授与機関名 順天堂大学 学位記番号 甲第 1477 号 Prospective clinical trial of traction device assisted endoscopic submucosal dissection for large superficial colorectal tumor by using the S-O clip (大腸 ESD における S-O clip の有効性についての前向き研究) 立之 英明(りつの ひであき) 博士(医学) 論文審査結果の要旨 本論文は、大腸 ESD に対する牽引法について検討した。内視鏡的腫瘍剥離術(ESD)は大 きさに関わらず一括切除が可能な有効な手技であるが、大腸は壁が薄く操作性が困難なこと から難易度が高く、長時間を要する上に穿孔などの危険性も高い。ESD を安全に施行する方 法として様々なデバイスが考案されているが、我々は、牽引法について着目し“S-O clip” を考案した。この器具の最大の利点は、剥離時に粘膜下層を直視することができることであ る。今回、我々は大腸 ESD に対する牽引法の有用性について S-O クリップを用いて検討を 行うこととした。2010 年 8 月から 2011 年 12 月の間に、20mm 以上の表面型大腸腫瘍を有 する 50 症例に対して ESD を行い、以下の 2 群に無作為割付を行った。S-O クリップ使用群 27 例、使用しなかった群 23 例であった。2群間において患者の性別、年齢、腫瘍の形態、 腫瘍径、部位、一括切除率、切除時間、穿孔、遅発性出血、病理所見を検討した。サブグル ープ解析では、多変量解析で切除時間を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行っ た。S-O クリップ群では、全例合併症なく一括切除が可能であった。切除時間は 37.4± 32.6(mean ± SD)であった。S-O クリップを使用しなかった群では1例微小穿孔を認めたが 外科的治療は必要とせず保存的に軽快した。残りの 22 例は、合併症なく一括切除された。 平均切除時間は、67.1±44.1 min であった。切除時間は S-O クリップを使用した群が使用 しなかった群より有意に短かった(p < 0.05)。他の因子では有意差は認めなかった。多変量 解析では、切除時間の延長に寄与する因子として腫瘍径が大きくなることと S-O クリップを 使用していないことが示唆された。本研究では世界で初めて大腸 ESD 時における牽引法を 検討した前向き研究である。表面型大腸腫瘍に対する ESD において、S-O クリップは一括 切除を可能にし、安全かつ早く治療ができることを証明した。 よって、本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと判定した。
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