AEC(ASEAN 経済共同体)および実現のため

AEC はどこまで実現するのか
亜細亜大学
石川幸一
1.AEC(ASEAN 経済共同体)および実現のための行動計画
AEC は、ブループリントで 4 つの目標(①単一の市場と生産基地、②競争力のある経済
地域、③公平な経済発展、④グローバル経済への統合)を掲げている。換言すれば、①は
市場統合、②はインフラ整備と共通政策、③は格差の是正、④は対外 FTA、である。①の
市場統合の対象とレベルは FTA プラスであり EPA に類似している。AEC 創設の基本計画
はブループリントであるが、輸送分野を中心に ASEAN 連結性マスタープラン(MPAC)
が作られたほか、主要分野別に行動計画が策定されている。メコン圏の開発のための GMS
計画も輸送を中心にブループリントを補完するなど重層的な計画と実施体制となっている。
2.ASEAN の発表した実施状況
ブループリント実施状況はスコアカードで公表することになっており、2011 年(フェー
ズ 1 と 2)までのスコアカードによると実施率は 67.5%となっていた。フェーズ 3 までの
スコアカードは発表されず、2014 年 8 月に 2013 年末までに実施予定の 229 優先主要措置
の 82.1%を実施したと報告している。2015 年 4 月の首脳会議では、2008 年から 15 年まで
の 506 優先主要措置の 90.5%を実施と発表した。これらの実施率は目標の実施状況を示す
ものであり、自由化の実現状況を示しているとは限らないことに留意が必要である。
3.主要分野の進展状況の評価
国境措置は進展しているが国内措置は遅れている。国境措置である関税撤廃は予定通り
進んでいる。ASEAN6 は 2010 年 1 月にほぼ ASEAN 域内関税を撤廃しており、関税撤廃
率は 99%を超えている。CLMV は 2015 年 1 月に 93%の関税を撤廃し、残りの 7%は 2018
年 1 月に撤廃する。2018 年 1 月には自由化レベルの高い自由貿易地域が実現するのは確実
であり、高く評価できる。一方、非関税障壁撤廃はほとんど進展していない。サービス貿
易交渉は遅れ気味であり、例外分野を認める 15%柔軟性規定があり、かなりの分野が例外
になると思われる。人の移動は熟練労働者が対象であり単純労働者は対象外である。専門
サービスについては、会計士、医師など 8 分野の資格を各国がお互いに認める相互承認取
決め(MRA)が結ばれたが、他国での就労は現状では困難である。域外との FTA では、2010
年 1 月時点で日中韓印豪ニュージーランドとの 6 カ国との間で 5 つの ASEAN+1FTA が締
結・発効しており、RCEP が交渉中である。
域内関税撤廃と対外 FTA を除くと目標を 2015 年末に 100%実現することは難しい。非
関税障壁撤廃、サービス貿易自由化やインフラ建設などは 2016 年以降も継続される。2015
年末の ASEAN 経済共同体の創設は通過点であり、ASEAN は AEC2025 計画を年内に発表
する予定である。