ノロウイルス 食中毒と施設内感染-予防と対策 埼玉医科大学国際医療

ノロウイルス
食中毒と施設内感染-予防と対策
埼玉医科大学国際医療センター
感染症科・感染制御科
光武
1
耕太郎
はじめに
ノロウイルスは、嘔吐や下痢を主症状とする感染性胃腸炎の原因ウイル
スのひとつです。ノロウイルスによる胃腸炎は、1 年を通して発生がみ
られますが、特に冬季に流行するのが特徴です。小児から高齢者まで幅
広い年齢層で感染がみられ、わずかのウイルス量で感染・発症するため
周囲へ感染が広がりやすい傾向があります。本来は食中毒の原因となる
ウイルスですが、施設内(高齢者施設や病院など)で発生した場合、多
くの患者が発症する(集団感染)事例が時にみられます。
2
ノロウイルスについて
1968 年にアメリカの学校で集団感染した事例あり、患者の便からウ
イルスが検出され、地名にちなんでノーウォークウイルスと呼ばれまし
たが、2002 年に現在のノロウイルスと正式に命名されました。国内外
で広く患者発生がみられており、食品を介した食中毒として発生するだ
けでなく、最近では病院や高齢者施設など多くの人を収容する場所での
施設内集団感染が問題となっています。インフルエンザにおけるタミフ
1
ルのような治療薬(抗ウイルス薬)がなく、ワクチンによる予防は現時
点では研究・開発段階です。
感染経路
ウイルスは汚染された食物や水、患者からの飛沫、ヒトの手
等を介して、ヒトの口から入って感染します。
主な感染経路に、
1)ヒトの便中のノロウイルスが、下水を通って川から海へ運ばれ、
二枚貝に蓄積されます(貝の中でウイルス自体増殖はしない。増殖する
のはヒトの体内のみ)。それらを、生もしくは十分に加熱しないで食べ
ると感染する。2)ノロウイルスをもっている人が、十分に手洗いをせ
ずにウイルスが手についたまま調理をすると、食品が汚染され、汚染さ
れた食品を食べた人が感染する。3)ノロウイルスを含む便や吐物を介
して、またその処理の途中で手についてしまったウイルスが、口から入
って感染する、があります。
ウイルスに対しては、アルコールやいわゆる抗菌石鹸は効果が十分と
はいえません。用途は限られますが、物品や環境表面に対して用いる場
合は塩素系消毒薬(漂白剤)が有効です(取扱い時には注意が必要!)。
また、調理器具の消毒は(食材の調理時の温度も)は 85 度 1 分以上に
よる加熱も有効です。
2
3
診断と治療について
診断
嘔吐、下痢、腹痛、発熱などの臨床症状や、家族内での発生、喫
食歴などの状況を考慮して、総合的にノロウイルスを原因と推定するこ
とになります。しかしながら、食中毒を起こす病原微生物は細菌やウイ
ルス、寄生虫など多岐にわたり、冬季においてもノロウイルス以外のウ
イルスによる胃腸炎は少なくありません。したがって原因がノロウイル
スによるかどうかは、臨床症状や周囲の発生状況だけでは判断できませ
ん。
検査
外来を受診時に、便中のノロウイルスを短時間(15~30 分以内)
で検出する迅速検査があります(インフルエンザの診断に用いられてい
るのと同じ方法です)。外来で短時間に検査可能というメリットがあり
ますが、この検査で健康保険が適用されるのは、医師が医学的に必要と
認めた場合で、以下のアからオに該当する患者さんに限定されます。ア:
3 歳未満の患者、イ:65 歳以上の患者、ウ:悪性腫瘍の診断が確定し
ている患者、エ:臓器移植後の患者、オ:抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、
又は免疫抑制効果のある薬剤を投与中の患者。またこの検査は、ノロウ
イルスに感染していても必ずしも陽性となるとは限らず、逆に陰性であ
ってもノロウイルスに感染していないことを証明するものではありま
せん。
3
治療
治療に関しては、現在ノロウイルスに対する抗ウイルス薬はあり
ません。通常は症状を和らげる対症療法を行います。乳幼児や高齢者は、
脱水にならないように注意します。強い下痢止めは、病気の回復を遅ら
せる可能性があるので避けた方がよいでしょう。
4
日常生活での注意点など
ノロウイルスをはじめ、食中毒を予防する基本は、原因となる病原微
生物を「付けない、増やさない、やっつける」です。食事を準備すると
きは、こまめに手を洗い、食事の前には子供も大人も手を洗いましょう。
また、加熱が必要な食品はしっかり中まで加熱することが重要です。
◆施設内感染における注意事項
ノロウイルスによる胃腸炎は、ウイルスを含む食品や物、環境に触れ
た人の手を介して感染が拡大します。施設の利用者だけでなく、職員も
手指衛生(手洗い)を習慣づけることが、感染予防の基本です。トイレ
の後や排泄物の処理後、調理や食事の前には必ず手を洗うように心掛け
ましょう。
排泄物や吐物の処理
便や吐物の処理は、施設内での汚染拡大を防ぐために大切です。この
とき、処理をする人や、周囲環境を汚染させないように注意して、適切
4
な方法で迅速に行います。必要な物品をあらかじめ準備しておくと慌て
なくて済みます(事前にデモを行っておくとさらによい)。使い捨て手
袋やマスク、ガウン/エプロン、ペーパータオルや新聞紙、ビニール袋、
次亜塩素酸ナトリウム、専用バケツなどが必要です。吐物を処理する時
は、窓を開けるなど十分に換気してください。また、吐物を処理した後
数日間は、新たに嘔吐や下痢をする人が出ないかどうか注意してくださ
い。
汚染したリネン類の洗濯と消毒
① 汚物がついたリネン類を取り扱うときは、使い捨ての
1.
汚物を除く
ビニール手袋とマスク/エプロンを着用し、汚物が直接
皮膚に触れたり、飛沫を吸い込んだりするのを防ぐ。
② 汚物がついたリネン類はビニール袋等に入れ、周囲を
2.消毒
汚染させないよう注意して扱う。
③ 汚れを十分に落とした後、塩素系の消毒液
3.洗濯
(0.02%次亜塩素酸ナトリウム)に 30~60 分間浸す。
または、熱湯消毒する(85℃で1分間以上)。
④ 消毒後、他のものと分けて、洗濯はできれば最後にする。
5
参考資料
厚生労働省ホームページ(健康・医療-食品-食中毒)
*ノロウイルスを含む食中毒一般に関する説明やパンフレット、動画も
5
閲覧可能
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shok
uhin/index.html
1. 相談窓口
食中毒を疑う場合は、医師または最寄りの保健所に相談。
<資料>
<国内のノロウイルスによる食中毒>
◎患者数は第 1 位
◎発生は 11~2 月に多い
その他の月
ノロウイルス
その他の原因
12,707 人
13,616 人
48%
11~2 月
99 件
227 件
52%
70%
30%
発生時期別件数
年間の原因別食中毒患者
食中毒統計(H19~23 年)、厚生労働省 HP より
<ノロウイルスによる食中毒の感染経路と主な症状>
6
感染経路
症状
<ウイルスに感染から発症まで>
<食品から>
24〜48 時間
 ウイルスを含んだ、加熱不⼗分
<主な症状>
な魚介類(⼆枚貝など)
 嘔気・嘔吐、下痢、腹痛、発熱
 ウイルスを持っている⼈が調理
 感染しても症状のないことも
などをして汚染された⾷品を介
ある
して
<人から>
 乳幼児や⾼齢者は、吐物を吸い
 ノロウイルス患者の嘔吐物や糞
込むことによる肺炎や窒息す
ることがあるので注意を要す
便からの感染
る
 家庭や施設における患者の⾶沫
などによる感染
(厚生労働省 HP より)
7