第132回講演会(2015年 5月28日, 5月29日) 日本航海学会講演予稿集 3巻1号 2015年4月30日 大型鉱石船が荷役中に遭遇した気象・海象条件と船体運動の 相関に関する調査研究 正会員○榊原 繁樹(東海大学) 正会員 久保 雅義(神戸大学名誉教授) 要旨 太平洋に面する港湾における大型鉱石船の係留索切断、防舷材破損や岸壁損傷、本船外板損傷の事例につ き、船長レポートなどによる状況調査と合わせて、港外観測波データと船体動揺シミュレーションを活用し て当該大型船が 1 回の揚げ荷役中に遭遇した気象・海象条件と船体動揺量や係留力との相関を見出す。 キーワード:港湾・係留、長周期波、船体運動、係留力、気象・海象 1.研究目的 著者らは太平洋に面する港湾において、長周期波 作用下における港内係留中の大型鉱石船についての 船体動揺量、防舷材の変形量、港内・港外波、風な どの現地観測を行うと共に、船体動揺シミュレーシ ョンによる再現計算を行って当該船舶の長周期船体 動揺特性を検討している(1)。2013 年冬季の低気圧来 襲時、当該港湾の大型鉱石船が港内係留中に係留索 が破断し、防舷材の破損や岸壁が損傷、また本船外 板損傷する事例がみられた。そこで本研究では、当 該係留事故時および入港、荷役中、緊急離岸後の再 接岸・荷役時など当該大型船が 1 回の揚げ荷役中に 遭遇した気象・海象条件と船体動揺量や係留力との 相関を把握することを目的として、船体動揺シミュ レーションおよび波浪観測データを用いて検討した。 2.研究内容 図 1 に示すように 2013 年 12 月 20 日の 1:00 頃、 当該 5 万トン級鉱石船は港内係留中に荒天に遭遇し た。船長レポートなどに基づく当該船舶の係留状況 調査から、天候の急変に伴い(高波浪および強風)、 上下、左右および前後の大きな船体動揺が発生し、 図1 大型鉱石船の係留状況 これに伴って 4 本の係留索が連続して破断、さらに 防舷材の破損や岸壁が損傷、本船外板の損傷、そし 船体に作用する波外力は、当該岸壁が港口から直 て結果として緊急離岸したことがわかってきた。一 接見渡せる場所に位置することおよび過去の港外波 方で図 2 に示す事故当時の当該港湾の港外波浪観測 と当該岸壁前面での港内波観測結果を参照して(1)(3)、 統計結果(2)から、この時間帯では有義波高が 3m から 観測港外波時系列データを FFT にて成分分解した後、 5m と急激に上昇し、また有義周期 11 秒から 15 秒超 波周期 30 秒以下の波は港外波高の 1/10 とし、30 秒 と周期の長い波の来襲に見舞われた様子が観測結果 以上の長周期波は港外波が直接船体に来襲するもの からも判明した。そこで観測波浪データを用いて船 として与えた。また波向きは港口から岸壁を見渡す 体動揺量や係留力を算定することを試みた。 向き(ω=15deg、ほぼ正横)とした。 43 第132回講演会(2015年 5月28日, 5月29日) 日本航海学会講演予稿集 3巻1号 2015年4月30日 そして船体動揺シミュレーションを用いて時系 (2) 図 4 にシミュレーション条件①での係留事故 列レベルで船体動揺量や係留索および防舷材に生じ 発生時(12/20)における船体動揺量の計算結果を示 る係留力を求めた。シミュレーション条件は、①“係 す。係留索にはウインチブレーキ力を超える張力が 留事故発生時(12/20)”、②“当初の入港時(12/18)”、 作用して索は巻き出され(または切断)、船首尾端防 ③“緊急離岸後の再接岸・荷役時(12/24)”、④“離 舷材が損傷、また Heave に±1m, Sway に沖側へ 7m, 岸出港時(12/25)”、および⑤“入港前日(12/17)”の Surge は前方へ 10m 程シフトして±10m, Yaw にも± 当該大型船の入港、荷役中、係留事故時、緊急離岸 5deg に及ぶ大きな船体動揺量が生じる結果となっ 後の再接岸・荷役時から出港までの揚げ荷役中 た。船長レポートなどに記載された係留事故当時の (2013.12/18~12/25)の様々な気象・海象条件でシミ 船体運動の状況がシミュレーションにより概ね再現 ュレーションを行い、係留索破断や防舷材破損の原 された。 因となった外力条件を探った。 図2 大型鉱石船の 1 回の揚げ荷役中に遭遇した港 外波浪状況(2013.12.16-12.26)およびシミュレー ション条件 3.主要な結論 (1) 図 3 に係留事故時(12/20)および緊急離岸後 の再接岸時(12/24)における港外波浪スペクトルを 図4 示す。当該大型鉱石船の係留事故時だけでなく波高 が低減した再接岸荷役中も 13 秒~15 秒のうねり成 係留事故時の船体運動の再現計算結果 (シミュレーション条件①) 分のピークだけでなく、100~200 秒の長周期波成分 にも顕著なピークが見られる波浪条件であったこと 4.参考文献 がわかってきた。 (1) 榊原繁樹・斎藤勝彦・久保雅義・白石悟・永井 港外波スペクトル 12月20日 (0:30-2:30) 1.0E+03 1.0E+02 1.0E+02 1.0E+01 1.0E+01 1.0E+00 1.0E+00 s)21.0E-01 (m S1.0E-02 )s1.0E-01 2 (m S1.0E-02 1.0E-03 1.0E-03 1.0E-04 1.0E-04 1.0E-05 1.0E-05 1.0E-06 1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 f(Hz) 1.0E+00 紀彦・島ノ江哲:長周期波作用下での Roll 共 港外波スペクトル 12月24日 (8:10-10:10) 1.0E+03 1.0E-06 1.0E-03 振動揺により誘発される港内係留船舶の長周 期動揺特性について, 日本航海学会論文集, 第 104 号, pp.187-196, 2001. (2) 国土交通省港湾局・(独法)港湾空港技術研究 所:全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS). (3) 白石悟・永井宏一・海原敏明:外洋性港湾にお 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 f(Hz) ける波浪特性が船舶係留時の防舷材の変形に 及ばす影響分析, 海岸工学論文集, 第 45 号, 図3 港外波のスペクトル(2013 年 12 月 20 日 pp.791-795, 1998. 0:30-2:30, 12 月 24 日 8:10-10:10) 44
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