豊橋商工会議所 第3回ものづくり大賞 発酵風味に優れた新しい「液状ぬか床」の開発 東海漬物株式会社 様 東海漬物は、昭和 16 年に名古屋にて創業、昭和 37 年に豊橋へ本社を移転、また同年に代表的商品である「きゅ うりのキューちゃん」を開発するなど、漬物業界で大きく成長してきた。また同じく看板商品である熟うま辛キム チ(現・こくうまキムチ)を平成 12 年に開発、平成 18 年には、漬物業界初の漬物の研究開発を行う「漬物機能研 究所」を設立した。 「ぬか床製法」は、現在でも経験的手法に基づく自然発酵製法が主であるため、高品質のぬか床を安定的に製造 することは非常に難しい。当開発はこれまでの経験的手法とは全く異なる、 「ぬか床を液状化し、発酵タンクで発酵 させる」というアイディアを実現し、本格的な香りを有するぬか床の安定生産を可能にした。 具体的には、ぬか漬は古くから日本で好まれている漬物の一つでありながら、毎日かき混ぜる必要があるなど大 量生産になじまない特徴があり、本格ぬか漬の市場供給は殆どなされていない。さらに近年は家庭でぬか漬を作る ことも少なくなり、強い嗜好がありながら消えて行く恐れがある伝統食になっている。 ぬか床の安定供給には、いくつかの課題を解決する必要があり、東海漬物では今回これらの課題を解決すること によって、ぬか漬の市場化、安定供給を可能にした。その内容は以下の通り。 (1) ぬか床に関与する微生物の同定と、発酵の工程化 ぬか漬の発酵には、経験的に乳酸菌と酵母が必要とされてきたが、伝統的な方法では発酵中に菌叢が大きく 変化し生業が困難だった。東海漬物は九州大学との共同研究で、発酵が進んだ良いぬか床では乳酸菌 Lactobacillus plantarum が増加することを同定し、この乳酸菌と Pichia 属の酵母をぬかに添加すること で、風味の高いぬか床を安定生産することに成功した。 (2) 風味のいいぬか漬けのためのぬか処理方法の開発 ぬか漬は嗜好性の高い食品である一方、製造法によっては臭みやえぐみ、強い酸味が出る食品でもある。好 ましいにおい・酸味は、上記乳酸菌をスターター菌(種菌)とすることで多くが解決された。東海漬物では さらに原料となるぬかを脱脂して用いることで、ぬか漬けの臭みを除き、更に原料の品質を維持することが 可能になった。これは特願 2014-109235 において特許出願中である。 (3) ぬか床を液状化して発酵させる液状ぬか床の開発 ぬか漬は、空気に触れない嫌気性微生物と空気を好む好気性微生物の相互作用で発酵して作られる食品で、 ぬかが固体であること、毎日かき混ぜることが発酵の必須の条件と考えられてきた。この特徴がぬか漬の安 定市場供給を阻んできた。東海漬物では、酵素を用いて米ぬかを液状にし、上記スターター菌を用いて液体 ぬか床を発酵させる技術を開発した。これは、嫌気性微生物と好気性微生物を液体中で安定に生育させる技 術であり、他のどこでも見ない製造技術を有している。 (4) 伝統食品の市場化と新しい食品市場の開拓 ぬか漬は、大規模製造が難しく食卓から消えて行く危惧が強い食品である。しかし、ぬか漬は伝統食品で あるだけでなく、洋風化した食生活に簡単に、低塩・低脂肪で食物繊維を取り込める重要な食品である。 現在の漬物市場は約 1/3 の 850 億円が浅漬けで、近年はキムチが伸びてきているが、漬物は高塩分で高齢 者の摂取が制限されることも多い。ぬか漬は根菜が主体の低塩漬物で、若者の野菜摂取にも有効である。 東海漬物はで本技術を用いた「おいしいぬか漬」を市場化しており、一部地域の限定販売ながら半年で 1000 万円の売り上げを達成している。 ぬか漬を液状化して発酵させることは、水の中で火を燃やすような、相反する条件を同時に満たさなければな らない難しさがある。東海漬物は、各要素技術を組み合わせて、従来不可能と考えられてきた液状ぬか床による タンク内発酵、およびぬか漬けの安定工業生産を可能とした。本開発は、キムチ、およびキュウリの浅漬けで大 きな市場を持つ東海漬物が、従来に無い製造技術を開発して新しい市場を開拓していく優れた技術であると結論 する。 豊橋商工会議所 ものづくり大賞 審査委員長 豊橋技術科学大学 学長 大西 隆
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