を Fig.1(b) に 示 す 。
Fig.1(b)の回路では位相シフト制御を用いて零電圧スイッチ
Smoothing Capacitor and Load
Photovoltaic Module
ング(ZVS)を行う。また回路定数を Table 1 に示す。
デッドタイムを 3µs,高周波変圧器の漏れインダクタンス
を 4.56µH と仮定し,ZVS を行わせるために Cr は 0.1µF とし
た。Fig.1(a)の IGBT は理想素子とする。DC/DC1 の変圧器巻
数比は N1:N2=75:150 としそれぞれ電圧 V1,V2 を 100V 一定制
部分陰が生じ一方のアレイの照度が 40%(4.51A)となる場合,
御,DC/DC2 の変圧器巻数比は N1:N2=250:100 とし VC 電圧
光起電流 Iph2 が 40%となることを示している。DC/DC1 出力
を 75V 一定制御している。直流-直流変換器のキャリア周波
側の平滑用電解コンデンサ C1,C2 の静電容量のバラツキ
数は 5kHz,DC/DC1(a),(b)のキャリア位相をそれぞれ 0 度(基
(2,000µF±20%)を想定し,それぞれの電圧を V1,V2 とし,負
準),90 度とし,DC/DC2 を 180 度としている。
荷を 10A の電流源とした。
蓄電デバイスとして旭化成 FDK エナジーデバイス社製リ
3.
シミュレーション
チウムイオンキャパシタ(ECM015SR-ST001)を想定し,モジ
ュール当たり 536F,内部抵抗 7.7mΩ,動作電圧範囲 9-15V
である。これを 5 直列して蓄電部とした。
太陽電池は開放電圧 250V,短絡電流 11A,最大電力点の
太陽電池のシミュレーション解析による IV 曲線を Fig.2
に示す。2 つのアレイに 100%照度が与えられている場合は,
Fig.2(a)に示すように最大電力を 200V,10A 時に得ることが
電圧電流を 200V,10A とした。Table 1 において,光起電流
できるが,片側のアレイの照度が 40%になって部分陰が生
Iph1,Iph2 が 100%(11.275A)のときは部分陰がないことを示し,
じると,Fig.2(b)に示すように最大電力点が 100V,10A となる。
*
アレイとも照度が 100%の時のコンデンサ電圧波形を Fig.3
コンデンサ電圧の初期電圧を 0V,DC/DC2 を停止し,2
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に示す。DC/DC1(a),(b)は 100V 一定制御(制御定数は実験的
に求めた)を行い,負荷は電流源 10A としている。約 20ms
の整定時間(±1%)で両電圧とも定格電圧 100V に制御でき
ていることがわかる。このとき,逆流防止ダイオードの電
電力は太陽電池から供給されている。
流 Ip_dc は 10A であり,
リチウムイオンキャパシタからの電力のみで電解コンデン
サ一定制御を行っているが,一旦 V1,V2 の電圧バランスが取
Fig.3 Capacitor voltage V1, V2 in the case of Iph2 100%.
れたならば,電力の授受がほとんどないためである。この
と き , 太 陽電 池 の出 力 電圧 Vo,出 力 電 流 Io は そ れぞれ
200V,10A である。DC/DC1(a),(b)を動作させない場合,Table
1 に示すように C1,C2 の静電容量が同じでないため,V1 は
80V,V2 は 120V となるが,本制御によって同一電圧に制御
されている。
(a) Capacitor voltage V1, V2.
次に片側のアレイの照度が 40%になって部分陰が生じ,
光起電流 Iph2 が 4.51A の時の各部波形を Fig.4 に示す。負荷
側は 200V の電圧,負荷は 10A 電流源のままであるが,太陽
電池からの発電量はほぼ半減となるため,リチウムイオン
キャパシタ(C)から不足電力を補っている。このとき,逆流
防止ダイオードの電流 Ip_dc は 0A である。C の内部抵抗 r は
(b) PV output voltage.
38.5mΩであり,C から流出する電流 IC は Fig.4(e)に示すよう
に 15A 程度である。内部抵抗による電圧降下により C の電
圧 VC は約 74.4V となっており,太陽電池からの電力を
DC/DC2 を介して供給される電力との分担制御が行われて
いることが確認できた。負荷側のコンデンサ電圧も 100V 一
定制御ができていることが確認できた。V1,V2 の電圧リプル
(c) PV output current Io.
が異なっているが,静電容量が異なるためである。
4.
まとめ
位相シフト直流-直流変換器とリチウムイオンキャパシタ
を用いたシステムの検討を行った。静電容量にバラツキを
持った出力側電解コンデンサの電圧を一定制御することが
(d) Lithium-ion capacitor voltage.
確認でき,部分陰が生じた場合でもリチウムイオンキャパ
シタからの電力によって負荷側の出力変動抑制ができるこ
とを確認した。
本研究の一部は,旭化成 FDK エナジーデバイス株式会社
の助成を受けたものである。
(e) Lithium-ion capacitor current IC and DC/DC converter
output current Icharge.
Fig.4 Simulation waveforms in the case of Iph2 40%.
文
(a) In the case of Iph2 100%.
(1)
(2)
(3)
(4)
(b) In the case of Iph2 40%.
Fig.2 IV characteristics in PV array.
献
辻本,水野,河合,白井,高木,桑原:
「大容量太陽光パワーコンデ
ィショナの高性能化」,愛知電機技報,No.33,pp.19-23(2012)
山下,江口,清水,米山,武田:
「ワイドレンジ入力に対応した高効
率絶縁型パワーコンディショナー」,シャープ技報,第 107 号,
pp.19-22(2014-7)
石川,中田,鳥井,植田,元谷:「部分陰が生じた時の PV 直並列接
続の最大電力直流電圧推定法」,電気学会産業応用部門大会,1-77,
(2014-8)
奥田,木村:「太陽光発電システムの出力変動抑制技術」,東芝レビ
ュー,Vol.65,No.9,pp.1-14,(2010)