「テニスのコーディネーション」

7.テニスのコーディネーション
Olivier Bourquin(梅林
薫 訳)
1.はじめに
テニスの本質を理解することは大切である.テニスボールは,同じ場所に,同じスピードで,同じ高
さに,2 度と連続して,来ないのである.それゆえ,適応力が最も重要となる.上手にボールを打つこ
とは,完璧なタイミングが必要であり,リズムも,きわめて重要になる.サーブ・リターンにおいては,
選手は,できるだけ早く反応しなければならなく,反応に対する能力が基本となる.走りながらボール
を打つとき,選手は,足の素早さが必要であり,同時に,インパクトでのスイングが崩れないように注
意しなければならない.それゆえ,上肢と下肢の異なった動きが要求されるのである.ボールに対して
正しいポジションにいるためには,インパクト時にぐらつかないように,安定した支持面をつくらなけ
ればならないし,コートのポジションにできるだけ早くリカバーするために,静的そして動的なバラン
スを維持する能力も大切となってくる.
テニスのコーディネーションに影響する要因の重要性を,いくつか例に挙げて示すことにする.推奨
されるものとしては,低年齢で向上させなければならないコーディネーションスキルである.特に,生
物学的に,身体に影響を及ぼす 6∼12 歳においては,中枢神経系が著しく発達し,新しい経験を獲得す
る時期である.選手がその後,最適にゲームを進歩させていくならば,この時期のコーディネーション
技術の適切なトレーニングが,重要となるであろう.
定義:
コーディネーションは,特定のあるいは別々の動きを同時に,あるいは交互に実行するための筋収
縮のコンビネーションである.
2.多元論(多才)の重要性
子どもは,多才である.動くという欲求,好奇心やいろいろな変化への対応等(新しいゲームを受け
入れる用意があり)の要素を持っている.
多才(多元論)は,種々の理由により必要である.
・ 教育的な観点から
・ 心理学的な観点から
・ 解剖学的,生理学的な観点から
・ 中枢神経系の構造発達の観点から
テニスへの参加そのものがコーディネーション能力を向上させる.子どものトレーニングは,多芸の
方向に焦点をあてるべきである.例えば,テニスの片側だけを使うことは,アンバランスを引き起こし
てしまう.バランスを獲得するためにも,若い年齢においては,両方を発達させなければならない.
女子では 12 歳,男子では 14 歳まで,多才であることは支持されなければならない.さまざまな分野
(スポーツ,芸術など)での早い専門性については,子供の将来性にとって,逆効果になるであろうと
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いう意見が多く言われている.
3.多才やコーディネーションは,なぜ子どもに必要なのか?
・ 運動神経でのコーディネーションを完全にする.
・
身体知
を開花させ,洗練させる.
・ 年齢に合った変化に対する欲求を満たす.
・ 筋力のアンバランスを防ぐ.
・ 左右対称を発達させる.
子どもは,大人のミニチュア版ではない.ロボット(機械的な人間)的に育てるのではなく,できる
だけ,楽しく,そして満足させるよう指導をしていくことが必要である.
4.コーディネーションと技術
コーディネーションスキルは,動きのリズムやテニス特有の動きをコントロールしたり,改善したり
する.これらのスキルは,他の動きと同様,動きの技術を磨かなければならない.
5 つのコーディネーションスキル(方向性,識別,バランス,反応,リズム)がテニスとその動きを
発達させるための要素となる.
方向性:
方向性は,空間への身体の動きやポジション,そしてテニスコートの領域や動きの対照(ボールや
相手,パートナー)へのタイミングを決定する能力のことである.方向性は,空間と時間の方向性と
に分かれる.両者のスキルとも,それぞれの時間で,あるいは同時に行動する必要がある.1つの例
としては,ロブを落とした場合を考えると,ボールを見ながら,早く後ろへ動かなければならなく,
また良いポジションをとり,次の返球(ロブの返球やパッシングショット)をしなければならない.
方向性については,このような状況の本質的なスキル技術といえる.
識別:
知覚に関与しており,内部や外部情報を正しく選択し実行することが要求される.新しい状況への
適応や他の形態を継続するなどを実行するための運動神経と動きの変換能力ともいえる.サーブ・リ
ターンについては,上肢,下肢,身体の部分的なところをうまく調整しなければならない.ファース
トサーブをリターンするとき,選手は,両脚の素早い動き,と同時にリターンをブロックするために
短いスイングが必要となってくる.
バランス:
様々な動きを指示し,コントロールする中枢神経系と直接,関与している.我々の固有受容器は,
身体意識としての内部的なものを表わすバランスに直接関係している.選手の身体意識が高ければ高
いほど(動きを感じることができる能力が高いほど),技術がますます洗練されていくであろう(Le
Guyader, 1999).
身体意識は,静的,動的なバランスが認められている.身体の認識能力をマスターし,運動神経系
のコーディネーションの発達をしていくことは,大変重要なことである.
最大のパワーでボールを打ちたいのであれば,静的,動的なバランスを考えるべきである.
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反応の能力:
単純あるいは複雑な状況を迅速に認識し,それぞれに適した運動を見出すことに関与している.一
般的には,最大スピードでそれを行うことが,要求される.反応の能力は,200km/h のサービスを
返球する,あるいは高速で飛んでくるパッシングショットをボレーで返球するといった,ネットやサ
ーブ・リターンで大変重要となる.この状況では,反応のスピードと反応時間が重要となる.
リズム:
外界から得られたリズムを自分のものとし,動きの中に,リズムを再生する能力のことである.選
手自身が吸収したリズムを表現することが,個人の能力となる.リズムは,すべてのスポーツにおい
て重要な役割を持つ.テニスにおけるよいリズムは,調和のある動きを達成することに関係する.こ
のことは,場合によっては,相手のリズムを混乱させることにも役立つ.多くの選手によって用いら
れているムーンボールや緩やかなボールなどは,相手を戦術的に混乱させるものである.
これらの 5 つのコーディネーションスキルを持つことは,テニスプレーでは,大変意義のあることで
あり,早い時期からこの能力を発達させることは,選手にとって重要なことである.
参考文献
Bourquin, O. Coordination in tennis. In M. Reid, A. Quinn and M. Crespo (Eds.), Strength and
Conditioning for tennis (pp. 70-77). ITF Ltd: London.
Le Guyader, J. (1999). Manual de preparation physique. Chiron: Paris.
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