加賀東谷伝建地区における、4 集落それぞれの特色を活かした地域活性化

地域課題研究ゼミナール支援事業
加賀東谷伝建地区における、4 集落それぞれの特色を活かした地域活性化
指導教員
石川工業高等専門学校
参加学生
寺内鈴音・田村奈巳・北山勝哉・河野
1.
建築学科
教授
道地慶子
誠・廣瀧あかり・明庭久留実
調査研究成果要約
今後の来訪者の増加を見据え、また、地域を広く知ってもらうために魅力向上の面に特に力を注いで
活動を行った。学生が地域の抱えている課題にさまざまな視点から解決策を探り、この地域の魅力を発
見した上でそれらを取り入れた提案を行った。これらにより住民のまちづくりへの関心度は高まったが、
住民との意見の合意を図ることは容易ではなく、改めて地域住民・行政・学校の三者協同での取り組み
事業の難しさと話し合いの大切さを経験した。
2.
調査研究の目的
現在も伝統的な山村集落や周辺環境が色濃く残っているこの地域において、荒谷・今立・大土・杉水
の4つの集落の回遊性を充実させ来訪者にとっての魅力を高めるよう、拠点施設と地区内の散策路の整
備を行う。また、平成 23 年度に国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された後の交流人口増加
を見据え、地域住民・行政・学校の 3 者協働によるまちづくりを行い、将来的に住民を主体としたまち
づくり活動の実現を目指している。具体的な活動内容としては、25 年度、地域貢献型学生プロジェクト
推進事業として行った「山野草カフェ」裏のガーデン整備や、地区内の特徴・概要などを記した「まち
歩きマップ」の作成、地域の収入源である「土産品・特産品」の開発・作成および「新保の池」の保全
活動および整備である。
地元保存会のメンバーは主に 30 代以降の男性で、70%以上を 60~75 歳が占めており、特に情報発信
や情報共有に利用される SNS サービス等に関する学生からの支援が必要であるとこれまでの活動の中で
明らかになっている。また、地区内の魅力向上を図るとともに、かつてから培われてきた里山ならでは
の風情ある景観の保全活動も同時に進める必要がある。それにより最終的には U ターンや I ターンによ
る定住人口の増加を図ることができ、地域の活性化につながることを目的とする。
3.
調査研究の内容
表1
年間スケジュール
日時
内容
日時
内容
5 月 24 日
現地視察・調査
11 月 15 日
整備
6月3日
提案会議
11 月 22 日
整備の準備・材料搬入
6 月 21 日
山野草ガーデンの整備・現地調査
11 月 25 日
提案会議
8月6日
住民説明会
12 月 15 日
提案会議
8 月 25 日
高専女子フォーラム
1 月 16 日
提案会議
8 月 27 日
提案会議
1 月 22 日
提案会議
10 月 19 日
提案会議
1 月 27 日
提案会議
10 月 29 日
提案会議
2 月 21 日
報告会
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(天候不良のため中止)
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25 年度は、
「住民が主体的・持続的にまちづくりを進めていくための足掛かりとなる活動」を目的と
して行った。活動内容として、拠点施設の整備や同市の加賀橋立地区のイベントへの参加、ロゴマーク
のコンペを開催し情報発信等を行ってきた。学生が活動を通して東谷の良さを見つけることで住民が地
域の魅力を再認識でき、まちづくりへの関心を持つきっかけとなった。
26 年度は、東谷の景観を保全する整備を行うとともに地域活性化につながる活動に取り組んだ。25
年度は「地域貢献型学生プロジェクト推進事業」として、金沢工業大学
谷研究室、金沢美術大学
鍔
研究室と本研究室の 3 研究室共同で活動を行っていたため、26 年度もこのふたつの研究室の協力を得て
活動を継続した。
1)引継ぎ活動・現地調査
今年度最初の活動として、5 月 24 日、地域の方への挨拶と顔見せおよび昨年度までの活動の確認をす
るため、「山野草カフェ」
、「新保の池」、「旧道」および「杉水町の川」の現地視察を行った。それによ
り今年度新しく参加した学生たちの加賀東谷地区への理解を深め、今後の取り組みにつて考察した。
現地視察で現在の東谷の状況を把握した後、昨年度の反省点も踏まえながら 1 年間の大まかな流れを
確認し、活動がスムーズに進むように打ち合わせを行った。
図 1.現地調査の様子(1)
図 2.現地調査の様子(2)
2)「山野草カフェ」ガーデンの整備:撤去作業
平成 23 年度から継続して行ってきた活動であったが、持ち主の意向により今後は手を付けられない
ことが決まった。6 月 21 日、昨年度の整備活動で行ったガーデンのレンガ道のレンガとセメントの除去
を行い元の庭に復元した。
図 3.レンガの道
図 4.レンガ・セメント撤去後
図 5.レンガ撤去作業
3)「新保の池」整備の説明会
「新保の池」の今後の活動方針を住民の方に理解してもらうために、6月8日、整備方針、整備する
理由、完成像および住人との関わり方などを説明した。その場では以下のような住民の反応、意見を聞
くことができた。
・
「新保の池」は今立の発祥の地なので、発祥地らしいメインスポットとなるような場所にしてほしい。
・東谷を紹介する際に「新保の池」を訪れる機会があるので、見栄えが良いものにしてほしい。
・丸太や石などをベンチ代わりにして、なるべく手を加えずに自然のままの広場にしてほしい。
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・2 年後に行われる伝建地区の大会で胸を張って迎えられるようにそれまでに整備を行ってほしい。
これらの要望から、新保の池を観光資
源の拠点として、また、住民の休憩場
所として、2 年以内で計画し実現する
こととなった。
図 6.「新保の池」の説明会の様子(1)
図 7.「新保の池の説明会」の様子(2)
4)イベントでの活動の発表
8 月 25 日に富山で行われた「高専女子フォーラム」※に参加し、
午前は女子中学生・保護者を対象に、午後は企業関係者を対象に
東谷地区でのこれまで行ってきた整備活動についてポスター発
表を行った。実際に行っている活動を説明することで自らの理解
度も深まり、何人もの人が取り組みに興味を持ってくれた。
図 8. 高専女子フォーラム in 東海北陸
図 9.ポスター(1)
※
高専女子フォーラム
高専の女子学生たちが、自分たちの言葉で自分たちの姿を発信するイベントで、
専門教育や研究、学生生活、課外活動などを通して、自分がどう成長したのかを発表し、
自分の理解を深めるとともに、高専女子に対する認識の向上を目指している。
図 10.ポスター(2)
図 11.高専女子フォーラム
5)提案会議
今立の発祥の地であり、住民にとってもなじみ深い場となっている「新保の池」に関しては昨年度か
ら計画に着手しているが、昨年度作成した図面に情報不足な箇所が確認できたため、今年度再度測量を
行い正確な図面の作成に取り組んだ。
上記の住民への説明会で出た「新保の池」に対する意見をまとめ、住民たちが希望していることやこ
れまでとの変更点等、以下の点を計画に反映させることとなった。
・日陰がないので、高木を一本植えてまわりにベンチを置く。
・木道を作るよりもウッドチップを敷いた道が良い。
・整備時に地面の様子を確認し、ベンチなどの配置を考えていく。
・山野草カフェささゆりガーデンで使用していたレンガの再利用をする。
・人工的な広場にならないようにあまり大幅な変更を行なわず、その場を活かしたものを利用した自然
な広場を目指す。
これらを踏まえた上で、いくつかの案を考え、話し合いを重ね、最終案を作成し、図 13 に示す最終
計画(案)をまとめた。その後も、材料の選定や今後の活動につて話し合うため提案会議を開催した。
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図 12. 提案会議の様子(1)
図 13. 提案会議の様子(2)
【提案ポイント】
⑦
①観光資源である赤瓦のチップの通路
④
①
②シンボルツリーのカツラの木
③影の方向を考慮したツリーの配置
⑥
②③
④山野草カフェガーデンの整備で使用していたレンガを通路に使用
⑤コンクリートのマスのふたを使用したスペースとタマリュウの栽植
⑤
⑧
⑥元の広場の状態を残している
⑦ヤマブキやアジサイの低木を施し、緑地の中に変化を持たせている
⑧間伐材や石材などをそのまま使用したベンチの配置
図 14.「新保の池」最終計画(案)
4.
調査研究の成果
現在の加賀東谷では、平成 23 年度に伝建地区に選定されてから観光スポットとなる拠点がないこと
が課題として挙げられ、昨年度に引き続き今年度もその課題に取り組んできた。昨年度作成した「新保
の池」の提案を踏まえた上で、東谷の豊富な観光資源を取り入れ魅力ある交流の場となる提案を行うこ
とができた。その際、住民説明会により住民の意見を大いに反映することができた。また、拠点となっ
ている「山野草カフェ」をより魅力的にしようと 23 年度から行ってきた裏庭のガーデンの整備が中止
となったことにより、意見の合意を図る話し合いの重要性を改めて学んだ。加賀東谷地区は雪深い山村
地域で整備の期間が限定されるため、計画通りに活動を遂行するためにはもう少し早い時期から活動を
開始する必要がある。
5.
来年度の調査研究計画
まず、今年度作成した「新保の池」の計画の完成をめざし購入済みの材料により来年度早期の段階か
ら整備に取り組む。また、28 年度に加賀市で開催される「重要伝統的建造物群保存地区」の全国大会に
焦点を置き、さらなる周辺環境の改善や道の整備や改善等東谷の魅力向上に取り組み、情報発信や情報
共有に利用される SNS サービス等の利用も始める。課題としては、4 集落のうち、荒谷、今立の整備に
は着手したが、杉水、大土について検討する必要を残している。
6.
調査研究に対する地域からの評価
「新保の池」の整備の住民への説明会より、住民からこの活動についての期待度高いことがわかった。
また、住民の方が「新保の池」の草刈りを自主的にしてくださるようになり、徐々に住民間で学生の活
動の認知が広まり関心を抱く人が増えたことが感じられた。
今後は、整備活動の際に住民の協力を得て更なる観光資源を活用しての魅力向上に努める。また、こ
れまでより住民の要望を知る機会を設け、住民が主体となって活動する仕組みの構築を目指していく。
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