平成 26 年度 第 11 回ビジネスデスクレポート

平成 26 年度 第 11 回ビジネスデスクレポート
ASEAN 経済共同体(AEC)発足に向けて ~ 物流インフラ事情 ~
2015 年 2 月 27 日
近年、中国やインドが台頭する中、ASEAN は、政治・経済的な地位向上を目指し、FTA をさらに進化・
高度化した ASEAN 経済共同体(ASEAN Economic Community、以下 AEC)を 2015 年末に発足させる
予定です。今回のレポートでは、将来の AEC 発足を念頭におきつつ、物流インフラ事情を取り上げます。
1. AEC とは何か?
物流インフラ事情の前に、簡単に AEC の特徴について触れておきたいと思います。
AEC は物 品 ・ サ ー ビ ス・ 人 ・ 資 本 が 自 由 に 移 動 する “ 共 同 市 場 ” で はなく 、 FTA ( Free Trade
Agreement)や EPA(Economic Partnership Agreement)の拡大版といえます。
項 目
EU
AEC
EPA
FTA
関税撤廃
○
○
○
○
○
×
×
×
例えば、関税については、AEC 域内では撤廃されます 共通対外関税
非関税障壁撤廃
○
○
△
△
が、域外に対する共通関税は採用されず、各国個別に サービス貿易自由化
○
△
△
×
規格相互承認
○
△
△
×
課すことが出来ることになっています。
貿易円滑化
○
○
○
△
スリン・ピッスワン前 ASEAN 事務総長の言葉に「EU は 投資自由化
○
○
△
×
人の移動
○
△
△
×
ASEAN の動機だが地域体のモデルではない。開発と
知的所有権保護
○
○
○
×
ASEAN 統合は自らのペースで進める」というものがあり 政府調達開放
○
×
△
×
競争政策
○
△
△
×
1
ます 。AEC は EU のような共同市場を含んだ経済共同
域内協力
○
○
○
×
共通通貨
○
×
×
×
体を目指すものではなく、より緩やかな経済共同体に
○:実現(または目標) △:不十分 ×:未実現(非対象)
欧州連合(EU)とも比較すると分かりやすいと思います。
なると見込まれます。
<出所:JETRO>
2. ソフト面からの物流インフラ事情
上記 AEC 発足を念頭におきつつ、以下、物流インフラ事情について説明します。
まず関税は、前述の通り、AEC 域内では撤廃されることになっています。2015 年末までに全品目の
関税 0%を目指していますが、例外があります。ASEAN10 ヵ国のうち、経済的にも規模の大きい先行
6 カ国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)では、昨年時点で既に 99%以上の関税が
撤廃されていますが、残り 4 ヵ国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)では、関税 0%となっている品目は
全体の 70%超に留まっています。引続き撤廃を進めていますが、同 4 ヵ国の特定品目については
2018 年末迄の猶予が与えられています。
通関手続きにおいては、簡素化・円滑化を図るべく、標準化や電子化、ワンストップサービス化等が
取り組まれています。ただし、いつ目指す姿になるのかは明確となっていません。在 ASEAN 日系
企業からは以下の様な改善要望が上がっています。
1
2013 年 1 月 10 日付 The Nation(タイ英字紙) 「Surin urges ASEAN to think regionally」
● ASEAN 日本商工会議所連合会(FJCCIA)からの通関手続きに関する要望
(2014 年 FJCCIA と ASEAN 事務総長との対話の中で表明されたもの)
① HS 番号判定のための事前教示制度の未導入国における速やかな導入ならびに判定
時間の短縮化などの運用面の強化
② 税関レベルでの関税分類の相違、恣意的分類を避けるための、事前教示に関する
ASEAN ルールの導入
③ ASEAN各国での貨物の輸出入や港湾関連手続のワンストップサービスの早期導入およ
び運用面での課題改善
④ 越境交通協定に基づき、主要国境地点で輸出入国がそれぞれ行っている各種検査を
共同・同時に行うシングルストップ検査の早期実現
⑤ 通関業務における認定事業者制度の各国における運用の徹底、ならびに ASEAN に
おける認定基準の統一化、および相互認証協議の推進
AEC が予定するスケジュールの通り実現するかはいまだ明らかでない面があり、今後、具体的な進捗
状況と制度の導入の実態を見ていく必要があります。
3. ハード面からの物流インフラ事情
ASEAN は、地理的条件から「海の ASEAN(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール)」と
「陸の ASEAN(タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム、いわゆるメコン地域)」の 2 つに分けて形容される
ことがあります。AEC 域内間の物流ハード・インフラを考える場合、前者は海に接しており、シンガ
ポールを中心に整備される港湾インフラが中心となります。一方で、後者は陸続きの部分も多く、
港湾以外にも、道路・橋梁や鉄道による連結性が重要となります。現在域内物流ネットワークに
おいてボトルネックとなっている部分は主に陸の ASEAN に存在する為、以下では陸の ASEAN の
物流インフラの現状について整理します。
昆明
陸の ASEAN の物流ネットワークの中核は、
①南北回廊
北西回廊
アジア開発銀行が主導する大メコン圏(GMS)
ミャンマー
であり、主要ルートとして、①南北経済回廊、
(東西・南部回廊)
ミャンマー側道路
ハノイ
メコン東側に位置するタイやベトナムにとって
は、マラッカ海峡を経由する海上輸送に頼らず、
陸路で短期間・低コストでインド洋へ抜ける物流
ルートの確保という点で非常に重要な意味を
持っています。
東北回廊
東部回廊
ラオス
ネピドー
ビエンチャン
進められています。
特に、②東西経済回廊、③南部経済回廊は、
ベトナム
至昆明
開発プログラムで提唱されている「経済回廊」
②東西経済回廊、③南部経済回廊の整備が
北部回廊
中央回廊
ヤンゴン
ダナン
クイニョン
②東西回廊
モーラミャイン
タイ
バンコク
カンボジア
ダウェー
レムチャバン
プノンペン
③南部回廊
ホーチミン
南部沿岸回廊
ブンタウ
(南部回廊)
ネアックルン橋
以下は、②東西経済回廊、③南部経済回廊におけるボトルネックの例です。
(1)
南部経済回廊 ネアックルン橋
ホーチミン(ベトナム)~プノンペン(カンボジア)間にあるメコン河の渡河手段はフェリーで、
繁忙期には最大 7 時間程度の待ち時間となっています。しかし、今年 3 月には日本の ODA
資金で橋梁が完成する予定で、大幅な時間短縮が見込まれています。
現在メコン河を渡るフェリー
(2)
開通間近のネアックルン橋
東西経済回廊/南部経済回廊 ミャンマー側道路
ベトナム~タイ国内までの道路網整備は進んでいます
が、タイ国境からミャンマーへ入ってしばらくすると山脈
があり、山越えルートは道幅が狭く(実質一車線の部分
もあり)、舗装状態も悪いです。
全通すればタイ~ミャンマー間は、現在の海運による
約3週間から1週間程度(約2週間の短縮)になると期待
されています。ただし、資金の問題に加え、少数民族の
問題もあり、改善には時間を要すると思われます。
ミャンマー ダウェー近くの道路
<写真提供 JETRO>
経済回廊(道路・橋梁)の整備が進む陸の ASEAN ですが、今後経済発展に伴う物流量の拡大が
見込まれる中で、効率的な大量輸送を可能にする「鉄道」の整備の必要性も高まっていると言えます。
現時点ではどこの国の鉄道網も脆弱と言わざるを得ない状況で、国境を超える路線は、タイのレムチ
ャバン港からラオスの首都ビエンチャン間くらいです。また、同路線はさらに中国雲南省まで計画され
ていますが、国境付近が険しい山岳地帯のため開発・実現の目途は立っていません。
加えて、現存する港湾インフラについても課題は多く、内陸港(河川港)であるプノンペンやヤンゴン
は水深がそれぞれ約 5m、9m と浅く大型船が寄港できない為、取扱量に限界があり、外洋に面した
大型港の整備が必要となってきています。その他、大型港であるタイのレムチャバン港も、物流量が
年々増える中、取り扱い能力不足が懸念されています。
しかしながら、昨今は日本や中国をはじめとするインフラ整備支援の勢いが増しており、それら援助も
利用されつつ、ハード面のインフラが日々改善していくことは間違いないと思われます。
以上
(ビジネスデスク 住友商事株式会社)