VLSI設計支援工学 VLSIの低消費電力化技術 小松 聡 東京大学大規模集積システム設計教育研究センター (VLSI Design and Education Center; VDEC) [email protected] 2001年5月8日(火) 1 内容 VLSIにおける消費電力 低消費電力化技術 デバイス 回路 アーキテクチャ システム CAD 今後の低消費電力設計技術の展望 2 VLSIにおける消費電力 VLSIの低消費電力化に対する要求 プロセッサなどにおける消費電力の増大 性能向上に比例して増大 VLSIの信頼性 温度上昇→信頼性の低下 システムのコスト バッテリ駆動時間 携帯電話、PDSなどの普及による 環境問題 3 消費電力の増大 マイクロプロセッサの消費電力 ハイエンドでは100Wを超える 一世代進むごとに素子数、クロック周波数、消 費電力が2倍となっている プロセス技術の今後の進歩 (ITRS1999, 2000Updateより, http://public.itrs.net) 年 デザインルール (um) トランジスタ数 (MTr.) クロック周波数 (MHz) 電源電圧 (V) 消費電力 (W) 1999 0.18 24-61 600-1250 1.5-1.8 1.4-90 2001 0.13 48-122 800-2100 1.2-1.5 2.0-130 2004 0.09 135-244 1100-3500 0.9-1.2 2.4-160 2008 0.06 539-1381 1522-7115 0.6-0.9 2.1-171 2011 0.04 1523-3907 1925-11050 0.5-0.6 2.3-177 4 消費電力の増大によって 回路の誤動作 信頼度の低下 温度が10℃上昇すると故障率が2倍に コストの上昇 冷却、高性能な電源の必要性 電力代、電池代 環境問題 世界のプロセッサ生産40億個/年 →1プロセッサあたり1Wとすると、、、 5 CMOS回路の消費電力 スイッチング電力 貫通電流による電力 リーク電流による電力 P pt (C L Vs VDD f CLK ) I SC VDD I Leak VDD P : 消費電力 CL Vs : 負荷容量 : 信号振幅 VDD : 電源電圧 f CLK pt : 動作周波数 : 信号遷移頻度 I SC : 貫通電流 I Lead : リーク電流 6 スイッチング電力 負荷容量CLの充放電によ り電力を消費 VLSIの全消費電力の主な 部分を占める CL PSW pt (CL Vs VDD fCLK ) 7 貫通電流による電力 入力信号が遷移する際 にnMOS, pMOSが両方 ともONになる状態が存 在 低Vthプロセスで顕著 PSC I SC VDD 12 CL VDD 2Vt SW f 3 8 リーク電流による消費電力 MOSFETは理想的なス イッチではない 寄生ダイオードによるリーク 1接合あたり1fA程度 サブスレショルドリーク 低Vthプロセスで顕著 CL 9 消費電力削減の指針 P pt (CL Vs VDD fCLK ) I SC VDD I Leak VDD 電源電圧の削減 負荷容量の削減 スイッチング頻度の削減 クロック周波数の低減 貫通電流、リーク電流の削減 性能を低下させずにこれらを 行わなければならない 10 VLSIの低消費電力化技術 デバイスレベル プロセスの微細化 SOI(Silicon On Insulator) デバイスが埋め込み酸化膜上に形成されているた め寄生容量が小さい 電源電圧、しきい電圧の低減 低誘電率層間絶縁膜 11 VLSIの低消費電力化技術 回路レベル パス・トランジスタ・ロジック(負荷容量の低減) 電源電圧・しきい電圧の低減 グリッチの低減(スイッチング頻度の低減) 多種のしきい電圧の利用(リーク電流の低減) 12 グリッチ(glitch)の削減 信号の入力タイミングのずれにより発生 ノードが正しい論理レベルに落ち着く前に不要な信号 遷移を起こす D C B すべての信号パスのバランスを とり、論理段数を減らす + + + A D + C + B + A 13 MTCMOS (Multithreshold-Voltage CMOS) 回路の動作状態に応じてリーク電流を制御 アクティブ・モード:VDDV, GNDVが仮想的な電源 線として動作 スリープ・モード:高Vtデバイスがリークをカット VDD VDDV a High Vt for sleep control device b a Low Vt for performance b GNDV GND S. Mutoh et al., IEEE Journal of Solid State Circuits, 1995. 14 Variable Threshold voltage CMOS (VTCMOS) 基板バイアス効果を利用 アクティブ・モード:低Vt スリープ・モード:高Vt Vpp VDD GND Low Vt (Active) High Vt (Stand-by) Vnn 15 低消費電力アーキテクチャ 電源電圧の最適化 高性能から低消費電力へ 回路活性化率の削減 必要のない回路は動かさない 低消費電力向けデータ表現方法 データ表現、データ符号化など Application specificな用途に効果 16 電源電圧の最適化 いかに性能を低下させずに消費電力を削 減するか? 回路の高スループット化によって電源電圧を 低下させる 回路の並列化、パイプライン化 VDD 1 遅延時間 2 (VDD VT ) VDD 消費電力 VDD 2 17 並列化、パイプライン化による 低消費電力化(1) 並列化、パイプライ ン化により、各タスク の処理時間を長くし、 電源電圧を下げる。 右の例では、処理時 間が2倍になるので、 電源電圧を下げるこ とができる。 Time Normal Parallel Pipeline 18 並列化、パイプライン化による 低消費電力化(2) 一定のスループットが保たれることを要求 される用途に適している:DSP、Video、 Audio 高性能の汎用プロセッサには向かない 回路面積、追加コントローラなどの面で オーバーヘッド Clock Uni-Processor 8.3MHz Pipelined Multi-Processor 1.04MHz Vdd 3.3V 1.1V Area 72mm^2 112mm^2 Power 10.8mW 250uW [Source: Rabaey, Pedram, Low Power Design Methodologies] 19 Gated Clock 使わない回路は動かさない 使わないブロックのローカルクロックを止める 少なくとも20%程度消費電力を削減可能 性能面でのオーバーヘッドはなし クロックスキュー A B Enable_a Enable_b Clk PLL (Clk Generator) Enable_c D C 20 データ伝送(バス)の低消費電力化 信号伝送の消費電力削減 設計規則が小さくなるにつれて、配線 での消費電力の閉める割合増 バスなどの信号伝送路 ロジック部のローカル配線と比較して数桁大 きな容量を持つ P pt (C L Vs VDD f CLK ) P : 消費電力 CL Vs : 負荷容量 : 信号振幅 VDD f CLK : 電源電圧 : 動作周波数 pt : 信号遷移頻度 Power dissipation per unit area [W/cm 2] 1000 100 Total Power Inner circuit バス、チップI/Oなどの信号伝送路の信 号遷移頻度を削減することで、有効に 消費電力削減可能 10 Wiring 1 0.05 0.1 0.2 0.5 1 2 Design Rule [um] 21 VLSIにおける消費電力の分布 用途、設計手法によってかなり異なる 今後はロジックから配線へシフトしていくと予 想される CMOS論理LSIの電力分布 クロック ロジック メモリ I/O ASIC2 ASIC1 MPU2 MPU1 0% 20% 40% 60% 80% 100% 22 データ伝送における低消費電力化技術 低振幅バス 信号振幅を小さくすることで、消費電力削減 アナログ回路を用いることが多い データ符号化 信号遷移が小さくなるようにデータを符号化す る アドレスバス、データバスのデータの性質を利用 Application specific なケースに用いられることが多 い 23 VLSIでの信号伝送におけるデータ符号化 データ符号化による低消費電力データ伝送技術 n A bus B bus Block 2 bus lines Block 3 n C bus CHIP 3バス構成のプロセッサのモデル Small capacitance junction capacitance Cj bus wiring capacitance gate capacitance Cw Cg Bus interface Encoder / Decoder Block 1 Bus interface Encoder / Decoder Reg. File Large Capacitance (relatively) Relatively high power dissipation CHIP Small capacitance データ符号化を用いた低電力データ伝送 方式の構成 バスの容量のモデル 24 データ表現 通常、負の数は2の補数を用いて表現され る。 特定の用途においてはこれが信号遷移数の 増加につながる(DSPなど) 数を2の補数ではなく、(符号)+(絶対値) で表すことによって遷移数を削減可能 用途に応じて最適なデータ表現方法を選 択する必要性 25 データ表現(2) 例:8ビットの場合 2の補数表現 (符号)+(絶対値) 0 000 00000 00000 000 1 000 00001 00000 001 -1 111 11111 10000 001 0 000 00000 00000 000 符号 26 データの伝送順序の最適化 データの伝送順序が任意で構わない場 最も信号遷移数が少なくなるように順序を入 れ替える(キャッシュなど) Instructionの順序を入れ替える コンパイラ側で最適化を行うことが可能 27 バス反転符号化 連続する2つの信号間の信号遷移数(ハミ ング距離)がバス幅の半数を超えるときに、 データを反転し、1ビットの冗長符号を用い て反転/非反転の情報を伝送する 信号遷移頻度の削減は10%程度 符号化なし バス反転符号化 00000000 0 0000000 0 00010001 0 0010001 0 11111111 0 0000000 1 00000000 0 0000000 0 反転 冗長符号 28 アドレスバスのデータ符号化(1) アドレスバスの信号(アドレス)には時間的 な依存関係が強いため、非常に効果的 Grayコード 値が+1のときに1ビットだけ遷移 アドレスバスに適している アドレス 000 001 010 011 100 101 110 111 グレイコード 000 001 011 010 110 111 101 100 29 アドレスバスのデータ符号化(2) T0コード 通常時はアドレスを送らない ジャンプ、分岐などの時のみアドレスを送る 冗長ビット1ビット INC or Jump 30 システムレベルでの低消費電力化 電源電圧の最適化 動的な電源電圧制御 アクティブモード、スリープモードで電源電圧を変化 INTEL SpeedStep, Transmeta Crusoeなど 局所的な電源電圧最適化 クリティカルパスとそれ以外 異なる電圧間のインタフェース Not critical: Low VDD Critical: High VDD 31 低消費電力CAD技術 ゲートサイジング 配置配線後にライブラリセルのゲートサイズを 最適化、再配置配線の繰り返し 50%近く消費電力を削減したケースも 消費電力を考慮した論理合成、配置配線 従来は主に速度と面積のみ クロック・ネットの最適化 32 適応型コード長符号化 1. 入力データとコード帳の各コードとの論理XORをとる 2. それらの中で“1”の数が最も小さいものを選択する 3. 前サイクルのバスデータとの論理XORをとり、それをバ スに伝送する 4. コード帳を更新する number of "1" is minimum Step 1 transition in data is minimum Step 2 Data Input 0 0 0 0 0 1 0 0 CK Input Minimum Hamming Distance Detector LWC 0 1 0 0 0 0 0 0 Bus R Code Word Update invert 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 1 1 1 0 0 1 0 1 1 1 0 1 1 1 Code Word 0 0 0 0 1 1 1 1 0 1 1 0 1 0 0 1 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 1 1 1 0 0 1 1 1 1 1 0 1 1 1 1 Codebook 1 0 0 0 0 1 1 1 1 0 0 0 0 1 1 1 selected invert 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 1 1 1 0 0 1 0 1 1 1 0 1 1 1 Code Word 0 0 0 0 1 1 1 1 0 1 0 0 1 0 1 1 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 1 1 1 0 0 1 1 1 1 1 0 1 1 1 1 Codebook 1 0 0 0 0 1 1 1 1 0 0 0 0 1 1 1 WriteBack WriteBack Codebook 適応型コード帳符号化の符号化手法 適応型コード帳符号化でのコード帳 の更新方法 33 適応型コード帳符号化のシミュレーション による評価 ランダムデータに対するシミュレーション結果 “1”の出現率に対する計算結果 Ratio of Transition 1 Bus Invert Encoded Codebook Encoded 0.95 適応型コード帳符号化により 25-50%信号遷移頻度を削減 することが可能 0.9 0.85 0.8 0.75 0.7 0.65 Adaptive Codebook Encoded 0.6 0.55 0.5 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Ratio of 1 in data 34 適応型コード帳符号化のシミュレーション による評価(4) PCのバスを流れるデータに対するシミュ レーション結果 ロジックアナライザを用いてPCのバスを流れ るデータを抽出し、入力データとして利用 PCのバスを流れるデータに対するシミュレーション結果 signal transition code w ord sum encoding method data raw data bus invert 173587 157846 0 3889 173587 161735 100% 93% generalized bus invet 135012 14203 149215 86% adaptive code-book 117055 14139 131194 76% % 35 適応型コード帳符号化の回路評価 適応型コード帳符号化の符号化/復号化チップの設計と検証 試作チップの特徴 適応型コード帳符号化/復号化チップの諸元 データ幅 16ビット コード数 1,2,4,8,16 いずれか選択可能 符号化→復号化 測定モード 符号化のみ いずれか選択可能 プロセス チップサイズ 電源電圧 トランジスタ数 パッケージ 2層metal 0.5um CMOS 4.8x4.8 [mm^2] 3.3 [V] 50136 [Transistors] 120pin PGA[13x13] (I/O 76pin) 復号化のみ Encoded Data 3-State Buffer CN Input Output Encoder Decoder Encoder チップの構成 Decoder 36 微細プロセスにおける最適符号化方式の検討 各設計規則とバスの負荷容量(1bitあたり)におけ る最適なデータ符号化方式 Bus load capacitance [pF/line] 50 40 Adaptiv e C ode-book(16) Adaptiv e C ode-book(8) 30 Adaptiv e C ode-book(4) 20 Bus I nv ert 10 0 0.01 0.03 0.1 0.3 1 Des ign rule [um ] 37 今後の低消費電力設計技術の展望 デバイス、回路技術 さらなるVDDの低下:VT制御、リーク制御、SOI 将来のプロセス技術に適した新たな回路方式 アーキテクチャ、システム技術 不要な電力をカット 論理、回路、アーキテクチャ、システム、ソフト ウェアを通じた低消費電力化 CAD技術 Low Power CAD クロックデザインツール 38
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