MS-2707 - Analog Devices

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技術記事
MS-2707
.
です。理想的には制御電子機器をアクチュエータのすぐ近くに
厳しい環境の克服—高温アプ
リケーション向けの低消費電
力、高精度、高温の部品
配置する必要があります。この場合も、このアクチュエータに
より高温の周囲環境が発生します。飛行機のジェト・エンジン
と同様に、制御システムと計装機器は発電所で使用される重工
業ガス・タービンでも必要とされます。
著者:
アナログ・デバイセズ
アプリケーション・エンジニア
Jeff Watson
アナログ・デバイセズ
アプリケーション・エンジニア
Maithil Pachchigar
高温定格の IC
過去の高温電子機器の設計では、高温 IC が存在しなかったため
定格仕様を超えて部品を使う必要がありました。標準温度 IC に
よっては仕様より上で機能が制限されているものがあり、それ
は設計者にとってつらい危険な仕事であり、信頼性または性能
はじめに
の保証はありません。例えば、エンジニアは対象となるデバイ
厳しい環境を考えると、地上で最も困難なアプリケーションの
スを特定し、完全にテストし、温度性能をキャラクタライズし、
1 つはダウンホール・ドリルによる掘削作業です。石油サービ
長時間デバイスの信頼性を評価する必要があります。デバイス
ス会社は、極めて高い圧力、衝撃、振動に耐えると同時にバッ
の性能と寿命は大幅に低下することがあり、製造ロットごとに
テリ寿命が長くかつ小型であることが要求される高精度装置を
大きく変化することがありました。この作業は、、困難であり、
設計する技術の限界に挑戦していますが、この環境で使用され
高価で、さらに時間を要するプロセスであるため、設計者は回
る電子機器の最大の困難は、恐らく極めて高い温度であると考
避することを望みます。さらに、目標設計温度は 175°C 以上を
えられます。これらの高温は深さの関数です。平均地下増温率
目指しているため、最新のパッケージ技術は短時間の間でも高
は約 25°C/km ですが、場所によってこれより高いところもあり
い信頼性を可能にする必要があります。
ます。世界のエネルギー需要の増加により、これまで可能と思
幸運にも、近年の進歩により高温定格 IC が提供されるようにな
われていなかった高温の井戸を掘削し開発する動機が存在する
りました。アナログ・デバイセズ高温ポートフォリオの製品で
ようになりました。残念なことに、この環境で電子機器を冷却
は、特別な製造プロセス技術、回路設計、パッケージを採用し、
するというオプションはありません。このため、業界は 200°C
高温で信頼度の高い性能を可能にするため広範囲なキャラクタ
を超えても動作できる信頼度の高い高精度計装機器を要求して
ライゼーション、認定、量産テスト・プログラムを行い、デー
います。実際、信頼性の重要性は、もし不具合が発生すると対
タシート仕様を保証しています。
処に高いコストがかかることで強調されています。地下数マイ
ルで動作するドリル・ストリング内の電子機器を回収して交換
高温シグナル・チェーン
するには 1 日以上を要します—複雑な海底油井掘削機の運用コ
石油探査から航空機や重工業までの、変化し続けるエンド・ア
ストは 1 日あたり$500k を超えます。
プリケーション向けの高温電子機器を紹介しましたが、これら
石油とガスの調査の他に、高温電子機器の他のアプリケーショ
のアプリケーションのシグナル・チェーンには幾つかの共通の
ンも登場しています。航空業界では、「さらに電子化された飛
条件があります。これらのシステムの多くでは、複数のセンサ
行機」に向かおうとする動きが強くなっています。この動きを
ーからの高精度データ・アクイジション、または高いスループ
促進する 1 つの理由は、従来の集中型エンジン・コントローラ
ット・レートが必要です。さらに、これらの多くのアプリケー
を分散型制御システムで置き換えることを目指していることで
ションは、バッテリで動作するため、または電子機器の自己発
す。この分散型制御システムではエンジン制御をエンジンの近
熱で温度上昇に耐えられないため、厳しい消費電力条件を持っ
くに配置し、配線を大幅に簡素化して飛行機の重量を数百ポン
ています。このため、センサー、高精度アナログ部品、高スル
ド削減します。この動きを促進するもう 1 つの理由は、油圧シ
ープット ADC で構成される低消費電力のデータ・アクイジシ
ステムをパワー・エレクトロニクスで置き換えて、電子制御に
ョン・シグナル・チェーンが必要となります。
より信頼性を向上させ、メンテナンス・コストを削減すること
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現在高温定格 IC が市販されていますが、今日の回路設計の選択
V+
ADR225
肢にはまだ制約があります。特に、低消費電力、100 kSPS より
V+
REF
2.5V
10nF
AD8634
10nF
10µF
2.5V
100nF
V–
高いサンプル・レート、200°C を超える動作定格の高精度 ADC
V+
1.8V TO 5V
100nF
20Ω
は市販されていません。これが、広帯域信号を取得し処理する
0 TO VREF
REF
AD8634
場合またはチャンネルをマルチプレクスする場合、回路設計者
VDD
VIO
SDI
IN+
2.7nF
V–
SCK
3- OR 4-WIRE INTERFACE
AD7981
SDO
にとって苦痛になっています。このニーズを満たすため、ADI
IN–
GND
CNV
は最近 AD7981 ADC をリリースしました。このデバイスは、最
大 600 kSPS のサンプル・レート、 16 ビットの分解能、低消費
図 1. AD7981 アプリケーション・シグナル・チェーン
電力で、かつ非常に小さいフット・プリントを持っています。
175°C 定格の 10 ピン MSOP パッケージ、および 210°C 定格のセ
AD7981 は、優れた AC 性能と DC 性能、±0.7 LSB の INL、–102
ラミック・フラットパックを提供中で、チップ・バージョンも
dB の THD、91 dB の SNR を持ち、175°C の高温でも高精度で広
供給予定です。ケース・スタディとして、ブレークスルー性能
いダイナミックレンジを実現しています。 AD7981 の INL (typ)
を可能にし、極めて高い温度で高信頼性を可能にしたこの ADC
対コード・プロットを図 2 に示します。
1.0
の機能詳細を調べます。
25°C
175°C
0.8
0.6
AD7981 は、逐次比較型アーキテクチャ (SAR)を採用し、600
0.4
kSPS の最大サンプリング・レートを持つ 16 ビット、低消費電
0.2
INL (LSB)
AD7981 高温 ADC
力、単電源動作の ADC です。工業用システムと計装用システ
0
ムの量産向けに設計された ADI の実績ある SAR コアを採用し
–0.2
ています。このアーキテクチャは、ADI 独自の電荷再分配容量
–0.4
DAC 技術を採用しています。高温での優れた性能には、CMOS
–0.6
製造プロセスでのこれらのコンデンサの温度に対する優れたマ
–0.8
ッチングとトラッキングが寄与しています。さらに、アクイジ
–1.0
1
6901 13801 20701 27601 34501 41401 48301 55201 62101
ション回路を最適化して、高温での精度を改善しています。
CODE
図 1 に、AD7981 の代表的なアプリケーション・シグナル・チ
図 2. AD7981 非直線性誤差の温度特性
ェーンを示します。ここでは、高温認定されたレール to レール
AD7981 の様々な温度での広い入力周波数範囲に対する信号対
出力、高精度、低消費電力、デュアル・アンプ AD8634 を使っ
ノイズおよび歪み (SINAD) 性能を図 3 に示します。
て AD7981 入力を駆動し、さらに高温認定、低温度ドリフトの
100
ADR225 2.5 V リファレンス電圧と組み合わせてリファレンス・
バッファとしても使っています。AD7981 は、アナログおよび
–55°C
+25°C
+175°C
95
デジタル・コア電源 (VDD)とデジタル入力/出力インターフェー
SINAD (dB)
ス電源 (VIO)の 2 つの電源を必要とします。この VIO は、1.8 V
~5 V のロジックとのインターフェースに使います。VIO ピン
と VDD ピンを接続して電源ピン数を減らすこともできます。
90
85
80
75
1k
10k
100k
INPUT FREQUENCY (Hz)
図 3. 様々な温度での SINAD 周波数特性
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1M
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図 4 に示すように AD7981 の消費電力 (typ) は 600 kSPS のフ
信頼度の高いパッケージに対しては多くの考慮事項があります
ル・スループットで約 4 mW に、10 kSPS で 70 µW に、それぞ
が、高温での主要な故障ポイントの 1 つはワイヤー・ボンディ
れなっているように、スループット・レートに比例して消費電
ングです。この故障は業界で広く採用されているプラスチッ
力を調整することにより、厳しい環境でのバッテリ寿命を最大
ク・パッケージで特に問題になり、ここでは金のボンディン
化することができます。 AD7981 は、消費電力を節約するため、
グ・ワイヤーとアルミニウム・ボンディング・パッドが標準と
変換と変換の間に自動的にパワーダウンします。このため、こ
なっていました。温度が上がると、AuAl 金属間化合物の成長が
のデバイスはサンプリング・レートが数 Hz と低いアプリケー
加速されます。これらの金属間化合物は脆弱なボンディングや
ションに適し、さらにバッテリ駆動の携帯型システムで非常に
ボイディングのようなボンディング故障に関係します。このボ
小さい消費電力を可能にします。
イディングは図 5 に示すように数百時間と短い時間で急速に発
生します。これらの故障を避けるため、ADI ではオーバー・パ
4.0
VDD = 2.5V, VREF = 5V, VIO = 3V
ッド・メタライゼーション (OPM) プロセスを採用して、金のボ
POWER DISSIPATION (mW)
3.5
ンディング・ワイヤーを接続する金のボンディング・パッド表
3.0
面を形成しています。この単一金属システムでは金属間化合物
2.5
が発生しないため、図 6 に示すように、当社の 195°C での 6000
2.0
時間ソークによる認定テストで高い信頼性が確認されました。
TOTAL POWER
ADI は 195°C で信頼度の高いボンディングを示しましたが、プ
1.5
VDD ONLY
ラスチック・パッケージは、成形材料のガラス転移温度に起因
1.0
して 175°C までの動作定格になっています。
0
0
100000
200000
300000
400000
500000
THROUGHPUT RATE (SPS)
600000
12479-030
0.5
図 4. AD7981 スループット・レート対消費電力
AD7981 は、SPI やその他のデジタル・ホストと互換性を持つ柔
軟なシリアル・デジタル・インターフェースを提供します。
I/O 数が最小のシンプルな 3 線式モード、またはデイジーチェー
図 5. Al パッド上の Au ボール・ボンディング
ン・リードバックと同時サンプリングのオプションを可能にす
195°C で 500 時間後
る 4 線式モードに設定することができます。マルチチャンネ
ル・データ・アクイジション・システムの場合、AD7981 はト
ラック・アンド・ホールド回路を内蔵し、かつ SAR アーキテク
チャではパイプライン遅延または遅延が発生しないため、
AD7981 をマルチプレクサと組み合わせて容易に使用すること
ができます。
高温パッケージ
図 6. OPM 上の Au ボール・ボンディング
195°C で 6000 時間後
高温で動作する高性能シリコンを持つことができても、この戦
いの半分しか勝ったと言えません。厳しい高温環境で耐えなけ
アプリケーション例
ればならない集積回路には強固なパッケージが重要です。パッ
高性能、強固さ、低消費電力、柔軟な構成のような AD7981 の
ケージは環境からの十分な保護機能と PCB に対する信頼度の高
主要機能の前述の組み合わせにより、石油やガス掘削のダウン
い接続を提供し、システムに合わせて十分小型である必要があ
ホール・ドリル、工業用、計装用、航空機用のアプリケーショ
ります。
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MS-2707
技術記事
ンのような厳しい高温環境での高精度計測アプリケーションに
まとめ
対するクリティカルな性能基準に対処します。
非常に高い温度のために、厳しい環境システムの中で最も困難
AD7981 は、センサーからプロセッサまでの高精度アナログ信
な問題の 1 つが発生しますが、AD7981 のような新しい高温定
号処理を可能にする高温製品の、成長を続けるポートフォリオ
格 IC により、高精度、低消費電力、高信頼の在庫品でこの問題
のメンバーです。AD7981 は、シグナル・コンディショニング
を克服できるようになりました。
向けの ADR225 2.5 V 出力リファレンス電圧と AD8634/AD8229
ア ン プ に よ り 補 完 さ れ ま す 。 ADXL206 加 速 度 セ ン サ ー や
ADXRS645 ジャイロセンサーのような高温定格の MEMS 慣性
センサーは、システムの向きと動きの情報を提供します。これ
らの部品を使用するダウンホール・ドリル計装の簡略化したシ
グナル・チェーンを図 7 に示します。
このアプリケーションでは、様々なダウンホール・センサーか
らの信号をサンプルして周囲の地質構成情報を集めます。これ
らのセンサーは、電極、コイル、圧電、またはその他のトラン
図 7. ダウンホール・ドリル計装の簡略化したシグナル・チェーン
スデューサの形式をとることができます。加速度センサー、磁
気センサー、ジャイロセンサーは、ドリル・ストリングの傾斜、
方位角、回転レート、衝撃、振動の情報を提供します。これら
のセンサーの幾つかは非常に狭い帯域幅を持ち、他のものはオ
リソース
ーディオかそれ以上の周波数範囲の情報を持つことがあります。
この資料を
AD7981 は、電源効率を維持しながら可変帯域幅条件でセンサ
ーからのデータをサンプルすることができます。 小型のフット
で共有してください。
プリントを持つため、ダウンホール・ツールでボード幅が非常
に狭いなど、レイアウトでスペースが制限されていても複数の
チャンネルを含むことができます。 さらに、柔軟なデジタル・
インターフェースにより、厳しいアプリケーションで同時サン
プリングが可能になり、それと同時にピン数が少ないシステム
でシンプルなデイジーチェーン読出しが可能になります。
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