持続可能な社会を考える 第1回 総論 キーワード:サステイナビリティ/ 低炭素社会 / 循環型社会/自然共生社会 福井県立大学 学術教養センター 菊沢正裕 トピック 1. 人類の試練 2. 持続可能な社会と、実現する概念 3. 持続可能な社会をつくる – 技術的視点と、事例 – 教育的視点と、事例 2 エコロジカル・フットプリント (エコフット) 1. あるエリアの経済活動の規模を、 土地や海洋の表面積 [ha] に換算 2. その面積をエリア内人口で割って 1人あたりのエコフット[ha/人]を 指標化 3 エコロジカル・フットプリント(エコフット) http://www.ecofoot.jp/what/index.html • エコロジカル・フットプリント(Ecological Footprint)とは、どれほど 人間が自然環境に依存しているかを、わかりやすく伝える指標 • エリアの適正規模(環境収容力)をどれくらい超えた経済活動が なされているかがわかる 公平に分 割すると エコフット(ha/人) 世界中が◯◯人レベルの生 活をするとき必要な地球(個) 日本人 米国人 1.3 4.3 9.5 1 2.4 5.3 • 生活レベルがあがると数値が大きくなる • 1975に地球1個分を越えてしまった 地球・社会・人間システムが破綻しつつある! 地球システム 気圏、水圏 地圏、生物圏 人間の生存基盤 地球温暖化による気象 災害や海面上昇 生物多様性の喪失 資源の枯渇 社会システム 政治、経済、産業 人間の幸福な 生活基盤 人間システム 安全・安心、健康 生きがいをもてる ライフスタイルと 価値規範 公害問題、所得格差 地域紛争、経済戦争 不健全、南北格差 感染症・飢餓・貧困 5 小宮山宏・武内和彦:サステイナビリティ学への挑戦 図1 改変 2015年 2008年 世界人口の半数 32億人が都市に 住んでいる 100万~500万人 都市がアジアで 253 近代の都市機能を求めると・・・ 資源の枯渇,環境汚染,食料・水 不足,地球環境問題・紛争・・・ 都市が,「人間の進歩」と「生態系の 持続性」 双方のカギを握っている! ワールドウォッチ研究所:「地球白書2007-2008」より 6 21世紀の人類の試練 -持続可能な都市をつくる- 1. 都市農業:食料と環境と生きがいのために 2. 公共交通都市:クルマ依存から歩きやすい街へ 3. エネルギー自給都市:再生可能への転換と効率改善 4. 防災都市:人命と財産を守る都市づくり 5. 公衆衛生都市:安全で健康に暮らせる緑の空間に 6. 地域経済主義:グローバル化から経済を取り戻す 7. 貧困や環境的差別との闘い:都市空間を公平にする 8. 衛生革命:きれいな水と女性が安心できるトイレを ワールドウォッチ研究所:「地球白書2007-2008」より 7 持続可能な社会とは 健全で恵み豊かな環境が地球規模から身近な地域ま で保全されるとともに,それらを通じて世界各国の人々 が幸せを実感できる生活を享受でき,将来世代にも継 承することができる社会 • 環境負荷が環境容量を超えないこと • 資源消費の最小化と資源の循環的利用 • 自然と人類の共生 『21世紀環境立国戦略』より 8 持続可能な開発(発展)の考えは どこから生まれたか • 1972 ローマ・クラブ(民間シンクタンク) – 「成長の限界」 • 1987 環境と開発の世界委員会 – 「持続可能な開発」を定義 – 「次世代のニーズを損なわずに現世代のニーズ を追求する」開発 • 1992 地球サミット(リオデジャネイロ) – 世界が「持続可能な開発」の重要性を認識 9 地球・社会・人間システムを回復する3つの社会 低炭素社会 社会システム 政 治 経 済 産 業 技 術 地球システム 気候システム 資源・エネルギー 生 態 系 複雑化する問題 地球温暖化 感染症の拡大 貧 困 問 題 大量生産・消費・大量廃棄 自然共生社会 人間システム 安全・安心 ライフスタイル 健 康 価値規範 循環型社会 (小宮山宏( 2011 ):「サステイナビリティ学の創成」より) 10 個々の問題への対応 • 低炭素社会の実現(地球温暖化) – 海面上昇、気象災害(洪水、水不足、大型台風) – 食糧不足、植物の生態、感染症 • 循環型社会の実現(資源・エネルギー) – 食の地産・地消 – 再エネ利用(化石、原子力からの脱却) – 資源消費の最小化と資源の循環利用(3R、LCA) • 自然共生社会の実現(生物多様性) – 生態リスク管理と自然再生 – 地球上の生物種を保全、持続可能な利用、遺伝資源 の利用から生じる利益の公正・衡平な配分 11 3つの社会を実現する 自然科学と人文社会科学を融合させた俯瞰型学術体系 持続型社会の構築 低炭素 社会 循環型 社会 自然共生 社会 (武内,2007) • 3社会像の統合 • 都市と農村を結ぶ循環型都市 • 世界各地で拠点形成を図り,グローバルなネットワークを形成 • 地球持続性と地域の自然的・文化的多様性を確保 小宮山宏他編(2011):「サステイナビリティ学(全5巻)東大出版会」より 12 持続可能な社会をつくる • 世界が総力をあげて持続可能戦略を構築す る必要がある • 各機関が、それぞれの地域的多様性の維持 と確保のあり方を考える必要がある • 社会を考える視点と、価値観を共有するため の教育が必要である 13 持続可能な社会をつくる視点 鬼頭秀一(東大教授・環境倫理学)の エネルギー技術論が示唆するもの・・・ 14 3つの技術 • 伝統技術 – 自然の制約条件の甘受(自然適合型)技術 • 近代技術 – 自然の制約条件を克服する(管理する)技術 • 新しい技術 – 自然の制約条件を意識・利用する(自然共生型) 技術 15 技術の移り変わり 南 北 問 題 も 発 生 先 進 国 の 歩 ん だ 道 自然適合型社会 自然克服型社会 自然共生型社会 グ 途ロ 上ー 国バ のル 動時 き代 の 16 3つの ネットワークを保持/切断する 技術 1. 生物のネットワーク(生態系) • 周辺の環境を破壊するか保全するか 2. 人間の文化のネットワーク(歴史・文化) • 自然と関わりあう人間の文化が保証されるか分断さ れるか 3. 人間の社会のネットワーク(共同性・合意形成) • 地域の人が技術に関わることができるかどうか • 単なる受益者(受苦者)に留まるか否か 17 先祖帰りするのか? いま求められる技術とは • 普遍性ではなく地域性に重点をおく – 多元的技術 • 地域社会の歴史・文化性を考慮する – 歴史・文化文脈的な技術 • 地域の社会のあり方・合意形成のあり方を考慮する – 参加型の技術 • 完全性を目指すのではなく,不完全性に意味を見出す – 開かれた技術 18 低炭素社会:エネルギーの地産地消 地域のための地域のエネルギー 地域の自然エネルギーを 最大限利活用する,地域のための エネルギーシステム・社会システム 地域の豊かさの創造と蓄積 地域の豊かさ 地域再生 環境保全 未利用エネルギー・資源 最大限活用のしくみの創出 失いつつある豊か さ,社会のしくみの 再認識と再構築 科学的知 見・技術 アンチテーゼ NIMBY 市場主義 中央主権 先端至上主義 切り身社会 不安社会 新妻弘明,地産地消のエネルギー,NTT出版(2011) p.20 19 循環型社会:食の地産地消 地域の産品を地域で消費する 食の豊かさ 地域の豊かさ 地域再生 環境保全 • 地域の活性化 • 価格に表れない価値の認識と享受 • 安全・安心・正当性の保証 • 健康食,生産者の生きがい • 食料自給率の向上 アンチテーゼ グローバリ ゼーション 切り身社会 地域の豊かさの創造・共有 3R LCA 新妻弘明(2011)p.21 20 伝統的 に利用 小規模 分散型 熱にも 電気にも 小水力 バイオマス • 水は地域のもの • 地形によって規模,方式, 用途は様々 • 現場使用も売電も可 • EVの電源 • 里山保全 • 森林資源の有効利用 (木材、熱、肥料、食材) • 食物残さ,畜産廃棄物 • 6次産業の契機 地域の活性化・地域再生 21 小水力発電によるEVと地域通貨ハピー さばえNPOサポート ハピープロジェクト (鈴木早苗氏提供) 誠市・ご縁市 でハピー進呈 買い物難民を救うEV 鹿児島大学の社会実験 22 エコホテルが人気 マレーシア・ボルネオ 23 24 25 • トイレの水→ 雨水 • 飲料水→井戸水を処理 • 洗面,シャワー,洗濯等水→川の水を処理 • 電気(昼間):エアコンを適正利用し余剰電力を,川水のポン プアップ,水やコンポスト処理に利用 • 電気(夜間):太陽光(蓄電)+人力発電(自転車)を室内の 明かり,野生像を防御する電柵 • 夜間の外灯は,ヤシ油 • コンポスト→ 糞尿や食物残差 • 食材,工芸品等→地産地消 • 移動→ハイブリッド船(川や大気に優しい) 26 27 持続可能な社会のための教育 ESD Education for Sustainable Development 持続可能な社会を築くためには,それに対する 社会的合意が必要である そのために,社会人に対して多様な方法による 環境教育や学習機会が求められる 国連持続可能な開発のための教育の10年 2002年12月の国連総会で46か国によって共 同提案され、採択された – ESDの10年: 2005-2014 – 2014秋、ユネスコ世界会議を日本で開催 – 28 ESDが求める学習者の能力 1. 体系的な思考ができる – 問題や現象の背景を理解、多面的・総合的な見方ができる 2. 代替案の思考ができる – 「なぜ」、「どうして」を大切に、「どうすればよいか」を考える 3. データや情報を適確に収集・分析できる 4. 問題解決のために未来を予測した、具体的かつ実現可能な行 動計画をたてることができる 5. 自分の問題として、自ら学び、主体的に判断し、行動できる 6. コミュニケーション力をもち、他者と協力できる 7. つながりを尊重する態度が身についている 8. 責任を重んじる態度が身についている 9. リーダシップをもち、他者のやる気を高められる 国立教育政策研究所教育課程研究センター:「ESDを学教教育でどう進めるか」より 29 どんなことが考えられているか • 持続可能な開発のための 教育 ESD – 初等中等教育 – 高等教育 愛・地球博マスコット モリゾウ君も考える 30 ESD にむけた方策 • 学習と行動の関係付け(学会等) – 行動(取組)のなかにどのような学習があるか – 学習から行動(取組)を引き出す • カリキュラム編成(教育委員会) – ISOの取組を教科に反映 – 総合科目、各教科のなかのESD部分を関連付ける • 組織間交流、地域との連携策(行政・地域) – 学校運営や学校外連携との関連付け – 連携するなかで、単独活動以上の成果を出す 31 カリキュラム編成 ESDの実践形態 : 教科総合連携型 能力養成(評価の視点)に相応しい取組 ESD ESD 教科A 総 合 的 な 学 習 の 時 間 ESD 教科B 教科C ESD ESDの実践形態 : 教科総合連携型 32 組織間交流、組織外連携の規模、モデル校 地域 PTA 小 推 進 校 協力者として市民、 教材として地域を利用 地域 中 中 小 小 幼 小 幼 中 小 小 地域 幼 教育 委員会 行政 市民 FEPS 共通化ではなく 共通理解のもと に、独自性を活 かす 岡山市のESD推進体制(中学校区、推進校)を参考に作成 33 これからの大学教育が目指すもの • 教育全体の方向性として持続可能な開発という 「価値」を培う • 世界規模で人権、平和、持続可能な社会像を目 指す • 大学の役割は、そのような社会に次世代の育成 を通じて寄与すること • 教養教育をESDを意識して行う • 大学ESD、企業CSR、地域の連携を進める HESD2008関連事業報告書 サステイナビリティに向けた大学教育の挑戦 34 立教大学、文科省、国連高等教育研究所、環境省 北海道大学のESDプログラム • 未来への学び – 叡智や課題を分かち合い共感することを通じて新たな 未来を切り開く心、ちから、仲間を育む • すこやかに人間らしく生きる – ひとり一人が身体的、精神的、社会的に良好な状態で 質の高い生活を送ることのできるコミュニティをつくる • 調和を見出す – 自然の恩恵を意識しつつ、環境を損なわずに暮らす道 を模索する • 協力ネットワークを広げる – 国境を越えた協力をさらに進めるため、海外協定校や 国際機関と協力して行事を開催する 35 SDのための研究例(北大) • その研究が未来を開く – 川と森を同時に研究する – 活性炭をつかってバイオマスを資源にかえる • 意志ある学生が主役になる – サステイナブル・キャンパス・コンテスト – 学生が環境問題に取り組みながら強くなる • 食の安全をみんなで考える • 環境をみつめる • 世界とつながり高め – 国境を越え、分野を越え、アフリカへ貢献 – 研究者だけでない、国際交流 36
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