2.漁具シミュレーションツールを用いたしらす船曳網の省エネルギー化

2.漁具シミュレーションツールを用いたしらす船曳網の省エネルギー化
水産工学研究所 鈴木 勝也・山﨑 慎太郎・溝口 弘泰・長谷川 勝男
近畿大学
髙木 力
概
要
しらす 2 艘船曳網は漁業者により様々な漁具漁法改良の試行錯誤が行われてきたが、
その目的は主に漁獲重視であり省エネルギー化に対しては改善の余地が残されている。
本研究では、当該漁業における漁具の動態および燃油消費量等に関する実測調査を行う
と共に、漁具形状および作用荷重をコンピュータ上でシミュレートする手法を導入し、
当該漁業の省エネルギー化のための漁具の運用方法および改変方法を検討する。実測調
査の対象は、袖網部 110 間網(A 丸網)、120 間網(B 丸網)、60 間網(C 丸網)の 3 種類と
した。測定項目は網口上下の深度および曳綱張力、各船の燃料消費量および機関回転数
とした。曳網条件は、底層-中層-表層曳きとし、中層曳きにおいて機関回転数を A 丸で
は 3 段階、B 丸では 2 段階に変化させた。各網漁具に対して、漁具構造を多数の質点と
それぞれを接続する仮想のバネで表す計算用モデルを作製した。作製した各漁具のモデ
ルにより実測時の曳網条件でのシミュレーションを行い、網口深度および曳綱張力の実
測値と比較したところ妥当な結果が得られた。省エネルギーとなる漁具運用方法として、
基準曳網容積あたりの燃料消費量が最少となる船間距離をシミュレーションにより試
算した。その結果、網規模の大きい A 丸網および B 丸網では船間距離 120~140m での曳
網において燃料消費量が最少となり、網規模の小さい C 丸網では船間距離 60~80m で燃
料消費量が最少となった。網規模に応じた適切な船間距離で運用することで、曳網時の
燃料消費量を削減できると考えられた。漁具改変の効果を評価するため、浮子沈子強度、
袖網の網糸径、浮子個数の改変による漁具抵抗および網口形状への影響について検討し
た。浮子沈子強度を強くすると網口は高くなり抵抗は増大した。袖網の網糸径の改変で
は、網糸を細くすると抵抗は軽減されるとともに網口幅が狭まった。網糸微細化と、浮
子-沈子強度の改変や船間距離の調整などを複合的に行うことで、網口面積を保持した
省エネルギー化が実現できると考えられた。浮子の総浮力を保持して個数と 1 個あたり
の浮力を変化させた改変では、個数を減らし 1 個あたりの浮力を強くすると、漁具抵抗
が低減される一方で網口形状はほぼ変化せず、漁獲性能への影響は小さいと考えられた。
省エネルギー型漁具を開発する上で、設計段階で改変の効果を事前予測できる手段とし
て、漁具シミュレーション手法の有用性が示された。
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2. 漁具シミュレーションツールを用いたしらす船曳網の省エネルギー化
2.1 計画の概要
しらす船曳網漁業の盛んな遠州灘や伊勢湾において、漁場に近い地区の船に比べ漁場に
遠い地区の経営体は、燃油コストが大きいなど経営面からも経費支出の削減が課題である。
愛知県南知多地区のしらす船曳網漁船は大量漁獲を指向する漁業構造の傾向にあり、高出
力エンジンの搭載、漁具の大型化など過剰装備・過当競争が顕在化している。そこで、し
らす船曳網操業の省エネルギー化方策の技術導入について取り組む。
21 年度は、しらす2そう船曳網操業時の燃油消費量、曳網張力等を袖網部がそれぞれ 100
間、120 間と異なる2ケ統について調査した。調査結果として曳網時の張力は両者とも 2.5
tと同等であり、曳網中の燃料消費量は約 40L/h と大きいことが分かった。曳網時の燃油
消費の削減には漁具の抵抗軽減が不可欠である。そのためには、網構造や網糸径など詳細
に抵抗評価が可能な漁具のシミュレーションモデルの構築が課題となる。
これまで、しらす船曳網漁業者により様々な漁具改良の試行錯誤が行われてきた経緯が
あるが、その目的は漁獲重視であり省エネルギー化に対しては改善の余地が残されている
と考えられる。
事前調査によれば、静岡県の駿河湾地区のしらす船曳網は袖網部が 60 間と篠島の 120 間
に比べて約半分である。22 年度は、この漁具の動態調査も進め、曳網張力および燃油消費
量等への網規模の影響を比較評価する。また、しらす船曳網漁具をコンピュータ上で網構
造や目合い・網糸径などと漁具抵抗および網なりをシミュレーションする手法を導入し、
現地での漁具動態の計測と合わせて検証を進める。このシミュレーションツールによって
漁具の省エネルギー化など漁具の改変方法を示し、しらす漁業の省エネルギー化方策を提
示する。一連の取り組みフロー図を以下に示す。
漁具シミュレーションツールを用いたしらす船曳網の省エネ化
現地ニーズ
調査研究の内容
調査研究の出口
1. 実船による漁具動態調査研究
• 操業経費支出の削減
• 燃油使用量の削減
• 船曳網漁具動態の把握
• 省エネ化漁具の模索
• 新技術導入による操業の
効率化
・網規模,地域の異なるしらす船曳網の漁具動態調査
(曳綱張力,網立ち,曳網速度,燃油消費特性など)
シミュレーションツールの検証
• 漁具シミュレーションツールの構築
• 省エネ化のための漁具運用方法の提示
(船間距離,曳綱長さ等)
2. 船曳網漁具のシミュレーション
・しらす船曳網構造,寸法等の計測
・漁具シミュレーションツールのしらす網への適用
・漁具シミュレーションツールの検証
・省エネ化を目的としたパラメトリック解析
• 省エネに有効な漁具の具体的改変手法
の提示
現地説明会等で漁具の省エネ化に係わる意見交換
図 1 しらす船びき網の取り組みフロー図
2.2 調査研究の内容
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