平成26年9月11日 甲状腺癌の外科治療と最近のトピックス②糖尿病

甲状腺分化癌転移に対する
131I治療・全身シンチグラフィ
神戸市立医療センター中央市民病院
糖尿病内分泌内科
石原 隆
肺転移(乳頭癌)
1回目肺転移
10回目
131I治療
3回目
11回目
5回目
14回目完治
甲状腺悪性腫瘍の比率と予後
発生比率 生命に関する予後
乳頭癌
85-95%
>95%/10年
濾胞癌
5-7% 65-80%/10年
未分化癌
1%
0%/1年
悪性リンパ腫 1-3% 60-80%/5年
(森 徹著:甲状腺疾患の手引き)
甲状腺分化癌の転移部位
縦隔
複数臓器
骨
10.6 %
7.3 %
22.8 %
リンパ節
6.7 %
23.3 %
36.6 %
28.4 %
26.7 %
30.9 %
肺
乳頭癌
●乳頭癌中4.6%に脳転移あり
6.7 %
濾胞癌
131I
治療の対象
隣接臓器への浸潤
局所再発
遠隔転移
131I
ablationの目的
肉眼的病変がなくても、全摘後の
残存甲状腺(thyroid bed)の破壊、
微小あるいは不顕性転移の死滅
131Iの特徴
半減期 約 8 日間
割合
b 線 90%
g 線 10%
飛距離
細胞障害
1mm以下
強い
長い、体外へ
なし
(検出可能)
131I
治療・ ablationの条件
1.甲状腺全摘
2.TSH高値(刺激)
3.ヨード制限食
4.施設
全摘か半切か方針の決定
1.内科系が決める病院では全摘の頻度が高い。
甲状腺半切で転移の診断が遅れ、131I治療に
難渋する例を多く紹介されるため。
2.外科系病院では半切の頻度が高かったが、
最近全摘例が増加する傾向にある。
隈病院では2005年全摘 70%、半切 28%。
甲状腺乳頭癌肺転移
131I
X-ray
CT
半切例で、胸部X-Pでは異常を認められなかった
ため、全肺野に微小転移をきたした症例
131I
治療・ ablationの条件
1.甲状腺全摘
2.TSH高値(刺激)
3.ヨード制限食
4.施設
131I-全身シンチグラフィー
(TBS)
におけるTSH刺激方法
1.休薬法
内服中のL-T4(チラーヂン)をT3(チロナミン)
に変更。T3を中止後3週後に131I-TBSを行う。
2.TSH(タイロゲン)注射法
L-T4を内服したままで131I-TBSを行う。
ヨード制限はいずれも必要。
検査時の血中TSH濃度
Phase 1 & 2 study
Meier CA, et al. JCEM 78:188, 1994
1.全身シンチグラフィ(検査)
3-10 mCi (休薬法、TSH法)
2.Ablation
30 mCi (外来可、休薬法、TSH法)
50 mCi (休薬法)
50 mCi (TSH法)
治療室
3.治療
に隔離
100 mCi (休薬法)
TSH注射法の問題点
1.ヨード制限は重要
外来で行うか、入院させるか。
2.注射が10万円 X 2本= 20万円
3割負担で余分に 6万円負担増。
3.DPC
入院させた場合には注射代が高くて
赤字になる。
131I
治療・ ablationの条件
1.甲状腺全摘
2.TSH高値(刺激)
3.ヨード制限食
4.施設
日本人のヨード摂取量
3000
mg/日
尿中排泄量
ヨード制限なし
中等度のヨード制限
厳格なヨード制限
1068
185
<100
mg/gCr
mg/gCr
mg/gCr
(友田 ホと臨床 53:1074, 2005)
131I
3700 MBq ( 100mCi )
ヨード量 (主にKI )
18.4
放射性ヨード量
0.80
mg
mg
食品常用量
白米
160g
ヨード含有量(mg)
29
123
伊藤病院ヨード制限食
昆布
5cm角(5g)
8340
わかめ
1人前(5g)
502
味付け海苔
1人前(1g)
75
1個(50g)
500
とろろ昆布
5g
9000
昆布だし汁
1g
2000
ヨード卵
(伊藤公一 ホと臨床 55:587, 2007)
ヨード制限食( 4頁の説明書)
1)● 昆布、わかめ、のり、ひじきなどの海草類。かん
てん、佃煮。昆布だしの吸い物(うどん・そば)、
ヨード卵、飲料水(アサヒ十六茶)
● 甲状腺のくすり
● ルゴール液および咳止めなど
2)● ヨード造影剤を使う検査(CT、腎臓、胆のう、
気管支鏡、血管造影など)
10日前より自宅で、4日前より入院して行うことで、
前日入院に比べ治療成績が著しく改善した。
食用赤色3号
薬品などに赤色をつける物質
239 品目に使用(平成14年)
C20H6 I4 Na2O5・H20
2Na・H2O
赤色3号(mg) ヨード量(mg)
ユベラニコチネート
82
46
276
184
1660
480
940
271
100
510
670
57
288
379
ユベラ錠、ユベラNソフトCは可
アタラックス錠 25
アタラックス錠10, アタラックス-Pは可
メタルカプターゼ 100
MSコンチン 30mg
10, 60mgは可
コーラック
ビタメジンC 25mg
ビタメジンC 50mg
わかめ1人前 (5g)
502
アタラックス
25mg
10mg
131I
治療・ ablationの条件
1.甲状腺全摘
2.TSH高値(刺激)
3.ヨード制限食
4.施設
今後の全国的課題
1.131I 治療のできる施設数
平成
14
治療可能施設数
66
稼働ベッド数
188
投与件数 1262
25年核医学会ホームページ
131I 治療受け入れ可能施設数
19
64
158
2157
22 年
62
145
2639
51施設
2.131I 治療病床の活用率
14
19
活用率 36.5
65.3
22
87.7
年
%
治療可能な施設数が変化なく、
治療可能症例数が限界にきており、
平均6ヶ月待ち。
専門病院では治療基準を厳しくても1年以上。
診療報酬上の適正な評価を求める必要あり。
131I
治療前後のトラブル
1.内服直後嘔吐したため、治療室が汚染した。
2.腫瘤が神経接触症例ではTSHが高値になり
腫瘤がごく僅か大きくなったために下半身麻痺
に陥った。
3.頚部の巨大腫瘤が131I被曝のため著明に腫
大して、気管を圧迫、緊急気管切開術を施行。
4.脳転移例で131I内服直前と内服翌日に脳出
血をきたした。血腫除去術を施行。
【脊椎MRI】
T1W1
T2W1
Th4椎体~左肋骨に腫瘤あり。
骨外進展や脊柱管内への進展、硬膜の圧排を認める。
当院での131I治療適応除外基準
1. 治療室で自立した生活ができない患者
2. 神経圧迫症状のある患者
3. 気管周囲に巨大転移を認める患者
4. 脳転移の認められる患者
5. 両側反回神経麻痺のある患者
甲状腺癌131I治療における
SPECT/CT fusion画像の有用性
131I
全身シンチグラフィ(TBS) 所要時間
1) Planar
Wholebody 12cm/分で頭からつま先まで15分程度
Static(頚部のみ) 6分
2) SPECT/CT
6度ずつ60 view (180度対向の2つのディテクターで収
集するので実際は 30 step)
1step 47秒撮像、Total SPECT撮像時間は30 x 47 秒
= 23分30秒 +CT撮影時間 約5分 合計 約30分
① Planar画像
Planar画像では多発遠隔転移は認めたものの
詳細な場所は不明であった。
① SPECT/CT 画像
頭蓋骨・左上腕骨・肋骨・肩甲骨・胸腰椎などの
骨転移の詳細な情報を得ることができた。
② Planar画像
SPECT/CT 画像
1塊
Planar画像では縦隔の集積が強く、他の集積部位が見
えにくい。SPECT画像では左後頭骨・右頚部・鎖骨上窩
への転移が同定できた。
③ Planar画像
SPECT/CT 画像
3ヶ所集積が見られるが、
SPECT画像では鼻(赤)と甲状舌管への非特異的集
積(青)と甲状腺床(黄)と診断できた。
甲状舌管への集積は 6/69例で認められた。
④ Planar画像
SPECT/CT 画像
Planar画像で片側性であり頚部への転移を疑ったが、
SPECT画像では歯根部への集積であり歯周炎と診断した。
SPECT/CT画像の併用にて
・場所情報が深まり、転移部位の同定が可能
・他の部位の集積が強いために不明瞭であった
転移部位の明瞭化
・転移か良性疾患への集積かの鑑別が可能
等の診断情報の向上が認められた。
問題点
治療により改善するが完治しない例で、
何回治療を行うかは決まっていない。
131I治療を4回以上施行した60例の臨床的検討
(転移の発見が遅く、広範囲または大きな転移
病巣例が多い)
経過観察群
数回の131I治療で完治していないが、ある程度
の改善を認め、 131I治療を中断し経過観察を試
みた症例。
背景
6例
治癒群
10%
11例
その他群
18%
男性15例、女性45例
治療回数7.5±3.7回
乳頭癌40例、
濾胞癌18例、不明2例
11例
死亡群
18%
総観察期間14.0±8.0年
16例
改善群
49% 経過観察群
(治療中断)
27%
60例
33%
悪化群
16例
治療中群
27%
発症年齢 10~78(39.9±19.1)歳
P=0.009
P=0.011
60
歳
P=0.018
50
P=0.027
47.7
48.5
40
30.9
平均
62.5歳で死亡
30
20
20.3
10
0
治癒群
経過観察群
治療中群
死亡群
組織型
15
16
人
14
10
12
10
5
5
8
5
6
1
1
4
2
0
治癒群
経過観察群
乳頭癌
治療中群
濾胞癌
死亡群
6
転移部位
100%
80%
0
1
0
60%
40%
1
1
2
3
0
2
6
1
1
6
5
1
8
20%
6
0%
3
0
治癒群
経過観察群
肺 骨
骨あり多臓器
治療中群
骨なし多臓器
死亡群
その他
131I治療中断理由(16例)
高齢のため
酸素投与不要 6%
6%
挙児希望
13%
集積減
50%
回数
25%
集積著減
回数
挙児希望
8例
4例
2例
酸素投与不要
高齢のため
1例
1例
経過観察群の検討
(平成16年時点)
9.5±4.7回治療
5.2±2.8年経過
転移部位 回数 最終治療時Tg 中断後Tg 中断時年齢 中断後年数 総観察年数 中断理由
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
頸LN
骨
多臓器
肺
肺
肺
骨
肺
多臓器
多臓器
肺
多臓器
肺
肺
多臓器
肺
4 ?
4
0
5
61
5
23
6
427
7
261
7
9.6
8
1370
9
12
9
0
10
42
11
180
11
109
13
21
16
19
21
1000
低下
不変
不変
不変
低下
低下
低下
不明
不変
不変
不変
不変
不変
不変
不変
不変
69
53
34
50
51
34
52
29
45
39
56
39
55
45
42
40
6
7
3
5
6
2
5
15
7
8
4
4
5
3
6
7
16
22
22
26
13
10
24
23
12
18
26
15
20
14
26
37
高齢
集積著減
挙児希望
集積著減
集積著減
7回終了
7回終了
挙児希望
肺集積消失
9回終了
10回終了
集積著減
集積著減
集積著減
集積著減
酸素不要
平成26年1月での検討
中断 平均15年後
例
1.集積著減
Tg
不変または低下
7
増加・治療再開
1
2. 回数
Tg
不変または低下
3
増加・治療再開
1
3. 挙児希望 再開
子供なし、 4年後 改善
1
子供2人、24年後
悪化 1
4. 高齢、酸素不要
1
• 集積著減例はほどほどの回数で中断
して経過観察しても良いと思われる。
• 集積が残っていても、Tg低下例では
経過観察も可能かもしれない。
• 妊娠のために中断することは可能と
思われる。
• 10回以上は発癌のリスクが上昇する
かもしれない。
転移例の生存率曲線
Generation
Histology
1
1
40-60
.6
>60
.4
.8
Survival
.8
Survival
Papillary
<40
.6
P=0.002
.4
Follicular
.2
.2
0
0
0
25
50
75
100 125 150 175 200
Months
0
25
50
75
100 125 150 175 200
Months
(Kaplan-Meier)