フィクシ ョ ネ ス 閉 店 と 受賞作の 関 係 は しもきたざわ ったという。あえて失礼な質問をします が、下北沢でやってこられた書店、フィ 気持ちが同じでも、ノイズがうるさく感 のぞ 関係がありますか? でいちばん美しい﹄の反響のなさとは、 藤谷 ﹁いま小説を書いているのになん で客が来るの﹂っていう感じで。それ、 のね。 棚の裏から不機嫌そうに出てきましたも タイミングの悪いときに覗くと、本 じられるようになった。 藤谷 閉店の遠い原因にはなっているか もしれないけど、たまたま重なっただけ ひどいでしょ? それに下北沢っていう 街も変わりました。下北沢の現実と、僕 │ 之助賞受賞おめでとうございます。 ですよ。店を閉じたのは、家賃のことを クショネスを閉じられたことと、 ﹃世界 藤谷 ありがとうございます。 意外なことに、藤谷さんにとって初 考えながら小説を書くのはもういやだと の年齢とか精神状態みたいなものの間に お だ さく めての賞なんですね。私は感想を作家に 思ったから。年齢的にも集中力を持続さ │ 本題に入る前に、このたびは織田作 直接お伝えすることはめったにしないの せることができなくなってきていますか │ ですが、 ﹃世界でいちばん美しい﹄につ すけ いては、読んで興奮して、思わずメール らね。体力・気力を維持するために、家 の してしまいました。だから自分がもらっ 賃について考える負担を削った。四十代 あきは ばら だけどフィクショネスは画期的な店 行くとアイドルに会えるということが売 って、秋葉原の劇場に までは、どんなことでもやってやろうと ふじたに・おさむ りでしたけど、それよりうんと早く、作 藤谷治 いう気持ちでやっていました。五十代は でした。 │ 少しずつ溝が広がっていった。 たわけじゃないのに嬉しくて。 だい 藤谷 ﹁いやなことばかりの毎日で、こ ういういい本に出会えると嬉しい﹂とい み 2 08 0 ご 10 醐味です﹂って。 7 1 9 9 14 8 うふうに書いていただいて。 ﹁読書の醍 あれは私信ですから、まったくの正 A K B 48 年東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。 年、﹃アンダンテ・モッツァレラ・チーズ﹄でデビュー。 年、 ﹃いつか棺桶はやってくる﹄で三島由紀夫賞候補。 年、﹃船 に乗れ!﹄三部作で本屋大賞第 位。 年、 ﹃世界でいちばん美し い﹄で第 回織田作之助賞受賞。 年から東京・下北沢で 本のセレクトショップ﹁フィクショネス﹂を経営していたが、昨 年閉店し作家専業となる。他の著書に、 ﹃遠い響き﹄ ﹃現代罪悪集﹄ ﹃全員少年探偵団﹄、エッセイ集﹃こうして書いていく﹄など多数 がある。 31 │ 直な気持ちでした。日常にうんざりして いたときに読んで、心をマッサージして うわさ もらったような気持ちになりました。と ころが風の によると、期待したほどは 売れなかったし、書評もそれほど出なか 藤谷治インタビュー 339 0 1 3 9 6 3 家に会える書店だった。 藤谷 一九九八年に店を開けて、二〇〇 三年に小説家になったんです。その間の 五年にちょいちょい来てくれた人から見 ると逆で、本屋のオヤジが作家づらして いる。 ﹁何が締切だよ、偉そうに﹂みた いな。そういう人もいれば、本当にあり がたい話ですが、遠くからわざわざ来て くれる人もいました。名古屋からとか、 永江朗 ながえ・あきら 年北海道生まれ。法政大学文学部 哲学科卒業。雑誌﹁宝島﹂編集部などを経 てフリーライターに。﹃﹁本が売れない﹂と いうけれど﹄など著書多数。 すけど、それでも続けられたのは、書斎 げで家賃を賄えたことは一度もないんで もありがたかったですよ。本屋の売り上 藤谷 うちは下北沢駅の南口にあったん だけど、犯人は北口の楽器屋にすぐ売っ かるけど。 トみたい。ヴァイオリンだったらまだわ を思い浮かべると、まるでドリフのコン 寂しかったけど、その後も普通に下北沢 藤谷 店を閉めると決めて、在庫を古本 屋に売ったり引っ越しをしているときは │ で は、そ ろ そ ろ 本 題 に 入 り ま し ょ 茅原兄のモデルは松岡正剛? ませんか? ていた日々に別れを告げて、寂しくなり 泥棒被害はともかくとして、店に出 とは割に合わないよね。 にこもっていたんじゃ絶対会うことのな たらしいんですよ。買い戻すしかないと に行くわけですよ。そうすると肩の荷を なかには台湾からという人も。どんな人 い人に会えたからですよね。普通の人、 いわれたので、 ﹁買取値で売っていただ 下ろして街を見られる。 │ そこらの高校生とか浪人生とか、たまに きたいんですけど﹂と電話しました。十 まかな 俳優の卵だの、そういう人たちが来て、 二、三万円は覚悟していたら、一万円だ っていう。あのでっかい楽器を、えっち 本を見たり僕としゃべったりしてくれ 店に置いてあったチェロを盗まれる らおっちら運んで、踏切わたって向こう 側まで行って、たった一万円もらって、 という信じられない事件もありました。 手が後ろに回っちゃうんだから。悪いこ │ 藤谷 あれは腰が抜けましたね。 犯人がチェロを盗んで運んでいく姿 │ る。これは得難いことでした。 1 9 5 8 340 かや はら け きよ うだい う。 ﹃茅原家の兄妹﹄についてうかがい ます。 藤谷 やっと聞いてくれますか。ここま で長い前振りでしたね。 怖さを、僕も書いてみたかった。 やま は せい この小説は、著者のもとへ山ノ葉静 蘭という友人から届いた手記、という形 らん │ をとっていますね。この枠組みはどこか 者は最後から って、 ﹁あ、あのとき さかのぼ のあれは﹂って振り返って考える。 藤谷 そうです。そもそも茅原家の兄妹 は実在するのかしないのか、これは何の 話なのか。山ノ葉静蘭ってなんなのか。 合いが違う世界です。 書くのか﹂と驚きました。これまでと肌 谷治ファンとしては、 ﹁こういう作品も 思議な仕掛けがしてあるんですよ。何人 るけど、読み返してみると最初の方で不 転﹄って、話の筋はなんとなく覚えてい ような仕掛けを考えました。 ﹃ねじの回 だ﹂って、もういちど読み直したくなる 藤谷 読んだ人が最後に﹁えっ﹂と思っ て、 ﹁じゃあ今までどういう話だったん 剛でしょう? なります。兄、恭仁のモデルって松岡正 妹、そして語り手である﹁私﹂が中心に 力的です。タイトル通り、茅原家の兄と うですが、登場人物のキャラクターが魅 わせる。わくわくしますね。仕掛けもそ しかしたら事実かもしれない、なんて思 きようひと ごうとくじ まつおかせい たとえば﹁知の正史は可能性の一つ にすぎない﹂なんていう印象的な言葉が │ 藤谷 顔も知りません。どんなところが そう思わせますか。 いしなあ、なんて思ったんですが。 │ たぶん虚構なんだろうけど、でもも 藤谷 怖いのを書いたのは、初めてかも しれないですね。編集者には﹁ホラーに かが集まって、それぞれ知っている怖い │ しましょうか﹂といいました。いつも、 話をしている。そのうちのひとりが、誰 ら思いついたんですか。 これまでやったことがないことをやりた 藤谷 えっ! 存じ上げないけど、そう いう人なんですか。 いやいや、この作品が書かれた背景 いから。ただ、僕はとっても怖がりなん かが昔に書いたとっておきの手記を持っ を知るうえで重要なお話です。長年の藤 ですよ。 ﹁映画を見よう﹂って女房にい ているという。その手記を朗読したもの ええっ! てっきり松岡正剛に違い ないと思い込んで読んでいました。松岡 │ われると、まず﹁それ怖い?﹂って聞い を、著者が書き留めた、という形式にな 縁の中にあることを忘れている。ところ ごう ちゃうくらい。でもイギリスのゴシック さんは事務所も豪徳寺で、下北沢から近 がくぶち っているんですね。いわゆる額縁構造で が﹃茅原家の兄妹﹄では最後のほうでも 読者は読んでいるうちに、これが額 す。 は僕にとって大事な作品で、あの感じに │ ホラーみたいな古い雰囲気はとても好き なんです。これはアメリカ人ですけど、 僕も挑戦してみたいという気持ちがあっ ういちど額縁が顔を出します。そこで読 ヘンリー・ジェイムズの﹃ねじの回転﹄ て。何があるんだかわからないっていう 藤谷治インタビュー 341 でいて、彼の頭の中では哲学も量子力学 です。恭仁は古今東西の膨大な本を読ん 出てくる。いかにも松岡正剛がいいそう の舞台にしたので、その雰囲気を横浜の った。鎌倉は﹃世界でいちばん美しい﹄ 作った男で、高給取りで、趣味人でもあ だった。曾祖父は某歯磨会社の宣伝部を 成金だと、ただのわがままな人になっち のわがままは優雅だな﹂って思わせる。 感じがしないんですよ。 ﹁ああ、この人 │ とはいえ、睦美がやることは無茶苦 寄ってくるボーイフレンドにパンツ 藤谷 そうなんです。 茶ですよ。 │ ゃうんだけど。 本牧あたりに移して前半の舞台にしまし ほんもく も文学も芸術も全部つながっている。こ た。 本当の金持ちが没落するとき ひとつで屋敷の中を歩かせたり、犬の真 美人だけど性格が悪い。これが単なるい な。かしずく男たちにとっても、いじめ 当の女王様って、こういう感じなのか 似をさせたり。今だとイジメですね。本 やな女じゃないというところがいいんで られるのが快感なんでしょうね。 兄の恭仁は高等遊民で、妹の睦美は すよね。性格が悪いのに、語り手は惹か │ むつみ れって松岡さんが主宰していた雑誌 ﹃遊﹄じゃん、と思いました。 藤谷 僕の考えていることはもっとレベ ルが低い。いわゆる正統とされている学 問からもれたもの、異端なものを好む人 たちが、ちょっとオカルティックになる よ。恭仁は高等遊民的なボンボンですよ れていくわけで。 │ ことがあるよね、ということなんです ね。そういう人が時間と知性を持てあま 藤谷 いたんですよ、睦美みたいな女。 僕は本当に育ちのいい人たちを見てきま ﹁私﹂は睦美を憎み切れない。 ﹁私﹂と兄 ひどいことばっかりしているのに、 いは、睦美の造形に反映されています。 の友達ですから。大学の友達って、大学 藤谷 本当に育ちのいい人って、いやな ですよね。 だけど、そいつの家に行くと、すごく貧 では毎日、対等におしゃべりしているん │ 単なる金持ちの意地悪女じゃないん ひ した先にどんな人間になるかと考えまし した。そして睦美みたいにどんどん零落 妹との距離が絶妙です。 藤谷 きっとそうなんですよね、僕は腹 がたっちゃうんだけど。 た。 していった人たちも見てきました。彼ら そうだったんですか。茅原家がある のは横浜の高級住宅地です。 がいま生きていたらどうだろうという思 │ 藤谷 僕が育った鎌倉には、明治・大正 の栄華の名残みたいなものがありまし 藤谷 ﹁私﹂にとっては、茅原兄妹が金 持ちかどうかは関係がない。ただの学校 た。ちょっとバタ臭く西洋かぶれした感 じで、やけに古くて怖そうな西洋館に住 んでいる人がたまにいた。僕が住んでい た家も母方の曾祖父が建てた古臭い洋館 342 か。ふつうはそこで態度を変えちゃうん びっくりすることがあるじゃないです たりして、大学では見せない面を知って 乏だったり、お金持ちのお坊ちゃんだっ す。 ﹁私﹂とは違って、茅原が大金持ち 人の典型として、瀬利沢俊晴が出てきま ぐに見ていた。 ﹁私﹂とは逆の、嫌な友 はなく、恭仁と睦美という人間をまっす 家、つまり茅原家の財産や社会的地位で なたは家を見なかった﹂といいますね。 う一つはゴシックホラーに出てくるよう 僕が鎌倉で見聞きした優雅な人たち、も も悪くもそれに引きずられます。一方で 藤谷 一旦設定というか、小説の中の雰 囲気みたいなものを作ると、今度は良く た俗物ですね。 り ざわとしはる だろうけど、 ﹁私﹂は茅原兄妹が金持ち せ だと知っても変わらなかった。 な人たち、それからさらに って、優雅 のちに睦美が﹁私﹂について、 ﹁あ だと知って近寄ってきた男。欲にかられ │ つばきひめ な人が出てくるような古い小説、た とえば﹃椿姫﹄みたいな。そういう ところから、脇役たちを作っていき ました。女王蜂に群がる働き蜂みた いな人たち、その中で特にくどくて その欲のために瀬利沢はとんで いやなやつが瀬利沢俊晴です。 │ あ もないしっぺ返しを受けるのです が、それは敢えて触れないことにし ましょう。栄華を誇った茅原家は、 リーマンショックで財産を失ってし まいます。零落してかつて別荘だっ とまり た家を住まいとしている。その土地 新潟県の越後湯沢あたりがモデルで が﹁留鳥﹂というんですが、これは しょうか。 藤谷治インタビュー 343 藤谷 どっちかというと長野かな。北陸 新幹線が開通したでしょう。そうする らの没落って﹁家が二軒しか残ってない 我々が没落したらホームレスだけど、彼 一になってもまだまだたくさんある。 と、さびれるところも出てくるだろう。 よ﹂みたいな感じですよ。 │ この小説の後半では、茅原家の経済 地雷系の女性が怖い 軽井沢はなくなりはしないだろうけど、 そのまわりはどうかな。そんなことを考 えて、なんとなく軽井沢の周辺をイメー 没落した生活の描写がリアルです。 ジして書きました。 貌も一変してしまうような事件が明らか │ になっていきます。このプロセスが怖 的な没落だけでなくて、睦美の性格も容 藤谷 僕が鎌倉にいたとき近所付き合い していた人のなかには、ずいぶん没落し な物に託されていて、そこがうまいんで た人もいるので、そういう 話を親から すよね。たとえばハーフティンバーの館 い。しかもどんどん怖くなっていく。ま ンバランスだしグロテスクでもある。茅 聞いたり、なんとなく肌触りでわかった 原兄妹も、困窮しているのに、ジャガー とゴシックの尖塔が共存しているとか。 あ、そこはネタバレになるので、あまり みょうに育ちのいいマダムで、しかも愛 知識というのは、アカデミックな体系に いいませんが。没落のいびつさが具体的 想がよかったりして、なんて。ご町内で に乗っていて、家政婦がいる。 裏付けられていない、いろんな知識のつ りしていました。大きなお屋敷だったと は﹁あそこの家はお高くとまって近所付 藤谷 没落といっても、本当に金のある 人の場合はかなり立派な没落です。 ﹁こ まみ食いでしょう。実はキメラのような ころが喫茶店になったりして、女主人が き合いなんかしなかったのに、客商売を れだけしか残ってないんだよね﹂なんて 教養でしかなかったっていうのを、この 前半で描写されていた恭仁の博覧強記な やかた 始めてからはすっかり愛想がよくなっち ぼやいている土地が、境界線なんて見え こんきゆう ゃって﹂なんて聞くわけですよ。 ないぐらい広大だったり。もともと果て 留鳥の山荘が象徴しています。しかもそ 大金持ちが貧乏になるのって、たん に生活の経済的スケールを縮小するので しなく金があるんだから、それが十分の │ はないんですよね。いびつに縮むからア 344 れは、恭仁が﹁研究﹂と称してやってい 落後の睦美はまったく違う怖さを持って い。つまり狂った恭仁が何かをしている います。しかも後者のほうがはるかに怖 狂っているのは睦美のように見えるけれ いよなっていうことを顕在化させました。 藤谷 この小説は隠しているところが、 作者としては怖い。恭仁がどういう実験 い。いつ﹁ギャー﹂って叫び出すかわか ども、実は恭仁のほうが狂っている。い んですよ。恭仁の の研究が小説のメイ をしているか、本当はわからない。この らない。どこに地雷があるのかわからな や﹁私﹂も含めて、みんな狂っているの 没落する前の睦美は平気で残酷なこ 感じはラヴクラフトですよね。なんだか い。私、これはダメなんですよ。地雷系 │ わからないけど、ただ怖い。僕は今回、 の人には絶対近づかないことにしていま ることとつながっていく。 敢えてラヴクラフトを読み返さずに、あ かもしれない。 たくら ではクールだった﹁私﹂が、この没落し 終えて。手ごたえは? どうですか、初めてのホラーを書き て性格も容姿も一変した睦美については │ 恭仁は﹁きょうじん﹂とも読めますね。 きようひと ﹁私﹂はそれを含めて受け入れる。 もっと別の企みが見えてくる。 │ ンテーマかと思いきや、全体からすると れを読んだころの怖かった記憶を思い出 す。 なってしまうんじゃないかと。 とをしてしまう怖さがありましたが、没 しながら再現してみました。 藤谷 ははは。 ています。 不気味な感じ、気持ち悪さがよく出 藤谷 でもね、地雷系じゃない女の人っ てそういませんよ。どんな女の人も一緒 間口を広げる作品になった │ に住んだり女房にしたりすると地雷系に 藤谷 ﹁怖いってなんだろう﹂と考えて いくと、 ﹁わからない﹂に至るわけです。 がんちく が家に帰って何をやっているのかはわか 藤谷 恐怖を軸にして、近代文学という か、古臭い翻訳ものに影響を受けた日本 おお、含蓄のあるお言葉です。前半 らない。とんでもないことをしているか ⋮⋮という展開ですね。ひとつわからな 文学のふりをする文章を書いた、という │ もしれない。一旦そう想像しちゃった かったのは、茅原家の使用人の新次郎が 気持ちがあって快感でした。現代なの たとえば会社で机を並べていても、同僚 ら、怖くてたまらない。普通に社交的に 熱心に解体している ですが、あれはな に、高等遊民たちが漱石の﹃それから﹄ しんじ ろう しゃべっていること自体が怖くなってく んですか。 たる る。この小説では、皆、家に帰ったり一 のアナクロニズムが、自分の手で実践で の登場人物みたいな会話をしている。そ そうせき 人になった時に何しているかわからない 藤谷 はなんでしょう。 と、塔の中 で叫んでいる男は、なんだかわからな し、頭の中で何を考えているかわからな 藤谷治インタビュー 345 きるのはすごく楽しかった。 んでいて、子供のころちょくちょく見か の優雅さみたいなものは、いま探そうっ けたんです。彼が漂わせていた戦前から たってないし、自分の中にあるかどうか がわらんぽ で江戸川乱歩のパスティーシュをやりま もわからないけど、あれが懐かしくてし ど この連載と前後する形で、ポプラ社 したね。アンソロジー﹃みんなの少年探 え 偵団﹄と、 ﹃全員少年探偵団﹄ 。少年向け ょうがない。架空の世界、しかもホラー │ ではあるけども、乱歩は乱歩だからドロ という器ならば、空中楼閣みたいなのを ﹃アンダンテ・モッツァレラ・チー 作れるだろうと、のびのびと書きました。 ドロしたところもあって。乱歩をパステ ィーシュするのと、この仕事はつながる │ で、いちばん間口が広いんじゃないでし ところがありましたか? 藤谷 完全にリンクしますね。僕は昭和 三十八年生まれなんだけど、昭和三十年 ょうか。 にも、不気味だとか、怖いとか、面白い いる人だけでなく、初めて読むような人 出す小説です。思うさま書いていくとこ ね。今回は十年の区切りを終えて最初に える引き出しってあると思うんですよ いう感じがあって。書き続けることで増 という感想を持ってもらえると思う。 │ ありがとうございました。 す。 えていかないといけないと思っていま どうすればいいか、螺旋を描くように考 ら せん ろから間口を広げるものに到達して、今 度は間口を広げたまま思うさま書くには │ 藤谷 それは嬉しいですね。 藤谷さんのスケールが一回り大きく │ 藤谷 そうですか? ふだんから現代の小説を読み慣れて ズ ﹄か ら 始 ま っ た 藤 谷 さ ん の 小 説 の 中 代の感じが今でも好きなんですよ。僕は 古臭い人間であるし、その古臭さを現代 に無理やり合わせようという気が全然な なるほど。 ﹃茅原家の兄妹﹄は、リ い。 │ ーマンショックによる没落というより も、敗戦と財閥解体や農地解放による華 族士族の没落に近いかもしれない。 なったと感じます。 藤谷 デビューから十年が経ちましたか ら。 ﹃世界でいちばん美しい﹄は、良く 藤谷 おっしゃる通り。小説の設定はリ ーマンショックで没落していますが、イ メージとしては農地解放ですね。鎌倉の も悪くも思う存分やらせてもらったって ありしまいくま 僕が住んでいた近くには、有島生馬が住 346 │ ﹁大学を卒業して 年後、交流が途絶えていた友人・茅原恭仁から の招待を受けた私は、山間の別荘地にある彼の自宅を訪ねる。恭 仁はその洋館で夜な夜な何かの研究に没頭しており、彼とともに 暮らしている妹の睦美は、別人のようにかつての快活さを失って いた。恭仁の研究とは何なのか。そして、この招待の目的は何か﹂ めいた﹁新潟市一家溶解事件﹂の重要参考人であり、現在は消 息不明の作家・山ノ葉静蘭から、公表を依頼する手紙とともに突 。奇妙 然送り付けられてきた手記は、このようなものだった 極まる怪異譚にして恋愛譚。 13 雪踏文彦、通称せった君は、音楽の天才だった。小学校の 親友、島崎はある挫折の果てにせった君に再会し、その言 葉に救われる。再び二人の交流がもどり、やがてせった君 は純粋な恋をする。だが、それは悲劇の始まりでもあった。 霧の中から現れる怪しい灰色の紳士カクイ。呪われた美しい 首飾り。美しいバイオリニストの少女。そしてわれらの少年 探偵団。少年達が心をときめかせたあの装丁、語り口。立ち のぼる空気と気配まで徹底再現して、彼らが現代に復活する。 藤谷治インタビュー 347
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