既存木造住宅の耐震性能と 耐震補強効果に関する実験的研究 構造研究グループ 上席研究員 河合直人 講演内容 • 各種耐震補強構法の性能評価法 • 2004年版「木造住宅の耐震診断と補強方 法」の概要と技術的背景 • 木造住宅の補強・無補強試験体の震動台 実験 研究の背景 • 既存木造住宅の耐震性能 木造戸建て住宅約2,450万戸のうち、 耐震性の不十分なものが約1000万戸 (国交省推計) • 信頼のおける耐震診断法の必要性 (補強前・補強後) • 耐震診断法の妥当性の検証 1.各種耐震補強構法の性能評価法 耐震補強構法技術コンペ • 平成14年7月募集開始、12月優秀作品選出 • 建物全体の構造性能を評価可能な構法を対 象とする • 巷間にあふれる様々な完成度の構法を整理 する • 併せて今後の正しい性能評価に向けて考え 方の整理を行う 東立面 1階平面図 南立面 2階平面図 コンペ提出資料 • • • • • 補強後の総合評点 補強工事にかかるコスト 見栄え 特色(工期、居ながら補強、その他) その他 コンペの採点における考え方 • • • • 耐震補強構法としてのバリエーション 普及可能性の高い技術 完成度の高いものを最優秀作品 今後の発展が期待できるようなもの、アイデ ア的に優れているもの、などを優秀作 耐震補強のバリエーション コンペ • 開口部の補強-機能性を確保 • 外部からの補強-居ながら補強 • エネルギー吸収により振動制御するもの-振 動を効果的に抑制 • 効率的な壁補強 開口部の補強/外部からの補強 外部からの補強 頂部接合部 鉄骨柱 脚部接合部 エネルギー吸収部材/効率的な壁 ダンパーを用いた耐震補強 • 粘性・粘弾性ダンパーを用いた耐震補強技 術の評価法・試験法の提案、及び実験によ る検証 • 簡易な評価式の案出(等価壁倍率) • 耐震補強の選択肢が増え、高性能の補強 技術が健全に普及することを期待 ←耐震診断法の改訂へ反映 等価壁倍率 • 減衰定数 h を有する建物は入力加速度が次式のFh により低減される。 1 .5 Fh = 1 + 10 h • 見かけ上、耐力が(1/Fh)倍に増加したとみなせる Qda = Qd Fh • 動的繰り返し実験・振動台実験による確認 検証に用いた制震装置 仕口部に粘弾性ダンパー 粘性ダンパー オイルダンパー (振動台実験の試験体より) 動的繰り返し実験 実験の条件 1/120radの 等価壁倍率 を1.5とする 10 15 筋かい 筋かい耐力壁 10 5 5 0 0 -5 -5 -10 -10 荷重[kN ] 15 荷重[kN ] 主な安定化ループ フレームのみ 軸組のみ 変位[m m ] 10 -150 -100 -50 0 50 100 150 200 変位[m m ] -15 -200 15 仕口部ダンパー 仕口ダンパー 10 5 5 0 0 -5 -5 -10 -15 -200 荷重[kN ] 15 荷重[kN ] -15 -200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200 オイルダンパー オイルダンパー -10 変位[m m ] 変位[m m ] -150 -100 -50 0 50 100 150 -15 200 -200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200 荷重は低いがエネルギー吸収に富 繰り返し加力による等価粘性減衰定数 Equivalent H ysteretic D am ping 0.30 フレームのみ 仕口部ダンパー 仕口ダンパー 0.25 筋かい耐力壁 オイルダンパー 0.20 0.15 0.10 1/15 0.05 1/120 0.00 0 1/60 0.02 1/30 0.04 R otationalA ngle 0.06 0.08 振動実験の最大応答変位の比較 成果のとりまとめ • 試験法評価法及び評価事例を、「木造 住宅耐震補強構法の耐震性能評価マ ニュアル」としてとりまとめた。 • 現在、(財)建築防災協会の住宅等防 災技術評価において、耐震補強構法 の評価に活用されている。 2.耐震診断法の改訂 「木造住宅の耐震診断と補強方法」 • (財)日本建築防災協会・昭和60年版の改訂 • 改訂の主旨 適用範囲の拡大、耐震診断法の充実、評価対 象の耐力要素の拡大、診断対象の地震動の 明確化、診断法の精緻化、補強方法の充実 • 以下、柱頭柱脚の接合部による低減係数、伝 統的構法の柱の曲げ抵抗について 耐震診断法の充実 • 誰でもできるわが家の耐震診断 容易に診断・耐震性の要点の啓発 • 一般診断法 補強の要否のスクリーニング • 精密診断法 補強の要否の最終判断 補強設計 保有水平耐力計算 ダンパー等 限界耐力計算 時刻歴応答計算 柱頭・柱脚接合部による低減 耐力壁両端での接合部引抜き力 せん断力 固定+積載 上階耐力壁によ る圧縮、引張 周辺部材による 曲げ戻し効果 脚部の圧縮、引張 建築基準法では接合部の先行破壊防止 接合強度が不十分な場合 接合が不十分な場合の解析 ■解析により構面の耐力低下を算出。 ■2層7Pの構面を想定 ■接合部3種類、耐力壁(倍率)3種類、 垂れ壁・腰壁の有無、合計24パターン P P 解析結果の例 上下階とも倍率3.5、腰壁垂れ壁なし。 1階 30 3-H(1F) 全てHD-20 端部HD-20, 内部CP-T 全てCP-T 金物なし, 端部通し柱 3-HT(1F) 層せん断力(kN) 3-T(1F) 3-H(2F) 20 3-C(1F) 3-HT(2F) 3-N(1F) 2階 金物なし, 端部通し柱 金物なし, 端部管柱 3-T(2F) 10 3-C(2F) 3-N(2F) 0 0 2 4 層間変位(cm) 6 8 解析結果に基づく低減係数 ■2階建ての2階 耐力壁の許容耐力(kN/m) 2 4 7 HD-20 1.0 1.0 1.0 CP-T 1.0 0.8 0.5 金物なし,端部通し柱 0.7 0.6 0.35 金物なし 0.7 0.35 0.2 ■2階建ての1階 耐力壁の許容耐力(kN/m) 2 4 7 1.0 1.0 1.0 CP-T (1.0) 1.0 0.8 金物なし,端部通し柱 (1.0) 0.8 0.6 金物なし (1.0) 0.8 0.75? HD-20 伝統構法の垂れ壁付き独立柱 h0 h1 le 宮城県北部連続地震被害例 新潟県中越地震の被害例 木材の強度的性質 曲げ、引張、せん断に対し脆性的 力 力 粘る 脆い 変形 変形 伝統木造の地震被害 地震力 柱の曲げ破壊(脆性的破壊) 垂れ壁付き独立柱のモデル化 h h1 L 土塗壁の荷重変形関係 水平力 Q0 Q0=80kN×壁厚m×壁長m 0.75Q 0 (5/8)Q0 0.5Q0 h/ 120 h/ 250 h/ 60 変位 h/ 15 垂れ壁付き独立柱のモデル化(続き) L h h1 + δW δC 柱の曲げ破壊の有無による 荷重変形関係の相違 水平力 δC 水平力 最大荷重 δW 破壊 荷重 δC δW δC+δW δC+δW 水平変位 水平変位 垂れ壁付き独立柱1本の耐力(kN) le=1.2m未満(スギの場合) 垂れ壁の基準耐力(kN/m) 1.5未満 1.5以上2.5未満 柱 の 小 径 2.5以上 12cm未満 0 0 0 12~15cm 0.6 0.4 0.4 ・・・・ ・・・ ・・・ ・・・ • 柱の折損の恐れがあるものは注意が必要 3.補強・無補強試験体の震動台実験 文科省「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」 によるE-ディフェンスでの実験 試験体概要 在来軸組構法(築30年) B棟:補強 A棟:無補強 B棟補強方法(1階) B棟補強方法(2階) 精密診断結果(評点) 試験体 階 A棟 無補強 2階 1階 2階 1階 2階 1階 B棟 補強前 B棟 補強後 X方向 (JR鷹取EW) 1.09 1.01 0.88 0.87 1.64 1.55 Y方向 (JR鷹取NS) 0.75 0.43 0.59 0.31 1.53 1.57 加振前の卓越振動数(Hz) 測定方法 常時微動測定 起振機加振 ホワイトノイズ (100gal) 試験体 X方向 Y方向 A棟(無補強) 7.3 4.2 B棟(補強) 7.2 4.7 A棟(無補強) 6.5 3.4 B棟(補強) 6.5 4.1 A棟(無補強) 5.20 2.24 B棟(補強) 5.20 3.42 実験 入力地震波 兵庫県南部地震の震度7地域(JR鷹取駅)での 地震記録を入力波に使用 加速度 速度 変位 NS 641.7gal 149.2kine 86.33cm EW 666.2gal 117.0kine 37.78cm UD 289.5gal 16.5kine 11.15cm 入力地震波 加速度応答スペクトル 3000 h=0.05 応答加速度(gal) 2500 2000 1500 1000 固有周期(s) 500 0 0 1 2 3 4 5 実験結果 加振後の状況 B棟:補強 A棟:無補強 実験結果 最大応答と残留変形 試験体 X方向 A棟 無補強 1階の層崩壊 B棟 補強 最大応答変位 (1階層間変位) 残留変位 (1階層間変位) 最大応答加速度 (小屋梁) Y方向 - 180 mm (1/16rad.) - 0.5mm 1622 gal 1208 gal 実験結果 1階層間変位の時刻歴 3000 変位[mm] 2000 A棟正側最大変位16.950sec 657.51mm A棟1層Y方向 1000 B棟正側最大変位 24.030sec 179.64mm B棟1層Y方向 0 -1000 -2000 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 A棟負側最大変位16.045sec 383.47mm B棟負側最大変位 19.240sec 179.33mm time[sec] 実験結果 1階加振方向の荷重変形関係 400 層せん断力[kN] B棟最大層せん断力 241.53kN 剛性2.87kN/mm 300 B棟最大層間変位 179.64mm 剛性0.82kN/mm 200 A棟最大層間変位 383.47mm 剛性 0.13kN/mm 100 0 -400 -300 -200 -100 0 100 -100 -200 A棟最大層せん断力 163.68kN 剛性 1.87kN/mm -300 初期剛性 A棟 6.44kN/mm B棟 9.87kN/mm 200 300 400 変位[mm] A棟1層Y方向 B棟1層Y方向 -400 耐震診断で想定する荷重変形関係との比較 350 層せん断力 [kN] 300 250 200 150 100 50 変位[mm] 0 -400 -300 -200 -100 -50 0 100 200 300 400 -100 -150 JR-takatori100%-1 -200 A棟 1階Y方向実験値 包絡線 -250 B棟 1階Y方向実験値 包絡線 -300 A棟 1階Y方向 精密診断 -350 B棟 1階Y方向 精密診断 B棟(補強試験体)の損傷状況 • • • • 東面モルタル剥離・剥落 東面補強壁等の引き寄せ金物の緩み 階段下補強壁の筋かい金物のくぎ接合部破壊 西面補強壁の構造用合板のはずれ、浮き上が り、モルタル落下 →耐震診断評点0.86 補強試験体の倒壊実験 JR鷹取100%で倒壊しなかったB棟に対して 余震を想定してJR鷹取60%を入力、倒壊せず その後、再度JR鷹取100%を加え、倒壊 実験結果 最大応答と残留変形 入力 JR鷹取 60% JR鷹取 100% X方向 Y方向 最大応答変位 (1階層間変位) 53.8mm 264 mm 最大応答加速度 (小屋梁) 880 gal 912 gal 最大応答変位 (1階層間変位) 最大応答加速度 (小屋梁) 倒壊 1176 gal 990 gal 移築補強・無補強実験まとめ 築30年の移築住宅(補強・無補強)に対し、兵庫県 南部地震の震度7地域での地震記録を入力波に用 いた震動台実験により、以下が確認された。 既存住宅の耐震性に関する基礎資料として 無補強のA棟が倒壊(耐震診断評点0.43) 耐震補強の有効性を確認 補強したB棟は倒壊せず(同評点1.57) 耐震診断で想定する荷重変形関係は、振動実験で 得られた荷重変形関係に比べて安全側にある。 まとめ 既存木造住宅の耐震診断・耐震補強に関する 建築研究所の取り組み ・各種耐震補強構法の性能評価法の開発 ・耐震診断法改訂作業への参画 ・移築住宅(補強・無補強)の震動台実験に よる検証 今後の検討課題 ・ユーザーの視点に立った耐震補強構法選択 システムの開発
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