樋口保隆 さん ︻今月のひと︼ 原子力に関わるエンジニアからキャリアカウンセラーへの 転進を図った樋口さんには、高いモチベーションで仕事を する職場環境への熱い思いがありました。 ニュースを聞いたとき、樋口保隆 羽原子力発電所の火災が発生した 今年7月に発生した新潟県中越 沖地震の影響で、東京電力柏崎刈 まじめに仕事をしている他の原子 抵のことではありません。 事故は、 ると、それを取り戻すことは並大 野で、いったん信頼性が破壊され ﹁将来の日本のエネルギー問題を オイルショックがきっかけでした。 に目を向けたのは、大学在学中の 高校、大学と陸上ホッケーに明 け暮れた樋口さんが原子力の世界 人材のエンプロイヤビリティー で 企 業 が 離 合 集 散 し た 時 な ど に、 ではなく、企業破綻やM&Aなど ンタル面でのカウンセリングだけ た﹂ 。その話によると、資格者はメ 58 会社法務A2Z 2007.11 す。ロボットには半導体が使われ るので、放射線や高温に耐えられ る設計が樋口さんのミッションと なっていました。 アメリカで接した キャリアカウンセラーの仕事 世界の原子力技術は、欧米が先 行しています。このため樋口さん たちは、トラブル防止策を調査す るために海外を回り、その数は カ 国 に も 上 り ま し た。そ の 時、あ る仕事について初めて耳にします。 ﹁アメリカに行ったとき、エンジ さんは、かつて起きた二つの原子 力関係の人たちにも、多大な影響 解 決 す る ﹂と 意 気 込 み、専 攻 を 原 ︵ 雇 用 さ れ る 能 力 ︶を 高 め て 再 就 ニアからキャリアカウンセラーに 力施設の事故を思い出していまし をもたらしました﹂と当時を振り 子力の分野に決め、卒業後は原子 が読み取れます。 た。一 つ は 平 成7 年 の 原 発﹁ も ん 返ります。 ついて話を聞く機会がありまし じゅ﹂における事故と旧動燃によ 職を支援 ︵アウトプレースメント︶ して、原子炉を検査するロボット 力プラントの建設会社に入社しま るビデオ改ざん事件。もう一つは 年の東海村J CO 日本の原子力産業で初めて死者を 出した、平成 事件です。 時 は﹁ そ ん な 職 種 も あ る の だ な ﹂ 資格者のレベルも社会的地位も 高く、ほとんどが大学院で心理学 本気な性格は、純真さと一途さを 原子炉は1年に1回は休止させ て内部の検査をしますが、人間が の設計に携わります。 樋 口 さ ん は こ れ ら の 事 故 当 時、 エンジニアとして、原子力プラン 表現した気質ともいえるでしょう。 を学んだ方が就いていました。当 ト向け極限ロボットの設計・開発 という程度の認識でしたが、この 等に携わっていました。 できない部分はロボットが行いま 11 温和な語り口の中に、そんな性格 樋口さんは、熊本生まれ熊本育 ちの﹁肥後もっこす﹂ 。熊本人の一 する相談者としても貢献していま ﹁安全・安心が最も求められる分 38 した。プラント設計に7 年間従事 ひぐち・やすたか 中小企業診断士、CDA(キャ リア・デベロップメント・アドバイザー) 。キャ リアカウンセリングルーム設置やWEBカウンセリ ング等のユニークな事業を行う株式会社エンプロ イーサービス代表取締役。 した。 コンサルティングファーム社長 した後、核燃料の製造会社に転進 山口 毅 オイルショックから 原子力の世界に目を向ける 縁結び侍の旅コラム 変えることになります。 出会いが、樋口さんの後の人生を づくりができる。組織への貢献の ながら良い仕事をするための環境 る。仕事と生活のバランスを取り 下や同僚が生き生きと仕事ができ 営を体系的に勉強し、起業に向け 中小企業診断士の勉強を通して経 意識するようになります。そして、 グビジネスで起業してみたい﹂と 材の採用と定着を図りたい﹂とい モチベーションを上げ、優秀な人 益が上がっているうちに従業員の 経営者からの相談には二つのタ イ プ が あ る そ う で す。一 つ は﹁ 利 う 相 談。も う 一 つ は﹁M & A 等 の た準備を進めました。あわせてC DAの資格取得を通して、カウン 過程で、コミュニケーションが取 形 を 変 え た だ け ﹂と 捉 え、自 分 に とっても会社にとっても一つのチ セリングに関する体系的な知識や ャンスであると考えたのです。 が出た﹂という反応が見え始めま した。これに自信を深めた樋口さ んは、2005 年4月にコンサル ティングオフィスを設立、翌年1 う相談です。 社 員 の モ チ ベ ー シ ョ ン 向 上 は、 企業統治のために重要な要素です。 ビスを設立して、本格的な事業化 ョン向上を通して社会に貢献する 、従業員満足︶ ﹂という Satisfaction 経営理念の下、社員のモチベーシ ﹁CS︵ Customer Satisfaction 、顧 客満足︶の基本はES︵ Employee に踏み切りました。2006 年に 樋口さんの活躍を期待します。 年度のステ ッ プ ア ッ プ 助 成 金︵ 日 清 食 品、大 ︽関連URL︾ http://employee-s.co.jp/ 株式会社エンプロイーサービス ﹁ 社 会 が 大 き く 変 化 す る 中 で は、 阪府︶ の優秀賞を受賞しています。 ン グ 事 業 ﹂が、平 成 は﹁企業へのキャリアカウンセリ 月には株式会社エンプロイーサー チベーションを回復したい﹂とい れずに下がってしまった社員のモ キャリアカウンセリング ビジネスを立ち上げる 社員のモチベーションを高めよ うと始めた制度でしたが、1年ほ ど経つと﹁キャリアカウンセリン CDAを取得したころから﹁樋 口さんに話を聞いてもらって元気 スキルを身に着けていきます。 原子力への逆風の中 自らのキャリアを転換 バブルの崩壊を経て、原子力産 業も持ち直しの兆しを見せていた ころに、前述の事故が相次いで発 生しました。樋口さんたちのロボ ット開発は延期や中止が続き、部 下のモチベーションも下がって会 社を去る仲間も出始めました。 そのころ、小泉政権が就職難解 消の切り札の一つとして﹁5 年で 1万人のキャリアカウンセラーを 育てる﹂との構想をぶち上げてお り、2 0 0 0 年 に はC D A︵ キ ャ リア・デベロップメント・アドバ イザー︶という資格制度が創設さ れました。CDAはカウンセリン グを通じて雇用のミスマッチ解消 やキャリア開発を支援する資格で、 どんな人でも少なからず仕事や家 庭に悩みを持っています。それで も、 年 後、 年 後 の キ ャ リ ア デ 難は乗り越えられるのです﹂ 。そう 語る樋口さんの仕事の一つは、ビ ジネスパーソンのキャリアデザイ やまぐち・たけし●コンサルティング ファーム代表取締役。国家資格者を中 心とした「メンターネットワーク」 (会 員300人)を主催して企業向けサービ スを提供するとともに、会員の経営支 援も行う。 http://www.cyber-mentor.org/ アメリカとは少し異なる制度です 18 ザインができていれば、多少の困 20 が、部下のモチベーション低下に 悩んでいた樋口さんは記憶を呼び 覚まされ﹁この制度を社内で取り 組んでみよう﹂と決意しました。 10 ンを描くお手伝いです。 会社法務A2Z 2007.11 59 エ ン ジ ニ ア の キ ャ リ ア を 捨 て、 キャリアカウンセラーとして働く 大転換を決断した樋口さんは﹁部 千利休の「守破離」を使って キャリア形成を説明する樋口さん
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