甲状腺機能低下症を目標とした 131 I治療における甲状腺至適吸収線量 東京女子医科大学病院 放射線科 福留 美夏 牧 正子 ・ 松尾 有香・百瀬 満 ・ 近藤 千里 日下部 きよ子 目的 バセドウ病の131I療法は、1998年に退出基準(500MBq) が規定され、大多数が外来治療可能となり、急速に普及 している。 正常機能を目標とした治療は、長期的に甲状腺機能低 下症への移行が避け難く、米国等で提唱されている低下 症を目標とした治療法が推奨されつつある。 本邦においても、安全、且つ確実に低下症に誘導する 131I療法(吸収線量)の確立が求められている。 本研究では、甲状腺機能低下症を目標とした131I療法の 至適線量について、retrospective に検討した。 対象 観察期間:2004年6月‐2007年8月 外来での131I療法施行例 200例 内、初回治療 162例 除外(術後) 12例 対象症例 150例 甲状腺関連の内服薬中止:治療前2週間から ヨード制限食:治療前後の計2週間 甲状腺吸収線量の測定 甲状腺重量(99mTcシンチグラフィー)、 131I 摂取率 方法 投与量の決定:年齢、臨床症状、甲状腺腫、131I検定日 甲状腺吸収線量 (131I 24h uptake, 99mTcO4‐による重量) 重量:Allen‐Goodwinの式 Size (g) = surface area (cm2)×mean of diameter of bil. lobe (cm)×0.323 甲状腺吸収線量:Quimbyの式 Dose (Gy) = (135×131I dose (MBq)×131I uptake (%) ×EHL (day))÷(3.7×size (g)×8×100) 甲状腺機能低下症への移行:LT4補充療法開始時期 治療効果:臨床所見、甲状腺関連ホルモン値から判定 年齢および甲状腺重量 n n 35 男性 60 30 女性 50 25 40 20 30 15 20 10 10 5 0 10 20 30 40 50 60 70 80 (y) (1) (9) (23) (24) (22) (11) (9) (1) (%) 年齢 0 30 60 90 120 150 (g) (31) (42) (19) (4) (1) (3) (%) 重量 対象の背景 家族歴 バセドウ病 15% 9% 131I治療の選択理由 甲状腺疾患 なし 合併症 内服コンプ ライアンス 不良 76% 本人希望 抗甲状腺剤 4% 4% 3% 眼球突出 なし 69% 副作用 30% あり 37% 59% 抗甲状腺剤 難治性 131I 24h uptake n 60 50 40 30 20 10 0 30 40 50 60 70 80 Uptake(%) (1) (1) (5) (18) (43) (29) (3) (%) 131I投与量と甲状腺重量 (g) 200 重量 150 100 50 0 5 10 131I投与量 (5.0‐14.1mCi) 15 (mCi) 131I甲状腺吸収線量(Gy) n 40 30 20 10 0 50 100 150 200 250 300 350 (Gy) (2) (13) (27) (24) (18) (11) (3) (2) (%) 対象の131I甲状腺吸収線量 年齢 47±15 (13‐80) 男/女 29/121 甲状腺重量 (g) 49±35 (8‐232) 131I uptake (%) 63±10 (20‐83) 99mTc uptake (%) 12±8 (1‐38) 甲状腺吸収線量 (Gy) 177±83 (38‐645) 正常値:甲状腺重量 15∼20(g)、 131I uptake 10∼35(%)、 99mTc uptake 0.4∼3.0 (%) 131I治療の効果 奏功群(低下症に移行) 非奏功群 •正常機能 21%(n= 32) (一過性甲状腺機能低下症 8% n= 12) •追加治療を要した症例 9%(n= 13) 追跡不能 治療後に眼症の悪化 内、球後照射を要した症例 67%(n=100) 30%(n= 45) 3%(n= 5) 3例 1例 奏功群のLT4補充療法開始時期 n 30 20 10 0 1 2 3 4 6 12 (month) (4) (8) (38) (28) (14) (8) (%) (ng/dl) 1.0 治療後のFT4値の推移 奏功群 0.5 非奏功群 FT4 低下値 0.0 * P<0.001 * * * ‐0.5 治療前 1 2 3 4 (月) 奏功群と非奏功群の比較 低下症への移行 あり (奏功群) なし (非奏功群) P 年齢 49±15 (13‐80) 43±13 (23‐76) 0.03 男/女 17 / 83 9 / 36 0.66 甲状腺重量 (g) 40±24 (8‐172) 70±46 (21‐232) <0.01 131 I uptake (%) 63±10 (20‐83) 65±11 (20‐82) 0.24 Tc uptake (%) 11±7 (1‐31) 16±10 (2‐38) <0.01 197±87 (54‐645) 133±52 (38‐308) <0.01 99m 甲状腺吸収線量 (Gy) 131I 24hr摂取率と99mTc 20min摂取率 (%) 80 70 摂取率 131I 60 50 40 30 20 0 5 10 15 20 25 99mTc 摂取率 30 35 (%) 奏効率と重量、甲状腺吸収線量 80 80 奏効率 (%) 100 奏効率 (%) 100 60 40 77 20 60 90 79 40 45 20 45 54 61 17 0 30 60 90 (g) (n) (36/47) (49/62) (13/29) 重 量 (2/12) 0 100 150 200 (Gy) (n) (10/22) (22/41) (22/36) (46/51) 吸収線量 奏効率と重量、甲状腺吸収線量 (Gy) 奏功者 吸収線量 600 非奏功者 400 200 0 50 100 150 200 重 量 (g) 重量60g以下における吸収線量と奏効率 * (%) 100 奏効率 吸収線量 (Gy) 奏効率 (%) *P ‐100 67 <0.001 ‐150 76 <0.001 ‐200 62 <0.001 200‐ 94 80 60 94 76 40 67 62 20 0 100 150 200 (Gy) (n) (6/9) (13/17) (21/34) 吸収線量 (46/49) まとめ 甲状腺重量の比較的小さい(<60g)症例が73%を占めた。 1回の131I治療で低下症に移行する奏効率は67%であった。 吸収線量が200Gy以上の症例では、 奏効率が90%であっ た。中でも重量60g未満の症例では、 200Gy以上で奏効 率94%と有意に高かった。 甲状腺重量60g以上の症例の吸収線量は平均108Gyで、 奏効率は32%と低かった。 通常、正常機能を目標に使用される吸収線量(60‐80Gy) では、症例の45%が低下症に移行した。 結論 甲状腺機能低下症を目標とした131I治療は、安全、 簡便、経済的、且つ効果的な治療法であることが示 された。 初回131I治療で90%以上の確実な奏効率を得るた めの至適甲状腺吸収線量は、200Gy以上であるこ とが示唆された。 外来治療で使用できる本邦の131I投与量では、60g 以上の甲状腺重量を有する症例に十分な吸収線 量を与えることは難しく、退出基準を含めた今後の 検討が必要と考えられた。
© Copyright 2024 ExpyDoc