光シグナルをちゃっかり利用するホタルのー種

全 国ホ タル研究会 誌,(39):6063,(2006)
メ
メ
どをθ
ttSの
rθ
パ プア ・ニ ューギエ アのホタル Prθ
p r〃θ
光 シグナル をち ゃ っか り利 用 す るホ タル の 1種
大場 信 義 (神奈川県横須賀市)
は じめ に
パ プ ア ・ニ ュ ー ギ エ アの P r θr θ
メ /.Y
プ
θr r F rど
θ″s は 体 長 約 8 m m , 前 胸 背 は 橙 色 ,
上 翅 は黒 色 で あ り, 特 定 の 1 本 の 木 に 数
千 , 数 万個 体 が 集 合 して , 一 斉 に点 滅 を
繰 り返 す 。 集 団 同時 明滅 す るの は雄 に 限
られ , 雌 は連 続 した 光 を放 つ ( H a n c d a ,
1966;大 場,199212004)。
この P , ごr r ど
竹 ごパ の 集 団 内 にお いて
P . θr r 」
βヶメ 属
竹 θβs に 酷似 す る 角 θr θ
の
1
種
生す
る こと
( P , s p . ) が混
ホ タル
が 兄 出 され た ( 写真 1 ) 。 こ こで は ,
P . θr r ど
竹 θ〃s の 大 集 団 に混 生す る 別 種
の P , s p . と P . θF r ″
竹 例s の 形態 , 生 態
的 相 違 につ いてP θF r 」
竹 θ″ざ と比較 検 討
rθ
βryメθ//r7竹θ″S
写 真 1 同 所 的 に集合 す る ′rθ
(左)と P sp.(右 )
す る と と もに, そ の 行 動 学 的意 義 につ い
て 野 外 お よび室 内 の 実 験 観 察 結 果 の 概 要
を紹 介 す る。 な お , 詳 細 は大 場 ( 2 0 0 6 )
を参 照 いた だ きた い 。
′, θ/ / ″
竹 θ″s と βt S p . の外部 形 態 比 較
両種 の 外 部形 態 は雌 似 して い るが , 鞘
翅 の 色 彩 は P , θF r 〃
竹 θパ は黒 色 , P . s p .
で は 黄 色 , 後 半 はや や 暗 色 で あ る点 で相
違 す る。 走 査 型 電 子顕 微鏡 によ る外 部 形
態 の 観 察 によ って も区別 は 困難 で あ る
( 写真 2 ) 。 従 って , 両 種 が外 部 形態 か
ら相 互 に 識別 して い る とは考 え られ な い 。
これ らの ホ タル は夜 間 にお いて , 至 近 距
離 に接 近 した 際 には , 自 身 の 放 つ 光 によ
写真 2
-60-
tsθ
と
′ rθ
′θ
ρ r/メθ/ / 1 r t″
の標 本 写 真
1.
えS p の 雄
β θ/ / 1 1 /θ
す
/7S 2 ′ sp
って 各 々 の 鞘 翅 色 彩 の 相 違 を識 別 して い
る 可能 性 が 高 い と考 え られ る。
/gθ
″s と
野 外 にお け る ′. θ/ / ″
′, s p . の 生 息数 の比 率
2 種 の ホ タル が 集 合す る木 ( 写真 3 )
ヤ
こは P.θFFど竹 切 ざが 圧倒 白
こ多 く83.4
勺ヤ
% を 占め る 一 方 , P . s p . は 1 6 . 6 % に 過 ぎ
ず , 少 数集 1 司
で あ る ( 大場 , 2 0 0 6 ) 。 こ
の 比 率 は 別 の 観 察 地 にお いて も確 認 され ,
常 に P . β〃」プ
どθパ が優 占す るな か で P .
s p . は 生息 して い る と考 え られ る。 大 集
団 の な か で , 小 集 団 が集 合 し, コ ミュ ニ
ケ ー シ ョン を図 る こ とは 困難 な状 況 と想
定 され るが , P . s p . は 確 実 に 同種 を選 択
して い る。 同種 を選 択 可能 と して い るの
は 以 下 の 発 光 行 動 の 相 違 が あ るた め と考
え られ る。
野外 にお いて 透 明 ビニ ー ル 袋 内 に入れ
た P . s p . の 雌 が発光 し始め る と P . s p .
の雌 には 同種 の雄 , P . θr r r r /θ
″
どs の 雌 に
は 同種 の雄 が 誘 引され る ことか ら各 々の
雄 は同種 の雌 の誘 引発光 シグナル を識別
して いる可能性 を示 して いる。 しか し肉
眼 で観 察す る限 り, 両 種 のl 1 4 の
発光 パ タ
ー ンに明 瞭な相違が認め られず , これ と
は 異な った 識別 要 因を付加 して い る可能
性 も残 る。そ の 要因 のひ とつ と して , 雄
は雌 の鞘翅 の色彩 の相違 を至近 距離 に接
近 した時 に識 別 して いる 可能性 が考 え ら
れ る。 この ことは 前記 した , 高 度 な複 眼
機能か ら推定 して も十分可能性 が ある と
考 え られ る。
rFytt″
θ〃s の
今 回 の観察 による と P . θ
い
P.sp.
しく
に
に
ため
個体 数が著
多
,仮
が固有な発光 シグナル を放 って いて も,
Fr」
t t s に紛 れて し
それ は優 占す る P , α
どθ
まい, 観 察確 認 され に くい背景 にある と
考 え られ る。 しか し, 両 種 の雄 の発光活
動 時 間 が 著 し く相 違 す る こ と , さ らに
P.θ
r/Jttガ
θs の 雌 は活動 最盛期 には連続
光 を放 ち, 集 団 同時明滅す る雄 の 至近距
離 を しば しば飛翔 し, 雄 を誘 引す る行 動
が見 られ る一 方 , P , s p の 雌 には こう し
た行動 がみ られ な い ことな どか ら, l m 3 種
の 区別化 が図 られて いる と考 え られ る。
室 内 における P , s p . の 発光行動
P , s p . の 雄 は深夜 にな るまで ほ とん ど
する木および周辺環境
ガs の 雄 のよ うに,
発光 せ ず, P . θr F 〃どθ
′
=
s
p
`
の
に
お
け
る
して
野外
発光 行動
集 団同時明滅
同極 の新成虫 を集合 さ
P . s p . のl 1 4 Lともに
P.θ
rr♂
ノ
雄
パ の大
せ る とい う行動が認め られな い。 しか し,
どθ
P . s p . の雄 は深夜 ( 0 : 0 0 ) 以 降, 本 種 を
集 団内 にお いて 肉眼観察 によ り識 別す る
ことはほ とん どで きな いが, 発 光色が各
特徴 付 ける特異な周期 の短 い発光 シグナ
々 僅 か に異 な る ことによって 識別 して い
ル を放 つ 。 この 発光 シグナル はJ 4 1 が
誘引
ペ
る 可能性 も残 り, 今 後詳細 な発光 ス ク
発光 シグナル を放 つ と, よ り多 く発せ ら
トル 分 析 を行 う必 要 が あ る。 な お , P ,
れ る傾 向が見 られ る。 本種 の雌 と雄 を別
ー
々の
θF r ♂
θ
β
s
の
の
の
ピ
は大
発光色
ク 波長
竹
透 明 プラステ ック容器 に入れて 発光
場 ( 1 9 9 9 ) に よ る と, 雄 は5 6 5 n m , l l r t で 行 動 を観察す る と, 雄 の発光 に対応す る
は5 5 8 n m でそ の 差 は 僅 か 7 n m であ り, そ
よ う に雌 が 発 光 す る。 即 ち本 種 は P .
れ は人 間 の 日で もか ろ うじて識別 可能で
θF r ′
応 とは発光活動 時間 を違 える こ
竹θ
はある ものの, 本 種 の複 眼 の分光感度 は
とによって 両種 の発光 シグナル の撹乱 を
きわめて 高 い。
最小限 に して , コ ミュニ ケー シ ョンを図
′
θ
と ′s p が集合
写真 3 ′ r θ
βr / メθ/ / 1 / /,gsθ
-61-
って い る と考 え られ る。
室 内 にお け る両種 の発 光 パ タ ー ンの 相 違
牧 野 ほか ( 1 9 9 4 ) の方 法 によ る発 光 パ
タ ー ン解 析 結 果 によ る と, P . s p . の 雌 が
雄 を識別 す るた め に , 雄 の 放 つ 発 光 シグ
ナ ル を発 光 パ タ ー ンの相違 か ら識別 して
い る と考 え られ る。 即 ち P . θr F ″
竹 β″s
の 雄 の 発 光 は 同調 し, l H z 前後 で安 定 し,
この エピー ク に続 いて 8 個 の 小 ピー クが
一
並 び約 1 0 H z の周 期 の 発 光 で 収 束す る。
方 P . s p . で は 同調発 光 せず に0 2 ∼ 2 0 H z
の 様 々 な 同期 で発 光 し, 長 周期 発 光 にお
いて 発 光 間 隔 に規 則 性 が 認 め られ な い 。
さ らに, 発 光活 動 の 状態 によ って 発 光 パ
タ ー ンが様 々 に変 化 し, 特 に 1 8 H z 前後 の
短 周 期 の 発光 が頻 繁 とな り, 長 周 期 の 発
光 が減 少す る ( 図 1 ) 。 以 上 の とお り,
ー
両種 の 雄 の 発 光 パ タ ンは明 らか に相違
す るの で , 両 種 の雌 は 各 々の 雄 を発 光 パ
タ ー ンか ら識別 可能 で あ る と考 え られ る。
イ
︰
″s と ′. s p の発光 パ タ ー ン ( 気温 2 2 ℃)
rθ
θ/ ル/ g θ
ρryメ
図 1.β rθ
ー ・ス ペ ク トル
1 . β θ′/ 〃
竹θ″S 雄 の発光パ タ ー ン ( 4 秒 間記録 ) 2 . 同 パ ワ
3 . β. s p . 雄 の発光 パ タ ー ン ( 4 秒 間記録 ) 4 . 同 パ ワー ・ス ペ ク トル
P s p が えθ/ ル 竹 θβS の 集 団 を形 成 す る
特 定 した 本 に集 合 す る機 構
P . s p が 集 合 す るた め には , な ん らか
の 発 光 シグナル が 発 せ られ て い るか , 誘
引物 質 な どが放 たれ て い る必 要 が あ る。
しか し, そ う した 要 l t l は
確 認 され な い 。
″s は
圧 倒 的 多 数 個 体 を 占め る P , 」/ J t t θ
雄 が 同調 して 放 つ 固有 な発 光 シグナ ル に
よ って 雌 雄 と もに集 合す るが ( 大場 , 1 9
9 9 ) , P . s p , は 室 内観 察 で は深 夜 にな っ
て か ら同調 せ ず に発光 す る た め に , 同 種
を誘 引す る 効 率 は 低 い と考 え られ る。 更
に P . θr r J t tハ
θ の 雄 は 終 夜 , 同 調 して
体の P.sp.が
発 光 し, そ の な か で 少 数1 団
深 夜 にな って か ら発 光 した と して も, 多
rr」
プ
数個 体 の P . θ
紆 ガs の 発光 シグナ ル に
埋 没 して , 遠 方 の P . s p . を 誘 引す る こと
は 困難 で あ る と想 定 され る。
以 上 の 背 景か ら推 察 す る と, P . s p . は
P,θ
rFど
/ど
御s の 雄 が 同調 して放 つ 発 光 シ
に
グナル 誘 引 され , そ の 後 , 十 分 に雌 が
集 合 した深 夜 にな って P s p . は国行 な 発
光 シグナル によ って 同種 間 の コ ミュ ニ ケ
ー シ ョンを行 って い る と考 え られ る。 即
―
ち P s p . は第 一 段階 として まず P . 〃/ 」
プ
〃s の 集 回同時 明滅 の 発光 シグナル を
どθ
本種 の誘 引発光 シグナル と して利用 し P .
θメメど竹 ごβs の 集 回 の木 に集 合 して いる。
-62-
従 って発 光 せ ず に ,集 合 時 に別 種 の ホ タ
ル で あ る P.β/rlF/gttsの 雄 の 集 団 同時
明滅 の 発 光 シグナル を利 用 す る独 特 の 発
光行 動 を進 化 させ た ホ タル で あ る と い え ,
こ う した現 象が 明 らか に さね た幸隊1千
例は
の
これ まで 持 無 で あ り,新 発 兄 現 象 で あ
る。
以 11のよ うに ,形 態 学 的 に酷似 す る 1可
属 近線 Tflが同 一場 所 ,1司時 的 に生 息 して
棲 み 分 けて い る 事 実 は 異例 の ことで あ り,
種 分 化や 行 動 習性 の 進 化 な どを新 た な観
点 か ら考 え る 上で きわ めて 重 要 な 発 見 と
な った。
なお ,今 後 ,筆 者 は 両極 の イt交尼 器 の
相 達 な どに つ いて 詳細 に比 較検 討 し,両
極 の 形 態 学 的 相 達 を 蛭 にけ│らか にす る 予
定 で あ る。 また ,シ ンガポ ー ルや マ レー
シア に 分 冶f する P , ♂/ ′
びβ と P . 仰
′ αr
の 2 T I T lにお
問 い て も類 似 す る と思 わ れ る
現 象 を観 察 してお り, 今 後 詳 しい解 析 を
行 い , これ らと も併 せ て比 較研 究 を行 い
た い。
引用 文 献
Halleda,Y. 1966, Synchrollous flashing
of firerlics ill New Gunea. ざ
ごブ
1/rF【
でθ
士♂ごブrJ′
s ,(12)il-8,
β′/θオθざど
pls 2-3.
牧 野 徹 ・鈴 木 浩 文 , 大 場 信 義 1 9 9 4 ,
パ ー ソナル コ ン ピュ ー タ によ るホ タル
発 光 パ タ ー ン解 析 . 横 須賀 市 自然 博物
館研究報告, ( 4 2 ) ! 2 7 5 7 .
大 場 信 義 1 9 9 2 , ラ バ ウル で み た ホ タル
の 木 . イ ンセ クタ リウム , 2 9 ( 5 ) ! 1 8 2 4 .
大 場 信 義 1 9 9 9 , パ プア ・ニ ュ ー ギ エ ア
の ホ タル カ θr θ
ガ メT θ〃ど竹 θ〃s の 集
同 同時 明減 . 横 須 賀 市 博物館 研 究 報告
( 自然 ) , ( 4 6 ) i 3 3 4 0 .
大 場 信 義 2 0 0 4 , ホ タル点 減 の 不思 議 一
地 球 の 奇 跡 . 伎 須 賀 市博物館 特 別 展 示
解 説 洋, ( 7 ) │ 1 1 9 9
大 場 信義 2 0 0 6 , パ ブア ・ニ ュ ー ギ エ ア
の ホ タル ノ′
βr θ
ぇ β〃」竹 例 ざ の 集
"Jア
団 同時 発 光 シグナル を利 用す るホ タル
の 1 種 . 枝 須 賀 市博 物 館 研 究 報 告 ,
(54)!19.
-63-