7 コラーゲ ン遺伝 子 改変 と動物 の疾 患 モデル 二 宮 喜 文 岡山大学医学部分子医化学 は じめに コラーゲ ンは生体 に最 も豊富 に存在するタンパク 1.コラーゲ ンスーパ ー ファ ミ リー コラーゲ ン遺伝子 は現在 19種類明 らか になって である。 か らだの表面 に存在 し機械的な力や感染か ら体 を防御 した り、炎症 の場 を提供 している一方、 骨格系 に存在 して重力 を保持す るための機能 を果た した り、ある種の細胞の増殖 を制御 した りしている ことが明 らかになって きている。 本 日は、 コラーゲ ンが骨格系 の機能に関係 してい ることか ら、外見上その異常 に気がつ きやすいい く つかのコラーゲン遺伝子異常のなかで、その病 因と の関係が判明 して きた動物の疾患モデル例 を紹介 し てみたい。 1)。 これ らは コラーゲ ンタンパ クと し いる ( 表 1)( ての構造、代謝 、高分子会合体様式等がわかってい るだけでな く、 これ らのコラーゲンタンパ クをコー ドす る遺伝子の構造や発現様式 も、い くつかの例外 を除いて殆 どわか って きている。 そのほかに、コラ ーゲ ン様構 造を もっているが コラーゲ ンとい う範暗 にはい らないポ リペ プチ ドがた くさんわか って きて l q、マ ンノース結合 タンパ ク、 いる。 た とえば、c コングルチニン、スカベ ンジャー受容体、サーファ クタン ト、MARCOな ど。 表 1 コラーゲ ンの分類 1)フ ィ ブ リル形 成 コ ラーゲ ン Ⅰ型 :coLIAl,COLIA2 11型 :coL2A1 1日 型 :coL3AI V型 :coL5Al,COL5A2,COL5A3 * xl型 : co ll A l,COLll A 2 (COL l lA ) L 3 2)プ アシ ッ ト ( FACI T) コ ラー ゲ ン I X型 : coL9Al,COL9 2 ,COL9A3 xIJ型 :coL12AI xl V型 :coL14AI xvI型 :coL16AI XI X型 :coL19Al A 3)基 底 膜 型 コ ラー ゲ ン l V型 : cc I L4Al,COL4A2, COL4A3 COL4A 4 , COL4 A 5 , , COL4A6 4)短鎖 コ ラーゲ ン X型 :COLIOAI Vlll型 :coL8AL COL8A2 5)マ ル チ プ レキ シ ン コ ラー ゲ ン xv型 :coL15AI xvllI型 :coL18Al 6)そ の他 の コ ラー ゲ ン ⅤⅠ型 : coL6Al,COL6A2,COL6A 3 V王Ⅰ型 :coL7Al , XIll型 :coL13AI xvII型 :coL17Al Xl )鎖 はCO L2Alの産物 α1( Ⅱ) 鎖の * c oLll A3の翻訳産物 である α3( 翻訳後の修飾の違いによる ものであ る O 8 図 1 コラーゲ ン遺伝子の染色体上の位置 ヒ トコラーゲ ン遺伝子の染色体上の位置 を示 したO 現在 19型 コラーゲ ンをコー ドす る 33 遺伝 子 の う ち、図 に示す よ うに 3 1遺伝 子 につ いて 位 置が 確 認 され てい る o CO L 5 A3と c oL 1 4 Alについては確認 されていないO 興味あ ることに、い くつかの遺伝子が 同 じl o c u sに存 在 している ようであ るO例 えば、染色体 1番、 2番、 6番、 21番な どがそれであるoお互 Ⅴ型 コラーゲンの 6遺伝子 以 外 は未だ殆 ど調べ られてい ないo いの詳細 な位置 関係 はⅠ 2.コラ ーゲ ン遺 伝 子 コラーゲン遺伝子 は、染色体上のさまざまな位置 に散 らばって存在 している ( 図 1)。 面 白いのは染 色体上 の位置が全 く異 なる二つの遺伝子産物が、常 に 2 :1で転写生合成 されている例 (Ⅰ型 コラーゲ ンはその典型例)があった り \ 同 じ遺伝子座 に隣接 して存在す るコラーゲ ン遺伝子 ( 例 えば、c o L 4 A lと c o L 4 A 2は染色体 1 3 番 に、C O L 4 A3とc o L 4A 4は染色体 2 番 に、C O L4 A 5とc o L 4 A 6は染色体xにお いて共通の プ ロモーターを介 して反対 向 きに並 んでいる。) も存 在す る し、また他 の コラーゲ ン以外 の遺伝子 とほん 00bpはなれて 、縦列 して いるコラー ゲ ン遺伝子 の5 o L l l A 2 遺伝子)。 もある ( 例 :c 3.コラーゲ ンの生 合 成 yⅩ一 Yの特異的なア ミノ酸配 コラーゲン α鎖 はGl 列 の繰 り返 し構造 を有する。 この コラーゲンポ リペ プチ ド鎖が 3本 よりあわ きって三重へ リックス構造 を呈す るコラーゲ ン分子 を形成する さらに細胞外 で高分子会合体 を形成 して、他のマ トリックス分子 や細胞等 と相互作用 し生物学 的機能を果たす。蛋 白 としての コラーゲ ンの特徴の一つ にコラーゲ ン生合 成過程がある コラーゲ ンもしくはコラーゲ ン棟構 造 を有す るポ リペ プチ ドは翻訳後の多 くの修飾 を受 けることが主に Ⅰ型 を使 った実験 より実証 されてい る. 3細胞 内では 3種類 の水酸化酵素や 2種類 の糖転 化酵素 に よ り修飾 された α鎖 は三本鎖ヘ リックスを 巻 いて分子 を形成する。細胞外 に分泌 される時、 フ ィブ リル形成 コラーゲ ンではN末端やC末端 を特異 的 に切断す るペ プチ ターゼの働 きによりプロコラーゲ ンか ら成熟 した コラーゲ ン分子 になる。 さらに細胞 外 では架橋形成 により安定なコラーゲ ンフィブ リル を形成 した り、 また他の分子 と高分子会合体 を形成 した りす る 。 。 。 9 表 2 コラーゲ ン遺伝 子異常 に よって生 じた遺伝性結合織 病 疾患 文献 遺伝子 CO LI Al, CO LI A 2 CO LI A 2 CO LI Al, 骨 そ しょう症 , CO LI A 2 CO LI Al CO LI A2 軟骨無形成症 CO LI A 2 軟骨低 形成症 CO LI A2 先天性骨幹端異 形成症 〔 l LI A 2 ス トラ ドウイック型 ( 骨幹 端異 形成症) C CO LI A 2 Kni es t型異 形成 症 CO LI A 2 ステ ックラー症候群 CO LI A 2 変形性 関節 症 CO L3AI I V型エー ラス ダンロス症候 群 CO L3 AI 家族性大動脈痛 アルポー ト症候群 ( 常染色体劣性 ) CO L 4 A3, C O L 4A 4 CO L 4A 5 アルポー ト症候群 ( X 染色体性 ) rO L 4A 5十CO L4A 6 アルポー ト症候群 十平滑筋 症 CO L7AI 先天性 表皮水泡症 ( 異栄養型) CO L9A2 多発性 骨端骨異形成症 C OLI O AI シュ ミッ ト型骨幹異 形成症 C O L1 7 Al 先天性表皮水泡症 ( 結合型 ) 骨形成不全 症 VI l 型エー ラス ダンロス症 S poti l a他 pr o NAS88, 5 42 3, 1 991 Bi ol . Che m.26 4,1 82 65,1 9 89 Vi s si ng他 J. Ho rt o n他 pr o NAS83, 45 83, 1 99 2 他 pr o NAS87, 6565 ,1 99 0 Al a Ko kko Le e他 s ci e nce2 4 4, 978,1 9 8 9 A h ma d他 A m.∫. H um.Ge net52. 39,1 99 3 Tro m p他 J. Bi ol . Che m.26 4.1 9 31 3,1 9 89 Tr o mp他 J. Bi ol. Che m.26 4.1 9 31 3,1 9 89 他 J. Cli n.∫ n vest .86, 1 465,1 99 0 Ko nt us aari 他 NatureGenet3,323,1993 Wi nt e r pac ht Fes sl er他 pr o NA91, 50 70, 1 99 4 他 Nat ureGe net8, 1 29,1 99 4 Ros ati ureGe net8, 77,1 99 4 Moc hi z u ki他 Nat Tr ygg vas o n他 Ki dne yl nt .43, 38,1 99 3 Z ho u他 S ci e nce261, 11 6 7,1 99 3 ureG e net4, 62, 1 9 9 3 C hri s ti a no他 Nat n Nat u1 cce net1 2,L OB,1 99 6 N l ur a ga ki War ma n他 Nat ur eGe net5, 7 9,1 99 3 Mc Gra【 h他 A m.J. Pat hol .1 48,1 7 87, 1 9 9 6 ( C57BL/6Fr SeCho/+x MEV)x( C57BL/6Fr SeCho/+x L o c u s D3Mi t 5 4 c h o L OD 0. 1 5 . ∼ 1 6. 0 7 2 7. 5 27. D3Mi t 1 7 2. 9\ MEV) Ge n e s L o c a t i o n so fh u ma nh o mo l o g u e s H s b 3 b 1 plトp1 3 G j a 5 Z, At pl al ,Amp dl C d Cd 53 Ng f b , ‖r a s ,Ts h b ,R a pl a Z,K c n a 3 K c n a Gn a t Z , Gn a t 3 nalィS3 K c Cs t m Amyl , AmyZ , Co l l1 al C f 3 1 p1 3 , 1 p1 3 1 p1 3, 1 p1 3,1 p1 3,1 p1 3,1 p1 2 p1 3 .1 p1 3 1 p1 321 1 p 21 ,1 p 21 ,1 p 21 1 pZ2 p 21 図2 C h o マ ウスの連鎖解析結 果 (5) F2交配 に よるマ ウス染色体 3 番上の C hoマ ウスの連鎖解析 4 .コラーゲ ン遺伝子異 常 に よ って生 じる疾患 コラーゲ ン遺伝子異常 によって生 じる疾患 として 現在 までに明 らかにされている ものをまとめた ( 秦 2)(2・3)。 その多 くは表現系 として骨格や軟骨形成 異常 を伴 うものが多 く明 らかに先天異常 として認識 される ものが多い。そのほか、 コラーゲン遺伝子が 臓器や組織特異的に発現 していることか ら、ある臓 器 の障害 として認識 されるコラーゲ ン遺伝子病 も存 o L 4 A 3、 在する 例 えばアルポー ト症候群 は、c c o L 4 A 4、C O L 4 A5 遺伝子異常 によって、基底膜の構造 。 異常 を呈 して、腎臓 にお ける血液成分 か ら尿 をつ く る重要なフィルター機能障害 に至る進行性糸球体腎 炎の例 として最近明 らかになった。未だわかってい ない遺伝性疾患 の うちコラーゲ ン遺伝子異常である ものが将来多 く見つかって くるであろう 。 1 0 COLLAGEN COMPONENTSOFCARTI LAGE FI BRI LS ( ド) L S P KK TRRH T E Sl QA i i E欝 ■ ESi ■ l nt er act l onwi t hpr ot oogl ycans? T YP∈"COLUI G∈N 図3軟骨フィブリルとx 工コラーゲン( 5 ) 軟骨フィブリルはフィブリル形成コラーゲンであるⅠⅠ 型、xI型コラーゲンと、FACI Tコラー Xコラーゲンから成る。I Xコラーゲンはフィブリルの表面に位置するが、XI型コ ゲンであるI ラーゲンは軟骨フィブリルの中に一部埋 もれたように存在するOアミノ酸配列を示 した部位 は、特異的抗体の抗原として用いた部位である 。 5 .動 物 の 疾 患 モ デ ル と して見 つ か っ た コ ラ ー ゲ 6 .コ ラ ーゲ ン遺 伝 子 改 変 動 物 の応 用 ン遺 伝 子 異 常 の例 トランス ジェ-ニ ックマ ウス は 1)コ ラーゲ ン遺 伝子 の変 異 によ り起 きて くる疾患が どの ように して 生 じるかの機序 の解 明 に貢献 して きた。 さらにコラ ユ タ州 provoのSeegmiller教授 は、 実験動物 を観 察 していて、マ ウスの常染色体劣性 の軟骨形成不全 症 を発見 した 〔 4 )。 これはc h oと名付 け られた。 heterozygousで、四肢 、肋骨、下顎骨 、気管支 に異 常が来 て生後 間 もな く死亡す る ものであった。 c ho / c hoの新生マ ウスの四肢骨 は骨幹部が正常 マ ウ スのそ れ より広 いが、長 さは半分程度 であった。 seegmiH er教授 は軟骨 に存在す る多 くのマ トリック ス遺伝子、例 えば l I 型 コラーゲン、ア グ リカ ン、 I X 型 コラーゲン遺伝子 な ど多 くの遺伝子 を調べ たが、 調べた遺伝子か らは原 因遺伝子 ら しい陽性 の事実 は 見 つか らなかった。そ こで正攻法 で、ハ ーバ ー ド大 学の 01sen研 究室 と私共 の研 究室 は c ho 遺伝子 の連鎖 解析 を行 なってみる と、染色体 3番 にマ ップ されそ こに存在 す る α1( ⅩⅠ )遺伝子 であるC O L l l A lと同 じ 5 )0 c ho マ ウスのC O L l l A l 遺 位置 であ った。 ( 図 2)( 伝子 を検 索す る と、翻訳 開始 コ ドンか ら 5 7 0ヌ クレ オチ ド下流の シチ ジ ン塩基 の欠損 が見 つか り、 この こ とが フレームシフ トとな り、直 ちに終止 コ ドンを 型コ 生 んで しまうのである。 この こ とによって、ⅩⅠ ラーゲ ンは軟骨 にお けるコラーゲ ンフィブ リルの形 成 には必須 であることがわかった 。 つ ま り、軟骨の Ⅰ 型、 Ⅰ Ⅹ型、ⅩⅠ 型 コラーゲ コラーゲ ンフ ィブ リルは Ⅰ ンか ら成 ることが わかっていた ( 図 3の如 く)が、XI 型 コラーゲ ンが、その フィブ リル形成 に必須 である ことが は じめて明 らか になったのである 正常 の軟 。 骨分イヒと組織形成 には、ⅩⅠ 型 コラーゲ ンの存在 、 と くにその コラーゲ ン三本鎖構 造 を形成す るため には C 末端 のN C lドメイ ン、その なかで もシステイ ン残基 が重要 である ことが判 明 したのである。 ーゲ ン分子 もしくはその各 ドメインの生物学 的機 能 の解析 に使 用で きる 。 2) さらに未だわ か ってい な い コラーゲ ン遺伝子変異が ひ き起 こす疾患 の同定 を す るため に は格好 の 道具 である と思 われ る。 3)ま た種 々の ヒ ト疾患 のモ デル とな りこれ を用いた治療 の開発 に大 き く貢献す るであろ う。 現在 まで例 と して、 コラーゲ ン遺伝子改変 によっ て コラーゲ ンの機 能 を明 らか に しようとした実験 と して : c oll alM ov1 3マウス- 完全に α 1( I ) 遺伝子に発現が停 止する。 しかしマ ウス胎児は1 3日目まで生 き延び るが、大血管の破裂によって死亡する( 6 )0 co1 2al変異体大量発現 ( 7 )-c ho ndrodys pl asi a 8 )-脊椎、皮膚、眼に異常 co1 5a2変異体大量発現 ( co1 9al 変異体大量発現 ( 9) -o st eoart hrosi s棟 co1 9alノックアウ トマウス ( 1 0 ) -oste oart hrosi s 棟 c o1 l Oal 変異体大量発現 ( ll ) -s pond yl oe pi ph yseal dys pl asi a coll Oal ノックアウ トマウス ( 1 2 )-形質変化は特に認め られていない。 co1 4a3ノックアウ トマウス ( 1 3 ・ 1 4 )-アルポー ト症候群 が現在報告 され解析 が進め られてい る。 この ように、実験動物 モデルは、各種疾患 のモデル と して、その病 因の解析 に用い られるだけでな く、 遺伝子 の機能、 タンパ ク分子 の会合体 の解析 や機能 の解析 に も用い られる。特 に細胞外 マ トリックス分 子 の場合 には、その遺伝子異常 は骨格系 を中心 に、 外 か ら形質 の異常 を発見す ることが比較的簡単であ るので、 ノ ックアウ トマ ウスの実験 な ど積極 的に遺 11 伝子発現 を破壊す る実験 には適 している 多 くのコ ラー ゲ ン遺 伝 子 の ノ ッ ク ア ウ トマ ウ ス も し くは 。 I ) o mi na ntne gati vemut ati o nを作 成 して、 コラーゲ ン分子が作 る正常 の高分子会合 体構築 を撹乱 した と きにどの ような形質変化が生 じるかを観 察す ること によって、 コラーゲ ン遺伝子 の機 能 を検索す る試み が世界 中の研究室でなされてい る。 これ らの遺伝子 の生物学的機能が はっきりす るのはそ う遠 い ことで はないであろ う。 References 1 ) 01 s e nB. 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