アルツハイマー病の関連因子 - エーザイの一般生活者向けサイト | Eisai.jp

先端医学トレンド
竹
屋
泰
、100歳の一般住民を対象に、大規模な前向
は十分に確立されているとは言えない。認知症と
本邦における2012年時点での認知症高齢者
数は462万人と推計されているが、その治療法
丹市と朝来市の住民基本台帳から無作為に抽出さ
間科学部および同歯学部と協力して、兵庫県の伊
C︶研究を行っている。本研究では、大阪大学人
き コ ホ ー ト 研 究 で あ る 関 西 健 康 長 寿︵ S O N I
関連する因子を明らかにすることは、認知症のメ
①︶。
機能検査、認知機能検査などを実施している︵図
部血管エコー、簡易スパイロメトリーによる呼吸
れた高齢一般住民に、問診、採血、理学所見、頸
地域高齢者における認知機能と
る可能性 が あ る 。
カニズムの解明や予防対策、新規治療法につなが
はじめ に
アルツハイマー病の関連因子
140
90
SONIC研究に参加した 歳群488人、お
アルブミン/グロブリン比︵A/G比︶
よび 歳群512人を対象に、認知機能検査とし
、
80
との関連︵SONIC研究︶
70
て全員に
80
を 施 行 し た︵ 表 ② ︶。 Montreal
MoCA-J
70
(433)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
57
1)
筆者らの教室では百寿者約 人を含む 、
50
①関西健康長寿(SONIC)研究
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ୃ‫ق‬য‫ك‬
② SONIC 研究集団の背景
70歳(488)
(人)
80歳(512)
p
2
BMI(kg/m )
22.8±0.2
22.6±0.2
0.18
腹囲(cm)
84.4±0.4
84.3±0.4
0.52
SBP(mmHg)
138.3±0.9
148.4±0.8
<0.01
DBP(mmHg)
79.7±0.5
80.7±0.4
0.14
喫煙(%:c/p/n)
7.6/30.0/62.4
5.4/33.2/61.4
0.30
飲酒(%:c/p/n)
35.6/8.1/56.3
37.3/6.2/56.5
0.54
Mean IMT(mm)
0.80±0.01
0.89±0.01
<0.01
MoCA 総得点
23.9±0.2
21.8±0.2
<0.01
25点以下(%)
68.4
82.4
<0.01
18点以下(%)
5.1
20.5
<0.01
Analyzed by Chi-square analysis or ANOVA. Data are shown as mean ± S.E.
SBP:収縮期血圧、DBP:拡張期血圧、IMT:頸動脈内膜中膜肥厚
(日本老年学会総会2014 より)
c/p/n:current/past/never
(434)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
58
③ MCI との関連
70歳
25点以下(334)
26点以上(154)
P値
総蛋白(mg/dL)
7.50±0.03
7.39±0.04
0.03
アルブミン(mg/dL)
4.44±0.02
4.44±0.02
0.76
0.02
(人)
グロブリン(mg/dL)
3.05±0.02
2.95±0.04
A/G 比
1.48±0.01
1.53±0.02
0.03
教育歴(年)
11.8±0.10
12.7±0.20
<0.001
P値
80歳
25点以下(421)
26点以上(90)
総蛋白
7.36±0.02
7.36±0.05
0.95
アルブミン(mg/dL)
4.26±0.01
4.34±0.03
0.01
グロブリン(mg/dL)
3.10±0.02
3.02±0.04
0.09
A/G 比
1.40±0.01
1.46±0.02
0.01
教育歴(年)
11.1±0.10
12.0±0.30
0.02
(人)
Analyzed by Chi-square analysis or ANOVA. Data are shown as mean ± S.E.
(日本老年学会総会2014 より)
30
︵ MoCA
︶は早期の認知機
Cognitive Assessment
能低下を検出するのに優れ、軽度認知機能障害
2)
︵MCI︶のスクリーニングとしての有用性が
25
報告されている。 Mini-Mental State Examination
︵MMSE︶と同様に 点満点で評価し、MC
26
Iをスクリーニングする際のカットオフ値を
23
80
/ 点とした場合に高い感度と特異度を示す。
18
24
点に相当する
CLINICIAN Ê15 NO. 638
/
20
/
歳で
80
25
えられているMMSE
70
19
歳群の連続187人に MoCA-J
に加えMMS
Eを施行し、一般に認知症のカットオフ値と考
82
18
でのカットオフ値を求めたところ
MoCA-J
点が得られた。
80 25
点 以 下 を M C I 群、
以 上 よ り、 MoCA-J
MoCA-J 点以下を認知症群として、認知機能
検査と臨床データとの関連を検討した。
MoCA
・
68
点以下の割合は 歳で5・1%、
5 % で あ っ た。 MoCA 点 以 下 の M C I の 割
歳で ・4%、 歳で ・4%であった。
59
合は
歳ともにMCI群︵表③︶
80
年齢毎に臨床データと認知機能との関連を検討
した結果、 歳、
70
70
18
(435)
④認知症との関連
70歳
18点以下(25)
(人)
19点以上(463)
P値
総蛋白(mg/dL)
7.60±0.10
7.46±0.02
0.15
アルブミン(mg/dL)
4.36±0.06
4.45±0.01
0.13
グロブリン(mg/dL)
3.24±0.08
3.01±0.02
<0.01
A/G 比
1.35±0.05
1.51±0.01
<0.01
教育歴(年)
11.4±0.50
12.1±0.10
0.12
80歳
18点以下(105)
19点以上(406)
P値
総蛋白(mg/dL)
7.35±0.04
7.36±0.02
0.84
アルブミン(mg/dL)
4.21±0.03
4.29±0.01
0.02
グロブリン(mg/dL)
3.14±0.04
3.07±0.02
0.14
A/G 比
1.37±0.02
1.42±0.01
0.02
教育歴(年)
10.4±0.30
11.5±0.10
<0.001
(人)
Analyzed by Chi-square analysis or ANOVA. Data are shown as mean ± S.E.
80
と認知症群
︵表④︶では教育歴が低く、血清蛋
70
白組成比であるA/G比が有意に低値であった
︵ P<0.05
︶
。
意 な 相 関 が 認 め ら れ、 A / G 比 が 大 き い ほ ど
総得点が高かった︵ P<0.001
︶。また、
MoCA
歳および 歳において、単変量解析の結果から
認知機能低下と有意な関連を認めた因子で補正
した多変量解析においても、A/G比は認知機
能検査︵ MoCA-J
︶
の得点と有意に関連していた
︵表⑤︶。A /G 比は栄養状態や免疫の指標で
あると考えられるが、アルブミン単独、あるい
はグロブリン単独では関連が弱くなり、一部の
群では有意差が消失することは興味深い結果で
あった。今回の結果は横断研究であり、今後は
縦断的な認知機能とA/G比との関連について
検討が必要である。
80
得 点 とA /G 比 と の 関 連 を 検 討 し た
MoCA
ところ、単変量解析では、 歳および 歳で有
(日本老年学会総会2014 より)
70
(436)
CLINICIAN Ê15 NO. 638
60
⑤ MoCA 点数と A/G 比の関連(多変量)
70歳
項目
A/G 比
教育歴
高血圧
全体(R2)
モデル1
<.0001
0.0003
−
<.0001(0.08)
モデル2
0.0002
0.0002
0.0358
<.0001(0.08)
Model 1 included A/G ratio and period of education. Model 2 included A/G ratio, period of
education, and hypertension.
80歳
項目
A/G 比
教育歴
HDL
SBP
DBP
全体(R2)
モデル1
0.0001
<.0001
−
−
−
<.0001(0.06)
モデル2
0.0006
<.0001
0.196
−
−
<.0001(0.06)
モデル3
0.0004
<.0001
0.225
0.787
0.257
<.0001(0.07)
もの忘れ検査入院における認知機能と
A/G比との関連
SONIC研究では、一般住民を対象に認知機
能低下と血清A/G比との関連が示唆されたが、
認知症は認知機能低下を主訴とする多くの原因疾
患からなる症状の総称であり、SONIC研究に
おいて認知症の病型については調査されていない。
一方、筆者らの病棟では、2010年より、認知
機能検査入院︵通称1泊2日もの忘れパス入院︶
を開設し、神経心理学検査による認知機能評価、
CLINICIAN Ê15 NO. 638
頭部MRIによる海馬傍回の萎縮と脳血管障害の
評価、さらに動脈硬化の危険因子、内分泌・代謝
異常、栄養障害、日常活動度、頸部血管エコー、
サルコペニア検査など、詳細な臨床パラメータを
蓄積している。
院の患者を対象に調査することとした。2012
年7月∼2014年6月の期間中、大阪大学医学
部附属病院老年・高血圧内科においてもの忘れパ
61
そこで、認知症の病型によって認知機能とA/
G比の関連が異なるかについて、もの忘れパス入
Model 1 included A/G ratio and period of education. Model 2 included A/G ratio, period of
education, HDL-C, Model 3 included A/G ratio, period of education, HDL-C, and SBP.
(日本老年学会総会2014 より)
SBP:収縮期血圧、DBP:拡張期血圧
(437)
⑥もの忘れパス入院患者の背景
N=91
77.1±6.2
31±25
13.0±3.0
135±19
100±27
59±16
2.45±1.26
22.4±3.5
4.3±3.2
14.8±3.0
年齢(歳)
性別(男/女)
教育歴(年)
SBP(mmHg)
空腹時血糖(mg/dL)
HDL コレステロール(mg/dL)
VSRAD
MMSE
GDS
FAB
AD(36)
76.3±7.2
12.8±3.0
24.0±3.9
130.2±19.7
97.5±17.8
61.1±15.8
病型(人)
年齢(歳)
教育歴(年)
MMSE(点)
SBP(mmHg)
空腹時血糖(mg/dL)
HDL-C(mg/dL)
AD with CVD(20)
78.2±3.7
13.3±3.1
24.6±2.2
139.2±21.2
116.6±9.1
55.6±15.3
CVD(9)
73.0±7.8
12.9±3.0
22.7±4.5
130.6±17.9
112.0±32.7
49.0±11.1
P値
0.143
0.279
0.225
0.201
0.058
0.056
ス入院を行い、認知症と診断された連続 人を対
CLINICIAN Ê15 NO. 638
象に、AD︵アルツハイマー病︶群、CVD︵脳
血 管 障 害 ︶ 群、 お よ び AD with CVD
の3 群 に つ
いて調査した︵表⑥︶。CV D の有無に関しては
囲病変のグレードⅡ以上、または深部皮質下白質
77
﹁ 脳 ド ッ ク の ガ イ ド ラ イ ン20 0 8﹂ の 側 脳 室 周
22
病変のグレード2以上のいずれか一つ以上を認め
20
91
るものと定義した。
、CVD患者はそれぞれ 、 、9
AD with CVD
人であった。3群間で年齢や教育歴、血糖値など
に 差 を 認 め ず、 A D 群 + AD with CVD
群のみで
認 知 機 能 低 下 とA /G 比 の 低 下 が 関 連 し て い た
より、A/G比は血管障害による認知機能低下と
︵ P=0.048
︶。 ま た、 A D 群 で は 弱 い 関 連 を 認 め、
CV D 群では関連を認めなかった︵表⑦︶。以上
は関連がなく、アルツハイマー病とは関連する可
能性があるが、ただし、既報のごとくアルブミン
単独でも有意差を認め、さらに年齢を交絡因子と
(438)
36
対象患者 人の平均年齢は ・1±6・2歳、
平均MMSEは ・4±3・5点であり、AD、
Analyzed by Chi-square analysis or ANOVA. Data are shown as mean ± S.E.
SBP:収縮期血圧、VSRAD:早期アルツハイマー病診断システム、GDS:老年期うつ尺度、FAB:前頭葉機能検査
91
62
⑦認知症の病型と A/G 比の関連
AD
AD with CVD
CVD
P値
(36)
(20)
(9)
総蛋白(mg/dL)
6.75±0.43
6.60±0.56
6.85±0.55
0.391
アルブミン(mg/dL)
3.71±0.37
3.55±0.40
3.93±0.40
0.017
グロブリン(mg/dL)
3.04±0.44
3.00±0.49
2.88±0.29
0.550
A/G 比
1.24±0.21
1.22±0.25
1.37±0.13
0.134
AD+AD with CVD
CVD
P値
(56)
(9)
総蛋白(mg/dL)
6.71±0.55
6.85±0.55
0.408
アルブミン(mg/dL)
3.64±0.37
3.93±0.40
0.025
グロブリン(mg/dL)
3.03±0.42
2.88±0.29
0.550
A/G 比
1.24±0.21
1.37±0.13
0.048
Analyzed by Chi-square analysis or ANOVA. Data are shown as mean ± S.E.
して多変量解析を行うとこれらの有意差は消失す
ることから、結果は限定的であり、さらなる研究
が必要である。
3)
4)
AD と関連因子
ADの危険因子に関する研究報告は数多く蓄積
されており、複数の高レベルの総説がある。低ア
ルブミン血症が認知機能低下に関連しているとい
う報告も多いが、血清A/G比が認知機能低下に
関連することについての報告はなく、現段階でこ
CLINICIAN Ê15 NO. 638
れが何を意味しているのかは不明である。認知症
患者のみならずMCIを対象とした調査において
も関連が示唆されたことは非常に興味深く、また、
もの忘れ入院の結果からは血清A/G比と関連が
あるのはADであることが示唆される。今後さら
の み な ら ず、 MCI due to
AD dementia
に症例を積み重ねる必要があるが、以上のことは、
A /G 比 は
、あるいは preclinical AD
を含むアルツハイマ
AD
ー病の関連因子である可能性がある。
63
5)
6)
(439)
おわり に
日常診療で認知症患者やその家族に日々接して
いると、この病気が個人と社会に与える影響の大
きさに心が痛む。今後さらに増えるであろう認知
症のメカニズムに疫学調査から迫り、それが基礎
(2005)
Pope SK, et al : Will a healthy lifestyle help prevent
Alzheimer’s disease? Annu Rev Public Health, 24, 111132 (2003)
Patterson C, et al : Diagnosis and treatment of
dementia : 1.Risk assessment and primary prevention of
Alzheimer disease. CAMJ, 178 (5), 548-556 (2008)
Sandman P-O, et al : Nutritional status and dietary
intake in institutionalized patients with Alzheimer’s
disease and multi-infarct dementia. J Am Geriatr Soc,
35, 31-38 (1987)
Llewellyn DJ, et al : Serum Albumin Concentration and
Cognitive Impairment. Curr Alzheimer Res, 7 (1), 9196 (2010)
4)
5)
6)
研究のシーズとなり、認知症のメカニズムの解明
や予防対策、新規治療法となって再び臨床の現場
で花を咲かせることを期待する。
︵大阪大学大学院医学系研究科
老年・腎臓内科学︶
文献
朝田
隆ら ﹁都市部における認知症有病率と認
知症の生活機能障害への対応﹂平成 年度∼平成
年度総合研究報告書︵2013︶
Narseddine ZS, et al : The Montreal Cognitive
Assessment, Moca : a brief screening tool for mild
cognitive impairment. J Am Geriatr Soc, 53, 695-699
23
64
CLINICIAN Ê15 NO. 638
(440)
1)
24
2)
3)