Ti2O 正方格子を有する混合アニオン系超伝導体 BaTi2Pn2O (Pn = Sb, Bi) 矢島 健 東京大学 物性研究所 Novel Mixed Anionic Superconductors BaTi 2 Pn 2 O (Pn = Sb, Bi) with a Ti 2 O Square Lattice Takeshi Yajima Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo これまでの機能性材料開拓の中心は、酸化物をはじめとする単一アニオン系化合物が中心で あった。混合アニオン系化合物とは、1 つのカチオン種に対し複数種のアニオンが配位した化合物 を指し、研究例は少ないものの、その特異な配位環境に由来したユニークな物性を示すことが報 告されている。Na 2Ti 2 Sb 2 O に代表されるチタン系ニクタイド酸化物 ATi 2 Pn 2 O (A = Na 2 , (SrF) 2 , (SmO) 2 , Ba; Pn = As, Sb) は、anti-CuO 2 型の Ti 2 O 正方格子を有する層状化合物であり、CuO2 正 方格子を有する銅酸化物高温超伝導体との構造類似性が高い(図 1)。この Ti 2 O 正方格子を構成 する Ti 3+ は 2 つの O2– と 4 つの Sb 3–に配位される混合アニオン配位をとる。また電子状態は、銅酸 化物の Cu 2+ (d 9)に対し、Ti 3+ (d 1)であることから、銅酸化物高温超伝導体とは電子-ホールが対称 的な系であるとみなせる。既知の ATi 2 Pn 2 O では、共通して磁化・抵抗の異常(CDW/SDW)が見ら れるが、いずれも超伝導は示さない。 我々はこの混合アニオン系化合物 ATi 2 Pn 2 O を舞台として新超伝導体を探索した結果、新物質 BaTi 2 Sb 2 O(図 1)の合成に成功し、さらに BaTi 2 Sb 2 O が T c = 1.2 K の超伝導体であることを明らか にした。BaTi 2 Sb 2 O は、これまでの ATi 2 Pn 2 O と同様に CDW/SDW 転移を示し、その転移温度は類 縁の BaTi 2 As 2 O(T a = 200 K)に比べ T a = 50 K と大幅に抑制され、超伝導と共存する。このことは、 超伝導転移温度が、共存する CDW/SDW の抑制によって、さらに上昇可能であることを示唆して いる。そこで BaTi 2 Sb 2 O に対しホールドープ(Sb 3– サイトを Sn 4– で置換)を行ったところ、CDW/SDW 転移温度をさらに抑制し、超伝導転移温度を 2.5 K まで上昇させることに成功した。また既存の ATi 2 Pn 2 O の Pn サイトは As, Sb に限られていたが、Bi 系を探索した結果、さらに 2 種の新物質 BaTi 2 Bi 2 O, (SrF) 2Ti 2 Bi 2 O の合成にも成功した。Pn = Bi の化合物は、ともに CDW/SDW は示さず、 BaTi 2 Bi 2 O は T c = 4.6 K の超伝導体であった。 上記 3 種の新物質における詳細な構造解 析の結果、Ti 周囲の配位環境が超伝導の発 現に密接に関係していることが示された。そ こで、より詳細に配位環境と物性の相関を調 べ る べ く 固 溶 体 BaTi 2 (As 1–x Sbx ) 2 O, BaTi 2 (Sb 1–x Bi x ) 2 O を合成し、電子相図を作成 したところ、全領域で格子定数が連続的に変 化しているにもかかわらず、超伝導相が 0.9 ≤ x, y ≤ 0.3, 0.6 ≤ y ≤ 1 の 2 つの領域に分かれ て存在していることが明らかとなった。この T c の 2 ドーム構造は鉄砒素系に類似しているが、 BaTi 2 Pn 2 O の複雑な電子相図は、キャリアド ープとは異なり同価数のアニオン置換で現れ 図 1. (a) BaTi2 Pn 2 O(Pn = As, Sb, Bi)の結晶構造. たものであることから、純粋に Ti 3+ 周囲の混 (b)TiO 2Pn 4 八面体. (c)Ti2 O 正方格子. 合アニオン配位と、その配位環境制御がもた らしたものであると考えられる。
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