TCSC の制御設計 E98093 中田 1. はじめに 考浩 指導教員 [1] 近年,電力分野ではサイリスタ等の半導体デバ イスの大容量化, 高性能化により, パワーエレクト ロニクス技術が基幹系統での系統間連系と直流送 電,配電系統での電力品質維持装置など発電から消 費に至るまですべての領域で幅広く採用されてい る。 複雑化する電力系統の潮流制御, 系統安定化, 高 機能化を図る方策の一つとして 1988 年に米国電力 研究所 (EPRI) により提示された,FACTS (Flexible AC Transmission System,フレキシブル交流送電シス テム) 構想が研究されている。 この構想は ,制御性がある直流を介して交流系 統をコントロールしようとするものであり,今後, 既設設備の一層の有効利用によるコスト低減,規制 緩和への対応など, より柔軟な電力系統の構成, 環 境問題に対応した設備の省エネルギーなど,電力分 野に対する期待が大きくなっており,わが国でも各 種の研究・開発が行われている。 そして, 系統安定化や送電電力向上の効果を持 つ FACTS 機器の中に,サイリスタ制御直列コンデ ンサ (Thyristor Controlled Series Capacitors : TCSC) がある。これは, 送電線に直列にコンデンサを配 置し,サイリスタで容量を制御することで見かけ上 のリアクタンスを変化させるものである。 そこで,本研究では,諸状態量をフィードバック させる TCSC 制御器のロバストな設計と制御系に 誤差が含まれていても安定した制御を行うシステ ムの安定性について検討を行う。 2. 制御モデルと制御設計 TCSC を系統内に設置した実システムを数学モ デルとして構築し,現代制御やロバスト制御におい て常に考えの中心に ある周波数応答法を用い MATLAB によってボード線図による設計を行う。 図 1 の一機無限大母線電力系統と図 2 の 3 機 9 母線電力系統[2]を対象モデルとする。そして,ボー ド線図化を行うために,発電機の位相差変動・角速 度変動を扱った動揺方程式を線形化し状態方程式 を導く。 制御器はフィードバック補償で抑制を行う。線 形時不変系に限定した上で外乱に対してのシステ ム出力の影響とロバスト制御システムの安定性を 考察する。 藤田 吾郎 Vt SG Vo i2 i Z i1 Z=R+jX Y=G+jB Y 図1 1 機無限大母線系統 LoadC G2 G3 8 2 7 5 3 9 6 4 LoadA 1 LoadB G1 図2 <2−1> 3 機 9 母線系統 状態方程式 1 機無限大母線電力系統では発電機の動揺方程 式を線形化する。 d 1 ∆ω = ( Pm dt 2 H d ∆δ = ω0∆ ω dt δ = δ0 + ∆ δ Pe ∆X VR sin X = k∆ ω = V − Pe ) δ S これを線形化した状態方程式は以下となる。 d ∆δ = ω0 ∆ ω dt d ∂ 1 VV ∆ω = ⋅ ⋅ ∆δ Pm − S R sin δ dt ∂δ 2H X δ =δ 0 + ∂ 1 VS VR ⋅ sin δ ⋅∆X P − ∂X 2 H m X δ =δ 0 1 VS VR VV cos δ 0 ⋅ ∆ δ − s 2R sin δ 0 ⋅ ∆X 2H X X d 1 ∆ X = (k ∆ ω − ∆ X ) dt T =− 制御入力として扱うのは発電機の相差角変動 ∆δ , 周波数変動 ∆ ω であり,これを制御系の状態変数 x として扱う。 ∆δ x& = Ax + Bu x = とすると、状態方程式 { ∆ ω y = Cx + Du での A(システム行列),B(入力行列)が導かれる。 A,B はそのランクより,可制御かつ可観測である。 Bode Diagrams <2−2> ボード線図 求めた状態方程式より MATLAB によるシミュレ ーションを行う。無制御時のボード線図を図 3 に 記す。図 3 では位相より不安定なことがわかるの で制御をかける。ゲインを加えたフィードバック 制御のボ−ド線図を図 4 とし,図 5 が位相進み補償 をかけたものであり,図 6 が位相遅れ補償をかけた ものである。 Bode Diagrams Phase (deg); Magnitude (dB) 50 0 -50 -100 100 50 0 -50 -100 -150 -200 -3 10 -2 -1 10 10 0 10 1 10 2 10 3 Frequency (rad/sec) 図6 位相遅れ補償 3. 検討結果 100 50 0 -50 ゲイン 200 150 ゲイン制御 100 50 0 10 1 10 図3 位相進み補償 無制御 Bode Diagrams 位相遅れ補償 From: U(1) 100 -0.01 -10 -100 位相余裕(deg) 0.02 18.2 ゲイン余裕(dB) 87.0 87.0 86.5 位相余裕(deg) 20.2 59.6 98.6 ゲイン余裕(dB) 77.7 77.0 72.9 位相余裕(deg) 20.2 20.7 26.0 ゲイン余裕(dB) 77.2 77.2 77.1 145 2 Frequency (rad/sec) 50 0 -50 -100 0 -50 To: Y(1) Phase (deg); Magnitude (dB) 10 図 4,図 5,図 6 より読み取った位相余裕とゲイン 余裕の結果を表 1 に示す。 表 1 解析結果 150 To: Y(1) 100 From: U(1) 200 0 10 From: U(1) 150 Phase (deg); Magnitude (dB) To: Y(1) また,C(出力行列),D(直達行列)は簡単化のため, C=[1 0] D=0 とした。 -100 -150 -200 10 -2 -1 10 10 0 10 1 10 2 10 3 Frequency (rad/sec) ゲインだけでのフィードバック制御では位相余 裕の増加が始め小さく安定させることが難しいこ とがわかった。そこで位相余裕を大きくするため 位相進み補償と位相遅れ補償を行った。設計指標 として一般に使われる値を元に計算を行い安定性 を向上させることができた。 4.今後の展望 図4 ゲイン制御 今後は,3 機 9 母線系統でのボード線図化を行い, また,制御対象に対して定常偏差がどの程度存在 し,どれくらい定常特性を改善する必要があるの か評価していきたい。 文献 Bode Diagrams From: U(1) 100 Phase (deg); Magnitude (dB) To: Y(1) 50 0 -50 -100 -150 [1] 「電力設備へのパワーエレクトロニクス技術の応用と将 100 来動向」, 電気協同研究,Vol.54,No.6,電気協同研究会 (1999) 50 0 [2] Paul M.Anderson, A.A.Fouad ‘Power System Control and -50 -100 Stability’,IEEE PRESS(1994) -150 -200 -1 10 10 0 10 1 10 2 Frequency (rad/sec) 図5 位相進み補償 10 3 10 4
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