小学校① - 福井県教育研究所

平成26年度 5年経験者研修
授業実践記録
学び合い、ひびき合う授業づくり
~言葉で伝え合う力の育成を目指して~
勤務校
福井市麻生津小学校
職・氏名
教諭
真柄
仁美
印
1
テーマ設定の理由
昨年度末、京都教育大学付属小中学校の研究会に参加した。国語の授業を参観したのだが、クラ
スの子どもたちが自分の意見をしっかりと持ち、それをみんなに伝えようと言葉を選びながら話
す姿に大変感動した。「私がやりたいのは、こういう授業だ。」と強く思った。また、研究会の資
料の中に書いてあった「言葉で伝え合うことは、わたしたちが人として多くの人とつながりながら
生きていくために避けて通ることができないことである。言葉なくしてわたしたちの生活はあり
えない。」という文章が心の中に響いた。私が、今までの教員生活の中で感じていることと重なる
部分が多かったからだ。
これまで担任してきたどのクラスでも、自分の気持ちを正確に伝えらないことによる相手の勘
違いや、言われたことを正確に理解できないことによる自分勝手な思い込みから、トラブルになる
ケースが多かった。また、語彙が少ないため、自分の思いやそのときの感情を表現することが十分
できずにいる子も多いと感じた。将来、子どもたちが多くの人とつながり、豊かによりよく生きて
いくためには、「言葉で伝え合う」ことは欠かせないことである。また、学習指導要領の国語科の
目標に、「伝え合う力を高めるとともに、思考力や想像力及び言語感覚を養い」と書いてあること
からも、「伝え合う力」の育成は大切であると考える。子どもたちが将来、よりよく生きていくた
めの一つのスキルとして、「伝え合う力」を身につけられるような授業づくりを工夫していきたい
と考え、本テーマを設定した。
また、我が校の研究のサブテーマが「学び合い、ひびき合う授業づくり」であることも理由の一
つである。お互いに考えを「伝え合う」ことで、相手の発言から新しい視点を得たり(学び合い)、
自分の伝えたかったことを的確に表現し伝えている他者の発言に対して「そうそう、そういうこと
が言いたかったんだよ!同じ考えだ。」と共感できる(ひびき合う)授業づくりをしていきたいと
考えている。
5年間を振り返り、「こうしたい!」という思いはありながらも、思い通りに進まなかったり、
忙しい毎日の中で自分を甘やかしてしまったりしていた。この1年間の研究を実りあるものにし、
自分が目指す授業・自分が目指す学級を作り上げていきたい。
2
実践内容
○実践1「話し方・聞き方の指導」と「人間関係づくりの指導」
アクティビティの活用
最初の実践として、5月下旬、約2週間後に控えた宿泊学習に向けて※「1分間サイコロ言葉
ゲーム」というアクティビティを行った。
※『コミュニケーション力アップ!話し方・聞き方アクティビティ34』(明治図書)
手順
① グループの中で順番を決め、丸くなって座る。
② 第1回戦、スタートの合図で最初の人がサイコロを振り、出た目のテーマの言葉を言う。
(テーマは、「赤いもの」「海にいる生き物」「学校にあるもの」など、簡単なもの)
③ 一人目が言い終えたら、できるだけ間をあけず、順番に次々にテーマの言葉を言う。
(同じ言葉は2回言わない)
④ 1分間でストップし、各グループ何周言えたか確認する。
⑤ 第2回戦、2番目の人がサイコロを振り、同じように繰り返す。
⑥ 全員がサイコロを振ったら終了し、最後に全体で感想を発表し合う。
『コミュニケーション力アップ!話し方・聞き方アクティビティ34』より抜粋
このアクティビティは、宿泊学習の活動班でグループをつくり、班のメンバー同士がお互いに
「自分の言葉に耳を傾けてもらえる」という安心感と、班で協力して活動に取り組む意識をもっ
てもらいたいと思い行った。手順を説明した後、「決して急いで
言ったり焦ったりしないこと。友だちの言葉を温かく聞いてあげ
ること。言葉が出てこない友だちには、優しくヒントをあげるこ
と。」を守るように伝えた。ゲーム中はグループを回り、約束を
守れている児童を褒めたり、いい言葉を取り上げたりするように
した。宿泊学習の活動班は普段から一緒にいるメンバーばかりで
はなかったが、お互いに気遣いながら大いに盛り上がっていた。
クラスには4年時にいじめを受けていた女児(Y 子)、周りと
頻繁にトラブルを起こし、教師にも暴言を吐いたりしていた女児(M 子)がいる。Y 子は、始め
心配そうな表情を見せていたが、周囲の優しい雰囲気で次第に笑顔になっていった。M 子は負
けず嫌いなところもあるので誰かを責めたりしないか注意深く観察していたが、友達にヒント
を出してあげたり、自分もヒントをもらったりしながら楽しそうに活動できていた。その後も活
動班で他のアクティビティを行い、宿泊学習当日はどの班も協力しながら活動を終えることが
できた。
話したり聞いたりするときに、「自分が言ったことを、一生懸命聞いてもらえるってうれし
い。」「言葉が出てこなくて困ったときに優しく声をかけてもらえると、ほっとする。」という
ことを実感できるよい機会となった。
当初は、こういったアクティビティを計画的に行っていく予定であった。4月の段階での私
は、「こういったゲーム要素のある活動を、目的をもって継続して行えば、クラスの仲もよくな
り、コミュニケーション力も高まるに違いない。」と考えていた。しかし、なかなか時間が取れ
ないというのが現状で、この実践以降、何もできないでいた。そんな中、11月の中間まとめの
発表で、同じグループになったある先生の実践を聞き、目から鱗が落ちた。
その先生のテーマは「居心地のよい学級集団作り」であった。「お互いのことを理解し合い、
認め合うことで、クラスへの所属感を高めるとともに、児童自身の自信にもつなげ、諸活動への
活力としていけるようにしていきたい。」という考え方は、私のテーマである「学び合い」や「言
葉で伝え合う力の育成」を考える上で重要な「人間関係づくり」とよく似ていると感じた。言葉
で伝え合うには、まず、話を聞いてもらえるクラスの雰囲気が大切だと思うからだ。どのような
実践をされているのだろうと興味深く聞いていると、「毎回の授業の中で、必ずペアトークやグ
ループトークの時間を設けている。」「ペア学習の足跡として、お互いの作品に必ずコメントを
書いて残すようにしている。」といったものであった。その先生は、「私は、特別にエンカウン
ターとかそういうものはしないで、毎回の授業の中でお互いに認め合えるような場を作ればい
いんじゃないかと思う。だから、ペアトークをしたり、コメントを書いたりするのは、本当に必
ず毎回しつこくやっている。」とおっしゃっていた。この言葉を聞いて、私は「そうか!」と思
わず心の中で叫んだ。月一回程度の特別な時間に行うアクティビティよりも、毎日、毎回小さな
活動を積み重ねていくほうが、無理なく、わざとらしくなく、お互いを認め合える場が増える。
そして、自然と子供たちの人間関係はよくなっていくと思った。
朝のスピーチを通して
この他に、4月から「話し方・聞き方」の力を高めるために行っている朝の会のスピーチを、
さらに内容の濃いものにしていきたいと思い、6月中旬に「行ってみたいところ」というテーマ
でスピーチをさせることにした。「みんなが聞きたくなるスピーチにしよう!」という目標を掲
げ、
① なぜそこに行ってみたいのか理由を必ず言う。
② インターネット等でその場所について収集した様々な情報も付け加える。
③ 視覚に訴えられるよう、画像をプリントアウトしたものや、パンフレットの切り抜きのよう
な「見せる」資料を用意する。
という条件を提示した。そして、教師がお手本を示した。子どもたちは、思いのほかよろこんで
このスピーチに取り組んでいた。資料を何枚も用意してきた子も多かった。聞く側も、「みんな
はどこを選んだのだろう。」と興味深く聞いていた。資料を見せながら話すので、聞き手の視線
も自然に話し手に向かっていた。
それでも、顔を上げて聞くことができない子がいたり、聞いているようで聞いていない子もい
たりしたので、スピーチのあとに何問かのクイズを出すようにしてみた。また、スピーチの前に
必ず、「一生懸命準備してきたスピーチだから、心の中で応援しながら聞いてあげよう。」と声
をかけるようにした。そのとき、「○○さんの顔いいねえ。よし、聞くぞ!っていう声が聞こえ
てきそうやわ。」などと最低でも誰か一人を毎回必ずほめるようにした。そうすると、他の子た
ちの聞くときの表情が変化していくのが見て取れた。話す側にも、「声が小さくて後ろまで聞こ
えない」という課題があったが、クイズを出すようにしたり、「みんな一生懸命聞いてくれてる
から、一番後ろの子もはっきり聞こえる声を出そう!」と声かけをしたりすることで、少しずつ
大きな声になっていった。
スピーチを行う際には、まず聞きたくなるようなテーマを設定し、教師が手本を見せることが
大切だと感じた。そして、時には写真や実物など「見せる」資料を準備させるのも、楽しんで取
り組ませるためのよい手立てだなと思った。ほめて自信をつけてやることも大切だと子どもた
ちの様子を見て改めて思った。
夏休みが終わった9月、スピーチのテーマを「夏休みの思い出」としてスタートした。これま
での実践で、聞き手側が「顔を上げて静かに聞く」ということはもうできるようになっている。
今までは聞き手側を重点的にほめていたが、今回からは話し手側をほめることにした。ほめるポ
イントは、主に表現の仕方である。例えば、ただ「暑かった」ではなく、「まるで鉄板の上にい
るような暑さだった。」とか、「すごい試合だった。」ではなく、「白熱した試合だった。」と
いった具合である。スピーチをスタートして、最初の児童が上手な表現をしていたので、そこを
具体的にほめた。
「Aさんのスピーチ、表現がとてもよかったよ。スピードの速さを聞いている人に伝えるの
に、『ヘルメットやひざ当てをつけていても怖いと思うくらいのスピードでした。』って言って
たよね。ただ、『すごく速かったです。』って言うのと伝わり方が違うよね。」
すると、その次の児童から、そういった表現を意識して使うようになっていったのだ。スピー
チ後のクイズにも、「今のスピーチの中に上手な表現がありました。どんな表現をしていたでし
ょう。」という問題を取り入れるようにすると、聞き手側も最初からそういった表現を探しなが
ら聞くことができるようになっていった。また、表現の仕方にほめるポイントがなくても、声の
大きさや内容で必ずほめるようにした。それを欠かさず続けていたら、スピーチの質が徐々に向
上していった。「毎日同じことを欠かさずに続ける」ということは、とても効果があるものだと
いうことを改めて実感できた。
冬休み明け、テーマを「発見!こんなニュース!」として新聞記事から気になるものを探し、
記事の内容をまとめて自分の考えを述べるという形式で進めていきたいと考えていた。しかし、
自分の準備不足から、まだスピーチはスタートできていない状態である。今年度中に、必ず全員
にスピーチさせられるようにしたい。同時に、中間まとめに書いていた「子どもたちからクイズ
を出させる」「感想を言わせる」こと、「スピーチを聞きながらメモを取らせる」こともまだ実
践できていないので、これも必ず実践したい。
○実践2
子どもたちが学び合う授業づくり
5年国語「きいて、きいて、きいてみよう」
この単元では、「〇〇さん新聞をつくろう!」という言語活動
を設定し、友だちにインタビューをして情報を集め、その情報を
新聞にしてみんなに伝えるといった実践を行った。最初にゴール
を伝えたことで、「何のためにインタビュー活動をするのか」が
明確になり、話題や質問を考える際のヒントにもなったようであ
った。
まずは、練習ということで一つテーマを決めてインタビュー
を行った。時間は3分間であったが、ほとんどのペアがやりと
りを続けられなかった。振り返りをすると、「考えていた質問がすぐに終わってしまい3分も続
かなかった。」といった感想が多く出てきた。そこで、「どうするとインタビューがうまくいく
のだろう。」と問いかけ、教科書についているお手本の CD を聞かせ、自分たちのインタビュー
との違いについて話し合わせた。そうすると「聞き手側は、相手が答えたことに対して自分のコ
メントを入れている。」「ぼくたちは質問して相手が答えてくれたら、すぐに別の質問をしてい
たけれど、CD は相手の答えを聞いたら、そこからさらに詳しいことを質問していた。」「あい
づちを打っていた。」といった意見が出てきた。これらは、インタビューを行う際の大切なポイ
ントである。
最初から CD を聞かせて、「どんなところが上手か探しましょう。」と問いかけても、ここま
では出てこなかったかもしれないと思う。まず一度やってみて「どうやったらうまくいくのだろ
う。」という疑問を持って CD を聞いたことが、気付きにつながっていったのではないかと考え
る。子どもたちが自ら考え、気付き、それをお互いに伝えて合って「確かにそうだよね。」と納
得し合うことで、「学び合う授業」につながっていくのだとこの実践を通して実感できた。そこ
へ導いていくには、やはり教師の授業力が不可欠である。
次に、インタビューしたことをもとに「○○さん新聞」を仕上げていった。教師が、お手本と
なる新聞を作成しておき、それを提示して書き方を説明した。だが、いざ書き始めると、集めた
情報が思いのほか少なかったこと気が付き始めた児童が出てきた。
「先生、こんなに書けません。」「先生、もう書くことがありません。」という声があちこち
から聞こえてきた。「掘り下げて質問する」ということがうまくできていなかったため、こうな
ってしまったのだ。「足りない情報は、もう一度インタビューしなおしてくればいいよ。」とそ
の時は伝えたのだが、その通りにしていた児童はあまりいなかった。今考えれば、そのときにい
ったん新聞の作成をストップし、もう一度全員でインタビューの内容を考え直させてから再度
インタビューをさせると、最初のインタビューよりも質の高いものになったかもしれない。そし
て、最初のインタビューと次のインタビューの違いを考えさせ、意見を交換させるとよかったな
と思う。
今回の実践は、まだ「確かにそうだよね。」と納得し合う部分が薄かったように思う。そのた
め、まだ「学び合う授業」ではなく「自ら学ぶ授業」でしかないかもしれない。今後は、納得し
合う部分がもっと分厚くなっていくようにしていきたい。
5年国語「大造じいさんとガン」
この単元では、「お気に入りの部分を、自分の考えや思いが伝わるように朗読しよう~朗読大
会を開こう~」という言語活動を設定し、学習を開始した。まず、この「朗読大会」に少なから
ず難色を示していた子供たちだったが、「評価のポイントを決めて全員で審査をし、優勝を決め
る」ということを伝えると、モチベーションが上がった様子だった。
自分の考えや思いが伝わるように朗読するためには、登場人物の相互関係や心情、場面につい
ての描写をとらえることが必要である。今までの児童の実態を考えると、やはり場人物の心情を
とらえることが難しい。ノートに書かせようとしても、なかなか書くことができない児童も多
い。また、この大造じいさんとガンでは情景描写を新しく学習する。「心情」と「情景描写」の
二つに焦点をあてて学習を進めていきたいと考えた。
どのようにして読み取りをさせようか悩みながらのスタートだった。いい考えが浮かばない
まま、読み取りの1時間目。よくある手法「大造じいさんの心情がわかるところに線を引き、そ
れを発表させる」というやり方で進めると、予想はしていたが、決まった児童しか発表しないし、
明らかに退屈そうな表情であった。線を引かずにぼんやりしている児童も少なからずいた。これ
ではやはりだめだと、作戦を練り直した。
全員が話し合いに参加して意見を述べるには、やはりグループで活動するのが一番だろうと
思った。そこで、物語を6つの部分に分けて、それぞれのグループで心情がわかるところを画用
紙にまとめ発表するという方法を考えた。そして、発問を「大造じいさんの心情がわかるところ
を発掘しよう」とした。「探して線を引く」という活動を、「化石を発掘する」と例えたのだ。
「この文章の中には、大造じいさんのたくさんの心情が隠されている。だから、みんなでそれを
掘り起こしてほしい。心情かどうかよくわからなくても、グループで相談すればいい。化石の発
掘だって、何かが出てきてもすぐには何の化石か、どの部分の化石かは、調べてみないと分から
ないから、心情が隠されていそうだと思ったらとにかく線を引いてみよう。あとからみんなで相
談して、それが心情かどうかを判断すればいいよ。」と声をかけた。「心情」という言葉も丁寧
に説明した。グループで活動する前に個人で線を引く作業をさせたのだが、1時間目のときとは
意欲がまるで違っていた。全部残らず見つけてやろうという様子が分かった。ほんの少し発問を
変えるだけでこれだけ違うのかと、改めて発問の大切さを痛感した。
個人での作業を終え、グループでの活動に入ると、ぼんやりしたり人任せにしたりしている児
童は一人もいなかった。「この部分も心情なんじゃない。」「ここって引いた?」と、みんなで
しっかり話し合っていた。自分の意見を伝え、相手の意見を聞きながら協力して作業を進めてい
た。そして、線を引いた部分には大造じいさんのどのような心情が隠されているのかもグループ
で話し合い、画用紙に記入していった。一人ではなかなか考えられない児童も、グループで話を
することによって意見を出すことができていた。
グループでの発表は役割分担をさせて、必ず全員が声を出すこととした。発表の手順を黒板に
提示し、どのように言えばよいか分からないということがないようにした。
手順
① 発表グループは前に出て、担当した部分を音読する。発表グループ以外は、音読を聞きなが
ら心情がわかるところに線を引く。(担当以外のところは、読んでいないので。)
② 発表グループは、画用紙にまとめたことを発表する。(大造じいさんの心情がわかる部分と、
その心情について。)
③ 発表した意見に付け足しがあれば、発表グループ以外の人が付け足す。
担当した部分以外のところを考える時間を確保したかったので、①のような方法を考えた。こ
うすることで、全員が全文を読み心情が隠されている部分に線を引くことができたし、各グルー
プの発表を、自分と比較しながら聞くことができた。
「心情」に関してはよかったのだが、「情景描写」はうまくいかなかった。まず、「情景」の
意味を教科書に沿って説明した。そして、「心情」のときと同じように、全文を6つに分けてグ
ループで「情景」が描かれている部分を探すようにした。どのグループも、「情景」と思われる
部分を探すことはできたのだが、その情景から大造じいさんの心情を考えることが難しかった
ようだ。児童からは、「先生。ここが情景やっていうのは分かるんですけど、大造じいさんの心
情が分かりません。」という言葉が多く聞かれた。例えば、「らんまんとさいたスモモの花が、
その羽にふれて、雪のように清らかに、はらはらと散りました。」という部分は情景とわかるの
だが、この文章と大造じいさんの心情がつながらないのだ。各グループを回り、説明をしていっ
たが、児童の頭上にクエスチョンマークが浮かんでいるのが見えた。結局、情景の部分だけを発
表させて、心情については教師が説明するという形になってしまった。
最初に行った「心情」の学習においては、児童が個人で考えたことをグループ内で共有し、そ
れをお互いに「そうそう、私もそこに引いた!」とか「あ~、確かにそこもあるかもなあ。」な
ど」と納得しあいながら進んでいった。前回の実践に比べると、だいぶ「学び合う授業」に近づ
いたのではないかと思う。発問を考えることの大切さも、改めて感じることができた。
5年算数
「面積」
面積の単元は、初任者の年に指導主事訪問で行っている。面積を求める学習は、いろいろな解
き方があり、「自分の考えを相手に伝える」という活動に適していると思い、自分の実践を追試
してみることにした。
以下に、当時の指導案から「指導について」の一部を載せる。
指導について
(1)見通しがもてる課題提示の仕方と算数的活動の工夫
導入場面では、魔人「メンセーキ」というキャラクターが「ヘイホウ城」の最上階に隠し
た財宝を、みんなで取り返しに行くという設定でこの単元を進めていく。財宝にたどり着く
には、城の中にある様々な形の扉の面積を求めなければいけない、というように児童が意欲
を持って学習に取り組めるように考えた。また、最初にどんな形の扉があるのかを言葉で伝
えておくことで、これから求めていく面積の形を見通せるようにする。
また、三角形、平行四辺形、ひし形及び台形などの面積の求め方を、操作活動を取り入れ
たり、言葉、式、図を用いたりして考え、説明するといった算数的活動を取り入れて、理解
を深めさせていきたい。この活動を、それぞれの面積の求め方を考えるときに繰り返し行う
ことにより、数学的な思考力や表現力を高めることができると考える。
(2)練り合いの場の設定と支援
単元全体を通して、面積の求め方を自力解決したあと、グループの中で自分の考えを
一人一人が伝えるという場面を設ける。そうすることにより、まず一つは、全員が授業
中に一回は発表をする場面を与えることができる。そして、全員が自分の考えを誰かに
聞いてもらうという場面をつくることができる。またもう一つは、全体での発表とは違
い、グループ内発表だとよく分からないときに質問もしやすいので、より理解が深まる
のではないかと考える。
各自が考えた面積の求め方を発表し合って、それぞれの求め方のよさに気づかせていきた
い。
本年度は、研究のテーマが「学び合い、ひびき合う授業づくり」なので、(2)に重点をおい
た。もちろん、児童のモチベーションを高めるため、(1)の設定も同じように行った。
クラスの児童は、算数の授業の中で「説明する」ということがとても苦手である。「なぜその
式をたてたのか。」「どのように考えたのか。」と聞いても、首をひねるだけか、「なんとなく。」
としか答えられない児童が多い。今回の単元を通して、この「説明」を全員がしっかりとできる
ことを目指そうと考えた。ただし、自力解決のみでは、それができない児童も少なからずいる。
そこで、グループの中で自分の考えを
伝えた後は、グループでのおすすめの考
え方を全体の場で発表するという方法
をとった。グループ発表ということで、
前回の国語での実践のように、発表の際
の役割分担を決め、必ず全員が声を出さ
なければいけないというようにした。
自力解決の際には、毎回同じ形式のワ
ークシート(資料①)を使い、迷わずに
作業を進められるようにした。また、グ
ループ発表用のシートも同じ形式のも
のを拡大し、書くときに困らないように
した。右の写真は、グループ発表で作成
した発表用シートである。考え方の図・文章・式・答えが書いてある。
第一時の児童の反応は、とてもよかった。「メンセーキ」を登場させたり、「ヘイホウ城」の
話をしたりし始めると、児童の目はこちらに釘付けになった。算数が苦手で、普段の授業なら最
初からこちらに見向きもしないなM子やT男も、一生懸命に聞いていた。第一時の終わりに、
「先
生、この勉強は今日で終わりなんですか?もっとやりたいです!」と言いにきた児童もいた。
第二時からは、いよいよ三角形の面積を求めていく活動に入った。扉の形(直角三角形)を見
せ、「この面積をいろいろな方法で求めて、扉を開けよう!」と授業を始めた。ワークシートに
書く際の約束として、
① 考えを説明するときには「算数の言葉」(算数の用語・記号など)を必ず使う。
② 図や表を書き視覚的に分かるようにする。
③ 考え方をネーミングする。
この3つを指導した。「算数の言葉」というと難しく感じると思い、扉を開ける「アイテム」と
いうように言いかえた。「アイテム」とは、例えば「長方形」や「正方形」といった図形の名前、
「たて×横」や「一辺×一辺」のような公式などである。そして、面積を求めるための「必殺技」
も準備した。最初に使える「必殺技」として紹介したのは、「必殺!知ってる形」である。図形
を切ったり、動かしたり、組み合わせたりして「知っている形」にすると、面積を求めることが
できることを伝えた。実際に切って動かせるヒントカード(資料②)も用意した。児童は、カー
ドを切って動かしながら必死になって取り組んでいた。初めてなので、どうしたらよいか分から
ない児童も多かったが、ヒントカードを動かしてやり、「こうすると、知っている形にならな
い?」と尋ねると、「あー!分かった分かった!」と鉛筆を動かし始めた。「一つの方法だけで
はなく、いろいろな求め方があるよ。どんどん考えてごらん。ワークシートが詰まったら、新し
いのを用意してあるから取りにおいで。」と言うと、多くの児童が取りに来て、次の考え方に取
り組んでいた。
先に挙げた、算数の苦手なM子は、導入の第1時でやる気になっていたので、ヒントカードを
切り取り、動かしながら「知っている形」にしようとしていた。そして、「先生!知ってる形に
なったよ!こっからどうすればいいの?」と積極的に声をかけてきた。そこで、「同じ形の直角
三角形が二つで、長方形ができたやろ?求めたいのは、この直角三角形一つ分なんだから、どう
すればいいと思う?」とヒントカードを実際に動かしながら聞いてみた。そうすると、「あ!半
分にすればいいってことか!」とうれしそうに笑い、計算を始めていた。T男は、ヒントカード
を切り取ったものの、どう動かしてよいのか分からず、紙で遊び始めていた。そこで、カードを
動かしてやり長方形を作って見せた。あとは、M子の時と同じように、カードを動かしながら「同
じ形が二つで長方形になっているから、半分にすれば一つ分の面積になる」ことを伝えると、黙
々とワークシートに書き始めた。
自力解決を終えグループ内での発表に入ると、自分が考えた解き方を、図を見せながらメンバ
ーに説明できていた。ワークシートにうまく書けなくて、上手に言えない児童もいたが、上手に
説明できた児童の真似をしながらなんとか説明をすることができた。自分たちが書いたワーク
シートを見合いながら、「これ、一緒やなあ。」「ああ、そんなふうにもできるんや!」と声を
上げている児童、声は出さずに、口を開けて首を縦に振り納得している様子の児童、自分のワー
クシートと他の子のワークシートを交互に見比べている児童、いろいろな反応が見られた。M子
もT男も、ワークシートを見せながら何とか説明をすることができていた。普段ならば、立式も
ままならず黒板を写して終わっているのだが、説明するところまでできて満足そうだった。
次にグループ発表の準備に取りかかった。グループの中の誰の考えを発表するかを決め、発表
用のシートに書き込み、誰が何を言うかの役割分担を行う。算数でこういったことをするのは初
めてなのでかなり時間がかかった。「自力解決→グループ内で意見交換→発表準備→全体に発
表」で一時間を予定していたが、二時間かかってしまった。けれども、「大造じいさんとガン」
で似たようなことをしていたので、発表自体はスムーズだった。全員が自分の考えを持ち、それ
を誰かに伝え、最後は全員で共有することができた。
第3時からは、扉の形が変わっていくだけで流れはすべて同じなので、回を重ねるにつれてど
んどんスピードも上がり、発表も上手になっていった。特に自力解決の時間は、最初に扉の形を
見た時点で、「あ~、もう分かった~!」「あれ使おうかな。」と頭の中で図形を動かし、解法
を考えている児童も多かった。毎回おなじやり方にこだわって考えている児童もいた。
初任者の年にこの実践をした時は、児童の発表レベルが高かったので、後半はグループ発表で
なく個人発表の形にしたのだが、今回はそうすると同じ児童しか発表しないことが予想された
ので、最後までグループ発表をやり通した。最後のほうには、45分で自力解決からグループ発
表までスムーズに流れるようになった。
今回の実践は、追試ということもありとてもやりやすく、また単元もテーマを研究するにあた
りふさわしいとろであったので、「学び合い、ひびき合う授業」になっていたと思う。一人一人
が「言葉で伝え合う力」を高められたのではないだろうか。
○実践3 語彙を増やす
各学年の国語の教科書の後ろに掲載されている「思ったことや、感じたことを表す言葉」のペ
ージを、まずは3年生から教室に掲示した。そして、授業中の発表、朝の会のスピーチ、毎日帰
りの会で行っている「キラリ発見(みんなのいいところを見つける)」の時間などに、この言葉
を使えたら印をつけ、全部使えたら次の学年に進むという提案をした。すると、子どもたちはと
ても乗り気で、「5年生までいって、終わったらどうするんですか。」という質問が出るくらい
やる気を見せていた。作文帳の最初のページにも同じものを貼り付け、日記の中で使えたら自分
で印を付けていくようにもさせた。
ところが、いっこうに印が増えていかないのである。6月中旬ごろに始めたのだが、夏休みに
入るまでに、教室に掲示したものに印は一つしか付かなかった。なぜなのかを考えてみると、掲
示してある言葉からその時自分が話したい内容に合うものを選択し、文章を組み立てて話すと
いうことは、難しいことだったのかもしれないというところにたどりついた。よく考えれば当然
のことなのだが、私は最初「これはできるはずだ!」と思い込んでいたのだ。
そこで、夏休み後は、「掲示されている言葉から一つ選
び、その言葉を使った短作文を考えて発表する」という形
に変えてみた。専用のノートを一冊作り、そこに書き溜め
ていくという方法をとることにした。毎週金曜日の朝学
習は、これまで百人一首の暗誦をしていたのだが、学年で
相談して、この時間を「短作文作り」にあてることにした。
ノートには、国語の教科書の後ろに掲載されている「思っ
たことや、感じたことを表す言葉」のページを印刷したも
のを貼った。定期的に書き溜めたものを班で紹介し合い、
よかった文章は全体で発表するようにしている。
しかし、この短作文では上手に文章を作れているにも
かかわらず、普段、感想や日記などを書いたりするときに
うまく使えないのである。おそらく「使わないといけな
い」という意識がないのであろう。もっと、普段の生活の
中でいろいろな言葉を使えるようにしていきたいのだ
が、今回の実践ではそこまでたどり着くことができなか
った。どうすればよいか、もっと考える必要があると感じている。
3
まとめ
「学び合い、ひびき合う授業」をテーマにし、1年間実践を行ってきた。現時点で、4月に考えて
いたことのおよそ半分ほどしかできなかったように思う。実践し、省察し、課題を持ちまた次の実践
につなげていくということは本当に大変なことだということが分かった。頭に思い描くのは簡単だ
が、実際に行うのは難しい。子供たちも、思ったようには動いてくれないことがある。けれども、こ
こに書いた実践を行ったことで、子供たちも私自身も、得るものがあったことは間違いない。4月の
子供たちと今の子供たちでは、授業に臨む姿勢が変わってきている。これまではあまり自分の考えを
書かなかった子たちも、少しずつだが書くようになってきた。私自身も、授業を考えるときに、どう
発問したらいいだろうかを考えられるようになってきた。
けれども、私のクラスには、まだ考えることを人任せにしている子が多い。その子たちに考えさせ
るには、やはりまず、「考えてみたい!」「やってみたい!」と思わせることが必要だ。それには、
こちらがそういう内容を考え、もっともっと発問も練っていかないといけない。
考えることができたら、「他の子はどうだろう。」「あの子の考えを聞いてみたい。」という気持
ちになるはずである。そこに「伝え合う」が生まれてくる。楽器は、振動が伝わってはじめてひびく
ように、授業でも「伝え合う」がたくさん生まれれば、「ひびき合う授業」にたどり着いていくので
はないかと思った。
「伝え合う」がたくさん生まれるには、安心して意見を言える人間関係を作っていくこと、「話す
・聞く」のスキルを身につけること、語彙を増やすことが必要である。「伝え合う」ことで「ひびき
合う」になり、「ひびき合う」が「学び合う」につながり、「学び合う」とそこでまた「ひびき合う」
が生まれてきて、そういうつながりができあがってくると、安心できる人間関係を築いていくことが
できる。考えていたら、すべてのことがつながっていくのではないかと思うようになった。
ということは、スタートである「考えてみたい!」「やってみたい!」と思わせる部分が強くない
と、これらはつながっていかないので、やはり学習過程の工夫や発問づくりにもっと力を注いでいか
なければいけないという課題が見えてきた。
教師という仕事を始めてからずっと、「授業が大切」ということはもちろん分かっているけれど、
それよりもクラスの人間関係や雰囲気づくりの方に目を向けていた。しかし、今こうやって考えてみ
ると、やはり大切なのは子どもが「考えてみたい!」と思える授業を作っていくことなのだと思うよ
うになった。人間関係も、クラスの雰囲気も、授業ひとつでよくしていくことができると思うように
なった。子供たちが学校にいる時間の大半が「授業」なのである。「将来、子どもたちが多くの人と
つながり、豊かによりよく生きていく」ために、この「授業」という時間をいかに使い、よりよく生
きていくためのスキルを身に着けさせるかが、これからの私の課題である。
課題
〈資料①〉
〈資料②〉