愛知医科大学医学部 西尾 治 細菌、ウイルスの大きさ ●細菌=μm 1μm =1/1000mm ●ウイルス=nm 1nm=1/1000μm ●細菌は光学顕微鏡で400~1000倍に 拡大して確認できる ●ウイルスは電子顕微鏡で10万倍くらい 拡大しないと確認できない 1 観察窓 アストロウイルス ノロウイルス アデノウイルス 電子顕微鏡によるノロウイルスの形態観察 細菌と比較すると 直径約30〜40nm 小型で球形 細菌(サルモネラ) ウイルスの特徴 ● 最小の微生物 ● DNAかRNAのどちらかの一つを持つ ● 生きた細胞内でのみ増殖する ● 2分裂しない。遺伝子の増幅 によって増殖する ● ノロウイルスに効果のある薬剤はいま だない 細菌とウイルスの基本的な違い 性質 無細胞培地での 増殖 増殖 遺伝子 細菌 + ウイルス ー 2分裂 DNAとRNA 遺伝子 DNAかRNA 代謝機能 抗生物質感受性 大きさ + + 0.5-1μm ー ー 20-300nm ウイルスの増殖 1 吸着/侵入/脱殻 レセプター 膜融合 or エンドサイト−シス 暗黒期(eclipse) 転写/蛋白合成/ ゲノム複製 複製の場;核内or細胞質 組立/放出 発芽(budding) or 溶解 ウイルスと細菌の増殖 細菌とウイルスの根本的な違い ●ウイルスは粒子中にDNA,RNAを持ってい るが自らの力でタンパクや遺伝子合成ができ ない ●生きた細胞でのみ増殖し、そのとき細胞の酵 素や代謝機能を細胞から拝借する ●食品中環境中で増殖しない 1 ノロウイルス ノロウイルスの概要 最も小さいウイルス (1nmは100万分の1mm) 38nm 核酸(+RNA)と蛋白 偏性細胞寄生性 自分だけでは生きられない ノロウイルスの名称の歴史 1968年 1997年 1998年 2002年 2003年 ノーウオークウイルスは冬季嘔吐下痢症患 者のふん便の電子顕微鏡観察で発見 食品衛生法の改正食中毒病因物質 「SRSV」と「その他のウイルス」を加えた 生食用カキの「海域」の記載 国際ウイルス命名委員会 「ノロウイルス」と命名 食品衛生法の一部改正 「SRSV」を「ノロウイルス」 に改正 ノロウイルスの臨床 ●主症状:小腸の炎症 下痢、腹痛 胃の運動神経の低下 嘔気・嘔吐 嘔吐は突然、急激に起きる ●その他の症状:発熱,筋肉痛,頭痛 ●便:水様性の下痢便、血便はない ●潜伏期:12~72時間 ●治癒:1~3日後に治癒し,後遺症は 残らない。 ●発病率:70から40%程度である ノロウイルスの臨床-2 重症化:乳幼児、高齢者および抵抗力の弱い ヒトは重症化(脱水症状)する事があるの で注意を要する 治療薬:ノロウイルスに直接効果のある薬剤は ない ワクチン:ノロウイルスのワクチンは開発中 ノロウイルスの概要 ●冬期に多発する。 ●乳幼児から高齢者まで感染する 乳幼児の感染性胃腸炎の主病原ウイルスであり、全 国3,000箇所の小児科からの報告では90万人/年の 患者発生、成人、高齢者のデーターは無い 食中毒の病因物質である ●増殖系(組織培養、動物)がない 血清型、感染性等が不明である ● 遺伝子型多い 遺伝子診断法、酵素抗体 法等による診断が必ずしも完全ではない NVの感染と免疫 感染する人としない人がいる。 血液型によるウイルスレセプターが異なる 感染しない人は繰り返し投与されても、抗体 陰性、発病もしない。 発病する人で、1回目投与後、3~4ヶ月以 内に再投与すると発症はほぼ完全に阻止さ れる。免疫効果は6ヶ月後には著しく低下し、 2年後には完全に消失する。 投与3回以上で抗体が長期間持続する。 Norovirus の特徴 ●感染力が強い 少ない量で感染する ●糞便・嘔吐物 膨大な量を排出する ●pH3以下の酸性に強い 胃を通過 ●塩素に強い 次亜塩素酸で失活しにく い ●熱に強い 60℃30分で失活しない 85~90℃で90秒の加熱 発症者と非発症者のふん便中のウイルス量 ウイルス量(log/g) 患者(喫食者)と調理関係者(発症者)の便からの ノロウイルス(NV)遺伝子の経時的検出状況 調理関係者とその子供 患者 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 0~7 8~13 14~22 23~29 30~37 病日 患者A 患者B 患者C 患者D 患者E 患者F 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 0~7 店主の夫 8~14 15~21 22~29 30~37 病日 調理従事者A 調理従事者B 子供 宮崎県岩切ら ノロウイルス食中毒発生状況 (件) 厚生労働省食中毒統計 学校給食における原因別食中毒発生状況の推移 学校給食におけるノロウイルス食中毒 の病因物質(2002~2013年) 1 ノロウイルス サルモネラ・エンテリチィス サルモネラ属菌 カンピロバクター セレウス菌 ヒスタミン 病原大腸菌 不明 学校給食におけるノロウイルス食中毒 の原因食材(42件) 1 1 不明 パン 菓子・ケーキ そうさい 物理化学的抵抗性 ●抵抗性:非常に強い ●pH:酸に強い。胃を通過する。 pH3の溶液 に3時間で失活しない ●消毒:70%アルコールにも強い ●熱:熱に強い。 60℃30分加熱処理に安定 85~90℃、90秒間の加熱で不活化 ●塩素イオン:水道水(0.1ppm)、 プールの濃度(0.4ppm)に安定 ネコカリシウイルスの加熱温度による不活化 感染価log10 8 56 70 100 7 6 5 4 3 2 1 0 0 1 3 5 60 分 Doultreeら:J.Hos.Infect.41.51.1999を改変 TCID50log10 ネコカリシウイルスの乾燥による不活化 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 37℃ 20℃ 4℃ 0 5 10 20 30 40 50 60 日 Doultree JC:J Hos.Infect.41:51,1999を改変 ネコカリシウイルスのアルコールによる不活化 感染価log10 7 6 50%アルコール 70%アルコール 5 4 3 2 1 0 0 0.5 1 3 5 分 Gehrkeら:J.Hos.Infect.2004 ,56:49 改変 ネコカリシウイルスの次亜塩素ナトリウムによ る不活化 ウイルス濃度は100,000TCID50 次亜塩素ナトリウムの濃度によるウイルス 不活化 生存 5000ppm 5 0 1000ppm 5 0 500ppm 2.75 2.25 250ppm 2.75 2.25 100ppm 1.75 3.25 Doultree JC:J Hos.Infect.41:51,1999 ノロウイルスによる感染症 ふん便.吐物: 大量にウイルスを排泄 症状が消えた後: ウイルスの排泄が続く 不顕性感染: 常にウイルスを排泄する危険性 感染力が強い: 10個程度で感染・発病 感染性を長期間維持: 不活化されない 物理、化学物質に抵抗: 不活化が難しい 遺伝子型: 多い、多くに感染=乳幼児~高齢者 獲得する免疫: 弱い、繰り返し感染 現代社会に生き残るウイルス
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