本船荷役のパターン区分を考慮した ヤードトレーラー動的

第132回講演会(2015年 5月28日, 5月29日) 日本航海学会講演予稿集 3巻1号 2015年4月30日
本船荷役のパターン区分を考慮した
ヤードトレーラー動的運用の効果
正会員 〇西村 悦子(神戸大学)
非会員 山下 太郎(神戸大学海事科学部)
要旨
コンテナ船の大型化に伴い、コンテナターミナルではさらなる高度な運用方法が求められている。本研究
では、ヤードトレーラーの運用方法に着目し、これをコントロールする方法について提案する。特に同時期
に本船荷役を行う岸壁クレーン間で各々の作業状態の組合せが作業効率にどのように影響するかを調べる。
計算結果より、稼働中の QC 数や配置場所の組合せによって効果は異なり、特に陸揚げ作業と船積み作業が
隣り合うケースで提案する方法の効果が高いことがわかった。
キーワード:物流・海運、コンテナターミナル、ヤードトレーラー
1. はじめに
そこでより精緻な分析を行うことを目的とする。
2006 年に 10,000TEU 超のコンテナ船が登場して
2. 関連研究における本研究の位置づけ
から、ますます巨大化しており、2014 年 12 月には
CSCL Globe(19100TEU 積み)、2015 年 1 月には MSC
コンテナターミナルを対象に、ビークルスケジュ
(1)
Oscar (19224TEU 積み)が運用を開始している 。
ーリングに関する研究で最も多く研究者が取り扱っ
この大型化の効果を発揮するためにも、寄港地で
ているのは、Automated Guided Vehicle(AGV)であ
一度にやって来る膨大なコンテナを、スムーズに 2
る。また荷役機器であるストラドルキャリアは、荷
次輸送網への接続できることが重要となる。このよ
役作業と搬送作業の両方が行えること、Rubber Tyred
うな超大型船が寄港するハブ港湾では、当該船が優
Gantry crane(RTG)や Rail Mounted Gantry crane
先度をもって船の係留位置は決定されるが、不在の
(RMG)においては搬送作業をヤードトレーラーに
時期には他船や接続のためのフィーダー船が利用す
任せ、荷役の部分を担当することから、可動範囲が
ることがあり、マルチユーザターミナル(MUT)と
異なる。そこで、各荷役機器の特徴を生かしながら
しての利用が必要となる。
モデル化するケースは多い。
実際の現場で、ドライバー・オペレータが常駐す
また国内の動きとして、国土交通省の施策には
(2)
「国際コンテナ戦略港湾」政策 がある。ここでは
る場合には、彼らの経験的な判断に依存するが、自
民間の視点を取り入れて、戦略的に一体運営の実現
動化を想定する場合、荷役の作業手順をスケジュー
を図っており、具体的には従来 1~2 バースを船会社
リング・ソフトウェアに頼ることも期待されている
が専用ターミナルとして借り受け運用を行ってきた
ことから、AGV やその他の荷役機器の場合も自動化
が、3 バース以上の複数バースを複数の船会社で利
(無人化)を目標として、各種スケジューリング・
用する MUT としての利用を考え、低廉化と取扱い
アルゴリズムが提案されている。
本研究では、有人であり、従来から RTG や RMG
貨物量の増加を期待している。
MUT として利用する場合、必ずしも船の係留位置
で使用されている、ヤードトレーラーの最適スケジ
がコンテナの保管場所の背後である必要がないとい
ューリングを考え、車載端末を利用した作業指示を
うのが特徴である。したがって、なるべく両者を近
効果的に行うことを目標とする。以下では、既往の
くなるように配置するか、そうならない場合、他の
関連研究のうち、ヤードトレーラーに関するものを
方法で荷役時間延長を抑える工夫が必要となる。
紹介する。
Nishimura ら(3)は、従来運用では岸壁クレーン(QC)
そこで本研究では、ヤードトレーラーの運用方法
に着目する。すでに先行研究(3)において、効果的に
1 基に対し、ヤードトレーラーが複数台割り当てら
コントロールする方法を提案しているが、どのよう
れ、QC 下~ヤードクレーン下をピストン輸送され
な状況下で効果があるのかについて検討していない。
ており、船社専用ターミナルのように、船の係留位
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置の背後にコンテナが必ず保管されることが保障さ
れる場合には、十分対応可能である。しかし、MUT
を前提にすると、必ずしも船の係留位置とコンテナ
の保管場所が近いとは限らない。従来運用を前提と
してこの問題に対処するには、移動距離が離れた場
合には単純に各 QC に割当てるヤードトレーラー数
を増やせば済む。しかし、ヤード内の交通混雑が発
生することが想定されること、ドライバー数も増え
(a) 従来の運用方法
るためコスト増につながると考えられる。そこで、
複数の QC に対し、複数のヤードトレーラーを動的
に割当て、柔軟に運用する方法を提案している。な
お QC 下、またはヤードクレーン下でのコンテナ受
け渡しにかかる時間のずれ(遅れ)は考慮せず、両
クレーン下に到着するとすぐに次の地点に移動でき
ると仮定されている。
また Lee ら(4)は、ヤード内でのコンテナ受け渡し
にかかる荷役時間のずれを考慮しているのが特徴で
図1
(b) 動的運用
本問題の考え方
ある。Nishimura ら(3)と同様に、ヤードトレーラーを
QC に動的に割当てて効率的な運用方法を提案して
運用を示すが、例えば QC1 で船積みするコンテナは
いる。荷役すべきコンテナ数を所与とし、すべての
ヤード内の“地点□”に保管されると仮定する。QC
荷役が完了する時刻を最小化している。複数の解法
下から空車の状態で点線に沿ってヤード内の“地点
アルゴリズムを提案し、解の精度を比較している。
□”まで移動し、コンテナを受け取って、QC 下ま
Tang ら
(5)
で実線に沿ってコンテナを搬送する。QC2 のように
では、QC のスケジュールに合わせて、
トラックのスケジュール立案を効果的に行っている。
陸揚げ作業の場合は、QC 下でコンテナを受け取り、
QC の割当と各 QC の作業スケジュールの立案を行
ヤード内の“地点●”まで実線に沿ってコンテナを
い、同時にトラックの割当と各トラックの作業スケ
搬送し、ヤード内でヤードクレーンがコンテナを取
ジュールの立案を行っている。それぞれにタイムラ
り上げた後、空車で点線に沿って同じ QC2 に戻る。
グが生じると待ち時間が発生するため、この時間も
QC3 と QC4 も同様である。
図 1(a)からわかるように、QC 下とヤード内の保管
抑えるために、全対象コンテナの作業完了時刻を最
場所間でヤードトレーラーがコンテナを往復輸送す
小化している。
本研究においては、Nishimura ら と同様にヤード
るが、往路もしくは復路のいずれかは空車となる。
トレーラーを動的に運用する方法を考え、特に QC
そこで空車での移動を抑えるために図 1(b)のような
の荷役状況(陸揚げ荷役、船積み荷役)に着目し、
動的運用を考える。QC1 と QC2 のヤードトレーラ
稼働 QC 数におけるそれぞれの割合や隣り合う QC
ーの空車移動を黒色点線のようにリンクすることで、
の作業の組合せにおける傾向を明らかにする。
従来運用よりも移動距離が短くなっているのがわか
(3)
る。本問題では図 1(b)のように、複数の QC にヤー
3. 問題の概要
ドトレーラーを割当て、運用することを考える。
3.1
3.2
本問題の考え方
目的関数と制約条件
本問題の考え方について説明する。図 1 に QC4
目的関数は、ヤードトレーラーの総走行距離の最
基が荷役中であり、図の左から順に、船積み、陸揚
小化とする。制約条件は、各 QC 下地点とヤードク
げ、陸揚げ、陸揚げ作業中である状況を示している。
レーン下の地点には 1 回のみ訪問できることにする。
各 QC で陸揚げもしくは船積みされるコンテナはそ
当該ヤードトレーラーがある地点を訪問するとき、
れぞれヤード内にある QC 地点と同じマーカーの地
ヤードトレーラー上の容量を越えないことを条件と
点に保管され、地点間の実線はコンテナ搬送を、点
する。また各地点に訪問するヤードトレーラーは 1
線は空車での移動を意味している。図 1(a)には従来
台のみとし、当該 QC 下の地点と、そのコンテナを
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保管するヤード内の地点とは同一のヤードトレーラ
初期設定:T=初期温度、M=パラメータ更新回数
α=冷却率、β=定数、TIME=0
ーが担当する。陸揚げ作業では QC 下が先、船積み
初期解の生成、目的関数値の計算
作業ではヤード内地点を先に訪問するという訪問順
現在の解=初期解、最良解=現在の解
の先行制約も必要となる。
Iter=1
4. 解法
近似解(新しい解)の生成、目的関数値の計算
本研究では、焼きなまし法(SA)(6)を利用して近
Δcost=新しい解の値-現在の解の値
似解を求めることとした。ここでは、SA の処理と
解の表現方法について述べる。
4.1
No
Δcost < 0
SA 全体の処理手順
Yes
Yes
SA の代表的な特徴の一つは、評価値が改善され
現在の解=新しい解、目的関数値の計算
る解を採択することに加えて、ある制限のもとで評
価値が悪化する解も採択することである。SA の大
Yes
新しい解の値
< 最良解
No
きな特徴は、それが効率的で頑健であることにある。
また SA は、初期の構成には依らず、高品質な解を
最良解=新しい解、
最良解の値を更新
Iter=Iter+1
求めることができる。さらに、プログラム化も比較
No
Iter > M
的容易であることも当該研究で採択した理由の一つ
Yes
である。図 2 にフローを示す。
4.2
No
0-1乱数 <
exp(-Δcost/T)
Time=Time+M、T=αT、M=βM
解の表現方法
No
図 3 は、トレーラー容量 3 とする場合における解
Time≧総処理時間
Yes
の表現方法の例である。地点番号下の貨物量は、そ
停止
の地点を訪問した際のコンテナの増減個数を表す。
図2
解の表現方法は、地点をランダムに並べ、左から順
SA のフロー
に訪問順と解釈する。ただし容量制約、先行順序制
揚げ荷役
積み荷役
積み荷役
約等満足しない地点はとばして訪問する。ここでの
岸壁クレーンA
岸壁クレーンB
岸壁クレーンC
先行順序制約は、揚げ荷役を行う岸壁クレーン A に
地点
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12
対応する地点では、地点 2、3 と 4 より先に地点 1
増減貨物量
3
-1
-1
-1
-3
1
1
1
-3
1
訪問順
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12
1
1
を、積み荷役を行う岸壁クレーン B と C に対応する
地点では、地点 5 より先に地点 6、7 と 8 を、地点 9
より先に地点 10、11 と 12 を先に訪問しなければな
個体表現
1
8
3
10
7
4
2
12 11
9
6
5
貨物量
3
1
-1
1
1
-1
-1
1
1
-3
1
-3
(積載量の変化)
3
4×
2
3
4×
1 -2×
巡回路1
1
3
10
(積載量の変化)
-
-
-
らない。これらの判別を解の左端から右端の地点ま
で行い、それを 1 つの巡回路とする。このように解
表現の 1 つ目の巡回路作成し、1 つ目でとばされた
地点の中から、同様に新たな巡回路を作成する。本
巡回路2
1
8
2
2
1
2
3
0
4
2
12 11
9
-
-
-
-
7
-
3
0
6
5
事例では、順路 1 と 2 が形成されると解釈する。
4.3
近傍解の生成方法
図3
解の表現方法と解釈
現在の解の中からランダムに異なる 2 地点を選択
する。また選択した 2 地点が特定の QC に対応する
に用意し、QC の作業状況を 5 パターン、各々に対
QC 下の地点とヤード内の地点であるときは、一方
して保管場所を 5 パターン、合計 25 ケースの荷役状
を再度選択する。このような制約を満たしつつ、選
況を用意して数値実験を行う。
択された 2 地点を入れ替えることで近傍解を得る。
(1) トレーラーの容量
トレーラー容量は、一度にコンテナを 1 個のみ積
5. 数値実験
載できるケースと、3 個まで積載できるケースの 2
5.1
ケースを想定する。
使用データの概要
(2) 稼働 QC 数
問題の規模等に関係する項目を、以下に示すよう
20
第132回講演会(2015年 5月28日, 5月29日) 日本航海学会講演予稿集 3巻1号 2015年4月30日
0
移動距離短縮率(%)
10
20
た最良解が必ずしも従来運用と比較し、改善されて
30
いないケースも考えられる。そこで、初期解をラン
揚げ積み組合せ
●●●●
○○○○
○○●○
○○○●
●○●●
○●●●
○●○●
○○●●
ダムに生成する場合だけでなく、従来運用を初期解
とする場合も検討する。
5.2
図 4 に容量 1 の場合での移動距離短縮率(%)を
示す。QC4 基の場合、陸揚げ荷役と船積み荷役が交
初期解=従来運用
初期解=ランダム
互に配置される場合に効果が大きく、5~8%程度で
(a) QC4 基稼働する場合
揚げ積み組合せ
0
あるのがわかる。QC6 基の場合、4 基の場合と比べ、
移動距離短縮率(%)
10
20
組合せが多くなるが同様の傾向があり、8~12%程度
30
で、特に 1 基ずつ交互に配置されるときに効果が大
●●●●●●
○○○○○○
○○●○○●
○○●●○○
○○○○●●
○●●○●●
●●○○●●
○○●●●●
○●○●○●
○○●○●●
○○○●●●
きい。QC8 基には、QC 数が多いせいか、全てが陸
揚げもしくは船積みであるケース以外は、9~16%の
短縮効果があることがわかる。また初期解の違いで
は大差がないことが分かった。
6. おわりに
初期解=従来運用
初期解=ランダム
コンテナ船の巨大化と近隣諸国のコンテナ港湾
(b) QC6 基稼働する場合
の発展が著しい中で、国土交通省は日本のコンテナ
移動距離短縮率(%)
揚げ積み組合せ
0
10
20
港湾の競争力向上を目的に国際戦略コンテナ港湾を
30
指定している。その一方策として、複数バースを一
●●●●●●●●
○○○○○○○○
○○○●○○○●
○○●●○○○○
○○○○○○●●
○●●●○●●●
●●○○●●●●
○○●●●●●●
○●○●○●○●
○○●●○○●●
○○○○●●●●
初期解=従来運用
括管理するマルチユーザターミナル(MUT)の重要
性が指摘されている。そこで MUT を前提とした、
ヤードトレーラーの効果的な運用方法を検討した。
計算結果より、稼働 QC 数やその荷役状況の組合せ
で、提案する方法の効果が異なることがわかった。
初期解=ランダム
参考文献
(c) QC8 基稼働する場合
〇陸揚げ荷役
図4
計算結果
(1) Lloyd’s List の Web サイト(http://www.lloydslist.
●船積み荷役
com/ll/news/article453843.ece
(2015 年 3 月 13 日))
(2) 国土交通省の Web サイト(http://www.mlit.co.jp/
容量 1 個の場合での距離短縮効果
kowan_tk2_000002.html(2015 年 3 月 13 日)
)
作業状態の変化に応じて、ある時点でのターミナ
(3) Nishimura, E., Imai, A., Papadimitriou, S., 2005.
ル内の荷役中の QC 数は異なる。そこであらかじめ、
Yard trailer routing at a maritime container terminal,
全 QC 中の 4 基、6 基、または 8 基が同時に稼働し
Transportation Research Part E, Vol.41, 53-76.
ていることを仮定し、稼働 QC 数やその作業組合せ
(4) Lee, L., Chew, E., Tan, K., Wang, Y., 2010. Vehicle
によって計算結果にどのように影響するかを検討す
dispatching algorithms for container transshipment
る。稼働 QC4 基の時には 8 パターン、6 基と 8 基の
hubs, OR Spectrum, Vol.32 (3), 663-685.
ときには、それぞれ 11 パターンの計 30 パターンを
(5) Tang, L., Zhao, J., Liu, J., 2014. Modelling and
用意する。
solution of the joint quay crane and truck
(3) 初期解の生成方法
scheduling
初期解の生成方法をランダムに生成する場合と、
problem,
European
Journal
of
Operational Research, Vol.236, 978-990.
従来運用に指定してから解の探索を行う 2 ケースを
(6) Sait, S.M., Youssef, H. (白石洋一訳), 組合せ最
想定する。コンテナを QC の背後スペースに保管す
適化アルゴリズムの最新手法-基礎から工学
る際など荷役状況によっては、探索によって得られ
応用まで-, 丸善, 2002, 43-67.
21