米国 CDC:MERS の臨床的特徴 医療関係者向け MERS Clinical

米国 CDC:MERS の臨床的特徴
医療関係者向け
MERS Clinical Features; For Healthcare Professionals
(仮訳)鹿児島大学名誉教授
岡本嘉六
臨床所見
中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染の臨床スペクトルは、不顕性感染
から急性の上部呼吸器疾患、急速な進行性肺炎、呼吸不全、敗血症性ショック、ならびに死
亡に至る多臓器不全までに及ぶと報告されている。ほとんどの MERS-CoV 症例は、成人で
報告されているが(年齢の中央値 50 歳、男性が多い)、全ての年齢の子供と成人も感染し
ている(0~99 歳)。入院したほとんどの MERS-CoV 患者は、慢性の併存疾患を抱えてい
る。これまでに報告された MERS-CoV 確認症例の中で、致命率は約 35%である。
MERS-CoV 患者の臨床データは限られており、これまでに公開された臨床情報の大半
は、深刻な症状の患者についてである。来院時における共通の徴候や症状には、発熱、寒気・
悪寒、頭痛、咳嗽、呼吸困難および筋肉痛が含まれる。その他の症状には、喉の痛み、鼻風
邪、吐き気と嘔吐、めまい、痰、下痢、嘔吐および腹部痛みが含まれることがある。肺炎に
先行する発熱と下痢を伴わない軽度の非定型臨床所見が報告されている。集中治療室(ICU)
への収容を要する患者は、しばしば、発症後 1 週間以内の急速に進行する肺炎を伴う熱性上
気道疾患の病歴がある。
臨床経過
限定的なヒト・ヒト感染と関連した二次感染症例についての潜伏期間の中央値は、約 5
日(2~14 日の範囲)である。MERS-CoV 患者において、発症から入院までの期間の中央
値は、約 4 日である。深刻な症状の患者において、発症から集中治療室(ICU)への収容ま
での期間の中央値は約 5 日であり、発症から死亡までの期間の中央値は約 12 日である。12
名の ICU 患者があった一事例において、人工呼吸の期間の中央値は 16 日であり、ICU 滞
在日数の中央値は 30 日、90 日目の時点での致命率は 58%であった。X 線写真の所見には、
片側または両側の斑状高密度部や不透明部、間質性陰影、融合および胸水を含むことがある。
急性呼吸不全、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、難治性低酸素血症、肺外合併症(腎代替療
法を必要とする急性腎障害、強心薬を必要とする低血圧、肝の炎症、敗血症性ショック)へ
の急速な進行が報告されている。
検査所見
入院時の検査所見には、白血球減少、リンパ球減少、血小板減少、乳酸脱水素酵素の上
昇を含むことがある。入院時に、その他の呼吸器系ウイルスの同時感染および少数だが市中
での細菌同時感染が報告されており、人工呼吸患者では細菌や真菌の院内感染が報告されて
いる。MERS-CoV ウイルスは、上部気道に比べて下部気道においてウイルス量の増加と長
期間の検出が見られ、糞便、血清および尿から検出されている。ただし、MERS-CoV ウイ
ルスの呼吸器や呼吸器以外からの排出期間に関するデータは、非常に限られている。
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臨床管理と治療
MERS-CoV 感染に対する特別な治療法はない。臨床管理には、合併症の補助的治療お
よび推奨される感染症の予防と制御の実施が含まれる。さらに詳細な情報は、World Health
Organization guidance for clinical management of MERS-CoV patients を参照してくだ
さい。
MERS に対するさらなる情報は以下を参照。
● 医療専門家への暫定的手引き(Interim Guidance for Health Professionals)
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症例の定義(Case Definitions)
感染の予防と制御(Infection Prevention and Control)
事前準備のチェックリストと出典(Preparedness Checklists and Resources)
自宅介護と隔離の暫定的手引き(Interim Home Care and Isolation Guidance)
訳注: MERS-CoV 発生後の期間が短いので、十分な情報が集まっていないことを理
解する必要がある。当然のことながら、重症例を優先的に検査、報告するので、軽症例のデ
ータは集まらず、まして、不顕性感染例を調べている余裕はない。すなわち、致命率をとっ
ても、入院患者については計算できるが軽症例を含めた値は出しようがなく、高率で治療施
設によるバラツキが大きくなる。
ヒト・ヒト感染の起き易さについても同様であり、確実なことは言えない。ただし、2012
年に MERS-CoV ウイルスが確認されて以降、442 名の死亡を含め 1179 名が確認されたに
すぎず(全世界で年間わずか 300 名余り)、2009 年の新型インフルエンザのような爆発的
広がりは見られない。
「容易には感染しない」という専門家の発言は、
「インフルエンザのよ
うには」が枕詞となっており、一般市民からすると「全世界で年間 300 名余が感染し、そ
の内 100 名が死亡する」のは非常に怖い話である。これが、
「感染し易さ」の理解のギャッ
プにつながり、パニックを引起す。
MERS-CoV ウイルス自体は P3 の高度安全施設でしか扱えないが、実験室のような高濃
度液を扱わない市中での感染は別問題である。ラクダから感染したヒトはかなり高濃度のウ
イルスを排出するだろうが、二次感染者の排出量は減り三次感染者は韓国で初めて確認され
た珍しいことである。ヒトでの感染を繰り返す内にウイルス排出が次第に減っていくことは、
一般の病原体で良く知られている。排出量とともに排出期間が関わっているが、CDC の解
説でも「MERS-CoV ウイルスの呼吸器や呼吸器以外からの排出期間に関するデータは、非
常に限られている」とされ、確実なことは言えない。ただし、インフルエンザや麻疹(はし
か)は症状が出る前からウイルスを排出するのでワクチンを使用しないと流行を止められな
い。他方、MERS-CoV ウイルスにはワクチンがないけれども欧米諸国では二次感染を防い
でいる。このことからすると、MERS-CoV ウイルスは発症前に排出されることはないと考
えられる。すなわち、発熱していない者から感染することはないと考えられる。
韓国は例外であって、日本では侵入しても二次感染を防げるだろう。
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