SAR干渉解析による 大規模地震時の地殻変動把握 - 地震研究所

SAR干渉解析による
大規模地震時の地殻変動把握
-地震波形から推定される断層モデルとの比較-
上野寛・安藤忍・長尾潤・岩切一宏○・齋藤誠(気象庁)
ERI特定共同研究B「SARを用いた地震火山活動に伴う地殻変動の検出」
ERI-JAXA共同研究「ALOS/PALSAR干渉処理による地震火山活動に関する地殻変動の検出とその高度化」
に関する成果報告会
2011/12/22 at京大防災研
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はじめに
気象庁におけるSAR干渉解析の目的
本日
報告
(ここでは特に地震関連の地殻変動について)
◇大規模な地震による地殻変動の詳細な把握
「SAR干渉解析で得られる地殻変動」と「地震波による断層モデルから予
想される地殻変動」との比較。それぞれの手法による誤差要因を考慮し、
相補的に利用することで、モデル推定の高度化を計る。
◇東海地域の定常的な地殻変動を面的に把握
東海地域の定常的な地殻変動検出の検討。東海地域の固着域の把握、
長期的スロースリップなどの検出目指す。
• 2009年度から地震WG、PIXEL(東京大学地震研究所特定共
同研究B)へ参画。
• これらの枠組みで提供を受けた衛星データを用いて解析した
成果を、地震調査研究推進本部衛星データ解析検討小委員
会へ提出、学会や研究集会等で報告。
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過去約3ヶ年で解析した地震
世界で発生したM6~7以上の地震のSAR干渉解析を行った
本日は、下の赤文字を紹介
2008年
2009年
2010年
2011年
2008/5/12 中国四川省の地震(Mw8.0)
2008/6/14 岩手・宮城内陸地震(Mw7.2)
2008/10/5 タジキスタン-シンチアンウイグル自治区(中国)境の地震(Mw6.6)
2008/10/29 パキスタンの地震(Mw6.4、Mw6.4)
2009/1/4 インドネシア、ニューギニア付近の地震(Mw7.6、Mw7.4)
2009/4/6 イタリア、ラクイアの地震(Mw6.3)
2009/8/11 インドネシア、アンダマンの地震
2009/8/11 駿河湾の地震
2009/9/30 インドネシア、パダンの地震
2009/11/9 インドネシア、スンバワ島の地震
2010/1/13 ハイチの地震(M7.1)
2010/2/27 チリ中部沿岸の地震(Mw8.8)
2010/4/5 メキシコ、バハカリフォルニア州の地震
2010/4/7 インドネシア、スマトラ北部の地震(Mw7.7)
2010/4/13 中国青海省の地震(Mw6.9)
2010/9/14 ニュージーランド、南島の地震(Mw7.0)
2010/12/21 イラン南部の地震(Mw6.5)
2011/3/11 東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)
2011/3~4 茨城県北部の地震(Mw)・福島県浜通りの地震(Mw)・福島県中通りの地震(Mw)
SAR干渉解析結果と地震波より求めた断層モデルから予想される干渉
縞パターンを比較した。
→干渉パターンのおおよその傾向は一致するが、複数の断層面が活動
する場合など断層運動が複雑な場合は、SAR干渉解析の結果と併せて、
地震時の地殻変動を検討する必要がある。
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2008年6年14日 岩手・宮城内陸地震(Mw7.2)
中央の非干渉部分と
余震の分布が一致
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2008年6年14日 岩手・宮城内陸地震(Mw7.2)
準東西方向
2.5次元解析
準上下方向
準東西方向の方が、
準上下方向よりも変動
量が大きい。
→とても低角な逆断層
が原因か
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2008年6年14日 岩手・宮城内陸地震(Mw7.2)
北行軌道
南行軌道
断層モデルによる検証
近地強震波形から推
定したすべり量分布
一様すべり断層モデルによる
(本震のメカニズム解から
パラメータを設定)
北行軌道
南行軌道
一様すべり断層モデルによる
(フォワードモデリング)
↑
断層上端を浅く,傾
斜を低角に,幅を短く,
すべり量を大きく
近地強震波形からの断層
モデルによる理論値
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2009年1月4日ニューギニアの地震(Mw7.6、Mw7.4)
一様すべり量(2m)からの理論値
北行軌道
1枚の矩形断層
3枚の矩形断層
1枚の断層で大まかなパターンは
説明できているが、西側のパター
ンを説明できていない。最低でも
3枚の矩形断層を考える必要あり。
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2009年4月6日イタリア・ラクイラの地震(Mw6.3)
北行軌道
アンラップ処理後
メカニズム解(正断層)と
調和的な干渉パターン
・余効変動の解析:非常に低角なオ
フナディア角(9.9°)のため、レイ
オーバー等の影響が大きいが、衛
星から遠ざかる方向に最大約
3cm程度の余効変動によると思わ
れる有意なシグナルを確認できた。
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2010年1月13日ハイチの地震(Mw7.1)
北行軌道
南行軌道
SAR干渉解析
遠地実体波による断層
モデルからの理論値
遠地実体波による断層モデル
・干渉パターンは概ね一致
・絶対位置がずれている
→USGSの本震の位置を
北西にずらすとよい。
「本震直後1月13日」(緊急観測)と
「46日後の2月28日」の干渉ペア
余効変動と考えられる
衛星に近づく方向の位相差
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(本震と同じセンス)
2010年2月27日チリ中部沿岸の地震(Mw8.8)
本震(2/27)前後の干渉ペアで作成 本震(2/27)後のペアで作成
どのパスも干渉ペア期間46日
Laguna del
Maule火山
★印は2010/2/27~4/12の間に発生したM6.5以上の震央(USGSによる)を示す.
震源球は2/27に発生した本震Mw8.8と3/11に発生したMw6.9の地震における発震
機構解(グローバルCMT解による)
・長さ400km以上の範囲(領域A)
で地殻変動。
・領域BでLaguna del Maule火山
の活動に伴う地殻変動。
・Mw6.9の地震による円状の干渉
縞。
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2010年2月27日チリ中部沿岸の地震(Mw8.8)
北行軌道
遠地実体波によ
る断層モデル
GPS,SAR,遠地実体波のジョイントインバージョン
Delouis et al. (2010)
バックプロジェクション(0.2Hz-2Hz) Lay et al. (2010)
干渉縞と対応していない。
→遠地実体波による断層モデルの空間
分解能が低いためか。
または、地震波の励起が弱かった?
南に高周波励起がない
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Laguna del Maule火山の地殻変動
SAR干渉画像から推定したダイク状
圧力源からの理論値
干渉ペア:
2008年2月15日
と
2010年4月7日
※2007年~2008年にかけて
火山活動による地殻変動が
あった(T. J. Fournier et al.,
2010)
干渉ペア:
2010 年2月3日
と
2010年3月21日
2010/2/27チリ中部沿岸の
地震より前の活動
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2010年4月14日 中国青海省の地震(Mw6.9)
北行軌道
遠地実体波による断層
モデルからの理論値
活断層位置が推定可能
2つの目玉
遠地実体波による断層モデル
気象庁
CMT解
Master:2010/4/17, Slave:2010/1/15,
Bp=693m
理論値では2つの目玉はない
→遠地実体波解析の空間分解能の限界か
震源時間関数では大まかに2つピーク
地震波形からは2つないし3つのアスペリティがあることが分かる
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2010年12月21日 イラン南部の地震(Mw6.5)
CMT解の走向・傾斜・すべり角
からの理論値
★はQED震源(本震)
●はQED震源(余震)
ユーラシアプレート
今回の地
震
Master:2010/12/31, Slave:2010/9/30, Bp=183m
アラビアプレート
インド・オーストラリアプレート
余震が少ないため、地震発生当初、
周辺の地震活動と地形から、2つの
節面のうち、北西ー南東走向の節面
が断層面だと思っていた・・・
・SAR干渉解析結果から、北東ー南西走向の節
面の方が断層面であることが明らかになった。
・USGSの震央位置は北に約20kmずれている
ことも分かった。
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2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)
地震波による断層
モデル4つ全てか
らの理論値
近地強震波形(0.01 – 0.15 Hz)
による断層モデル
変動量の符号は伸長方向が「+」,短縮方向が「-」.
干渉ペアは以下の通り.
北行軌道
①2010.10.28-2011.03.15
②2011.02.02-2011.03.20
北行軌道
③2010.09.29-2011.04.01
④2011.02.19-2011.04.06
⑤2011.03.03-2011.04.18
南行軌道
⑥2010.11.20-2011.04.07
⑦2010.11.25-2011.04.12
3/11
14:46
Mw9.0
3/11
15:08
Mw7.4
3/11
15:15
Mw7.7
4/7
23:32
Mw7.1
南行軌道
北行軌道
南行軌道
地震波による断層モデルから予想
される干渉パターンは、特に南行
軌道の宮城県付近で異なっている。
→比較的長周期の地震波形を用
いた断層モデル解析では、宮城
県沖の深い場所でのすべりがほ
とんど推定されていないため。
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3月~ 4月 福島県浜通り・中通りの地震
4/11~4/13の震源分布
4/11(M7.0)
位相不連続の線(白点線)が、
既知の活断層と対応。
★:2011.4.11(M7.0)の震央
☆:2011.3.23(M6.0)および4.12(M6.4)の震央
●:GPS観測点
白点線:位相不連続
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3月~4月 福島県浜通り・中通りの地震
地震波による断層モデル6つから
予想される理論値
(北行軌道)
3月~4月福島県浜通り・中通りの地震
3月23日07:12浜通り(Mw5.7, Mj6.0)
3月23日07:34浜通り(Mw5.4, Mj5.5)
4月11日17:16浜通り(Mw6.7, Mj7.0)
4月11日20:42浜通り(Mw5.4, Mj5.9)
4月12日14:07中通り(Mw5.9, Mj6.4)
4/11(Mw6.7)の
CMT解
4/11(M7.0)
ノンダブルカップル
成分が大きい
→複数の断層面か
3月19日 茨城県北部(Mw5.8)
地震波による断層モデルから予想される変動量はSAR干渉解析結果の変動量より小さい。
断層モデルの設定小断層をより小さく、小断層毎のすべり量をより大きくする必要があるかもしれない。
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まとめ
世界で発生したM6~7以上の地震について、SAR干渉解析結果と地震
波より求めた断層モデルから予想される干渉縞パターンを比較した。
→干渉パターンのおおよその傾向は一致するが、複数の断層面が活動
する場合など断層運動が複雑な場合は、SAR干渉解析の結果と併せて、
地震時の地殻変動を検討する必要がある。
今後
ALOS/PALSARのSARアーカイブデータを用いて、プレートの沈み込みに伴
う定常的な地殻変動を抽出。
成果(ALOS-2に期待)を地震調査委員会、予知連、記者レク、気象庁の定
期刊行物等へ成果を提供していく。
【謝辞】本解析で用いたPALSAR データの一部は,国土地理院が中心となって進めている防災利用実証実験(地震
ワーキンググループ)に基づいて,宇宙航空研究開発機構(JAXA)にて観測・提供されたものである.また,一部は
PIXEL で共有しているものであり,JAXAと東京大学地震研究所との共同研究契約によりJAXA から提供されたもの
である.PALSARに関する原初データの所有権は経済産業省およびJAXA にある.なお解析には,JAXAの島田政
信氏により開発されたSIGMA-SARを使用させていただいた.
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