TCSC 装置の理論解析 E97020 1. 奥野 英彦 はじめに[1][2][3] 近年の電力需要の増加とパワーエレクトロニクス 技術の発展に伴い,交流送電系統にパワーエレクト ロニクス制御の高電圧機器を多用して送電安定度や 系統事故処理を改善して,系統電圧や電力潮流を自 由に制御することによって,送電系統の能力(熱容 量)まで送電電力を高めようという FACTS(Flexible AC Transmission System)構想が,1988 年に米国電力 研究所(EPRI)によって提案され,また、研究・開発 が進められている。 長距離送電線の系統安定化や送電電力向上効果を 確保するために,直列コンデンサをサイリスタスイ ッチに切り換える TCSC(Thyristor Controlled Series Capacitor)を送電線に挿入することによって,補償度 が可変で系統外乱に対し安定化でき,また高い補償 度でも軸ねじれ共振が避けられる。 本報告では,系統モデルを用いて SIMULINK 化を 行い,インピーダンス特性及び TCSC 回路各部の電 圧・電流の測定結果を述べ,また数学モデルによる解 析により検討を行う。 2. 指導教員 藤田 吾郎 抵抗が 92.67Ω,容量性リアクタンスが 132.4Ωになる。 点弧角を更に増加させると容量性リアクタンスは, 減少していく。 図 1 実験系統図 VL -0.00 0 6 0 87 0 .1 1 1 4 S in e Wa ve 0 M a n u al S wi tch 1 1 /0 .0 1 VL S wi tch Co nsta nt 0 .0 0 1 63 7 iL VR 0 .1 1 1 4 1 /2 0 .0 0 1 92 2 Hit Cro ssi ng Hit Cro ssi ng 1 0 .0 0 1 42 9 VL1 V a ria b le T ra n sp ort De la y VR I n1 I n2 O ut1 I n3 0 .0 0 0 94 0 .0 0 0 54 3 8 S u bS yste m I n1 O ut1 V a ria b le T ra n sp ort De la y1 0 .0 0 0 24 6 2 sp e ctre a na li ze r1 VL2 0 .0 0 0 19 6 Disp la y I n1 O ut1 G ai n Co nsta nt1 sp e ctre a na li ze r VL3 90 1 /(36 0 *(f0 )) V cap -0.00 0 6 6 89 1 /Rli ne i1 0 .5 0 .1 4 6 1 V cap 1 1 /0 .0 0 0 1 46 i S in e Wa ve 1 0 .0 0 1 10 6 s Integ rato r1 1 /C 0 .0 0 1 61 9 0 .1 4 6 1 2 .9 3 7 0 .0 0 1 88 4 V R Z i 3. i 1 /R 研究モデル系統[4] 実験モデルは,一機無限大母線系統は図 1 に示すよ うに三相同期発電機,変圧器,TCSC,送電線路及び無 限大母線により構成されている。図 1 を SIMULINK を用いて表すと図 2 のようになる。 0 .0 0 1 08 9 s Integ rato r V 1 /L シミュレーション結果 R1 0 .0 0 1 41 5 6 .3 4 5 R 0 .0 0 0 94 9 8 Z1 0 .0 0 0 56 8 6 X Z 5 .6 2 4 S u bsyste m Disp la y1 X 図 2 実験系統図の SIMULINK 化 150 Z 等 価 イ ン ピ ー ダ ン ス (Ω ) 図 3 は,TCSC の等価インピーダンス特性の実験結 果を示したグラフである。インピーダンスZは,それ ぞれの点弧角において,コンデンサ電圧と線路電流 をフーリエ変換し,基本周波数成分の大きさおよび 位相角を求め,これから抵抗成分とリアクタンス成 分を分けて求める。そして図 2 において,サイリスタ の点弧角を 90 度から 170 度まで 5 度ずつ変化させ, その時の Z,X,R を読み取ったものである。点弧角は, コンデンサ電圧の零点通過からの遅れ角で表す。 L=10mH の場合,点弧角を 90 度から上げていくと 等価抵抗分と誘導性リアクタンス分は,徐々に増加 していく。点弧角を更に増加させると等価インピー ダンスは容量性になる。共振付近の 135 度では,等価 0 .0 0 0 26 8 3 0 .0 0 0 16 5 6 X1 100 50 X R 0 -50 X -100 90 95 100 105 110 115 120 125 130 135 点 弧 角 (度 ) 140 145 150 155 160 165 図 3 インピーダンス特性の実験結果 170 線路各部の電圧・電流成分[4] 5. 数学モデルの導出[4] 4. TCSC 回路各部の定常状態における電圧・電流の解 析式を求める。TCSC の動作状態をサイリスタがオン の時とオフの時とに分けて微分方程式を立て,ラプ ラス変換を用いて導出する。 試作 TCSC 装置の L=10mH の場合の等価インピー ダンス特性を図 5(a),(b)に示す。ただし,線路電流 Iline は一定値の 1.049A とする。 3 5 電 圧 (V ) 3 0 V c a p 2 5 2 0 1 5 1 0 5 (a) 9 5 1 00 1 05 1 10 まずサイリスタがオンの時の等価回路を図 4(a)に 示す。サイリスタが位相角αで点弧する瞬間を時間 の原点とすると,線路電流は次式のようになる。 π Iline = Im sin( ωt + α + ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1) 1 1 45 1 50 1 55 1 60 1 65 1 70 1 60 1 65 1 70 Ic a p 1 .5 Ilin e 1 0 9 0 9 5 1 00 1 05 1 10 1 15 1 20 1 25 1 30 1 35 点 弧 角 (度 ) 1 40 1 45 1 50 1 55 (b)コンデンサ電流 Icap ,リアクトル電流 Iind , 線路電流 Iline dVcap ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (2) dt 図5 dVcap ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3) =L dt ω0 = 1 40 Iin d 図 4(a)において,次式が成り立つ。 また,図 4(a)から共振周波数ω0 が求まる。 1 25 1 30 1 35 点 弧 角 (度 ) 0 .5 2 Vcap 1 20 2 サイリスタ(a)オン(b)オフ時の等価回路 Iline = Iind + C 1 15 (a)コンデンサ電圧 Vcap (b) 電 流 (A ) 図4 9 0 6. 一定線路電流時の TCSC 各電圧・電流 検討結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (4) 線路電流がコンデンサ電圧より進みの範囲(TCSC の容量性の運転範囲)では,点弧角の減少に伴いコン サイリスタの導通時間 Ton は,次のように与えられる。 デンサ電流,リアクトル電流,コンデンサ電圧は増加 2( π − α ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (5) Ton = する。 ω また,線路電流がコンデンサ電圧より遅れの範囲 次にサイリスタがオフの時の等価回路は図 4(b)の (TCSC の誘導性としての範囲)では,点弧角を減少さ ようになる。 せると,これらの電流・電圧は減少する。 Iind =0 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (6) 7. まとめ ここで θ は線路電流の初期位相(サイリスタがオ フになった時の位相)である。また,コンデンサ電流 本研究では,試作系統モデル を SIMULINK を用い は線路電流に等しい。 て変化させ,それぞれの点弧角による抵抗・電流・電 サイリスタがオフ状態にある時間 Toff は, 圧を解析した。 2α−π π ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (7) Toff = −Ton= 今後の研究課題としては,ループ電流の解析とイ ω ω ンピーダンス特性との関係を比較検討する。 となり, T = Toff の時のコンデンサ電圧は,今度は反対 LC 側のサイリスタがオンする時の初期値となる。 以上の条件を適用して求めていくと θ は次式のよ うになる。 π θ = − α ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (8) 2 文 献 [1] 山村昌・大野榮一 ,『パワーエレクトロニクス入門』,(改 訂 3 版), オーム社, (1997-7) [2] 小向敏彦, 色川彰一, 加藤政一, 「電力システム工学」, 丸善, (1999-9) [3] 関根泰次, 豊田淳一, 長谷川淳, 原雅則, 松浦虔士, 「現代電力輸送工学」, オーム社, (1992-4) [4] 松木純也, 池田敬一, 「サイリスタ制御直列コンデンサ のループ電流に関する実験と解析」, 電気学会論文誌(B), (1998-11)
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