News Letter No. 24 2007.3 食 塩 感 受 性 高 血 圧 へ の 新 知見 ─酸化酵素P450の亜系遺伝子 の関与─ 4a10 東京大学先端科学技術研究センター 分子生物医学分野 中川 清 P450 は、細菌から哺乳類動物に至る生物種に広範囲分布する酸化酵素の総称であり、以下の一般反応式で示 すように、一原子酸素添加酵素(monooxygenase)としての働きをする。 P450 が触媒する反応の一般反応式:S + NADPH2+ O2 → SO + NADP + H2O 近年、数多く存在する P450 サブファミリーの中で、特にこのアラキドン酸代謝系における P450 酵素(ω/ω-1 Hydroxylase および Epoxygenase)およびその代謝産物(20-HETE、EET、プロスタグランジン等)は、高血圧症 発症機構の一因として注目されている。以下にアラキドン酸・P450 酵素代謝系の概略図を示した(図1)。 このようにアラキドン酸代謝系には COOH Arachidonic Acid ex) ω/ω-1 Hydroxylase(P450 酵素 遺伝子(マウス): 4a10,4a12,4a14 ) によって昇圧物質(20-HETE)を ω/ω-1 Hydroxylase Epoxygenase 4a isoforms 2c isoforms 19- and 20-HETE Regioisomeric EETs 昇圧系 (SHR) 降圧系 産生する昇圧系、Epoxygenase(P450 酵素遺伝子(マウス): 2c44, etc) c)を産生する降圧系が存在する。 COOH COOH ex) によって降圧物質(11,12-EET, etまた本 態 性 高 血 圧 症モデル動 物 ex) OH (SHR)において、昇圧系が亢進し O 11,12-Epoxyeicosatrienoic acids (11,12-EET) 20-Hydroxyeicosatrienoic acids (20-HETE) 1、2) ている事が報告されている 。そこ で本稿では、昨年 Vanderbilt 大 図1 アラキドン酸− P450 酵素代謝系 学腎臓病教室 Capdevila 教授ととも 3) に初めて報告した食塩感受性高血圧症を起こす 4a10 遺伝子欠損マウスについて紹介したい 。 Cyp4a10 遺伝子の欠損は高血圧症を起こす Cyp4a10(-/-) 高血圧マウスは食塩感受性である(投与期間;2 週間) 200 (mm Hg) 160 * WT * 収 縮 期 血 圧 KO 120 * KO * WT 収 縮 期 血 圧 * (mm Hg) P<0.001 150 * P<0.001 100 80 雄 雌 低食塩食 普通食 高食塩食 0.05% 0.30% 8.00% 図 2 4a10 遺伝子欠損マウスにおける血圧 この 4a10 遺伝子欠損マウス(KO)は性差に関係なく正常マウス(WT)と比較し著しく血圧が亢進している。そし て低食塩食(0.05%)で正常血圧、高食塩食(8%)でさらに重篤な高血圧となる食塩感受性を伴う高血圧を起こす 3) とてもユニークな遺伝子欠損マウスである事がわかる(図2) 。 Cyp4a10 遺伝子の欠損はナトリウム排泄を減弱させる Cyp4a10 遺伝子の欠損は尿量を減弱させる 4.0 (ml/12 h) (mmol/12 h) 2.0 WT WT 3.0 KO 尿 ナ 1.5 ト リ ウ ム 1.0 排 泄 量 + * P<0.001 * 尿 排 2.0 泄 量 +P<0.05 KO + P<0.001 +P<0.05 1.0 + + * 0 * 0 低食塩食 普通食 高食塩食 低食塩食 普通食 高食塩食 0.05% 0.30% 8.00% 0.05% 0.30% 8.00% 図3 4a10 遺伝子欠損マウスにおける尿中ナトリウム量および尿量 Cyp4a10(-/-)高血圧マウスはアミロイド感受性である 2% NaCl AMILORIDE 160 (mm Hg) 145 収 縮 期 血 圧 130 115 0 2 4 14 16 18 22 24 26 28 30 32 34 時間(日) 図4 4a10 遺伝子欠損マウスにおけるアミロライドの効果 そしてこの遺伝子欠損マウスは、ナトリウム貯留を起こしていた(図3)。さらにこのナトリウム貯留の原因を検討したとこ ろ,上皮性ナトリウムチャネル(Epithelial Na Channel; ENaC)特異的阻害剤の投与は、高食塩投与においても降圧 3) 作用が見られた(図4実線)。またアミロライドの血圧抑制作用が可逆的に反応している事も示された(図4点線) 。つま 3) りこの 4a10 遺伝子の欠損は ENaC 異常を起こし、ナトリウム貯留を起こす事によって血圧をあげている事がわかった 。 最後に、食塩感受性高血圧症解明に P450 遺伝子 4a10 の関与を見いだした事は初めての知見である。今後、この 欠損マウスによる研究が高血圧症、特に食塩感受性高血圧症の病態解明に重要な役割を果たすと言えるだろう。 参 考 文 献 1). McGiff JC, Quilley J. 20-HETE and the kidney: resolution of old problems and new beginnings. Am J Physiol. 1999 ;277(3 Pt 2):R607-23. Review. 2). Imig JD. Eicosanoid regulation of the renal vasculature. Am J Physiol Renal Physiol. 2000 ;279(6): F965-81. Review. 3). Nakagawa K, et. Al., Salt-sensitive hypertension is associated with dysfunctional Cyp4a10 gene and kidney epithelial sodium channel. J Clin Invest. 2006 ;116(6):1696-702. SHR等疾患モデル共同研究会 Disease Model Cooperative Research Association(DMCRA) 事務局 〒606-8431 京都市左京区浄土寺下馬場町86番地 国際健寿ビル1F TEL&FAX 075-761-2371 E-mail:[email protected] h t t p : / / w w w. d m c r a . c o m / 生産 管理部 〒433-8114 浜松市中区葵東3丁目5番1号 TEL&FAX 053-414-0626 E-mail:[email protected]
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