第5学年B組 音楽科学習指導案

第5学年B組
音楽科学習指導案
授 業 者
研究協力者
1
2
題材名
佐々木裕子
吉澤 恭子
奏でる,オリジナルサウンドで
~ミュージカル≪オペラ座の怪人≫より~
子どもと題材
(1) 子どもについて
3年生の時から 45 分間の授業の中に,一人で取り組む独唱・独奏の場と4,5人単位
の小グループによる演奏の場を組み込んだ学習活動を続けてきた子どもたちである。
リコーダー独奏や簡単な器楽合奏であれば,少人数で演奏することを厭わない子ども
が多い。一方,歌唱面については意欲や技能に差が大きい。大きな声で朗々と独唱する
子ども,歌うことに消極的なため表情に乏しい子どもなど,様々である。また,昨年度
はクラス単位で1パートを担当し,学年全体で合唱にする活動を重点的に行ってきた。
そのため,学級の中で二部や三部といった音の重なりを歌い上げる体験は不足している。
本題材に取り組むことにより,歌唱による和声感が育つことを願っている。
(2) 題材について
本題材では,ミュージカル≪オペラ座の怪人≫サウンドトラックより,中心曲≪オペ
ラ座の怪人≫,発展曲≪シンク・オブ・ミー≫など数曲を取り扱う。使用する楽譜につ
いては,中心曲では同声合唱用に編曲された楽譜を,発展曲では合唱用の楽譜は見当た
らないため,ピアノとヴォーカルのために編曲された楽譜を参考に,自分たちの技能に
合わせ,教師と子ども双方でアレンジを施しながら作成した楽譜を使用する。
サウンドトラックの特徴的な要素は,テーマの反復と転調である。例えば,≪オペラ
座の怪人≫では,テーマが3度登場する。最初はニ短調,次にト短調,最後にホ短調と
展開する仕組みである。しかも,クラシックの曲に比べて,転調の経過が明確である。
初めに楽曲を聴いた段階で,子どもたちははっきりと転調を聴き取り,転調した後の曲
想の変化と盛り上がりについて,「なるほど」とつぶやきながら味わうことができた。
学習活動全般を通して,演奏の難易度に考慮し,簡易から高度な楽曲へと学習を進め
る。よって,導入時から中盤にかけては,中心曲≪オペラ座の怪人≫を扱い,演奏形態
の工夫を生かした学習活動を行う。この前段で得た学びの成果を生かし,発展曲に挑戦
する。これらの旋律はいずれも優美であり,個々の発する音が語りかけるように結び付
くと,劇場型学習活動ならではの臨場感あふれる感動の共有が期待できるものと考える。
(3) 指導について
音楽科特有の「対話」を生かし,「新たな価値」を創造しながら学習活動を展開する
ための手立てとして,声や楽器による演奏形態の工夫に着目していく。導入段階では歌
唱を中心に行うが,合唱技能が未熟なため声部が増えると,ハーモニーが整わないこと
が予想される。そこで,リコーダーや鍵盤楽器で補うが,これらの音色については,最
終的には,ハーモニーづくりの補佐に留まらず,声と楽器が融合した瞬間の響き,まさ
に,「ライブ感覚」による音の臨場感を味わうことができるような活動を目指している。
演奏形態の工夫により2つの成果が期待される。1点目は「音楽を構造的にとらえよ
うとする思考」が育つことである。子ども自身が楽曲構成に着目し,起承転結のある流
れを目指して,クライマックスへの経過を考え,演奏形態を工夫するので,楽曲を構成
する力が必然的に育つのである。2点目は音色の差異が明確になることである。個々の
パートの担当が細分化されるので,一人の発する音色,複数が結び付き融合された音色,
グループ単位の音色など音色の重なりは複数に及ぶ。さらに,上質なものを求め続けて
いくと上限がない。そのため,音による「自分との対話」「仲間との対話」が連鎖的,
循環的に導き出され,音の融合による「新たな価値」の創造が展開されるのである。お
そらく,個々が責任と緊張感をもって,自分の発する音に対峙した時,「新たな価値」
の創造の場が最高潮に達すると予想する。まさに「ライブ」感覚が核になると考える。
3 題材の目標〈記号は本校の資質・能力表による〉
(1) 楽曲全体の曲想の変化に関心をもち,味わいながら聴いたり演奏したりしようとする。
〈A-11・B-3〉
(2) 曲想の盛り上がりを表現するために,独唱(奏)・重唱(奏)・全体唱(奏)など演
奏形態の組み合わせを工夫しながら,演奏することができる。
〈A-40〉
(3) ≪オペラ座の怪人≫≪シンク・オブ・ミー≫などの主旋律や各パートを演奏すること
ができる。
〈A-14〉
(4) それぞれの楽曲構成に着目し,主題の反復とともに転調していく経過の醍醐味を味わ
いながら聴くことができる。
〈B-7・10【共通事項】1c〉
4 題材の構想(総時数8時間)
時間
学習活動
教師の主な支援
評価
〈本校の資質・能力との関係〉
1
(1) 中心曲≪オペラ座 ・ ミュージカルの魅力や楽曲の
の怪人≫を聴いた
全体構成を把握するために,映
り,斉唱したりする。
像を視聴する場を取り入れる。
① 映像を鑑賞する。 ・ 英語の抑揚や歌詞のよさを味 ・ 曲想の変化や英語
② テーマを歌う。
わうために,単語を発音したり, で の 歌 唱 表 現 の 特
・ハミングと英語
その意味にしたがって動作化し
有のよさを感じ取
たりすることを奨励する。
っている。 〈B-3〉
2 (2) 中心曲≪オペラ座 ・ 楽曲の特徴的なよさを味わう
の怪人≫を合唱す
ために,テーマの反復と調性と
3
る。
の関係を確かめながら,歌う場
① 楽曲構成を知る。
を設定する。
4 ② 各テーマ別に主旋 ・ グループの合唱練習を支える
律を歌う。
ために,部分的に二部合唱にし ・ 主旋律や自分の担
・ハミングと英語
たり,副次的なパートを楽器で
当するパートを生
③ 副次的なパートを
補ったりする方法を提示しなが
き生きと演奏して
歌い,合唱する。
ら,支援する。
いる。
〈A-14〉
④ 独唱・重唱などを ・ 個を生かしつつ,仲間との連 ・ 曲想の高まりに合
取り入れ,演奏形態
携も図ることができるように,
わせた演奏形態の
の工夫をする。
グループ独自の演奏形態の工夫
工夫を考えている。
を紹介する場を設ける。
〈A-40〉
5 (3) 発展曲≪シンク・ ・ 同一グループによる発想の停 ・ 転調を重ねるごと
オブ・ミー≫を中心
滞が起こらないように,グルー
に,曲想が高まるこ
6
に演奏する。
プ編成を変えたり,合同にした
とを感じ取ってい
① 独唱・重唱などに
りするなどの支援にあたる。
る。
〈B-7・10〉
7
よる演奏形態を組み ・ 楽器の音色が声の補助的な手 ・ 曲想の高まりを歌
本時
合わせ,合唱する。
段に留まることのないように,
唱と器楽による音
② ①のパターンにリ
楽曲構成,特にクライマックス
の融合で表現して
コーダーや鍵盤楽器
に着目して,意図的に声と楽器
いる。
を加えて演奏する。
が融合したフレーズづくりを行
〈【共通事項】1c〉
うことを助言する。
8 (4) 中心曲・発展曲を ・ これまでの学習の成果を味わ ・ 曲想の高まりを学
演奏する。
い,自他の変容,自己有用感を
級全員で表現して
① 様々な演奏形態で
もつことができるように,導入
いる。さらに,自他
演奏する。
と終末の演奏を比較しながらビ
共に感動をもって,
② パートの人数編成
デオ視聴する場を設ける。
響き合いを味わっ
を変えて演奏する。 ・ 適度な緊張感を生かしながら, ている。
③ 聴き手と演奏者の
上質の演奏をつくり上げること
〈A-14・B-7・
両方を体験する。
ができるように,他学級に聴か
【共通事項】1c〉
せるなど,劇場型「ライブ」の
場を大切にする。
5
本時の実際
本時(7/8)
(1) ねらい
歌唱や器楽など自分の得意な技能を生かして,一人一人が響き合いを共有しなが
ら演奏することができる。
(2) 展
開
時間
○:「対話」の機能を活かすための手立て
学習活動
3分 ①
本時の学習課題を知る。
教師の支援
・
学習課題
自分の得意技を生かし,奏
でる・つなぎ合う。
そして,全員が一体化して
響き合う。
評価
≪オペラ座の怪人≫≪シンク・オブ・ミー≫
の楽曲構成に着目し,学習活動に見通しをもた
せるために,楽曲の全体構成を提示する。
≪オペラ座の怪人≫
序奏+(A1+A2+A3)+B+Coda
≪シンク・オブ・ミー≫
Ⅰ(A+B)+Ⅱ(B+C1)+Ⅲ(A+B+C2)
+Ⅳ(A+B+C3+B+Coda)
17分 ②
≪ オ ペ ラ 座 の 怪 人 ≫ を 演 奏 ・ 子どもたちの演奏に対する発想や意欲が停滞
する。
しないように,学習活動②と③では,異なるグ
【仲間との対話】 ループでの活動を提示する。
学習活動②のグループ
・ 小グループごとにテーマ
A1担当:歌唱は苦手,楽器で和声を補う。
A1,A2,A3から選択して演
A2担当:歌唱は意欲的,高音が得意である。
奏する。
A3担当:独唱や重唱ができる。
・ 演奏形態や響き合いの違い
を味わう。
・ グループごとのよさや改善 ○ 自分と他パートとの響き合い,他グループと
点を出し合う。
の和声の違いを感じ取ることができるように,
グループ同士の演奏を対比しながら,聴き合う
よう助言する。
20分 ③ ≪シンク・オブ・ミー≫を演 ・ 学習活動③では,自分のよさを発揮できるグ
奏する。
ループ(前時までに編成済み)で行う。(例:
【仲間との対話】【自分との対話】 鍵盤楽器が得意な人同士)
○ ≪シンク・オブ・ミー≫の特徴的な要素は,
(予想される子どもの反応)
各テーマが反復するごとに,曲想が徐々に高ま
・ 伴奏楽器の低音が入るといい。
り,コーダに至る経過にある。よって,これら
・ 一人一人の声がつながっている。
の経過を表現するための手立てとして,自分と
独唱でつなぐよさがでている。
他パートとの和声の変化に着目させる。また,
・ 高音の重なりが入ると,曲が盛り
各パートの重なりを図解するなど,具体的な視
上がっていく。
点を示して支援する。
・
高音(低音)で支えている。自分
視点:フレーズのつなぎ方→独唱の組み合わせ
の役割は大切。
・・
和声の響き→合唱(合奏)
・
声と楽器が重なるといいなあ。
歌唱と器楽の融合→音色の高まり,一体感
一人一人が結集した力はすごい。
一人一人が他パートとのつなぎ,重なりを
意識しながら,表情豊かに演奏している。
〈A-14・【共通事項】1c〉(演奏,表情)
5分 ④
本時の学びをふり返る。
【仲間との対話】【自分との対話】
≪オペラ座の怪人≫≪シン
ク・オブ・ミー≫の演奏を通し
て,ふり返る。
○
全員の力を結集して演奏し終えたことを取
り上げ,一人一人の頑張りや響き合いの共有の
素晴らしさを価値付けていく場とする。
(3)
「仲間との対話」を通して新たな価値を創造する子どもの姿
≪学習活動③において≫
子どもの姿
・ フレーズのつながり(音楽の横)
,パートの重なり・響き合い(音
楽の縦)が平板(貧弱)である。
【協働して追究する「問い」】
≪シンク・オブ・ミー≫のクライマックスを演出するための演
奏形態の工夫を通して,自分は仲間とどうかかわり,演奏を練り
上げていくのか。
【教師の手立て】
・
演奏者全体の中での自分の役割を自覚するために,演奏形態
についての構成図を提示する。
1 回目の発表後,演奏の改善ができるように,作戦タイムと
・
名付けた練習の場を設け,2 回目の演奏につなげる。
○自分の音への自覚
仲間との対話
・
最初の部分で,自分は出だしの歌を低音楽器で支えているの
で,歌を引き立てるように弾こう。
・ 自分は盛り上がりへの橋渡しのフレーズを歌っているのだか
ら,しっかりとつなぐ。
・ 自分の音が加わることにより,音がパワーを増していく。自
分の音はとても大切だ。
○仲間の音と一緒になったとき
・ A さんの音が入ってくると,やる気がでる。
(自信がもてる。)
一緒にやれてうれしい。
・
歌と楽器の音が一体になったときは,響きがぐっと広がる。
予想以上の響きだ。
・ B さんのこの和音が入ってくると,クライマックスを感じる。
目指す
子どもの姿
・
自分のパートと他パートとのかかわりを理解し,自分の技能
を最大限に生かしながら,伸びやかに表現している。
・
よりよい曲想表現のためのパートの役割を理解しながら演奏
している。
・
「ライブ」の緊張感のもと,仲間との調和・一体感を感じ取
りながら演奏している。