訪問入浴介護は寝たきりの 状態の方しか利用できないの?

連載 第38回
法令の達人
成澤正則
ケアプランセンター ソラーナ
統括サブリーダー/管理者/主任介護支援専門員
山形県介護支援専門員養成研修講師
なりさわ・まさのり●居宅介護支援事業所の介護支援専門員として利用者の支援を行
う一方,介護支援専門員養成研修,介護サービス事業所や各種団体向けの研修講師も
務め好評を博している。また,介護支援専門員に役立つさまざまなツールを提供して
いる「介護支援専門員である介護福祉士がつくっているホームページ(http://www.
geocities.jp/m_nrsw/)
」の管理者でもある。
訪問入浴介護は寝たきりの
状態の方しか利用できないの?
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先日ご依頼のあった新規利用者の介護サービス
首を縦に振らなかったということがあり,利用せず
利用について教えてください。78歳の男性で,妻
に今日に至ります。今回の入浴の相談を進める中で
と二人暮らしをしています。子どもが2人いらっ
も,通所サービス利用の話を出しましたが,これま
しゃいますが,いずれも遠方に在住しており,年
でと同じく首を縦に振りません。また,自宅は築50
に1度来るか来ないかといった状況で,日常的な
年以上たっており,妻は「人に見せられるような風
介護を担える存在ではありません。しかし,週に
呂ではない」と言い,訪問介護による自宅浴槽を利
何度かは電話を入れてくれており,親子関係は良
用しての入浴も受け入れてはもらえません。
好です。
訪問しパンフレットを使って介護サービスを説
本人の状況は,食事や歩行などに見守り,排泄・
明していると,その中の訪問入浴介護が本人と妻
着替え・整容などに一部介助が必要で,物忘れが
の目にとまり,
「これは利用できないか」と質問
あるため薬の管理にも一部介助,金銭管理には全
されました。しかし,これまで訪問入浴介護を利
介助を受けています。2年くらい前から物忘れが
用してきた利用者は寝たきりの状態の方ばかりで
目立つようになりましたが,介護サービスは利用
す。歩ける方が利用できるサービスなのかどうか
せず,妻が介護してきました。要介護認定の申請
自信がなかったため,
「調べてみます」とお伝え
を済ませ,アセスメントも終えており,見込みで
して事業所へ戻りました。
要介護1になりそうです。妻は,腰が曲がってお
訪問入浴介護事業所へ問い合わせると,
「介護
り,歩く時に太ももへ手をつくといった状態では
保険制度が始まる以前から訪問入浴介護をしてい
あるものの,家事の一切を担い,自立した日常生
るが,歩ける方の利用の相談は初めてです。利用
活を送っています。
できないこともないかもしれませんが,大丈夫と
これまで,妻が背中を流すなどの介助を行うこ
自信を持って言うこともできません」と言われま
とにより自宅で入浴してきましたが,妻に腰痛が
した。
あることから入浴についての相談がありました。
本人は,歩行に見守りが必要なものの,直接手
子どもや近所の方などから,何度か通所サービス
をかけなければならない介助は受けておらず,ま
の利用を勧められていましたが,介護サービスを
た必要もありません。訪問入浴介護は寝たきりの
利用するまでもなく妻で介護できていたこと,何
状態の方に限定して利用できるサービスだと思っ
よりも本人は人付き合いが苦手で地域の会合など
ていたのですが,そのような制限はなく,自分で
にも出ずにいた方なので,通所サービスの利用に
歩ける方でも問題なく利用できるのでしょうか。
達人ケアマネ vol.9 no.5
寝たきりの状態の方に限定していません。
訪問入浴介護は,かつては移動入浴車と呼ばれ
介護保険法では訪問入浴介護を「居宅要介護者
たサービスで,介護保険制度の開始により訪問入
について,その者の居宅を訪問し,浴槽を提供し
浴介護と呼ばれるようになりました。訪問入浴介
て行われる入浴の介護をいう」と定義づけしてい
護の歴史は意外に古く,1970年代の初め,臥床し
るだけで,寝たきりの状態かどうかにまでは踏み
た状態で入浴できるタイプの特殊浴槽が開発され
込んでいません。かつて私が担当していた利用者
たことに始まります。その後,全国各地の社会福祉
で,自宅に内風呂がないけれども自宅で風呂に入
協議会が移動入浴車を導入し,民間でも移動入浴車
りたいという要支援状態の方がおり,実際に利用
事業を始める事業所が増えていきました。市町村に
を開始したことがありましたが,特に問題はあり
おいては在宅福祉サービスとして移動入浴車を位置
ませんでした。
づけるようになり,次第に普及していったのです。
また,2006年には要支援者を対象とした介護予
介護保険制度開始以前の在宅福祉サービスが市
防サービスが創設され,その一つに介護予防訪問
町村の措置による利用だった時代,使用する浴槽
入浴介護が位置づけられました。要支援者という
が臥床した状態で入浴できるタイプのものであっ
と寝たきりの状態をイメージしにくいのですが,
たことから,移動入浴車を利用できる方につい
それでも介護予防訪問入浴介護が利用できる(要
て,「寝たきりの状態」との条件を付ける市町村
介護者を対象とした訪問入浴介護は職員3人体制
がほとんどだったのではないでしょうか。このこ
ですが,要支援者を対象とした介護予防訪問入浴
とから,現在になってもなお,訪問入浴介護の利
介護は職員2人体制)ことから言っても,訪問入
用者は寝たきりの状態の方をイメージしてしまう
浴介護の利用対象者は寝たきりの状態には限定し
のではないかと思います。
ていないと考えられます。
参考資料
介護保険法
第8条
3 この法律において「訪問入浴介護」とは,居宅要介護者
について,その者の居宅を訪問し,浴槽を提供して行われ
る入浴の介護をいう。
介護保険法施行規則
(法第8条の2第2項等の厚生労働省令で定める期間)
第22条の2 法第8条の2第2項から第5項まで,第7項
から第10項まで及び第15項の厚生労働省令で定める期間
は,居宅要支援者ごとに定める介護予防サービス計画(同
条第18項に規定する介護予防サービス計画をいう。以下
第8条の2
3 この法律において「介護予防訪問入浴介護」とは,居宅
要支援者について,その介護予防を目的として,厚生労働
省令で定める場合に,その者の居宅を訪問し,厚生労働省
令で定める期間にわたり浴槽を提供して行われる入浴の介
護をいう。
同じ。),第83条の9第1号ハの計画,同号ニの計画又は
第85条の2第1号ハの計画において定めた期間とする。
(法第8条の2第3項の厚生労働省令で定める場合)
第22条の4 法第8条の2第3項の厚生労働省令で定める
場合は,疾病その他のやむを得ない理由により入浴の介護
が必要なときとする。
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指定居宅サービス等の事業の人員,設備及び運営に関する基準
(従業者の員数)
第45条 指定訪問入浴介護の事業を行う者(以下「指定訪問
入浴介護事業者」という。
)が当該事業を行う事業所(以
第四節までにおいて「訪問入浴介護従業者」という。)の
員数は,次のとおりとする。
一 看護師又は准看護師(以下この章において「看護職員」
下「指定訪問入浴介護事業所」という。
)ごとに置くべき
という。) 一以上
指定訪問入浴介護の提供に当たる従業者(以下この節から
二 介護職員 二以上
指定介護予防サービス等の事業の人員,設備及び運営並びに指定介護予防サービス
等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準
(従業員の員数)
第47条 指定介護予防訪問入浴介護の事業を行う者(以下
「指定介護予防訪問入浴介護事業者」という。)が当該事業
おりとする。
一 看護師又は准看護師(以下この章において「看護職員」
を行う事業所(以下「指定介護予防訪問入浴介護事業所」
という。) 一以上
という。
)ごとに置くべき指定介護予防訪問入浴介護の提
二 介護職員 一以上
供に当たる従業者(以下この節から第五節までにおいて
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「介護予防訪問入浴介護従業者」という。)の員数は次のと
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