カチオン性ポリビニノ゛アルコール誘導体の調製および その凝集効果 西 内 豊 道・小 林 辰 至 (教育学部有機化学研究室) Preparation and Flocculation Effect of a Cationic POly(vinyl alcohol) derivative Toyomichi NiSHIUCHI and Tatsushi Chemistr:y, (I KOBAYASHI Faculりof Education) ^aboratory of Organic Abstract The reaction conditions were investigated to prepared a water-soluble alcohol) (PVA) derivative containing triethylammonium chloride group. ability of the product was examined in the ・kaolin suspension. cationic poly (vinyl and the flocculating When poly 【vinyl a】cohol) treated with 7・fold moles against PVA of epichlorohydrin in 15∼ 20%HCOOH solution containing 10・fold waight of water against PVA at 70°Cfor 10∼30 hours, the degree of etherification of the product indicated 5∼6%.Thedegree of etherification increased gradually with repeating the reaction. When 1 % aqueous solution of the etherified PVA (degree of etherification = 13. 6^) was treated with 7.fold moles against ethe:ified PVA of friethylamine at 40°Cfor 10 hours. 30∼40% of Cl in etherified PVA was converted into triethylammonium chloride group. This product showed a floccu】ating action in the kaolin suspension. The rate of sedimentation was The 3∼4ctn/min on addition of 0.1∼4%(baSed on kaolin) of the product to kaolin suspension. clarification of the kaolin suspension was satisfactory when 0,5%(based on kaolin) of the product was added to the suspension. 1.緒 言 エピクロロヒドリンは硫酸1’ ,三フッ化ホウ素2)などの酸性触媒存在のもとにアルコール類と反 応して,グリセロールーα−モノクロルヒドリンエーテル(1−アルコキシー2−ヒドロー3−クロルプロパ ノール)を生成することが知られている.西内3’は高分子多価アルコールであるポバール(PVA) とエピクロロヒドリンとの反応条件について検討しているか,この生成物は反応性の塩素原子をも っているので第三級アミンを作用させて第四級アンモニウムを含むカチオン性高分子を調製でき る. そこで本報では蟻酸触媒存在下における最適エーテル化反応条件および,第四級化条件の最適条 件を検討し,また,その利用法として凝集剤としての効果についても検討したので,それらの結果 をここに報告する. 2.実 験 方 法 2.1 試 薬 ポバール(PVA)は倉敷レイヨン(株) PVA-117 (平均重合度1725,齢化度98.8モル%)を そのまま用いた.エピクロロヒドリン,アセトン,蟻酸,トリェチルアミンなどは市販一級試薬を そのまま使用した. 82 高知大学学術研究報告 第27巻.自然科学 2.2 エーテル化ポバールの調製法 I PVAをフラスコに秤取し,これにエピクロロヒドリンおよび蟻酸を添加し,密栓をした後所定 温度で所定時間振り混ぜ,反応させた.反応後,大息のアセトン中で膜状に凝析3)さ甘,ついでこ れをSoxhlet抽出器を用いてアセトンで充分洗浄した後,室温で減圧乾燥した・ 2.5 エーテル化ポバールの四級化 エーテル化ポバール水溶液にトリェチルアミンを添加したフラスコを`密栓した後,所定温度,所 定時間で撹伴しながら反応させた.反応終了後,生成物をシャーレに流し込み蒸発乾固させた後こ れをはがし取りSoxhiet抽出器を用いてエーテルで充分洗浄し,室温で減圧乾燥した. 2.4反応生成物の分析 精製エーテル化物のエーテル化度は,その塩素含豆kをフラスコ燃焼法4)により定量し,反応率を 算出した.四級化物は精製物中の窒素2をKjeldahl法により求め,反応率を算出した. 2.5 凝集試験 2. 5. 1 沈降速度の測定 25 ml 目盛付き共栓沈降管にあらかじめ105°Cで3時間乾燥し170メッシュ,のふるいを通過した 局方カオリン(関東化学製)を1g入れ蒸留水でよく懸濁させ,これに所定量の四級化物水溶液を 加え,蒸留水で全液量を25 m!.とし,ただちに管を20回転倒させた後静置し,一定時間ごとの沈降 界面の目盛を読み,グラフから等速沈降部分の速度を沈降速度とした.なお,測定は室温(20°C) でおこなった. レ 2. 5. 2 清澄度の測定 沈降速度測定と同様の方法で管を20回転倒し,15分開静置後の上澄液をColeman分光光度計を 用いて波長660 nm での透過光吸光度を測定し,あらかじめJIS-0101に準じて作製した標準濁度 規準液による検量線と対照して濁度を求めた. ろ,結果および考察 ろ ろ 1 1 エーテル化反応条件の検討 I PVA濃度の影響 PVA 2.0g,エピクロロヒドリン . 14.2ml (PVAに対するモル比4.0) ︵%)uoneo(iijau)a lo aajSan および10%の蟻酸を含む反応系にお いて,エーテル化度におよぼすPVA ,水溶液濃度の影響を検討した結果を 図1に示した.その結果, PVA濃 度が5∼10%の場合に比較的高い反 応率が得られた.1へ・2%の場合に は,反応生成物がアセトン中で完全 に凝析しなかった.また, 15%の場 合には反応率か低下しているが,こ 5 10 15 〔PVA〕(%) Fig. 1 Effect of the concentration of PVA れはPVAが水に充分溶解せず均一 な反応系にならなかったためと考え solution られる. ・8ろ ろ.1.2 触媒濃度の影響 ・・・ PVA 2.0g,エピクロロヒド・リジフ.lml(PVAに対ずるモル比4)およびPVA・水溶液濃度か 5%になるように添加した種々の濃度の蟻酸を含む反応系において,反応率iごおよぼす蟻酸濃度の 影響を検討した結果を図2に示した.その結果,触媒濃度か15∼20%の場合に比較的高い反応率が 得られた. ●犬 I’ 6 ︵畿︶U0tE3!}U3lJ13 }0 33J33Q 1 0 5 10 ●. 〔HCOOH〕(wt Fig. 5. PVA 2 Effect of the 20 15 25 %) concentration of HCOOH solution 1 .ろ エピクロロヒドリン添加量の影響 2.0gおよびPVA濃度か10%になるように20%蟻酸を添加した反応系においてPVAに 対する添加エピクロロヒドリンのモル比がエーテル反応におよぼす影響について検討した結果を図 3に示した.その結果,モル比が7に増大するまでは徐々に反応率が上昇したか,それより大きく ● ● ゜ ●● なると反応率は低下した● ご ●. 6 ︵∼︶uoiiBoijiJaqia lo asjSag χ 1 0 2 4 6 8 10 Epichlorohidrin/PVA (molar ratio) Fig. 3 Effect of the quantity of epichlorohidrin used 84 ・・ 高知大学学術研究報告 第27巻 自然科学 5. PVA 1 . 4 反応温度の影響 2.0 9, エピクロロヒドリン24.9 ml (PVAに対するモル比7)および20%蟻酸をPVA 濃度が10%になるように添加した反応系において,外浴温度がエーテル化反応におよぽす影響に ついて検討した結果を図4に示した.本反応は硫酸を触媒に用いた場合には激しい発熱反応がおこ り,外浴温度40°Cで反応が平衡状態に達することが西内3りこより報告‘されている.しかし,蟻酸 を触媒に用いた場合は激しい発熱は起こらず比較的ゆるやかに反応が進み,外浴温度が70°Cに達 するまで反応率は徐々に上昇した. 二 5 哀︶U0pe3!IIJ3U)3 10 saassQ 1 0 30 40 50 60 。70 ・ Bath Fig. 4 Effect temperature of bath 80 90 (C°) temerature 5. 1 . 5 反応時間の影響 PVA 2.0g,エビクロロヒドリン24.9 ml (PVAに対するモル比7)および20%蟻酸をPVA 濃度が10%になるように添加した反応系において,反応時間かエーテル化反応におよぼす影響につ いて検討した結果を図5に示した.反応開始後10時間まで反応率は比較的すみやかに進み,その後 は30時間までゆるやかに上昇した. 8 ︵次︶U0!1E311U3q)9 10 39j33n 0 5 10 Time Fig. 5 Relationship between 20 15 25 30 (hr) the degree of etherification and the reaction time 85 5.1.6 反応回数の影響 PVA 2.0 9,エピクロロヒドリン17.8 ml 10 (PVAに対するモル比5)および20%蟻酸を PVA濃度が10%になるように添加した反応系 において,外浴温度60°Cで5時間エーテル化 ヽ一 uoijBDiiuaina io ssjSag 反応を行う操作をくり返した場合のエTテル化 8 屁 度の変化について検討した結果を図6に示した .図より明らかなように,一回の反応につきエ ーテル化度は約5%ずつ直線的に上昇した. 5.2 四級化条付の検討 ろ. 2. 1 トリエチルアミン量の影響 エーテル化度7.3%のエーテル化ポバール水・ 2 溶液(1.0%)にトリェチルアミンを所定のモ ル比になるように添加し,外浴温度40°Cで5 0 時間反応させた場合のアミソモル比の影響につ 1 2 3 4 いて検討した結果を図フに示した.モル比が増 Repeating number 大するに伴って反応率は,やや増大したが相互 Fig. 6 Effect of of the reaction the repeating reaction に大きな差は認められなかった. 5. 2. 2 反応温度の影響 テーテル化度7.3%のエーテル化ポバール水溶液(2.5%)にモル比4.5のトリェチルアミンを 6.1ml加え,所定温度で5時間反応させた場合の四級化度におよぽす反応温度の影響にr=)いて検 討した結果を図8に示した.反応率は,40°Cで最高を示し,それより高温の場合は低下した. 20 20 涙 6 2 8 1 U015J3AU03 12 8 (10 uo pssBg︶U0ISJ3AU0'︶ 1 6 1 ︵畿︶︵︷QO0p9Seg} W 4 4 0 0 2 4 6 20 40 60 80 Molar ratio Bath Fig. Fig. 7 Efifet of molar ratio of triethylamine toetherified PVA 8 Effect temperature (゜C) of bath temperature ・86 ・ .高知大学学術研究報告 第27巻 _自然科学’ 5. 2.ろ 反応時間の影響 耳−テル化度7.3%のエーテル化ポバール水溶液(1.0%)にモフレ比4.5のトリェチルアミンを 6.rml加え,外浴温度40°Cで所定時間反応させた場合の四級化度におよぽす反応時間の影響につ ぃで検討した結果を図9に示した.反応開始後10時間まで床応率は徐々に上昇したが,それ以後は 平衡状態に達した.本試料ではエーテル化物中のCIのわずか18%か四級化されてぃるにすぎない. 16 沃 ヽヽ一 12 8 4 ︵一UC01SQ︶U01SJ9AU0f︶ 0 5 10 15 20 Time (hr) Fig. 9 Relationship between the reaction time and the conversion into the quarternary ammonium salt ろ. 2. 4 エーテル化ポバール水溶液濃度の影響 エーテル化度13.6%のエーテル化ポバールを所定濃度になるように蒸留水に溶解し,これにエー テル化ポバールに対するモル比4.6のトリェチルアミン5.6mlを添加して,外浴温度40°Cで6 時間反応させ,エーテル化ポバール水溶液濃度か四級化におよぼす影響にういて検討した結果を図 10に示した.反応率ぱ1%の場合に高い値を示したか0.5∼5%の範囲では,大きな差は認められな かった, y ク 哀︶(13 uo psseg) uojSjaAUOQ 0 Concentration (wt %) Fig. 10 Relationsip between the concentration of aqueous solution of etherified PVA and the conversion into the quarternary ammonium salt・ 87 5.3 凝集効果 ろ.ろ.1 凝集効果におよぼす四級化物の添加量の影響 エーテル化ポバール中のC1の34%が四級化されたカチオン性高分子の1%水溶液に?いて,カ オリンに対する添加量が沈降速度におよぽす影響を検討しか結果を図11に示した.添加量はノカオ リンに対する重量百分率で表わした.凝集効果は添加量4%で最も優れており,次いで0.1∼2%で 比較的良好な結果が得られた., 丿 5 ?E`Eu︶9)t!J U0!)e)U3UIip9C 1 0 2 4 6・ 8 10 Amount Fig. of floccu】ants added 【%to kao】in) 11 Relationship the amount between of flocculants the sedimentation rate and added 5. 5. 2 濁度におよぼす添加量の影響 四級化物水溶液(0.1%)の添加量と上澄液濁度との関係を検討し図12に示した.添加量0.5%の 2000 ‘ 0 0 ︵Edd) uoi]Ej;u3ouo3 uoisuadsnc 0 0 2 4 6 8 10 Amount of f】occulants added (% to kaolin) Fig. 12 Relationship between the sedimentation rate and the amount of flocculants added 88 高知大学学術研究報告 第27巻 自然科学 場合に最も清澄効果が優れており,1%以上添加すると次第に清澄効果は低下した.これは,カオ リン粒子にカチオン性高分子が過剰吸着され,正電荷同志の反発により粒子が再分散したものと考 えられる. j ろ.5.ろ 凝集効果におよぼすpBの影響 四級化物の凝集効果におよぽすpHの影響について検討し図13に示した.その結果,中性領域 で良好な効果が認められた.ただし,pH調節は0.1N HoSO・4および0.1N KOH 水溶液を用 いて行った. 4 (UIUI/UID︶aiej uonBiusuiipsc 1 3 5 7 9 n 13 pH Fig. 13 Effect of pH 4.総.’ 括‘ PVAをエピクロロヒドリンでエーテル化し,次いでトリェチルアミソを反応させてトリェチル アンモニウム基を含む水溶性のカチオン性高分子を製造する最適条件を検討した結果,エーテル化 反応はPVA濃度10%,触媒濃度15∼20%,PVAに対するモル比フ,外浴温度70°C,反応時間10 ∼30時間の条件で同様の操作を数回くり返すと反応率が高いエーテル化ポバールが得られることが 明らかとなった.四級化は,エーテル化ポバール水溶液濃度1%,エーテル化ポバールに対するモ ル比7,外浴温度40°C , 反応時間10時間の場合に最も高い反応率を示すことが明らかとなった. このようにして調製されたこの水溶性のカチオン性高分子は,カオリンに対して0.1∼4%の添加 量の場合にすぐれた凝集効果を示した.清澄効果は0.5%(カオリン)のとき最も良好な結果が得 られた.また中性領域ですぐれた凝集効果を示すことが明らかとなった. 終りに本研究を行うにあたり,試料のポバールの提供を受けた倉敷レーヨン株式会社に感謝する. 文 献 D F. Gallards, M. PoUardj J.Org. Chem., 1 2, 831 (1947). 2) A. A. Petrov, J. Gen. Chem. (U.S.S.R.), 10, 981. (1940) ;C. A., 35, 3603 (1941). 3)西内豊道,高知大学教育学部研究報告,第3部 第27号(197‘5). 4) “有機微n定豆1分析″南江堂(1969) p. 383 (昭和53年9月7日受理) (昭和54年3月16日発行)
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